第四十六話 【外伝】ダンジョンに行こう!
女神から加護を貰ったミロクは異世界へとやって来ていた。目的はダンジョンの最奥に眠る龍神の討伐だ。
「本当に異世界だ……」
周りを見渡すと鎧を着ている者や、ケモ耳の付いている人など地球ではあり得ないような光景が広がっている。
「ど、どうすれば良いんだ」
ダンジョンに潜るのは分かっているが、それ以外の事は何も分からない。お金も持っていないし、この世界に関する知識もほとんどない。
強いて言うならば原作知識が多少あるものの、それは専らダンジョンの中での知識だ。
「とりあえずギルドか……?」
原作の『異世界ソロ⭐︎セイバー』では異世界定番のギルドという所からダンジョンに潜っていたので、とりあえずはそこに向かう事にする。
そして歩き出して気づく。
「ギルドってどこだ?」
近くを歩いている人にギルドの場所を教えて貰いそこを目指す。途中には武器屋らしき店や道具屋みたいなものもあった。
言われた通りに進んで行くと大きな建物がミロクの目に入って来る。看板には旗と剣の模様が書いてある。
このマークには弥勒も見覚えがあった。原作でのギルドを利用する際に出てくるマークだ。ミロクは目の前の建物がギルドだと確信して扉を開けて中に入る。
中に入ると思ったよりも人の数は少なかった。入って右手側と左手側それぞれにカウンターらしき場所があり、正面には依頼が貼ってある掲示板。脇には二階へと続く階段も見える。
「おぉ……」
初めてのギルドというものに思わずテンションが上がってしまうミロク。ついキョロキョロとしてしまう。
左右のカウンターにはそれぞれ上に大きな看板が設置してある。右側は紙と人のイラストで、左側がモンスターと人のイラストだ。恐らく右側が依頼カウンターで、左側が達成報告をするカウンターだろう。
ミロは右側のカウンターへ向かう。そこには冒険者らしき人たちが数人いるものの並んでいるという程ではない。
「いらっしゃいませ〜。本日はどういったご用件でしょうか?」
すぐにミロクの番がやって来る。カウンターにいたのは弥勒より少し年上であろう女性だった。
ギルドの受付嬢という事で美人である。薄緑色の髪をサイドテールにしており、笑顔が綺麗な女性だ。
「えーと、ダンジョンに潜りたいんですけど」
ミロクは手っ取り早く用件を告げる。冒険者登録をしたいと言っても良かったのだが、最初に自分の目的を話しておいた方が分かりやすいだろうと考えたのだ。
「ダンジョンですね! そうしましたら冒険者への登録が必要になります。それと誓約書への記入ですね」
「誓約書?」
聞き慣れない言葉にミロクは首をかしげる。ギルドへの登録は予想通りだったが、誓約書というのは初耳だった。
「はい! ギルドで管理しているダンジョンは野良のダンジョンと違ってモンスターの間引きなどをしており、初心者でも潜りやすくなっています。その代わりダンジョン内で手に入れたアイテムは必ずギルドに売るという誓約書が必要になるんです!」
ギルドは一部のダンジョンを管理している。それはモンスターの間引きや、ダンジョン内のモンスター情報、マップなど様々である。それにより冒険者たちは安全にダンジョンへと潜れる。
その見返りとしてギルドが管理しているダンジョン内で手に入れたアイテムはギルドに売るという誓約書を書く必要があるのだ。ギルドだと通常のお店に売るよりも多少安くはなってしまうが、安全にはかえられない。
「なるほど、分かりました」
「良かったです! 誓約書に関しては揉めたりする方もいらっしゃるので」
ギルドでしか売れないという条件を見て反発する者たちもいるのだろう。受付嬢は安心した様な顔をする。
「ではご登録を進めていきますね! お名前と年齢を教えて下さい」
「ミロク・ヨシマです。年齢は15歳です」
てっきり冒険者登録については書類に必要事項の記入をさせられると思っていたミロクは口頭でのやりとりに拍子抜けする。
これは異世界での識字率の問題のためだ。文字を書ける人間が地球ほど高くないため記入するという文化があまり無いのだ。
ギルドの建物にあった看板や、カウンターの上に設置してある看板がイラストなのも文字を読めない人たちでも理解できる様にするためだ。
現にそれで異世界の文字を読めないミロクは助かっているので、彼にとってもありがたい文化と言えるだろう。
「出身地は?」
「えーと、東の方にある村です」
曖昧な答えになってしまうミロク。まさか正直に異世界から来ましたと答える訳にもいかないため中途半端な回答になってしまう。
「……はい。何か戦闘系のスキルはお持ちですか?」
「持ってます」
一瞬、受付嬢も不思議な顔をするものの出身地を濁す冒険者たちも一定数いるためスルーされる。それからいくつかの質問に答えていく。
「はい、こちらで登録は完了になります。冒険者カードを発行しますので少々お待ち下さいね。その間に誓約書の記入もしてしまいましょう」
カウンターの下にある引き出しをがさごそと漁って、誓約書を取り出す受付嬢。
「ではこちらにお名前の記入をお願い致します。お名前が書かない場合は血判でも構いません」
受付嬢は特に誓約書の説明はしない。ミロクも自分が騙されるとは思っていないようであっさりとサインをする。
「見たことない文字ですね……。でも大丈夫ですかね。ありがとうございます!」
ミロクが書いた文字は地球の文字なので受付嬢が見たことないのは当然だろう。しかし問題はないようで誓約書の記入は完了する。
「ではせっかくなのでダンジョンの説明もしておきますね! まずこのギルドでは三十のダンジョンの入口を管理しています!」
「三十……?」
ミロクのいる街は冒険者の街とも呼ばれている。それはダンジョンの入口が三十も管理されているからである。
そしてミロクが疑問に感じたのはゲームで冒険者の街にあるダンジョンの入口は十だったからだ。その三倍もの数があるため驚いたのだ。
そもそもダンジョンの入口自体はこの世界ではあらゆる場所に存在している。他の街や森、山、平原にも存在している。
そして全てのダンジョンは龍神が眠る最奥へと繋がっているのだ。イメージとしては樹形図を縦にしたものと言った方が分かりやすいかもしれない。
つまり入口が別々の所から入っても中で合流する事が出来るのだ。ただし出る際には自身が降ってきた階段しか使えないため入った所からしか出られない仕組みだ。
かつてはこの仕組みを悪用した犯罪などが横行したが、現在では規制がある程度整ったこともあり減少している。
「はい! このダンジョンの管理数は大陸随一と言われています! 自分に合った場所から始めやすいので、初心者の方にもオススメです」
受付嬢はこのギルドに自信と誇りがあるのだろう。それが彼女の言葉の端々から垣間見える。
「そうなのか……。ちなみにオススメの入口は?」
「そうですね、初心者の方にオススメなのはこの五つのダンジョンです。あと慣れてくればこの辺りもオススメですね!」
受付嬢がミロクに見せてきたのは初心者にオススメという五つのダンジョンと中級者以上向けの五つのダンジョンだった。
「(このダンジョンは見覚えが……そうか、これで十のダンジョンなのか)」
三十のダンジョンがあると言っても全てのダンジョンが人気がある訳ではない。人気があるものは全部で十くらいの数となり、それが原作ゲームで攻略できたダンジョンと一致していた。
「なら一番簡単そうなこのスライムのダンジョンがいいかな」
ミロクはその中でも物理攻撃にも魔法攻撃にも弱いスライムのダンジョンを選択する。ゲームでもこのダンジョンからスタートしたため選びやすかったというのもある。
「スライムダンジョンですね! 確かに危険性は少ないので挑みやすいと思います」
受付嬢もミロクが無理に難しそうなダンジョンを選ばなかったため安心する。冒険者になろうとする者たちには血気盛んな者も多く、最初から無茶なダンジョンに挑もうとする者も多いのだ。
そういった人間の末路も見てきた受付嬢としては無理をしないという選択肢を選ぶミロクは好印象だ。
こうしてミロクの異世界デビューはスライムダンジョンに決まったのであった。




