第四十話 大天使召喚
週明けの月曜日。弥勒が教室に行くとクラスの話題は光の柱の件でもちきりだった。
「光の柱みた?」「俺は見たぞ!」「やっぱ宇宙人からの侵略とか」「裏世界にいる魔法使いが表に……」「空に変な生物がいたんだよ!」
などなど。憶測も含めて色々と情報が錯綜している。そして中には実際に光の柱を目撃していた者もいるらしい。
「おはよう、やっぱりこの話題で盛り上がってるな」
弥勒はとりあえず隣の席に座っている麗奈に挨拶をする。彼女とは登下校中に会ったりしない限りはこの場所で話すくらいしか接触の機会がない。
「……ええ、そうね」
そして何故かテンションの低い麗奈。目の下にはうっすら隈が出来ている。
「どうした? 疲れた顔してるけど」
「いえちょっと色々作っていたせいであまり寝てないのよ」
前にも似たようなやりとりをした記憶がある弥勒は鞄を見つめないように気をつける。しかしその努力は虚しく麗奈は鞄を自分の机に置いて、人形を弥勒へと見せてくる。
「新しいセイバー様人形は完成したわ。それどこか新しいグッズもたくさん作ったし、これであの女にも負けないわ……」
鞄についているのは新緑の狙撃手の姿をしたセイバーの人形だ。きちんとリボルバーまで持っている。
「……ん?」
しかしよく見ると外套の内側の部分に何か書いてある。弥勒は思わず緑のセイバー様人形を触ってそこを確認する。
『メリーガーネットLOVE』
そう書いてあった。慌てて灰色の方のセイバー様人形の外套の内側も確認する。
『メリーガーネット命』
こちらはこの前見た時には書いて無かったため緑のセイバー様人形を作る際に追加したのだろう。弥勒はそれを見て無言になってしまう。
「ちょっとアレンジしたの。可愛いでしょ?」
「あ、ああ。ちなみに他のグッズって何を作ったんだ?」
「まずは仮面ね。予備も含めて三枚作ったわ。あとうちわにクリアファイル、抱き枕よ」
抱き枕、という言葉に更に引き攣る弥勒。セイバーにはジャミング機能が付いているため写真などは撮れないはずだ。そのためイラストかなにかで代用しているのだろう。
「そ、それは大変だったな……」
「ええ、本当に……あの女に負ける訳にはいかないわ」
最後にボソリと付け加える麗奈。あの女とはみーこ、というかレディ・セイバーを指しているのだろう。一瞬だが眼のハイライトが消えていたように感じる。
弥勒は話を終わらせて授業の準備に入る。月曜日は憂鬱というが、いつにも増して憂鬱になった弥勒だった。
授業が終わり、弥勒が帰り支度をしている最中だった。
「っ⁉︎」
突如、巨大な気配を感じて顔を上げる。すると教室に残っていたクラスメイトが騒ぎ出す。
「おい何だよアレ!」
窓の外を指差して騒ぐクラスメイト。それに釣られて残っていた生徒達が窓へと寄っていく。弥勒も窓に近づく。
「これは……」
窓の外から見える景色はいつもと違っていた。それは上空に現れた巨大な魔法陣の存在によってだった。
弥勒は荷物を持って急いで学校を出る。
「(恐らくアレが大天使召喚だ……!)」
ムクドリの天使の大群を倒した時から覚悟はしていたが、いよいよ敵の幹部がやってくる。そのことに弥勒は全身が熱くなるのを感じる。それが高揚によるものなのか、あるいは緊張か、不安かは分からない。
学校を出て目立たないところで変身をして灰色の騎士へと姿を変える。すぐに飛び上がり近くの屋根へと乗る。
屋根を走りながら魔法陣が出現している方向へと進む。そちらにあるのは以前、弥勒とアオイが鷹の天使に襲われた公園である。
あの事件以降、公園には立ち寄っていないため弥勒と天使により破壊された場所がどうなったのかは知らない。ただニュースにはなっていなかった事からそれ程大騒ぎにはならなかったのだろうと結論付けてあまり気にしていなかった。
屋根伝いに走っていると麗奈とアオイの魔法少女組たちもやってくる。
「セイバー! 何なのよアレ⁉︎」
「この前の光の柱に似てるけど……」
「何だかヤバい気配がするでやんす! とにかく急ぐでやんす!」
三者三様の事を言っているが、共通して三人とも焦っているのが伝わってくる。
「めちゃめちゃヤバそうな感じ!」
次いでみーこが合流してくる。仮面は付けているのでレディ・セイバースタイルだ。流石の事態のためメリーガーネットも突っかかってはいかないようだ。
五人はすぐに公園に到着する。すると魔法陣から光が降りてくる。それは紛う事なき天使の降臨だった。
「これは……」
魔法陣の中から光と共に降りてきたのは巨大なカラスだった。その大きさは通常のものとは違う。
翼を広げて降りてきた大天使は翼の幅まで含めると12〜13mはあるだろう。サイズでいったら小型のセスナ機くらいはある。
真っ白な身体に真っ赤な眼をしている。その場にいるだけで神聖さを感じてしまうのは気のせいではないだろう。
「…………」
現に魔法少女たちは固まったまま動けていない。彼女たちも明らかに今までの天使達と違うという事は感じ取っているのだろう。
「だ、大天使でやんす!」
ヒコはその正体に思い当たり、大きな声で叫ぶ。それにより動きを止めていた彼女たちは我にかえる。
「あ、あれが……大天使……」
しかしその迫力に呑まれているのは変わらないようでメリーガーネットは力無く呟く。メリーインディゴとメリースプルースを構えるもののその表情は険しい。
彼女たちの態度も無理はないだろう。本来、大天使は魔法少女が五人全員揃ってようやく相手にできる存在なのだ。人数も戦闘経験も足りていない彼女たちでは怯んでも仕方がない。
「随分と派手な登場だな。もう少しお淑やかにしても良いんじゃないか?」
その場で立ち止まっている魔法少女たちを尻目に弥勒はゆっくりと前に進み出る。口元には笑みを浮かべている。
弥勒は大天使を見て確信したのだ。先ほどから身体に宿るこの熱は不安でも緊張でもなく、高揚だと。強敵が現れた事に歓喜しているのだと。
弥勒は瞬時に加速して鳥型の大天使へと斬りかかる。しかし大天使もただやられる訳がない。その瞳を光らせる。
すると公園にある植物たちが急激に成長して弥勒へと襲いかかってくる。木の枝がまるで鉄パイプのような鋭さを持って伸びてくる。
「っ!」
弥勒は身を屈め枝を切り捨てる。しかしそれと同時に足元に生えている雑草が触手のように弥勒へと絡みついてくる。弥勒はシールドを展開して横に一回転をする。シールドにより無理やり草を引きちぎり、大天使へと接近する。
剣に魔力を込めて斬りかかる。しかしそれもまた巨大化した植物によって阻まれる。弥勒はその反動を利用して後ろへと下がる。
大天使は攻撃の手を緩めるつもりは無いようで地面から新たに木々が生まれ、弥勒へと襲いかかってくる。
左手のロングソードを振るい木々を斬り裂く。しかし生命力が強化された植物たちは切り捨てられた状態になっても残ったエネルギーを使い弥勒へと伸びてくる。それをシールドで防ぐ。
「邪魔だ!」
弥勒がロングソードに魔力を込めて横一線で薙ぎ払う。それは剣から放たれる魔力の衝撃波だった。大天使にまで届きはしないもののそれにより邪魔な植物たちを斬っていく。
弥勒はもう少し下がり態勢を整える。剣の衝撃波は使った後にやや無防備になるため普段はあまり使わない。
遠距離攻撃をするなら新緑の狙撃手の方が便利というのもある。剣の衝撃波は弥勒にとってザコを一掃するための技と考えていた。
「……はっ⁉︎ ワタシたちも戦うわよ!」
弥勒と鳥型の大天使との戦いに魅入っていたメリーガーネットが復活する。その言葉により他の二人も魔力を滾らせる。
「ガーネットローズ」
メリーガーネットは魔力の蔓を生み出し、伸びてくる植物たちにぶつける。
「インディゴパーンチ!」
メリーインディゴは拳に魔力を込めて太い木々に殴りかかる。大きな衝撃音が響く。
「スプルーススター!」
メリースプルースは星型の刃を生み出して植物たちを刈っていく。
こうして初めての大天使との戦闘が始まった。




