第三十八話 戦闘後のやりとり
「お、終わったの……?」
メリーインディゴが周りを見渡しながら呟く。煙が消えて、そこにはもう何も残っていない。メリースプルースの必殺技も解除されている。
「そうみたいね」
メリーガーネットもまだ警戒しながらも同意する。
「もうムリ〜」
メリースプルースは疲れた様でその場にへたり込む。通常の規模を遥かに超える必殺技を展開したのだ。疲労も大きいのだろう。しかも必殺技自体使うのが初めてだというのに。
「皆、おつかれ」
弥勒も全員に労いの言葉をかける。今回の敵はこのメンバーの誰が欠けても倒せなかっただろう。最善の結果といえる。
「すごかったでやんす〜」
戦いが終わったのを見計らって安全圏から戻ってくるヒコ。いつの間に隠れていたのか不明だが危機管理能力は一流のようだ。
「とりあえずここを離れるか。さすがに今回は目立ちすぎてる」
弥勒の提案に全員が頷く。ヒコの能力のおかげで人払いは出来るものの、あくまでも深層心理に語りかけるもので強制するものではない。騒ぎが大きすぎると隠せなくなってしまうのだ。
ダチョウの天使とムクドリの天使との連戦により道路や建物など被害もそれなりにある。光の柱などは遠くからでもはっきりと分かるほどの規模だった。
いずれによせここに留まっていれば騒動に巻き込まれるのは必須だろう。そのため全員で移動をする。
近くの建物へとジャンプして屋根を伝って移動していく。その間、全員無言だった。今回の戦いについてでも考えているのだろう。今までの中で最も強敵だったのは間違いないのだから。
しばらく移動して適当な場所に着地する。周りに人気がないのは弥勒が確認している。
「ここら辺でいいか」
「そうね。それにしても今回の敵は恐ろしかったわね」
メリーガーネットがしみじみと呟く。それにメリーインディゴも同意する。
「正直勝てないかもって思っちゃった」
「これからもあのレベルが頻繁に出てきたらまずいわね」
「それは無いと思うでやんす。あそこまでの群れはそうそう出来ないでやんす。他の系統の天使でも極一部だけでやんすよ」
ヒコは自分の説明に全員が耳を傾けけたのを確認して話を続ける。
要約するとこうだ。天使は何かを模しているものが多いため大元の生態に近い形で現れる。そのため虫系や獣系、魚系の天使でも群れはあるらしい。しかしその具体的な規模は出現してみないと分からないようだ。
また大きな群れの天使は集団での技がメインとなるため攻撃の規模は大きくなるらしい。その一方で個々の力は低い傾向にあるという。ムクドリたちが光の柱以外で突撃しかしてこなかったのはそのためだろう。
「なるほどね……。っていうかそう言う情報は先に教えなさいよ!」
「天使については未知なことも多くて難しいでやんすよ〜」
メリーガーネットからの指摘にヒコは少し拗ねる。そんな二人のやりとりを見ながら弥勒は考える。
「(ムクドリの天使を倒したという事は大天使の召喚が近いうちにされるはずだ。全て明かす訳にはいかないが、ある程度情報共有をしておいた方が良いかもしれないな)」
原作の設定では天使は倒されると消滅するが、それはこの世から完全に消えた訳ではないのだ。天使が倒されれば倒されるほどに場に天使のエネルギーが溜まっていく。
それが一定のラインを超えると大天使が召喚される。いきなり大天使を現世に召喚することはリソース上出来ないらしく、下地を作る必要があるらしい。
そして召喚される大天使の判別はどの系統の天使をたくさん倒したかに依存する。今回の場合は鳥系の天使を大量に倒したために鳥系の大天使を召喚する下地が整ってしまったという訳だ。
大天使を召喚させたくは無いが、通常の天使も放置する訳にはいかないため倒していくしかないのだ。
「大きな群れは出てこないとしても、これからも強敵が出てくる可能性が大きいだろうな」
弥勒の発言に注目が集まる。
「え〜、楽な敵がいい」
メリースプルースがややダルそうに言う。
「俺たちが天使を倒してる以上、神様とやらも同じレベルの戦力を出せば負けるのは理解してるはずだ。だとしたら敵が今後強くなっていく可能性は大きいだろ」
神が人間の営みに怒りを覚えて天使たちを地上へと派遣している。ヒコを通して魔法少女たちはそう認識している。
「確かにそれもそうよね」
「最もでやんす!」
「そうだよね……」
「がっくし……」
三人と一匹が弥勒の言葉に反応する。メリーガーネットはある程度予想していた様で頷いてる。
「それじゃあとりあえず今日は解散で」
弥勒は状況の確認も終わったため解散しようとするとメリーガーネットが大きく一歩前に出る。
「まだ終わってないわ! そこの仮面女との決着がついてないもの!」
バーン、とメリースプルースを指差して言うメリーガーネット。
「え〜、もう決着ついてるじゃん。どう考えてもアタシがセイバーの正妻だし?」
首を傾げながらメリースプルースが答える。それにメリーガーネットの顔が引き攣る。こめかみに皺が出来ている。
「ちょっとそれは勘違い女すぎるんじゃない? セイバーはあくまで一緒に行動するのを許可しただけ。あんまり調子乗ってると嫌われるわよ?」
「……ねぇねぇ、もう帰っていいかな?」
二人の戦いに止めるのも面倒になったメリーインディゴが弥勒の外套を少し引っ張りながら言う。
「ああ……おつかれ」
「うん。セイバーも女遊びはほどほどにね。メリーガーネット泣かしたら怒るから」
「いや女遊びしてる訳じゃ……」
そう言ってメリーインディゴは帰って行った。それにヒコもちゃっかりついて行った。先ほどメリースプルースについて追及されたので、蒸し返されるのを恐れたからだろう。弥勒もその危機管理能力を見習いたいところだ。
「そもそも今日の敵だってアタシとセイバーの共同作業で倒した訳だし? やってる事はケーキ入刀と同じじゃん」
「全然違うわよ! むしろアタシとセイバーが(魔力の蔓で)繋がったんだから、初夜と言っても過言ではないわね」
二人が訳分からない事を言っているので弥勒は心をシャットダウンしている。とりあえず巻き込まれないように気配を消しているのだ。流石にメリーインディゴみたいに逃げ出そうとすればバレるので大人しくしている。
「はぁ? 何言ってるわけ? 初夜とか意味不明だしぃ。頭ダイジョブ?」
「は? アンタに言われたくないんだけど! ケーキ入刀とか妄想が過ぎるんじゃ無いかしら?」
今までの戦いの中で最も大きな力を使った反動なのか、副作用で精神が非常に不安定になっているようだ。
「ならどっちが相性良かったかセイバーに確認して貰いましょうよ」
「異議なーし!」
メリーガーネットの提案にメリースプルースが頷く。そして二人揃って弥勒を見つめてくる。
「……えーと、今回はドローという事で……」
「「ハァ……」」
弥勒の日和見発言に溜息を吐く二人。明らかに選択肢を間違えた弥勒。
「帰りましょう」
「そだね」
そう言って二人は振り返る事なく去って行った。弥勒は一人ポツンと取り残される。しばらく状況が呑み込めず立ち尽くす。
「何だったんだ、一体……」
それから再起動した弥勒は周りに人がいないのを確認してから変身を解除する。慌てて家を飛び出したちめ服装はTシャツにジーンズというシンプルなものだ。
何気なくポケットに入っているスマホを取り出す。画面をつけるとチャットアプリに7件の通知が入っている。内容を確認するためアプリを起動する。
「うおっ……!」
その7件の連絡は全てアオイからであった。時刻を見るとついさっき入ったばかりのようだ。戦いが終わってから弥勒に連絡してきたのだろう。
『弥勒くん、もし時間あったらこれからカフェに行こうよ!』
『ご飯がまだならランチでもいいよ!』
『わくわく』
『おーい、弥勒くーん!』
『お返事まだかな〜』
『ちらっ』
『みろくくん……?』
彼女も先ほどの戦いで力を使ったためか副作用がしっかりと出ていたようだ。
「もう俺一人で天使全部倒した方が平和なんじゃないか……?」
魔法少女を育成せずにさっさと自分が天使を倒して原作を終わらせたい。そう思う弥勒だった。




