第三十六話 ムクドリ
「……へ?」
メリーガーネットの目の前にはペアルックの二人。新緑の狙撃手のフォームになっているセイバーと、スプルースカラーの魔法少女。
メリーガーネットは目を擦る。そしてもう一度目を開く。目の前にはペアルックの二人。
「……へ?」
残念ながら彼女の前に広がる光景は幻ではなかった。
「どうしたでやんす?」
ずっと固まっている彼女にヒコは問いかける。
「な、なななな……!」
すると壊れたラジオのようになるメリーガーネット。
「何者よ、あんた!!」
ようやくの思いで彼女は仮面をしている魔法少女に問いかける。指をメリースプルースの方へ向けてわなわなと震えている。
「アタシは魔法少女仮面レディ・セイバー!」
メリースプルースは横ピースをしながら名乗りを上げた。それは魔法少女としての正式な名乗りとは違うオリジナルのものだ。
昨日の仮面を作ってきた時から考えていた名前なのだろう。淀むことなくすんなりと言えている。
「レ、レディ・セイバーですって⁉︎」
メリースプルースは横に一歩ズレて弥勒へと少しだけ近づく。明らかな挑発行為だが、メリーガーネットは脳の処理が追いついてなくてそれどころではない。
ちなみにヒコはメリースプルースの名乗りを見てうずうずしている。自分もサングラスを変えてピコと名乗りたいのだろう。しかし今サングラスを変えてしまっては正体がバレバレになってしまうので我慢しているようだ。
「ペアルックどころかお揃いの仮面ですって……?」
メリーガーネットは舐める様にレディ・セイバーを観察する。服のカラーが一緒というだけで無くお揃いの仮面までしている。
「まさか……これが伝説の双子コーデ……?」
「ちょっとメリーガーネット、大丈夫?」
さっきからバグっているメリーガーネットを心配してメリーインディゴが声をかける。彼女はあまりセイバーに興味はないため冷静だ。
「ええ、ええ、大丈夫よ、いやダメよ……」
「どっち⁉︎」
「もう一度聞くわ、あんたは何者よ! どう見ても魔法少女がセイバーさ…セイバーの仮面をしてるだけじゃない! いくらお布施すればそんなお宝が手に入るのよ!」
ビシッと決めるメリーガーネット。
「アタシはセイバーの相棒って感じ? ちな仮面は手作り」
「それはセイバーさ、セイバー公認の⁉︎」
グリッと頭を弥勒の方に向けてすごい勢いで睨んでくるメリーガーネット。その眼にはノーと答えろという圧力が宿っていた。
「一緒に行動するのは容認してる」
「ええ⁉︎」
弥勒は目線を逸らしながら気まずそうに答える。ここで嘘を吐いても仕方ないので正直に言う。
「ヒコ!」
「は、はいでやんす!」
「あんたあの仮面女のこと知ってる訳じゃないでしょうね?」
セイバーの仮面が手作りということは、魔法少女が仮面をしているだけという事だ。魔法少女といえばヒコなので当然追及するメリーガーネット。
「ひゅ〜、ひゅ〜。し、知らないでやんすでやんす」
下手くそな口笛を吹きながら動揺しているヒコ。動揺しすぎて語尾が二重になってしまっている。
「ヒコ、キリキリ吐きなさい! あの仮面女は誰よ!」
ヒコの態度を見て何か知っていると確信したメリーガーネットは問いただす。
「ああ、新しい天使の気配がしたでやんす!」
タイミング良く、あるいはタイミング悪く天使の出現を感じとるヒコ。冷や汗をかきながらそれを告げる。
「うっ……こんなタイミングで⁉︎」
「(もっとからかいたかったのに残念……)」
「(助かった……)」
「(助かったでやんす……)」
「なら早く倒しに行かないと!」
天使という言葉に諍いをしている場合ではないと悟った四人は頭を切り替える。そのうち二人(正確には一人と一匹)は内心ホッとしている。
「どこにいるんだ?」
「う〜ん、こっちに向かって来るでやんす」
その瞬間、バサバサと音が聞こえてくる。四人は空を見上げる。そこには信じられない光景が広がっていた。
「うそ……これ全部天使……?」
メリーガーネットが全員の気持ちを代弁する。空にいたのはムクドリの姿をした天使だった。それが群れをなしている。
その数は数百どころか数千にのぼるだろう。あまりの多さに四人は言葉を失う。
「…………」
しかし弥勒は別の意味で沈黙していた。このムクドリの大群は原作に登場した敵だったからだ。
原作でも同じように群れで出現していたのだが時期が違った。この敵が魔法少女たちの前に現れるのは梅雨の時期だった。つまりは魔法少女たちが全員揃ってから出て来る敵なのだ。
そしてこのムクドリの天使こそが敵の幹部である大天使出現のきっかけとなる存在だった。そんな重要な天使がここに出てきたことに焦りを感じる弥勒。
「(これはまずい、戦力が足りなすぎる……!)」
しかし弥勒の危機感とは裏腹に状況は進んでいく。天使たちは明らかに弥勒たちを狙う様な仕草を見せている。
この上空をぐるぐると旋回している。まるで攻撃のタイミングを計るかのように。
「き、気をつけるでやんす!」
ヒコが何かを感じ取った瞬間、ムクドリの群れの下に幾何学模様の大きな魔法陣のようなものが出現する。魔法陣が強い光を放つ。
「防御壁を展開しろ!」
その光景に弥勒が指示を出す。フリーズしていた三人は慌てて動き出す。
「ガーネットペタル!」
「スプルース大スター!」
メリーガーネットが花弁で四人と一匹を包む。メリースプルースは大きな星型の刃をペタルの上に展開する。
それに合わせて弥勒も姿を灰色の騎士へと変える。右手を上に掲げて最大限の魔力を込める。そして花弁に合わせる様にその内側にシールドを展開する。
メリーインディゴは戦闘態勢をとっている。万が一シールドが破られた場合に備えて拳に魔力を溜めているのだ。敵の攻撃を迎撃できるように。
ムクドリたちの作った魔法陣から轟音と共に巨大な一撃が降って来る。それは弥勒たちのシールドへと直撃する。
「くぅぅっっ………!」
「きゃあああ‼︎」
まるで光の柱のようなそれは現実味のない光景だった。メリースプルースの星形の刃はあっさりと砕かれ、彼女は苦悶の声を上げる。
次いでメリーガーネットの花弁に直撃する。あまりの衝撃に彼女は悲鳴を上げる。そして花弁にヒビが入っていく。
その姿を見て弥勒はシールドを押し上げる様に補強する。もちろん衝撃は弥勒の所にまで届いているが、それを気にしている余裕はない。
「一旦、ペタルを解け! 俺が反射する!」
ムクドリの群れが放った攻撃は魔法陣が一つだった。これは複数の攻撃を一つに纏めたものではなく、群れで一つの攻撃を作っていると考えるのが妥当だろう。
敵の攻撃が一つならば弥勒にはカウンター技がある。幸いメリースプルースとメリーガーネットにより、光の柱は多少の弱体化をしている。
「あの技ね⁉︎」
一度弥勒のカウンター技を見ているメリーガーネットは即座に彼がやろうとしている事に気付く。
そして躊躇いなく花弁を解除した。ガーネットペタルによって抑えられていた光の柱が弥勒へと殺到する。
「叛逆の獅子!」
魔力を練り直し、光の柱を押し返すようにカウンターを展開する。大きな衝撃が弥勒を襲う。今までダンジョンを攻略していた時でもここまでの衝撃はほとんど無かった。
「ぐっ……!」
思わず苦悶の声を上げるが、口元からは笑みが溢れる。強敵との戦いに弥勒自身のボルテージが上がっている。
「ガーネットサプライ!」
メリーガーネットは蔓を出現させ弥勒へと絡める。それは最近覚えた新技だった。仲間たちに自分の魔力を供給する能力。
ただしこの技で出来るのはあくまで魔力の補充のみで体力などの回復は出来ないのだが。
「はぁあああ‼︎」
メリーガーネットから魔力を供給された弥勒はそれを瞬時に盾へと送り出す。そしてついに光の柱が消える。
「ふ、防いだ……?」
ずっと構えていたメリーインディゴが恐る恐る問いかける。
「……そ、そうみたいね」
「ひゃあ〜、さすがに死ぬかと思った」
それにメリーガーネットが頷く。メリースプルースは大きく息を吐いて安心している。一方で弥勒は自分の右手を見つめる。
「(叛逆の獅子だけじゃ防ぎきれなかった。あのタイミングで魔力の補充が来なければシールドは破られてた……)」
灰色の騎士の必殺技であるカウンターは諸刃の剣だ。成功すれば倍返し、失敗すれば敵の攻撃が直撃。
しかし今回は敵の攻撃が霧散して終わった。これはカウンターが失敗して、シールドが破られそうだった瞬間にメリーガーネットからの魔力補充によりギリギリ耐えられたという事だ。
「(認識を改めた方が良さそうだ)」
弥勒にとって大きな障害になるのは敵幹部の大天使くらいだろうと思っていたが、それは慢心だったという事に気付いた。
「ここから反撃するぞ!」
「ええ!」
「うん!」
「は〜い!」
戦いはまだ終わった訳ではない。四人は再び戦闘態勢を取るのであった。




