第三十四話 仮面
午前中の授業が終わり昼休みになる。教師が教室から出ていき生徒たちが思い思いの行動を取り始める。友達と机をくっつけて弁当を食べ始める者や、お目当ての惣菜パンを確保するため購買へ急いで向かう者など様々だ。
そんな中、弥勒は固まった身体をほぐそうと腕を伸ばす。長時間イスに座り続けるというのも意外と体力を使うのだ。
「ふぅ」
一息ついてから鞄を開けて中から弁当を取り出そうとした時だった。教室のドアがガラガラと開かれる。
「やっほー、みろくっちいるー?」
「いません」
教室に入って来たのはみーこであった。イエローベージュの髪がゆらゆらと揺れている。反射的に拒否をする弥勒であったが、みーこは構わずこちらへと近づいて来る。
「仲良くランチタイムの時間でーす」
「拒否権は?」
「なーし! さぁ屋上へレッツゴー!」
みーこはそう言って弥勒の弁当を手に取る。弁当を人質にされては弥勒は従うしかない。
「ジー」
隣の席からの視線を感じながらも弥勒は席を立つ。少なくとも屋上で食べた方が教室で食べるよりも目立たないだろう。
麗奈がアオイにこのことを喋らないように祈る弥勒。みーこは弥勒の弁当箱に自分の小さな弁当箱を重ねて持っている。
「屋上って開放されてるんだっけか?」
教室を出て屋上へと向かう二人。校内でご飯を食べる場所として人気なのは食堂や中庭だ。ちなみに購買は食堂に併設されている。
しかし屋上で昼食を食べるというのは聞いた事がない。あまり人気が無いか、開放されていないかのどちらかだろう。
「普段は閉まってるんだけどね〜。そこは秘密の協力者がいるからダイジョブ!」
そのまま屋上へと繋がっている扉の前に辿り着く。そこには弥勒の予想通り立入禁止の看板が設置されている。
「どうするんだ?」
弥勒がそう問いかけた瞬間、脇に置いてある段ボールからがさごそと音がする。そしてそこから何かが飛び出してきた。
「ミーコ、ミッションクリアでやんす!」
現れたのはヒコであった。嬉しそうにみーこのそばにやって来ると手に持っていた鍵を渡す。
「いえーい! ヒコ、ぐっじょぶ!」
お互いにハイタッチするみーことヒコ。つまりは職員室にある屋上の鍵をヒコに取りに行かせたのだろう。
忘れがちではあるがヒコの姿は魔力を扱える者しか見えない。つまりこの世界では魔法少女たちと弥勒しかその姿を見ることができないのだ。
みーこは施錠されている扉をヒコから貰った鍵で開ける。そして屋上の扉を開ける。ギギギと軋んだ音がする。風が通り抜ける。
屋上へ出るとそこは誰もいないだけあって広々と感じる。周りにはフェンスが付いているが遠くまで景色が見渡せる。二人は適当な場所を選ぶ。
「よーし、ランチタイムスタート!」
みーこは脇に抱えていた巾着を開ける。そこから小さいレジャーシートが出てくる。それを広げて二人が座れるスペースを作る。
二人はレジャーシートに座って弁当箱を開ける。ヒコも二人の間に座っている。
「用意がいいな」
「いつか屋上でランチしたいと思ってたから、ちょうどいいっしょ?」
せっかく屋上があるのにそこで食事ができないのは勿体無いとみーこは思っていた。今の季節なら風も心地よく、ランチには最適だ。
「まぁな。それじゃあ食べるか」
「そだね。いっただきまーす!」
「いただきます」
「いただくでやんす!」
二人と一匹で挨拶をしてから弁当を食べ始める。ヒコはどこからか取り出した大きなおにぎりを食べ出す。
「それでわざわざ昼に呼び出すなんてどうしたんだ?」
「みろくっちはせっかちだね〜。まぁいいけどサ」
みーこは箸を口に咥えたまま巾着の中を漁る。するとそこから何かを取り出す。何故かヒコも探すフリをしている。
「じゃじゃーん!」
「でやんす!」
みーこが取り出した物を掲げる。それは仮面だった。弥勒がセイバーになっている時に付けている仮面とよく似ている。
ヒコは何故か星型のサングラスを掲げている。色はイエローだ。
「セイバーの仮面……?」
「そう! 姫乃木さんと巴さんにアタシの正体がバレたらマズいっしょ? だから誤魔化せるようにセイバーと同じ仮面を用意したのサ」
「あっしも自分がヒコだとレーナたちにバレないようにサングラスを変えるでやんす!」
弥勒の疑問に二人が答える。
「いや何でお前らまで正体がバレないようにすんだよ」
「え〜、だって普段からみろくっちにアタックしてるアタシがセイバーにもアタックしてたら二人に怪しまれるじゃーん」
「いやセイバーにアタックしなけりゃ良いだろ!」
弥勒がみーこの発言にツッコミを入れる。
みーこは弥勒にアプローチを掛けている。それはアオイと麗奈も知っている。それなのにセイバーにもアプローチをし掛けてしまえば、二人はその事からセイバーの正体に辿り着いてしまうかもしれない。
そう考えたみーこは自身の魔法少女としての正体も隠そうとしてセイバーそっくりの仮面を作ったのだ。
ちなみにヒコも弥勒とみーこと一緒にいるのを二人に見られた場合、正体を教えろと迫られる可能性がある。そうされない様に別人のフリをしようとしているのだろう。
「この姿の時はあっしの事はピコと呼ぶでやんす!」
いつの間にか星形のサングラスを掛けたヒコがファイティングポーズをとりながら宣言する。
「……つまり魔法少女二人とじゃなくて俺と一緒に行動するってことか?」
「いえす! そっちの方がみろくっちの正体も誤魔化しやすいし」
スルーされたピコはファイティングポーズのまま固まっている。
「うーん、問題点が二つある。まず一つは俺自身に天使の出現を探知する能力が無いって事だ」
「なら今までどうやって見つけてたでやんす?」
秒で復活したピコは弥勒に質問する。ピコは天使の出現を感じ取る事ができるので弥勒の探し方に興味を持った様だ。
「普通に魔力を周囲に流して探してただけだ」
「うわ〜、効率悪いでやんすね」
「だからみーこには魔法少女側にいてもらって天使が現れたら俺に連絡とかしてくれると助かるんだが」
弥勒が今まで天使と遭遇できたのはほとんどが偶然だ。効率の悪さは自覚していたので、これを機に何とかしたいと考えていた。
「なるほどね〜、ちなみにもう一個は?」
「あっちの二人だけだと戦線が不安定だからみーこを入れて安定させたい。近距離型のアオイにサポート型の麗奈。そこに遠距離型のみーこが加わればまず負ける事はないだろう」
あくまでこの世界は『やみやみマジカル★ガールズ』の世界である。そのためセイバーの力はあくまでサポートとして、主力を魔法少女側で揃えたいのだ。
「なる〜。でも却下します!」
「どうしてだ?」
「まず第一にアタシは他の二人に比べて力の副作用が大きいわけ。だから常にミロクエナジーを補充してないとガス欠になっちゃうのサ」
「ミロクエナジーって何だよ!」
ツッコミを入れながらもみーこの言葉に弥勒は思案する。彼女の副作用が他の二人より大きいのは原作の彼女と乖離してしまったというのもあるのかもしれない。
今のみーこはギャルだが原作のみーこは地味なオタク少女だ。二次元同好会に所属しており、自分に自信がないという設定だった。
この差が魔法少女になった時の副作用の違いとして現れている。弥勒はそう考える。もちろん副作用自体に個人差というものはあるのだろうが。
「一つ目の天使の居場所なら分かる方法があるでやんす!」
話が行き詰まったのを見てピコがアイデアを出してくる。二人は視線をそちらに向ける。
「ででーん! 天使コンパス〜!」
ピコが何処かからコンパスを取り出す。それを二人に見せて来る。見た目は普通の黒い方位磁針だ。ただし上部に文字が入りそうな白い空白部分がある。
「おぉ〜!」
「これは?」
「これはその名の通り天使の居場所を示してくれるコンパスでやんす。上の空洞部分には天使の分類が現れるでやんす。鳥型の天使なら『鳥』、魚型の天使なら『魚』ってなるでやんす」
やんすやんす、とうるさい様な気もするがそこはスルーする弥勒。みーこはピコの説明に小さく拍手している。
「あっしがいずれ契約する魔法少女たちのために作ったでやんすが、今の時代は『すまーとほん』とかいうので簡単に連絡が取れるから結局使ってないでやんす」
そう言って天使コンパスを弥勒へと手渡す。
「いいのか?」
「もちろんでやんす。せっかく作ったんだから使ってくれた方が嬉しいでやんすし」
「そうか、ありがとう」
ピコの言葉に弥勒は素直に礼を言う。これで一つ目の問題は解決した。
「二つ目の方は俺が折れるか。とりあえずは一緒に行動しよう。ただ場合によってはあっち側に合流してもらう事になるからな」
「マジ⁉︎ やったー! さすがみろくっち。これで魔法少女仮面として活躍できる」
セイバー仮面を顔に当ててポーズするみーこ。釣られてピコも黄色いサングラスをくいっと上げる仕草をする。
「魔法少女仮面て……」
こうして一時的にではあるが、セイバー、魔法少女仮面、ピコの協力体制が出来上がるのだった。




