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ヤンデレ魔法少女を回避せよ!  作者: 広瀬小鉄
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最終話 ヤンデレ魔法少女を回避せよ!


「そっち行ったわよ!」


 メリーガーネットの姿となった麗奈の声がその場に響く。


「おっけー! アタシにお任せ!」


 すると彼女の視線の先にいたみーこが返事をする。彼女もまたメリースプルースへと変身している。


「ギャギャキャ!」


「まじ、キモいんですけど!」


 みーこは自分へと近づいて来たゴブリンをスプルーススターで撃ち抜く。攻撃が直撃したゴブリンは悲鳴を上げて消滅する。そしてその場にはドロップアイテムのゴブリンの角が残される。


「ゴブリンの角って使い道あるのかしら……?」


「無さそう。アンバーに渡したら何か役立つ物を作ってくれるかもだけど」


 ゴブリンのドロップアイテムに微妙そうな顔をする二人。すると彼女たちの近くに新たな影がやって来る。


「お待たせ! ってもしかしてもう終わっちゃった?」


「すいません、少し遅れました」


「大した敵じゃ無かった様ね」


 やって来たのはアオイ、エリス、月音であった。彼女たちは談笑している麗奈とみーこを見て戦闘が終わったと判断する。


 女神との戦いが終わった後。神界には大きなダメージが残った。女神の発動した必殺技により空間に傷が入ったままとなったのだ。


 空間の損傷は時間が掛かるものの、いずれは元の状態に戻る。そこで弥勒たちは元の世界へと戻る事にした。


 神になった弥勒が元の世界に戻れるのか。そんな疑問が魔法少女たちにはあったが、特に問題は無かった。龍神は自らの意思で神界で眠り続けていた。女神は龍神の封印のせいで神界から出れなくなっていただけである。


 そのため神界から神が出るのは問題無かった。ただし現世だと神の力を存分に振るう事は出来ない。そのため最終決戦時の様な無茶苦茶な戦い方は地上では出来なくなった。それでも神として覚醒した弥勒は強いので特に問題は無かった。


 ただ大きな誤算が一つあった。


 それは大町田市にモンスターが出現する様になった事だ。どうやら神界がボロボロになった影響で、異世界にあるダンジョンがこちらの世界へと繋がってしまったみたいなのだ。


 それにより戦いが終わると思っていた一同の思惑は外れ、結局はモンスター退治を続けていかなければならなくなった。


 そのため元の世界に帰って来てしばらくはバタバタと忙しい状態が続いた。そして気付いたら冬となっていた。


 すでに年も明けて新年になっている。魔法少女の格好をしているためこの程度では寒さは感じない。しかし吐く息は白い。


 もし平和な日常が戻ったら彼女たちにも色々とやりたい事があった。しかしそれらは全てお預け状態となっている。むしろ天使退治をしていた時よりも忙しくなっているかもしれない。それだけダンジョンを通ってやって来る魔物の数が多かったのだ。


「…………」


「どしたの、ガーネット?」


 麗奈は自らの指に嵌ったチープな指輪を見つめている。それを疑問に思ったアオイが彼女を心配する。


「何でも無いわ」


 麗奈はそう言って首を横に振る。


「(どうして魔法少女の力が残ってるのか……ま、あいつに聞いた所で教えちゃくれないわよね)」


 麗奈は魔法少女の力が残っている事に違和感を覚えていた。この力はヒコがいるからこそ成り立っている力である。ヒコが魔法として変身アイテムの指輪を出現させているのだ。しかしそのヒコはもう居ない。女神と一緒に虚空へと消えていったのだから。


 その理由について弥勒なら知っているだろうと思った麗奈。しかし彼には秘密主義な一面もある。自らの前世などについてギリギリまで語らなかった事からもそれは明白だろう。そのため問いただした所ではぐらかされるに決まっていた。


「それよりもセイバーさんはまだでしょうか?」


「あー、あいつは今日は取材だから来ないわよ」


 一方で大きく変わったのは大町田市だけでは無かった。弥勒を取り巻く環境もまた大きく変わってしまった。


 それはセイバーの正体バレである。無型の大天使戦で弥勒はクラスメイトたちの前で変身してしまった。初めのうちは巨大ロボットのインパクトの方が強く目立たなかったが、それが落ち着いた頃に改めて弥勒の正体について噂が広がってしまったのだ。


 そのせいで弥勒は全国的に有名人となってしまった。幸いな事に多くの人たちに受け入れられているため、どちらかと言うとヒーローの様な扱いとなっている。これには恐らくユイや政府の人間の情報操作によるものだと麗奈は考えていた。


 国の上層部はセイバーの正体も、魔法少女たちの正体についても把握していた。ヒコが巫女に付いていたのだから情報が筒抜けになるのも当然である。そしてそれを踏まえた上で国の上層部はセイバーと魔法少女たちを自由に動ける様にサポートしてくれていた。そのため今回のヒーロー扱いを主導しているのも政府だろう。


 また弥勒をヒーローの地位に押し上げている理由がもう一つあった。それは討伐協会の設立である。大町田市に出現する様になったモンスターは魔法以外でも倒せるのだ。そのため自衛隊、魔法少女、セイバーで連携を取ってモンスターたちの対処をしていく事となった。それが討伐協会である。ちなみに普通の人間がモンスターを倒してもレベルが上がるみたいな現象は発生しなかった。


 弥勒はセイバーとしてその広告塔となっている。本来であれば魔法少女の方がウケは良いのだろうが、彼女たちは正体を隠したままである。そのため正体バレしている弥勒が半ば広告塔の役割を果たしているのだ。


 そして今日はとある雑誌の取材のため弥勒は都内へと出掛けていた。インフルエンサーを目指していた麗奈としては秒で追い抜かれた形となるため内心は複雑である。ただ魔法少女たちとしても自分の惚れた人間が世間に認められているのは嬉しい事でもあった。


「なんかさー、ファンクラブとかあるらしいよ。皆、みろくっちを持ち上げ過ぎっていうかさー」


 みーこが唇を尖らせながらそんな不満を口にする。彼女も弥勒が人気な事自体は嬉しいが、それにより女子人気が出るのが気に食わないのだろう。


「実はわたくしも入ってまして……会員番号0番です……!」


 エリスはスッとセイバーのファンクラブの会員カードを取り出して見せてくる。それに全員がずっこける。しかも0番という事は通常の会員では無い。


「わたくしの家が資金提供をさせていただいてますので、そのご縁で……」


「まさかのルーホン家が絡んでるの……⁉︎」


 彼女の発言にアオイが驚く。正確にはルーホン家のみが絡んでいる訳では無い。月音のいる神楽コーポレーションも資金提供をしている。そしてそれはファンクラブだけではなく、討伐協会についても同様だ。


 大企業や資産家はそういった所に敏感である。投資する事で今後のリターンが期待できると考えたのだろう。月音とエリスが魔法少女として戦っている事を考えるとその判断は間違ってはいないだろう。


「ぬぐぐ……何だか今から入ったら負けな気がするんだよ……!」


「マジそれ」


 珍しく意見が一致したアオイとみーこはガシッと握手をする。エリスが特別会員なのに自分たちが平会員なのが嫌なのだろう。


「別にファンクラブに入らなくても学校で会えるじゃない」


「そういえば明日からだったわね……正直、面倒ね……」


「何とか在学中に再開になって良かったです!」


 つい数日前の事であった。学校再開の連絡が来たのだ。大町田駅がつい先日再開したので、それに合わせたのだろう。そのため彼女たちにとっては数ヶ月ぶりの学校である。エリスなどはもう在学できる期間は二ヶ月程度しか残っていない。それでも最後に仲間たちと学校に通える時間が出来た事で嬉しそうにしている。


「それならもう今日は解散しましょう。明日に備えて」


「はーい!」


「おけー」


「そうね」


「分かりました」


 麗奈の言葉に全員が賛同する。そしてそれぞれ帰路に着く。















 一月の中旬。


 学校が再開する日。


 外の寒さは窓から見て分かるレベルだった。しかし弥勒にとっては大した事では無い。魔法を使えば体温調節など簡単だからだ。


 彼は女神との戦いでセイバーとしての力のほとんどを失った。と言うよりも女神に回収されてしまった。そのため変身出来るのは銀色の救世主(シルバーズセイバー)のみである。しかし今までのセイバーに変身していた時とは異なり、魔法が自由に使える様になったためそれ程困りはしなかった。


 弥勒が使える魔法のほとんどは戦闘に関するものだ。女神の様に空間を自在に操ったりは出来ない。ただモンスターを倒すのにはそれで問題無かった。


「よし、行くか!」


 弥勒は久しぶりの学校に気合いを入れる。そして母親に挨拶する。セイバーとしての正体がバレても両親は弥勒の事を受け入れてくれた。と言うよりもあまり気にしていなかった。その器の大きさに彼は感謝の気持ちで一杯だった。


 玄関で靴を履いて、扉を開ける。するとそこには見覚えのある少女たちがいた。それに弥勒は大きな溜め息を吐く。


「何で朝から全員居るんだよ……」


「久しぶりの学校だし当然来るわよ」


「うんうん、当然だよ!」


「みろくっちもまだまだアタシたちの事が分かってないね〜」


「貴方は少し自己分析が足りてないわね」


「ふふ、そんな訳で車を用意してますので、みなさんで行きましょう」


 弥勒の愚痴に魔法少女たちは勝ち誇った顔で言い返す。最後はエリスの言葉に彼も観念する。


「まぁいつもの事か。それじゃあ改めて、皆おはよう」


「「「「「おはよう!」」」」」


 弥勒の挨拶に全員が笑顔で返事をする。






 夜島弥勒はヤンデレな女神を回避する事には成功した。しかしどうやらヤンデレな魔法少女たちについてはまだまだ回避しきれていない様だった。


 彼はどうやって一人になる時間を作ろうかと考える。そしてふと、これも幸せの形なのかもしれない。確信では無く、ぼんやりとそう思った。


 虚空から吹く澄んだ風が弥勒の頬をそっと撫でた。


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[一言] 完結おめでとうございます
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