第三百八話 枯れずの薔薇
「猫騎士さん、頑張って下さい!」
「「「にゃにゃにゃー!」」」
猫騎士とサイコロの天使が戦っている。サイコロの天使は正面を向く目の数によって異なった攻撃を出して来る。攻撃自体は複雑なものでは無いが、その特性により厄介な相手であると言える。
猫の上に乗っているセイバー人形は素早い斬撃を繰り出す。しかしそれを五の目を出したサイコロの天使に防がれる。五の目はシールド展開の能力であった。
「救世主様が魅力的なのは分かりますが、こう次から次へと変な女が寄ってくるのは感心しませんね」
女神は魔法少女たちの方を見ておらず、弥勒を包んでいる籠を撫でていた。その表情には嫉妬が現れていた。頬をぷくっと膨らませながら弥勒に言い聞かせるかの様な語り掛けである。
「やはりあちらでは私の祝福もほとんど効き目が無かった様ですし」
女神は大きく溜め息を吐きながらそんな事を言う。中にいる弥勒にもその声が聞こえていたため祝福という言葉に首を傾げる。すると女神にそれが伝わったのか、嬉しそうに解説を始める。
「セイバー以外の能力を使えない様にするのと、他の人間と組むと弱体化する。この二つは私があなた様に授けた祝福なのですよ?」
弥勒はその事実に驚愕する。確かにセイバーの能力はパーティーを組むとその分、弱体化する。二人だと二分の一、三人だと三分の一に能力値が落ちてしまうのだ。弥勒はそれをリソース不足を解消するための苦肉の策だと思っていた。セイバーの能力が強力な反動として、他の能力に制限が掛かっていると思っていたのだ。正直なところ原作である「異世界ソロ⭐︎セイバー」というタイトルを貫くための設定くらいにしか考えていなかったとも言える。
確かにこちらで魔法少女たちとパーティーを組んでいる時に弱体化は発生しなかった。さらには異世界で使えなかった魔法なども生身で使える様になっていた。これらも異世界とこちらの世界の違い程度にしか考えていなかったのだ。
しかしその実態は女神からの呪縛であったのだ。弥勒が自分の与えた力以外を使わない様に。弥勒が自分以外の女と親密にならない様に。全ては女神が弥勒を独り占めするためだったのだ。
それが異世界から戻った事で緩くなったのだ。セイバーの能力とは違い、祝福はサービスの様なものだ。そこまで強力なものではない。そのため女神のメイン活動地である異世界以外では弱体化してしまう。それにより弥勒はパーティーを組める様になったし、魔法も使える様になったのだ。
真実を知って弥勒は悔しがる。もしその祝福が無ければダンジョン攻略はもっと楽に終わったかもしれない。何年もの時間を掛けなくても良かったかもしれない。
しかし女神の呪縛はある意味、弥勒が異世界から元の世界へと戻るのを後押しもしていた。もし異世界で親しい人間が出来ていれば、彼は元の世界に戻る事を躊躇ったかもしれない。それを考えれば弥勒にとって損しか無かったという訳では無い。
「(いや、魔法か……!)」
弥勒は使い慣れていないためすっかり忘れていたが、セイバーの力を失っても魔法は使うことができる。そこで彼は火球を生み出して籠を破ろうとする。
「無駄ですよ。中からの魔法は無効化する様にしてますから」
しかしそんな弥勒の行動を見透かした様に女神が言う。彼女の言う通り、確かに魔法は発動こそするものの籠に着弾するとすぐに消滅してしまう。内側は魔法無効化状態になっているのだろう。
「ですのでもう少し大人しくしていて下さいね。邪魔者を排除したら永遠に二人きりですから。とても楽しみですね」
女神はうっとりした様に微笑んでから視線を魔法少女たちへと戻す。するとそこにはまだ諦めずに戦っている魔法少女たちがいた。それに女神は溜め息を吐く。
「ふぅ。なかなかしつこいですね。そういった女性はあまり殿方に好まれませんよ?」
「余計なお世話よ!」
女神の挑発に麗奈が反応する。それから麗奈はネバールートを使ってワイバーンを拘束しようとする。しかしワイバーンのパワーに根が耐え切る事が出来ず、引きちぎられてしまう。
その状況を見ていた月音は現状を覆えす方法を思い付く。そしてすぐにその案を行動へと移す。
「アンバードローン」
ドローンをワイバーンの方へと向かわせて氷のビームを発射する。氷のビームはワイバーンの足元の地面を凍らせる。
「geee⁉︎」
地面に氷が張ったことで滑りやすくなった。その影響によりワイバーンは自らの巨大を支え切れずに転倒してしまう。
月音はそれを見て地面を凍らせるのは可能だと判断する。そして女神が対策に出る前に素早くオーガの天使の足元も凍らせる。それによりオーガも転倒する。
「メランコリーロザリオ!」
「メランコリータイガー!」
その隙を逃す彼女たちでは無い。敵が起き上がる前に二人は必殺技を繰り出す。麗奈の背後には巨大な十字架が出現して魔力砲が放たれる。アオイは青き虎を伴ってオーガへと殴り掛かる。
「geee⁉︎」
「iaaa⁉︎」
それによりワイバーンとオーガの天使は消滅する。強力な二体を倒した事で魔法少女たちに余裕ができる。麗奈は斧の天使戦に、アオイはサイコロの天使戦にサポートに入る。
「このままでは天使は全滅してしまいますね。さて、どうしましょうか」
女神は次にどういった手を打つべきか考える。生半可な天使が相手では今の様に倒されるのがオチだ。伊達に魔法少女たちも修羅場を潜ってきた訳では無い。
大天使を作るには時間が掛かる。流石にこの戦闘でポンと出せる程、簡単な存在では無い。それを踏まえるとどういう手段を取るべきか。女神は数秒程、考えてから行動に移す。
「面倒ですから、魔物を直接呼びましょう」
そう言うと彼女の足元に魔法陣が出現する。そこから大量の魔物たちが出て来る。それは本来、ダンジョンにいるはずの魔物たちであった。それを彼女はゲートを繋ぐ事で呼び出しているのだ。ちなみに先ほどのワイバーンとオーガもダンジョンから召喚したものである。
「これなら流石に一溜まりも無いでしょう」
「舐めんなし!」
大量に召喚される魔物を見ても魔法少女たちは騒がない。みーこが魔力を溜めて必殺技を開放する。
「メランコリーパーリー!」
魔物たちのいる場所が漆黒の領域に包まれる。そしてその内部で大量の爆発が起きる。魔物たちはそれに成す術無く呑み込まれる。みーこの必殺技は範囲攻撃のため雑魚が多数いるという状況には相性が良いのだ。
「女神の力についてもようやく見えてきたわね」
周りのサポートをしながら分析をしていた月音がそう発言する。それに残りの魔法少女たちは耳を傾ける。
「権能と呼べるものは恐らく生命力や力を与える能力ね。それ以外のものは通常の魔法でしょう。ただ神様らしくその規模は大きいみたいだけれど」
女神が使っていた力は何種類かある。そのうち物体や魔物を天使化させていた力を月音は権能だと考えた。そしてそれは天使化させるに留まらず、弥勒やアオイを足止めしていた圧力の増加や、みーこの攻撃を防いだ空気の壁、そういった事にも使える様だった。
そしてもう一つが物体を取り出したり、魔物を召喚したりする能力である。こちらは弥勒も持っているアイテムボックスなども考えると空間系の魔法を使っていると推測できた。
「素晴らしい洞察力ですね。確かに私の権能『枯れずの薔薇』は生命力などを与える能力です」
女神は月音の仮説を認める。しかし能力を暴かれたというのに彼女の方はまだ余裕がありそうな表情をしていた。
「しかし私の能力の本質は分け与える事では無いのですよ?」
そう彼女が口にした瞬間、太陽と見間違えてしまう程の熱量を持った火球が出現する。その一緒の出来事に麗奈たちは表情が引き攣る。
「枯れないのです。私の愛は永遠にして、不滅なのですから」
そういって彼女は魔法少女たちに向かって特大の火球を振り下ろした。それはとてつも無い衝撃をもって魔法少女たちへと激突するのだった。




