第二百九十九話 打ち明ける
「悪いな。昨日の今日で集まって貰って」
弥勒は集まった魔法少女たちにそう声を掛けた。彼の呼び掛けであれば、地球の裏側にだって彼女たちは駆け付けるだろう。むしろ呼び出されてウキウキ気分である。
「別に良いけど……何でこんな場所なわけ……?」
麗奈は周りを見渡しながらそう呟く。彼女たちが集められたのは花町田神社であった。その事に首を傾げる魔法少女たち。
「ちょっと訳があってな。とりあえずこっちに来てもらえるか」
そう言って弥勒は彼女たちを本殿の中へと案内していく。
「ちょ、ちょっとみろくっち! ここって勝手に入って良い訳⁉︎」
みーこは本殿の中へと入っていく弥勒に驚く。普通、こういった場所は一般人が立ち入る事はできない。
「大丈夫。許可は取ってるから」
弥勒が巫女であるユイとヒコと話し合ったのが昨晩の事である。そこで彼は色々と真実を知った。それはどれもが衝撃的な事であった。そして弥勒は一つの選択を迫られる事になった。
それは女神との対峙に魔法少女たちを連れていくかという事だった。
それに悩んだ弥勒が出した結論は「連れていく」というものだった。そのため弥勒は彼女たちをここへ呼び出したのだ。
魔法少女たちと共に弥勒はここまで戦って来た。その最後の戦いとなるかもしれない場に彼女たちを連れて行かないのは不義理にあたるだろう。彼女たちにも真実を知る権利があるはずだ。
弥勒は彼女たちを本殿の中へと招き入れる。そして少し進むとそこには昨日と同じく御簾があった。
『ようこそいらっしゃいました。魔法少女の皆さま』
するとその奥からユイの声がする。それに麗奈たちは驚く。彼女たちからしたらいきなり自分たちの正体を知っている者が現れたのだ。驚くのも無理は無いだろう。
「だ、だれ……?」
『そう警戒なさらないで下さい。わたしはあなた方の味方です。先日も自衛隊を派遣して、大天使戦の支援もさせていただきましたし』
「自衛隊って……⁉︎」
アオイの問いかけにユイは落ち着いて返答する。そして彼女の答えを聞いて弥勒は納得する。
愛花たちに聞いた話だとヒコと自衛隊が一緒にやって来たと言っていた。ヒコの姿は一般人には見る事が出来ない。そのため最初は自衛隊を見つけたヒコがそれにくっついて来ただけかと思った。
しかし実際には違った。ヒコから話を聞いていたユイが自衛隊を派遣させたのだろう。またこれは弥勒が知らない事ではあるが、馬場村と無線で話していた人物も彼女である。つまりユイは自衛隊を動かせる程の影響力を持った人物とも言えるだろう。
『初めまして、私の名前はユイと申します。この花町田神社の巫女を務めさせていただいております。皆さん、どうぞよろしくお願いします』
「わたくしはエリス・ルーホンと申します。よろしくお願い致します」
ユイの挨拶にエリスだけが丁寧に返事をする。麗奈、アオイ、みーこはまだ戸惑っている様だ。月音は鋭い眼をして、御簾の向こうを見つめている。
「まぁまぁユイは味方でやんすから警戒しなくても大丈夫でやんす!」
「ヒコ……⁉︎」
するとその状況を見かねたのか、昨日と同じ様に御簾の向こうからヒコがやって来る。それに麗奈たちは再び驚く。
「彼女は味方だと思ってくれて良い。それよりも今日、みんなをここに呼んだのは大事な話があるからだ」
ユイについての話はそこそこに弥勒は本題を切り出す。彼女たちを今日ここに呼んだのはユイと会わせるためだけでは無い。彼女たちに全てを打ち明けるためだ。
弥勒の言葉に魔法少女たちはユイやヒコから視線を外す。そして彼を見つめる。彼女たちにとってはユイが信じられる人間かどうかより、弥勒を見つめるチャンスを逃さない方が大事なのかもしれない。
「ヒコも、ユイも、聞いてくれ。俺には前世の記憶があるんだ」
そこから弥勒は全ての真実を話し始める。自らの前世の事。そしてその時にプレイしていたゲーム。「異世界ソロ⭐︎セイバー」と「やみやみマジカル★ガールズ」について。そこに登場した人物たちと、それぞれのルールとエンディングについても語る。
それからこの世界に転生した事。そして女神の依頼により数年間もの間、ダンジョンで戦っていた事。こちらへと戻って来て天使に遭遇した事。
そして最後に、この世界を破壊しようとしている存在が女神マリアである事。
全てを語り終えるまでに一時間くらい掛かっただろうか。その間は誰も余計な口を挟まなかった。彼女たちは静かに彼の話を聞いていた。
「————という訳なんだ。今まで黙っててすまなかった」
弥勒は魔法少女たちを見渡しながら頭を下げる。今まで秘密にしてきた事を明かした事で彼女たちはどういうリアクションをするのか。彼は恐る恐る顔を上げる。
「はぁー、まぁそれは迂闊には話せないわよね」
「うん……でもやっぱり弥勒くんはあたしたちを騙してた訳じゃ無いんだね!」
「ぶっちゃけ異世界転生でもしてないとセイバーとしての実力に納得できないし。ある意味ふつーっていうか……」
「異世界……前世……それに私たちの存在が記されたゲーム……興味深いわね……」
「凄いです! まさか世界を救ったヒーローさんだったなんて!」
それぞれが異なったリアクションをする。しかし共通しているのは誰も弥勒の事を非難や拒絶していないという所だ。彼の話を全面的に受け入れてくれている。
「ふぉぉぉー! ミロクにそんな秘密があったなんて……凄いでやんすー!」
『これには私も驚きました』
ヒコとユイも同じ様に驚いている。そんな皆の姿を弥勒は心が落ち着くのを感じた。彼は皆に自らの過去を受け入れてもらえたら泣いてしまうかもしれないと思っていた。しかしそんな事は無かった。
魔法少女たちにとって弥勒の秘密は大した事では無かったのだ。彼女たちにとっては今の弥勒が全てで、そこに嘘が無いなら他の事は些細な事だ。
大袈裟に受け止められなかった。それ故に弥勒も泣いたりしなかったのだ。自らのコンプレックスが他の人から見たら大した事無いのと同じである。あっさりと受け入れられた事で弥勒もあっさりと終わらせる事が出来た。
「それじゃあいよいよ女神様とやらにカチコミだね!」
アオイは拳をバシバシと叩いて気合いを見せる。既に彼女は女神と戦う気満々の様だった。みーこと麗奈も決戦前の様な表情をしている。
「果たして女神様の真意はどこにあるのでしょうか……?」
そんな中、エリスがポツリと呟く。
「ゲームとやらでは、あくまで人型の大天使の暴走として描かれていたのよね?」
「はい。神様としては人類を滅ぼすつもりは無く、戒めようとしただけであると。それを拡大解釈した人型の大天使が暴れたために今回の騒動が起きたのだと」
月音からの問いに弥勒は原作を思い出す。しかしその答えが本当に信用できるかは今となっては怪しいものだった。そもそも弥勒が女神の依頼でダンジョンを攻略して龍神を倒したのだって世界の危機では無かった可能性があるのだ。
弥勒の答えを聞いて月音も信憑性が低いと思ったのだろう。難しそうな表情をする。昨晩と同じ結論になってしまうが、結局は女神に聞いてみるしか無い。
「ここで考えるより女神様とやらに聞いた方が早いっしょ! 行く?」
「いやそんなコンビニ行くみたいな感覚で誘われても……」
みーこの軽いノリに弥勒がツッコミを入れる。こういった場面で神妙になり過ぎないのは彼女の良い所でもある。
『それなら次の満月の晩に致しましょう。その時が最もエネルギーが満ちる時です。そこに夜島様もいれば女神マリアへの道は開かれるでしょう』
「六日後ね……」
次の満月は六日後である。その時に全ての事に決着が着く。弥勒たちとしてもそれは丁度良かった。無型の大天使を倒してまだ数日しか経っていない。もう少し休息が必要だと考えていたのだ。
また次が最終決戦となれば、各々思うところもあるだろう。そのため心を落ち着かせる時間も必要だった。弥勒たちはその日はそのまま解散となった。
珍しく誰も寄り道などはせずに真っ直ぐに帰宅するのだった。




