第二百九十五話 この先
エリスの家に弥勒と魔法少女たちが全員集まったので、雑談もそこそこに本題へと入る。
「確認だけど今回の戦いで大天使はラストだったのよね」
「ああ。俺の知る限りはな」
麗奈の質問に弥勒が答える。天使の種類は全部で七種類である。鳥、人、魚、獣、霊、蟲、無である。それぞれの種類に対応する幹部として大天使がいる。
「それじゃあ後はふつーの天使にだけ対処していけば良い感じ……?」
「うーん、どうだろうな……」
みーこからの問いに弥勒は明確な返事が出来ない。原作基準で考えるとここでほぼストーリーは終わった扱いになるだろう。原作とは大きく異なったが、強いて言うならこの世界線はノーマルエンドなのかもしれない。あるいはハーレムエンドとも言えるかもしれない。まだ弥勒は誰とも結ばれていないが。そうなると後はエンディングくらいしか残っていないだろう。
「ハッキリしないわね」
「いや、俺だって何でも知ってる訳じゃ無いんだよ」
「うーん、でも弥勒くんが分からないとなると誰も分からないんじゃ……」
「あそこに怪しいのが一匹いるわよ」
アオイが話を諦めようとすると月音が端っこでお菓子に齧り付いているヒコを指差す。全員から注目されたヒコはビクッと驚いた状態になる。
「あんた、何か知ってるの?」
「知らないでやんす! あっしが分かるのは天使が出現したかどうかでやんすからね〜。所詮は下っ端妖精でやんす!」
麗奈からの問いかけにヒコは首をすくめた様なポーズをする。それに魔法少女たちは疑いの眼差しを向ける。しかしヒコはどこ吹く風である。この妖精は何か知っていたとしても必要無ければ何も話さないだろう。それは全員理解しているため追及を諦める。
「もし新しい種類の天使さんとかが出て来たらどうしましょう……?」
「恐竜の天使とか、植物の天使、鉱物の天使とか!」
エリスが新種類の天使の出現に怯える。アオイの方は何故か嬉しそうに新しい種類の天使を考えている。弥勒としては新型の天使など勘弁して欲しかった。
「この先はどうなるか分からないからな。警戒しておくに越した事は無いだろ」
弥勒としてもそう答えるしか無い。そう言いつつも彼はあまり心配していなかった。このメンバーなら何があっても乗り越えられると考えていたからだ。
最初の頃は弥勒の指示により戦っていたものの、現在は各々の役割をきちんと把握して戦える様になっている。蟲型の大天使や無型の大天使は弥勒一人では倒せなかっただろう。
「もしかしたら天使さんも現れなくなるかもしれません。そうなったらわたくしはしばらく勉強に集中ですね」
エリスが希望も込めてそんな事を言う。彼女は推薦で大学へと行く予定となっているが、それは勉強をしなくても良いという事では無い。むしろ次のテストでも良い点を取らなければ推薦に通らない可能性もある。そのため彼女は勉強の手を抜くつもりは無かった。
すると流れで平和になったらしたい事を発表していく形になる。エリスに続いて口を開いたのは麗奈である。
「ワタシは読者モデルの仕事をもっと増やしたいわね。本格的なモデルを目指して見るのも良いかもしれないわね」
麗奈は読者モデルの仕事にやる気を出している様だった。SNS映えスポット巡りに弥勒を付き合わせているが、インフルエンサーとして知名度を上げたいという気持ちもしっかりとあるのだろう。
また彼女は救世主チャンネルの運営もしている。その際は裏方として活動している。そういった経験も相まって、より表舞台に立って輝きたいという夢を持ったのかもしれない。
「はいはーい! あたしは長距離の全国大会に出たい!」
アオイは楽しそうにそう発言する。彼女は弥勒と出会った当初、どこか走るのを苦しがっていた。それは家族や周囲からの重圧などによるものだ。しかし今の彼女にそんなものは何のプレッシャーにもならなかった。何故なら人類の運命を背負っていたのだ。それに比べたら走る事へのプレッシャーなど大した事は無かった。
「アタシは本格的に作家を目指したいし! 実は来年辺りにアタシが書いた本が出版されるんだよね〜」
みーこは本腰を入れて作家業に取り組むつもりの様だ。弥勒にしか教えていなかったネット小説の書籍化についても話す。
するとその場がワッと盛り上がる。そして色々と聞かれる。みーこはその質問に答えていくが、作品のタイトルは最後まで言わなかった。
「私はとりあえず魔装少女の改造をしたいわね。今のクオリティじゃ世に出せないもの。そしてゆくゆくは魔力の解明ね」
月音も自らのやりたい事を述べる。とは言っても彼女の最優先事項は相変わらず研究である。魔装少女が使っている装置にはまだ未完成の部分も多い。その辺りを改良していきたいのだろう。
また大きな野望としては魔法、魔力の解明である。未知のエネルギーを解き明かす事で人類を新たなステージへと引き上げたいのだろう。実現すれば歴史に名を残す偉人となるのは間違いない。
「あっしはドラゴンになりたいでやんす!」
何故かヒコも自らの野望を述べる。しかしイタチであるヒコがドラゴンになれる訳も無いとスルーされる。それにもヒコはめげず、ドラゴンについて熱く語っている。
そして最後に全員が弥勒に注目する。彼は少しの間、沈黙を保つ。それからゆっくりと口を開く。
「今の俺には夢が無い。だからまずはそれを見つけるために色々な事を経験してみたいと思ってる」
弥勒は自らの正直な気持ちを話す。異世界にいた頃の夢は元の世界に戻る事だった。戻って来てからは生き残って「やみやみマジカル★ガールズ」の世界を平和にする事だった。
しかしやはり世界が平和になった後の夢というのは彼の中にまだ存在していなかった。そう簡単に見つかれば苦労はしないという事である。
「だからもし何か困った時は手を貸してくれるか?」
「当たり前でしょ」
「もちろんだよ!」
「任せるし!」
「仕方ないわね」
「お手伝いさせていただきますね」
弥勒のそんな問いに魔法少女たちは笑顔で答える。彼にとって魔法少女というのはどちからと言うと面倒を見る存在であった。しかし最近はそれだけでは無くなって来ていた。それが魔法少女たちの変化なのか、弥勒自身の変化なのかは本人にも分かっていなかった。ただ支えるだけの関係が支え合う関係になったという事だ。
「でもとりあえず学校が再開するまではのんびりしよう」
最後に弥勒は話を纏める。それに全員が頷く。今年はきっと学園祭は無いだろう。このタイミングで休校になったら授業のスケジュールがぱつぱつになる。学園祭などをやっている余裕は無いだろう。彼女たちもそれは口に出さずとも理解していた。
「それなら今日はこれで解散かな」
今後の方針についてはほぼ未定のままだ。それでも今はこれ以上出来る事がない。そのため解散を提案する。
「なら私は迎えの車を呼ぶわ」
月音はスマホを弄って家から車を呼ぶ。この辺りはさすがの金持ちである。弥勒たちとしては羨ましかった。
「ワタシはもう少しのんびりしていくわ」
「あたしもー!」
麗奈とアオイはまだエリスの家に残る様だった。この後、女子会でもするのだろう。エリスがウキウキで準備する姿が目に浮かぶ。
「アタシはかーえろっと」
みーこは帰る事を選択した。彼女は気まぐれに動く事も多いので深い理由は無いだろう。弥勒も帰宅する事に決める。
「俺も帰るわ」
魔法少女たちに挨拶をしてエリスの家を出る。みーこも一緒である。
「いやー、今日は家でのんびりしてよーっと」
「俺もそうするよ」
二人はそんな事を言いながら歩く。一晩寝て回復したとは言え、遊び回る様な気持ちにはなれなかった。今日はお互い家で静かに過ごすパターンだろう。
「朝食のパン、美味かったぞ」
「アタシもそっち食べたかったし」
「家で食べて来たのか?」
「いえーす。しかもパンだし」
「確かにそれなら食わないわな」
そんな話をしながらみーことも途中で別れる。それから弥勒は再び変身して家へと帰るのだった。




