第二百八十九話 攻撃チームの戦い
右腕の切り落としに成功して、敵の反対側へと回った弥勒とアオイ。二人の次の狙いは左腕の破壊である。
「どうする? さっきまでより火力が減ってるよね?」
アオイのいう火力というのはみーこの事だろう。彼女は右腕から分離した天使の対処のため、防御チームの所へと向かった。そのため先ほどよりも攻撃チームの火力は落ちてしまっている。
「今度は俺も狙撃じゃ無くて直接行く」
弥勒はそう言ってフォームを変更する。群青の襲撃者へと姿を変える。スピード特化のフォームであるため敵に接近するにはうってつけだ。
『発見。小サイ敵。探ス。難シイ』
するとビルの屋上にいる所を巨大ロボットに発見される。それと同時に左腕を弥勒たちのいる方へと向ける。今までとは異なり、掌を向けるのでは無く、指先を弥勒たちの方向へと向けている。
「来るぞ!」
「う、うん……!」
弥勒がそう叫んだ瞬間、指先から大量の光の弾丸が発射される。指先と聞くと魔力弾のサイズを小さな感じるが、巨大ロボットのサイズは百メートルほどある。指先のサイズだけみても一メートルくらいはあるだろう。そしてそこから発射させる魔力弾も指先と同じくらいの大きさはある。それが二人の所にマシンガンの様に降り注ぐ。
「くっ……!」
「ひゃあ……⁉︎」
弥勒とアオイはビルから飛び退く。それと同時に大量の魔力弾によりビルが崩壊する。あまりの勢いの強さにアオイが驚愕の表情を浮かべる。
『変更。攻撃ノ仕様。クレーム。受ケ付ケナイ』
そう言って巨大ロボットは握り拳の形を作る。その状態で弥勒たちへと照準を合わせる。すると今度は刃の形をした攻撃が大量に生み出されて行く。刃一つが三メートルほどのサイズとなっている。
「浮遊する斬撃!」
弥勒は光の刃に対抗するために群青の襲撃者の必殺技を使用する。高速で剣を振るう事で斬撃を飛ばして行く。それが光の刃たちとぶつかる。
「うお……⁉︎」
「お〜ち〜る〜」
しかし次の足場にと考えていたビルも光の刃により破壊されてしまったため二人は仲良く地面へと落下していく。アオイは本日二度目の落下なので余裕の表情だ。
二人は地面に何とか着地する。すると近くに防御チームとみーこがいるのが確認出来た。彼女たちは左足付近にいたため、左腕を攻撃していた弥勒たちと近い場所にいるのは自然な事だろう。
「さっきアオイがやった方法で行くか」
「さっきのってどんな?」
弥勒の答えにアオイが首を傾げる。それを見て彼はロボットの左足を指差す。するとアオイも納得のいった表情をする。
「二人で駆け登るぞ」
「おっけー!」
二人はタイミングを合わせて走り始める。そのスピードに追い付けるものは異世界も含めてほとんど居ないだろう。左足に接近して同時に飛び上がる。そのままロボットの足を垂直に駆け上がっていく。
『発見。二度ハ騙サレナイ』
しかし巨大ロボット側も先ほどと同じパターンなので、即座に迎撃に入る。左足の至る所から砲身が出現し、そこから光線が様々な角度で放たれる。光の動き具合がまるでパーティー会場の様な煌びやかさである。
「ははは!」
「当たらないもんね〜!」
普段は行わない垂直走りにテンションが上がっている二人。足の至る所から出てくるビームを回避しながら登っていく。そして左腕が狙える位置まで辿り着く。
弥勒は左腕に向かって大きくジャンプする。そしてフォームを真紅の破壊者へと変更する。そして肘部分に向かって必殺技を放つ。
「灼熱の龍剣!」
弥勒が大剣を振るうとそこから炎の龍が出現する。それに合わせてアオイも叫びながら自らの必殺技を放つ。
「これがあたしたちの合体技! 言うなれば竜虎相搏つ! メランコリータイガー!!」
『否定。ソノコトワザハ龍ト虎ガ敵対シ……——』
アオイの間違ったことわざに巨大ロボットが修正を入れようとする。しかしそれが仇となり、左腕には紅き龍と蒼き虎により蹂躙される。しかし巨大ロボット側もただやられるだけでは終わらない。
『筋肉。パワー』
そう言って関節部分に天使たちを移動させて防御を固める。まるで力瘤の様になっている。それと同時にその力瘤からエネルギーが放出される。
「くっ……!」
「のわぁ〜!」
弥勒とアオイはその衝撃派に吹き飛ばされる。空中という足場が無い場所故に踏み止まる事が出来ないのだ。二人は近くのビルへと衝突する。
二人はすぐに起き上がってロボットの腕を確認する。しかしどうやら切り落とすまでは至っていない様だった。
『筋肉。パワー』
その台詞が気に入ったのか。巨大ロボットは同じ台詞を繰り返しながら弥勒たちのいるビルに向かって拳を振り下ろして来る。
「飛び乗るぞ!」
「うん!」
弥勒はもう少しで左腕を切り落とせると考えていた。それは敵が物理攻撃をして来たからだ。ロボット内のエネルギーが充実している状況ならわざわざ拳をビルに振り下ろす必要は無い。ビームを撃った方が早いからだ。
しかし敵はそうしなかった。それは先ほどの攻防でロボット内のエネルギーが少なくなっているからだろう。そこで弥勒は多少のリスクを背負いつつも敵の攻撃に合わせて左腕へ乗る事を提案した。
安全策で言えば拳が振り下される前にビルから離脱するのがベストである。しかしその場合、権能によりロボット内のエネルギーが回復してしまう可能性がある。そうなったらまた一からやり直しである。
二人は上手くロボットの腕へと乗る事に成功する。ビルが崩れて行くがそれを気にしている余裕は二人には無い。
「ここで確実に左腕は落とす!」
『拒絶。死守。命名。肩パルト腕パルト』
弥勒はそう宣言する。するとその言葉に巨大ロボットも反応する。肩から巨大な砲身が出て来る。また同時に先ほどと同じく、腕の至る所からも砲身が出てくる。それが全て同時に発射される。ちなみに巨大ロボットが技名を言っているのは戦っている弥勒たちに感化されたのかもしれない。
「ここはあたしに任せて! セイバーは決めちゃって!」
アオイは弥勒よりも一歩前に出る。左腕を切り落とせるとしたら弥勒しかいないと思っているのだろう。そして韋駄天ライガーに全力で魔力を込めて蹴りを放つ。
「ビリビリシュート!」
アオイの掛け声と共に韋駄天ライガーから電撃の刃が放たれる。それが光線たちとぶつかり合う。しかし敵の圧倒的な攻撃量に比べて彼女の方は一撃である。そのため続けて攻撃をしていく。
「インディゴパンチラーッシュ!」
次に両腕に魔力を纏わせて敵の攻撃を迎撃していく。その間に弥勒は魔力を溜める。そして再び必殺技を解放する。
「灼熱の龍剣!」
大剣より炎の龍が放たれる。それと同時にフォームを切り替える。真紅の破壊者から藤紫の支配者へと姿を変える。
「勝利の箱庭!」
フォームを切り替えての必殺技二連発である。以前の蟲型の大天使戦で使った必殺技の組み合わせと同じである。藤紫の支配者の必殺技は空間を支配するという特性上、他の技と組み合わせてやすいのだ。尤も彼がそれに気付いたのはつい最近であるが。
空間を支配して炎の龍に大量の酸素を送り込む。そうする事で炎の龍は巨大な姿へと成長していく。さらに支配した空間を通して追加で魔力を流し込む。
『危険。耐久ヲ超エル熱量ヲ確認。回避。不可能。残念』
通常の倍以上になった大炎の龍は巨大ロボットの腕へと喰らい付く。アオイと弥勒は危険なため腕から飛び降りる。すると大炎の龍と左腕の衝突により爆発が起きる。その衝撃が周囲へと響く。絶賛、離脱中だった二人もまとめて吹き飛ばされる。
今度は地面に衝突する弥勒とアオイ。しかしすぐに起き上がる。そして巨大ロボットの左腕がどうなったか確認する。するとアオイが真っ先に喜びの声を上げる。
「あ、見て! やったよ! 腕が無くなってる!」
「……ああ。何とかなったな」
巨大ロボットの左腕は完全に消滅していた。そのため天使が後から現れるという事も無い。弥勒は作戦が上手く行った事に安堵する。天使が出現すると厄介なので、彼は最初から左腕を完全に消滅させるつもりでいた。
「一旦、防御チームと合流しよう」
「うん!」
こうして両腕の破壊に成功した弥勒とアオイは防御チームの元へと向かうのだった。




