第二百八十四話 合体ロボ
「(果たしてあんな漢のロマンを破壊してしまって良いものか……)」
移動しながら弥勒はふとそんな事を思った。巨大ロボットと言えば全ての男の子が通る憧れの対象である。それを壊すなどという無粋な真似が許されるのか。そんな事を彼は少し考えてしまった。
今は無型の大天使へと接近を試みている最中だった。屋根から屋根へと飛び移って移動していく。魔法少女たちも一緒である。
弥勒はチラリと下に視線を向ける。いきなり現れた巨大ロボットに街はパニック状態である。クラクションがいくつも鳴り響き、逃げ惑う人たちも多い。
「これは……」
そしてようやく巨大ロボットが細かく観察できる位置までやって来る。すると弥勒は気づく事があった。隣にいる月音も彼と同じ様な表情をしている。そして弥勒よりも先に彼女が口を開く。
「まさしく合体ロボね……」
「どう言う事でしょうか?」
月音の言葉の意味が分からなかったのか、エリスが聞き返す。すると月音は説明を始める。
「あれはいくつもの無型の天使が集まって出来てるのよ。つまり各パーツが天使ってこと」
「えぇ……⁉︎ それだと敵が多過ぎて大変だよ!」
「いえ、むしろチャンスよ。あれが一つの大天使だったらサイズからして私たちの勝ち目は少なかったわ。でもあれは無型の天使の集合体よ」
「つまりワタシたちの攻撃で敵を削れるって訳ね」
月音の解説に納得する魔法少女たち。確かに彼女の言う通り、あのロボットが一体の天使だった場合は勝ち目は薄い。あれ程の個体に魔法少女たちの攻撃が有効とは思えないからだ。
しかし実際は無型の天使がいくつも集まって出来たのが目の前にいる巨大ロボットだ。それならば今まで通り戦って天使たちを撃破していけば良い。そして各パーツを削っていけば巨大ロボットを倒せるだろうという作戦だ。
「それじゃあ無型の大天使はどこいる感じ?」
「普通に考えたら……ロボットの中だろうな……」
「やっぱそーゆー感じかー」
みーこの疑問に弥勒が答える。彼の予想では大天使はロボットの中にいると考えていた。いわゆる心臓部の様な役割を果たしているのだろう。無型の大天使は大きな球体である。そう考える方が自然である。
するとロボットが弥勒たちに向かって腕を伸ばしてくる。その動作はやや緩慢である。このロボットは無型の天使による集合体のため、動きを統率するのに時間が掛かってしまうのかもしれない。しかしそれを考察している時間は今は無かった。
「来るぞ!」
腕に光が集まったのを見て弥勒が叫ぶ。それにより魔法少女たちも防御態勢に入る。まず動いたのはエリスであった。
「カメさん、メランコリーユニゾンです!」
喚び出したカメのぬいぐるみを必殺技により巨大化させる。みるみるうちにカメは巨大化していき10メートル程になる。サイズをMAXまで大きくしないのは力を温存するためと、あまり大き過ぎても邪魔になるからである。
「かぁ〜めぇ〜!」
巨大化したカメが大きな声を上げる。続いて動いたのは麗奈である。
「ガーネットペタルダブル!」
魔法少女と弥勒を覆う様にいつもの花弁シールドを展開する。そしてそれを二重展開する。これはガの天使と戦った時に身につけた技術である。次々と増えるガの天使のあまりのキモさに生まれた技だった。
「凍りなさい」
最後に月音がシールドの内側を氷で補強する。それから弥勒が全員の前に出る。フォームを灰色の騎士へと変えて、いつでもシールドを展開できる様にしておく。
ドドドドドという音がしてロボットの腕から光線が放たれる。それがまずは巨大化させたカメにぶつかる。
「か、かかかかかめ〜!!」
カメのぬいぐるみはある程度、光線を防いだものの最終的には消滅する。それを見て弥勒の後ろにいるエリスは少し悲しそうな顔をしている。
ロボットから放たれた光線は次に麗奈の出した花弁によるシールドにぶつかる。それに彼女が苦しそうな顔を浮かべる。
「ぐぅ……!」
「凍りなさい!」
それを補強する様に月音が氷を更に厚く張る。それにより何とかロボットからの光線を防ぐ事に成功する。
「な、何とか防げたわ……」
「これは防御にも大分、力を割かないと難しいわね」
「なら次はこっちの番だし! ボンバーガトリング!」
みーこはボンバーガンを構えてロボットへと向ける。彼女の背後にはたくさんの銃口の幻影が現れる。そして一斉に魔力の弾丸がロボットへ向けて放たれる。
『不快。敵ヲ認定。魔力ヲ有スル個体ヲ確認』
魔力弾による弾幕攻撃を受けたロボットには傷一つ付いていなかった。そして胸部のパーツ辺りから音声が流れ出す。
「とりゃぁぁぁー! インディゴビリビリキーック!」
その隙にアオイが敵の足元に攻撃を仕掛ける。韋駄天ライガーを装着して魔力を込めた蹴りを放つ。
しかしその攻撃も厚い装甲により弾かれてしまう。それに彼女は驚く。
「うそっ⁉︎ 全然効いてないよ……⁉︎」
『足元。敵発見』
巨大ロボットが足元にいるアオイを認識する。そしてそのまま蹴りを繰り出す。それがアオイに直撃する。彼女は悲鳴を上げながら後方へと吹き飛んでいく。
「ひゃ〜〜⁉︎」
「インディゴ!」
凄まじい勢いで吹き飛んでいくアオイに弥勒が声を上げる。声の感じからしてダメージは少なそうなので、他の魔法少女たちはあまり心配していなかった。
もう少しでビルに激突するというタイミングで、何者かがアオイとビルとの間に割り込んできた。そして彼女を上手くキャッチする事に成功する。
「ギリギリセーフ! そして現場に到着!」
「遅れたっす!」
「はわわ……ち、近くで見ると大きさが桁違いだよぉ……」
アオイをキャッチしたのは魔装少女へと姿を変えた愛花だった。彼女以外にも凛子と小舟もいる。彼女たちも愛女から慌てて駆けつけたのだろう。
「うぅ……ピーチ、助かったんだよ!」
「ギリギリ間に合って良かったです! とりあえず私たちは急いで避難誘導を開始します!」
「うん、よろしく! ただ今回は敵が本当にヤバそうだから危険だと思ったら逃げて良いからね!」
「「「はい!」」」
アオイからのアドバイスに三人が返事をする。そして三人は散らばって避難誘導を始めていく。アオイの方は前戦へと戻る。
「三人には避難誘導に行ってもらったよ!」
「ああ。それで問題ない。すでにアイツが降臨しただけでかなりの被害が出てる。出来るだけ避難はさせた方が良い」
アオイの話に弥勒が頷く。そして彼の言葉に釣られて全員が巨大ロボットの足元へと視線を向ける。そこにはロボットの足によって踏み潰された家が何軒もあった。すでに被害は出ているという事だ。
ただ弥勒としては魔装少女たちの心配もしていた。彼女たちは戦闘能力という点は魔法少女に比べるとかなり劣ってしまっている。もし大天使に目を付けられたら厳しい展開が待っているだろう。
「恐らく権能の影響ね」
そこで唐突に月音が口を開く。彼女の言葉に全員がポカンとなる。しかし彼女はそれに構わず解説を続ける。
「スプルースの弾丸も、インディゴの蹴りもロボットに大したダメージを与えられなかったわ。でもそれはおかしいのよ」
「敵は無型の天使の集合体だからって事でしょうか?」
「ええ。もし敵が天使の集合体なら私たちの攻撃で倒せないのは変だわ。もしそこにカラクリがあるとしたら————」
「権能の影響って事だね!」
月音の推測に全員が納得する。そもそもの作戦では各パーツを撃破していく事で、中にいる大天使を引き摺り出すというものだった。しかし現状は敵の装甲が固すぎてその各個撃破が出来ていない状態である。その原因が大天使の権能にあると彼女は推測した。
「無型の大天使の権能は『完全ナル球体』というもので良いのよね?」
「ああ。そうだ」
月音の確認に弥勒が頷く。今回も大天使の権能については事前に魔法少女たちに話してあった。蟲型の大天使の時と同様だ。
「なら私の仮説を話すわ」
何故、巨大ロボットに攻撃が効かないのか。その仮説について月音は語り始めるのだった。




