第二百八十一話 オムライス
「とっても面白かったですね!」
美術館を巡り終えたエリスは嬉しそうに感想を言う。それに弥勒も頷く。二人は満足した表情で美術館を出る。
「さてと、お昼どうしましょうか?」
「みろーくんが決めて良いですよ?」
外はまだ日差しが強かった。9月の前半という事もあり、暑さはまだ残っている。時刻は午後1時を過ぎたところで、今が一番暑い時間帯だろう。弥勒はとりあえずスマホを開いて、前日に準備しておいた上乃駅周辺の飲食店のページを開く。
「オムライスのお店とかどうですか? 近くにあるみたいなんですけど」
「良いですね! そこにしましょう」
弥勒は数ある飲食店の中からピンポイントでオムライス専門店を選ぶ。エリスは彼の決定に従う。
「何だかボストンの絵を見たら何だかオムライスが食べたくなったんですよね」
「ノスタルジーかもしれないですね。オムライスって何だか懐かしい雰囲気がありますし……」
弥勒は道辺傘鳴の「ボストンの時間」の絵を見て、オムライスが食べたくなった。理由は何となくだったが、エリスの言う通りなのかもしれない。どことなくオムライスという食べ物はノスタルジーを感じさせる。あるいはレトロと言うべきか。どちらにしろ弥勒やエリスにとっても大切な味であるのは間違いない。
「でもこれから行くところは昔ながらのオムライスじゃなくて、お洒落な感じのオムライスって感じですけどね」
「ふふ、そんなものですよ。とりあえず美味しければ問題なしです!」
「ですね!」
二人は歩きながらオムライス専門店へと向かう。弥勒がナビアプリで道を調べながら進んでいく。すると分かりやすい所にお店はあった。ショーウィンドウには十種類ほどのオムライスの食品サンプルが並んでいる。
「わぁ、美味しそうですね!」
「並んで無いみたいですし、すぐに食べられそうですね」
二人はお店の扉を開けて中へと入る。するとカランカランとベルが鳴る。厨房の方から店員が一名やって来る。
「いらっしゃいませ! 二名様でしょうか?」
「はい」
「では、お席へとご案内しますね」
弥勒とエリスは席まで案内される。彼女を奥のソファ側へと座らせて、弥勒は手前の椅子に座る。そしてメニューを開く。
「色々ありますね……迷っちゃいます……」
メニューにはベースとなるオムライスが何種類か存在しており、そこにソースを選ぶ形となっている。またセットとしてドリンクとサラダ、スープはついて来る様だった。夏のため弥勒としてはスープはいらないと思ったが。
「まずはベースのオムライスの種類を選びましょうって書いてありますね」
「どれにしたら良いでしょうか……?」
ベースのオムライスは中のご飯の種類が違う様だった。一番スタンダードなのはケチャップライスだ。それ以外にもバターライス、ガーリックライス、、白米、ピラフなどが選べる。
「ならエリス先輩はスタンダードなケチャップライスでどうですか? 俺は試しにバターライスいってみます」
「そうしましょう!」
「次はソースを選ぶみたいですよ」
ソースはデミグラスソース、トマトソース、ホワイトソース、和風あんかけが選べる様になっていた。
「俺はデミグラスソースかなぁ。エリス先輩はホワイトソースなんてどうですか?」
「とっても美味しそうです!」
「ならそれにしましょう!」
弥勒は店員を呼んで二人分のオムライスを注文する。思ったよりもオムライスの組み合わせが存在していたので、弥勒としてもかなり迷ってしまった。
「この後は公園でぶらぶらって感じですかね」
「そうしましょう! 何か美味しいものとか売ってると嬉しいです」
エリスは今からお昼だと言うのに公園で食べ物を販売している事を期待している。それに弥勒は苦笑する。
「クレープとかは売ってそうですよね。あと可能性があるとしたら夏だしかき氷かな」
「クレープ良いですね! わたくしはどちらかと言ったら中身は甘い方が好きです」
「俺もあんまりおかずタイプのクレープは食べないかもですねー」
クレープの話で盛り上がる二人。しかしまだ公園内にクレープのお店があるとは限らない。そのため無駄な話になる可能性もある。
「エリス先輩って普通の屋台とかで売ってる様なかき氷って食べた事あるんですか?」
「……屋台のものは無いですね」
「やっぱり無いんですね。あれはあれで美味しいですよ。シンプルな感じで」
「それならぜひ一度、食べてみたいです!」
エリスはどうやら屋台のかき氷は食べた事が無い様だった。弥勒たちにとってかき氷といえば屋台のそれである。お祭りや夏の暑い日に近所のお店で買うのが定番だ。何となくエリスにもそれを食べさせてあげたいと弥勒は思った。
「お待たせしました。バターライスにデミグラスソースソースとケチャップライスにホワイトソースになります」
店員が出来上がったオムライスをテーブルの上に置いて去っていく。スープとサラダも一緒である。二人は湯気が出ているオムライスを見つめる。
「思ったよりも出て来るの早かったですね」
「そうですね。卵もふわふわそうで美味しそうです!」
「それじゃあ冷めないうちに食べましょうか。いただきます!」
「いただきます」
二人は思っていたよりも早く出てきたオムライスに驚く。もっと待たされると思っていたのだろう。そして挨拶をしてから食事を開始する。
「うまい!」
「美味しいです!」
二人は同時に声を上げる。そしてお互いに顔を見合わせる。
「こちらはホワイトソースが濃厚でとっても美味しいです。卵も思った通りにふわふわですし」
「俺の方もデミグラスソースがしっかりと味が濃いめで美味しいです。中がバターライスっていうのは初めてですけど、ありですね」
二人で感想を言い合う。弥勒としては家庭で食べているオムライスとはやはり全然違うという印象であった。家庭のものはもっと硬いイメージだ。こちらは卵も含め全体的に柔らかい味である。
「みろーくんのも一口いただいて良いですか?」
「どうぞどうぞ。俺も先輩のを一口貰いますね」
「はい!」
次に恒例のシェアタイムへと入る。エリスは新しいスプーンを使って弥勒のオムライスを少しだけ小皿へと移す。それを見ていた弥勒もそのスプーンを借りて、エリスのものを少しだけ小皿へと移す。
てっきり他の魔法少女たちの様に「あーん」をせがまれると思っていたので、弥勒はホッとする。
エリスは小皿へと移したバターライスとデミグラスソースのオムライスをパクリと食べる。そして顔を綻ばせる。
「わぁ! こっちも美味しいです!」
エリスはこちらの味も気に入った様だった。続いて弥勒もケチャップライスとホワイトソースのオムライスを口へと運ぶ。
「美味い! やっぱりホワイトソースって美味しいですね」
「ホワイトソースは何にかけても美味しいので万能ですね!」
「でもこうなって来ると他の組み合わせも気になりますよね」
弥勒はそう言ってテーブルの端に立ててあったメニューを再び取る。そしてエリスにも見える様に広げてテーブルに置く。
「ガーリックライスに和風あんかけの組み合わせとか想像付かないですね……」
「その組み合わせは美味しいのでしょうか……? 中が白米でしたらどのソースでも美味しそうですよね」
「あ、追加トッピングにチーズなんてのもあるんですね」
弥勒がメニューの端に書いてある追加トッピングのチーズという項目を見つける。プラス百円でどのオムライスにもチーズをかけられる様だった。するとそれにエリスが反応する。
「チーズ! チーズは何にかけても美味しいので万能ですよ!」
「エリス先輩、ホワイトソースの時と全く同じ事言ってますよ」
「どっちも美味しいという事ですね!」
「逆にエリス先輩って嫌いな食べ物ってあるんですか?」
「嫌いな食べ物ですか……? そうですね……好き嫌いはそんなに無いですね……」
エリスは何でも美味しく食べているイメージがあったので、嫌いなものは無いのか弥勒は聞いてみた。しかしやはり彼女は好き嫌いがほとんど無い様だった。
それから二人はオムライスをしっかりと完食してお店を後にするのだった。




