第二百七十二話 必死のアオイ
「うわぁ〜ん! くっついちゃったよ〜!!!!」
深夜の住宅街にアオイの悲鳴が響く。韋駄天ライガーによる蹴りがボンドの姿をした天使へと炸裂した。そこまでは良かったものの、天使の中から出てきたボンドにより、アオイは身動きが取れなくなってしまった。
つまりボンドの姿をした天使はまだ倒しきれていないという事だ。もしきちんと倒し切れていれば天使は消滅して彼女は自由に動けるはずである。
蟲型の大天使の一体であるヘラクレスオオカブトはこの技を喰らって一回死んでいる。それなのに通常の天使であるボンドの天使がそれに耐えられたのは中身に理由があった。ボンドは乾いた状態では電気を通さない。そして固まっていない状態でも電気を通し辛い。
一方でヘラクレスオオカブトの方はどちらかと言うと人体に近い構造をしていた。そのため電撃が全身に広がったのだ。それが彼女の攻撃をボンドの天使が耐えられた理由である。
「cooo!」
それを隙と見たのか、ハサミの天使が斬撃を飛ばして来る。ピンチに陥っているアオイを見てエリスが行動に出る。
「行って下さい、亀さん!」
「かめー」
新たに亀の召喚獣を喚び出す。そして身動きの取れないアオイの元へと送り込もうとする。甲羅をシールド代わりにしようという考えだろう。しかし召喚された亀の動きは非常に鈍かった。それを見てエリスが大きな声を出す。
「ああ……⁉︎ 亀さんじゃ攻撃に追いつけません!」
ノロノロとマイペースに進む亀。このスピードでは間違いなく斬撃がアオイに着弾するまでに間に合わないだろう。
「くっ、この……!」
「cooocoo……!」
一方でアオイとボンドの天使はお互いを盾にして斬撃を防ごうと格闘している。純粋なパワーでは彼女の方が上だが、片脚を上げた状態では互角といった所だ。
「きゃあ……⁉︎」「cooo……⁉︎」
結果として斬撃は綺麗に天使とアオイの両方に着弾した。一人と一体は悲鳴を上げながらその衝撃で吹き飛ばされる。
「インディゴさん⁉︎」
エリスが慌てて駆け寄ろうとするものの、そこに邪魔が入る。それは今まで動きの無かった四体目の天使であるコンパスの天使だった。コンパスの天使は身体に付いている鉛筆の様な部分を凄まじいスピードで飛ばしてきた。
「はわわっ……!」
猛スピードでエリスへと向かって来たその攻撃を彼女はギリギリで回避する。それを見ていたフクロウたちがコンパスの天使へ向けて羽を飛ばして牽制を行う。
「うぅ……いたた……」
地面に転がっていたアオイが上半身を起こす。それなりの衝撃はあったみたいだが、大きなダメージにはなっていない様だった。ちなみに残念ながら、まだボンドの天使とはくっついたままである。
「インディゴパンチパンチパンチ!!」
「coooocooo……!」
自由に身動きが取れずにストレスが溜まっていたアオイは同じ様に地面に転がっているボンドの天使をタコ殴りにする。
「co!!」
「あぶな⁉︎」
すると今度はボンドの天使が反撃に出る。アオイの顔に向かってボンドを発射する。超至近距離のため彼女はそれを慌てて首を逸らして避ける。しかしボンドの攻撃はそれで終わらない。アオイへ向かって粘着攻撃を連打してくる。
「のわぁぁ〜⁉︎」
アオイは器用に身体を動かしながらボンドを回避していく。ただ自由が制限されているせいかクネクネと気持ち悪い動きをしている。ついでに顔もかなり必死である。乙女にあるまじき表情である。
「このぉ……! いい加減にしろぉっ!」
回避に疲れて来たアオイは思いっ切り脚を持ち上げて、上半身を地面へと付ける。そして後方へ回転して脚を地面へと叩きつける。すると足にくっ付いているボンドの天使も勢いよく地面へと叩きつけられる。
「cooooo……⁉︎」
するとボンドの天使は自らの中身を地面へとぶち撒ける。消滅こそしていないが、かなり弱っていると見て良いだろう。
「ん? 足が動きそう!」
ボンドの天使の中身が減ったからだろうか。天使の胴体に喰い込んでいた足先が動かせそうな事にアオイは気付く。
「インディゴビリビリキック!」
「cocococo……⁉︎」
ボンドの天使にトドメを刺すなら今しかないとアオイは再び電撃技を繰り出す。すると先ほどとは違い電撃が通ったような手応えがあった。それからボンドの天使は悲鳴を上げて消滅する。
「完全ふっかーつ!」
「かめー」
ボンドの天使を倒して自由の身となったアオイが元気よく立ち上がる。両手を上に挙げて嬉しそうにしている。それにようやく彼女の元まで辿り着いた亀が反応している。
「わぁ、良かったです!」
コンパスの天使と戦っていたエリスもアオイの復活に喜ぶ。これで残る天使は三体となった。分度器、ハサミ、コンパスの三体である。
「よしっ、ここから畳み掛けよう!」
「はい! ハサミの天使はわたくしにお任せ下さい。ダークレッドくまさん!」
エリスがそう宣言するとテディベアに変化が現れる。今まではくろつえによりパワーが強化され、色が赤くなっていた。その色がやや黒っぽくなり、背中からコウモリのような翼が生える。
「デビクマッ!」
エリスが行ったのはカラー強化と悪魔化の掛け合わせである。これは以前、弥勒にクラウディフォームについて尋ねた時にアドバイスされた事だ。彼女の持っている強化パターンを掛け合わせる事は出来るのかと。
弥勒からそう言われて以降、彼女は実践で何回か試しにこの強化パターンの組み合わせを試していた。そして今回、初めてそれに成功したのだ。
「や、やりましたっ! 成功です!」
「デビクマデビクマッ!」
エリスは初成功に喜ぶ。するとそれに応えるようにテディベアが勢いよく前へ飛び出す。そして近くにいたハサミの天使へと掴み掛かる。
「デビクマッ!!」
「cooo……⁉︎」
そしてハサミの天使を膝を使って二つにへし折った。バラされてしまったハサミの天使はあっけなく消滅していく。
「あたしもそれに続くよー!」
その光景を見ていたアオイは自らに気合いを入れて飛び出す。ターゲットは分度器の天使である。彼女は拳に魔力を込める。
「coo!」
するとそれに負けじと分度器の天使がシールドを出現させる。今までよりも輝きが強いので、強度が上がっているのだろう。それを見てもアオイは表情を変えない。
「メランコリータイガー!」
繰り出したのは彼女の必殺技。拳に宿る青い虎がシールドへと激突する。そしてシールドを一瞬で破壊する。勢いそのままに分度器の天使へと魔力の嵐が襲い掛かる。
「cooo……⁉︎」
最大の防御をあっけなく破られた分度器の天使はなす術なく青い虎に呑み込まれ消滅する。これで残る天使はコンパスの天使のみとなった。
「coo!」
残ったコンパスの天使はその場で円を描く。するとそこから周囲に衝撃波が広がる。アオイとエリスはそれをジャンプしてかわす。新しいパターンの攻撃ではあるが今さらである。
「フクロウさん!」
エリスの声に応えて三体のフクロウがコンパスの天使へ向けて大量の羽を放つ。それをコンパスの天使は回避していく。しかしそれはエリスによって誘導された逃げ道であった。
「デビクマ〜!」
こっそりと敵の背後へと忍び寄っていたテディベア。嬉しそうな声を上げて、天使の胴体をガチッと掴む。そして先ほどと同じ様に膝を使って天使をへし折った。
「cooo……」
「かめー!」
そして最後の天使が消滅する。何故か近くにいた亀が勝利の雄叫びを上げている。テディベアは勝ち鬨をあげるタイミングを亀によって奪われて情け無い表情をしている。
「ふー、終わったぁ……今回はなかなかに強敵だったんだよ」
無事に天使を倒したアオイは安堵の声を上げる。強敵と彼女は言っているが、実際は半ば自滅していた様な感じである。もっともそれにツッコミを入れる人間はこの場にはいない。
「インディゴさん、お疲れ様でした」
「お疲れ様! 今日はもう遅いし帰ろう!」
「そうですね。わたくしも眠いです」
アオイとエリスは深夜に出て来たこともあって、このまますぐに帰宅するのだった。




