第二十七話 相対
「やっほー! また会ったね、みろくっち」
そう言って笑っているみーこ。
「お前、何して……」
動揺してうまく言葉が出てこない弥勒。それに対してみーこはこちらに笑顔を向けている。
「色々聞きたいことがあるとは思うけど、今はこいつらを倒す方が先っしょ?」
みーこからの提案に頷く弥勒。話を聞くにしても天使たちをそのまま放置しておく訳にはいかないだろう。
「ああ、そうだな」
弥勒はリボルバーを天使たちに向ける。メリースプルースの攻撃によりダメージを負った天使たちは動きが先ほどよりも鈍っているように感じる。
「「Riiii!」」
そのうち二体が音波攻撃を放ってくる。弥勒はそれを上に跳んでかわす。そのまま天使に向かって魔力の弾丸を撃つ。天使は攻撃直後の隙を狙われたために避けることも出来ずに弾丸が直撃する。
「「Rii……」」
先ほどのメリースプルースによる不意打ちと今の攻撃によりダメージが許容量を超えたのか天使二体はあっさりと消滅する。
「スプルーススター!」
その近くで別の天使を相手にしているメリースプルースは自らの周りに大量の星型の刃を生み出している。それを天使たちへと飛ばして攻撃している。
天使たちはそれらの攻撃を建物の中に透過して入っていくことでかわしている。霊型の天使は物体を透過できるのも大きな特徴だ。ただし強い魔力を含むものを通り抜けることは出来ない。
建物の中からそっとメリースプルースに近づいた天使は彼女の足元から出現する。手が彼女の足首を捕えようとする。それに対してメリースプルースは閉じていた手のひらを開く。そこには小さなスターが入っていた。
「じゃーん! さぷらーいず!」
そのままスターを落として現れた天使にぶつける。
「Rii⁉」
スターが直撃した天使は悲鳴を上げる。その隙にメリースプルースは天使の頭を蹴り飛ばす。魔力の込められた蹴りで天使は前方に吹き飛ばされる。
「はい、おつ~」
再び出現させたスターにより天使が消滅する。これで残りの天使は二体となる。弥勒とメリースプルースはお互いに最後の攻撃を放つ。
「ショット!」
「スプルース大スター!」
弥勒は三発分の魔力弾で、メリースプルースは大きいスターで天使にとどめをさす。こうして六体いた天使たちはあっという間に殲滅された。
「よし、これでようやく話が聞け―――!」
弥勒がメリースプルースの方に身体を向けようとした瞬間、スターが飛来してくる。弥勒はそれを跳んでかわす。とっさにリボルバーを彼女の方に向けて新しい足場に着地する。
「どういうつもりだ⁉」
弥勒はメリースプルースに真意を問う。しかし彼女はそれに答えない。その視線は冷たく弥勒を捉えている。
「スプルースノート」
すると彼女の周りを回るように8部音符の形をした魔力が飛び交う。メリースプルースはまるで指揮者のように腕を振るって音符を操る。
いくつかの音符が弥勒の方へと飛んでくる。弥勒はそれを弾丸で打ち落とす。しかしその間に音符は両サイドにも配置されている。正面の攻撃をしのいだのも束の間、両サイドの音符マークが弥勒に殺到する。
「くそっ」
左から来る音符に一発、右から来る音符に二発、弾丸を撃ちこむ。それにより直撃するタイミングをずらす。弥勒は飛来する音符の隙間を縫うように前へと進んでいく。
「仕方ない」
弥勒は彼女の足元目掛けて弾を放つ。直撃はしないように配慮している。
「甘いよ」
メリースプルースは差し出している右手の指をくいっと内側へと折る。すると先ほど弥勒が避けた音符が向きを変え背後から再び襲ってくる。
「っ!」
弥勒は背後からの気配を感じ取りとっさに前転しながら空中へと逃れる。メリースプルースは音符を意のままに操れるようだった。避けるだけでは追撃され放題となってしまうため音符を破壊する必要がある。そう考えた弥勒はカラーシフトをする。
「灰色の騎士」
姿を変え、左手に持っている剣で下を通り過ぎようとする音符を切り裂く。
「スプルーススター!」
彼女は弥勒が着地のタイミングを狙って星形の刃を放ってくる。この攻撃は音符と違って操れないようだが殺傷力は高くなっている。
「甘い」
弥勒はあえて前へ出てスターを切り裂きながらメリースプルースに接近する。スターが放たれた直後は速度が乗っていないため飛来するのを待つよりも処理しやすくなる。そこを狙って弥勒は斬り込んだのだ。
「っ……⁉」
「それで次はどうするつもりだ?」
メリースプルースの首元に剣を当てながら静かに問う弥勒。その瞳は先ほどまでと違い冷たいものとなっている。
「どうもしないよ。だってアタシは《《弥勒君》》に会いに来ただけだし」
「俺に会いに来た……? だったら何で攻撃したんだよ」
「気付いてないんだ……。ねぇ、君は誰?」
みーこは少しだけ悲しそうな表情をする。その顔に何故か不安を覚える弥勒。
「誰って夜島弥勒に決まってるだろ」
一瞬、転生した時のことを思い出してドキリとする弥勒。正確に言えば彼は夜島弥勒ではないのかもしれない。何故なら本来の夜島弥勒は『やみやみマジカル★ガールズ』の主人公だからだ。
「うん、そうね。今の君はアタシの知ってる夜島弥勒君」
「アタシの知ってる……? みーこ、お前は一体誰なんだ?」
「森下緑子」
その名前を聞いてハッとする弥勒。
森下緑子―――。
それは三人目の魔法少女の名前だ。原作では二次元同好会に所属しており、成績は優秀だがコミュニケーションは苦手でアニメやゲームが大好きな少女。目が隠れるほど伸びた前髪にぼさぼさの黒髪、身長は高いが猫背のためあまり目立ちはしない。
それが弥勒の知っている森下緑子という存在。しかし今目の前にいるみーこという少女はそれとは似ても似つかない。髪型はイエローベージュのポニーテール。化粧は派手でどう見てもギャルだ。
弥勒が女性慣れしていれば彼女が森下緑子だと気付けたかもしれない。そう思うのは酷な話だろう。垢ぬけた女性の垢ぬける前の姿を前世のゲームでしか知らないのだ。ただでさえ女性は化粧などでイメージが大きく変わる。変化前をろくに知らないのに変化後だけで見破れというというのは無理がある。
「森下、緑子……」
「弥勒君にはこう言った方が良いかも。三宅緑子って」
その名前を聞いて朧気ながら弥勒の記憶が呼び起こされる。
「三宅……小学生の時の……?」
「おっ、アタシのこと覚えててくれたんだ!」
みーこは嬉しそうに笑う。弥勒はそれを見て剣を下ろす。三宅という名前には聞き覚えがあった。
それは弥勒が小学生だった時のクラスメイトの名前だ。低学年の時に仲が良かったが途中で引っ越してしまった。それ以降は特に会ったりはしていない短い期間の付き合いだった友人。
弥勒の覚えている三宅は物静な少女だった。いつもクラスの端で本を読んでいて友達はほとんどいない。当時の弥勒は前世の記憶もあり同じ年の小学生とはしゃぐのを恥ずかしく感じていた。そのため休み時間はヒマしており、時間つぶしのため話しかけたのがきっかけで仲良くなったのだ。
「つーかお前、緑子って名前だったのか」
「うっそ、知らなかったの⁉ めっちゃショック……。それなのにみーことか名乗って気付いて貰おうとしてた自分がバカみたいじゃん!」
うがぁぁぁ、と悲鳴を上げながら頭を抱えながら凹むみーこ。弥勒はそれに思わず同乗してしまう。
「みーけとかなら気付けたかも……?」
「だまれし。というかもうアタシ、三宅じゃなくて森下だし」
弥勒はフォローに失敗した。みーこから冷たい視線を向けられる。先ほどまでの殺伐とした空気はすでに無くなっている。
「それにお前、俺の事を『みろくっち』とか『弥勒君』とか呼んでなかったろ。普通に『夜島くん』だったはず」
「そ、それはいいんだし! 心の中ではずっと『弥勒君』だったし。どうせ弥勒君もアタシのことを心の中で『みーこたん』って呼んでたっしょ?」
「呼んでねぇよ!」
みーこの発言にツッコミを入れる弥勒。ぐだぐだになりつつあるが、弥勒としてはまだ解決していないことも多いため再び話を戻そうとするのであった。




