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ヤンデレ魔法少女を回避せよ!  作者: 広瀬小鉄
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第二百六十八話 みーことお弁当


 みーこの家から抜け出した翌日。弥勒は午前中の授業を真面目に受けていた。そしてお昼休みに入る。彼は席を立ち上がり、待ち合わせ場所の屋上へと向かう。


「ジー……」


 背後から突き刺さる麗奈の視線は気になったものの、スルーしておく事にした。すると弥勒のすぐ後からみーこが追ってきた。教室を出るタイミングがほとんど同じだったのだろう。彼女は嬉しそうに小走りで弥勒へと近づいて来る。


「やほー、ランチタイムだし!」


 彼女の手にはお弁当箱が二つぶら下がっている。片方がみーこので、もう片方は弥勒のだろう。


「おっす」


「ていうか、みろくっち昨日逃げたでしょ⁉︎」


 挨拶もほどほどに昨日の件を蒸し返して来たみーこ。余程、お泊まりチャンスを逃した事が残念だったのだろう。


「いやー、親子の戯れを邪魔しちゃ悪いかなーと思って」


「絶対ウソだし。せっかくお風呂一緒に入るっていう妥協点が見つかったのに、気付いたらいないし……」


「妥協点の意味」


 どうやら昨日の口論の結論は一緒の部屋で寝るのはダメだけど、一緒のお風呂はオッケーというものだったらしい。それを聞いて弥勒は余計に残らなくて良かったと安堵する。


 そんな弥勒の態度にみーこは不満そうな表情をしながらもポケットから屋上の鍵を取り出して扉を開ける。


「うっわ、あつ!」


「確かに暑いな……」


 まだ9月の頭という事もあり、屋上はかなりの暑さだった。それに二人は顔を顰める。屋上には日光を遮るものが何も無いため、余計に暑く感じるのだろう。


「うーん、この暑さまでは想定してなかったな〜」


 みーことしても弥勒のお弁当を作って来るのに集中し過ぎて、それ以外の事にまで気が回らなかったのだろう。彼女はレジャーシートを持ったまま固まる。それを見て弥勒が行動を起こす。


「これ使うか……」


 弥勒はアイテムボックスからマジックアイテムを取り出す。それは石油ストーブの様なデザインをしていた。突然、出て来た謎の物体にみーこが驚く。


「何それ⁉︎」


「送風機みたいなもん」


 みーこの質問に答えてから弥勒はマジックアイテムに魔力を込める。するとヴヴヴンという音がしてマジックアイテムが起動する。そして中央にある窪みから風が出て来る。


 これは異世界で弥勒が手に入れたマジックアイテムの一つである。機能は魔力を込める事で風が出るというシンプルなものだ。本来はギルドの解体場や、商会の倉庫などに置かれているものである。稀に冒険者が買ったりする事はあるものの、冷風や温風が出る訳でも無いので家に置いておいても使い道は少ない。


 弥勒はアイテムボックスを持っていたため、何となく買っていたのだ。また異世界に居た時はダンジョン素材の売却で儲けていたので、散財も多かった。彼のアイテムボックスの中にはこういった微妙なものもかなり眠っている。アイテムボックスは何でも入るため、ついつい入れ過ぎてしまうのだろう。


「おっ、風が出て来た……でもめっちゃ生温いし……」


「それでこうすれば良いんだよ。アイス」


 このマジックアイテムは風を起こすだけしか出来ないため、その風を浴びたみーこががっかりする。しかし弥勒はにやりと笑ってから魔法を使う。すると氷の塊が送風機の前へと出現する。


「お、冷たい!」


「だろ」


 送風機から出される風が氷にぶつかる事で冷たい風が弥勒たちの方へと流れてる来る様になった。それにみーこは喜ぶ。弥勒は珍しくドヤ顔をしている。


「というか、さらりとまた謎のアイテムを出してるけど……アタシは突っ込まないし!」


 この星には存在しないであろうマジックアイテムにみーこはツッコミを拒否する。この辺りは聞いても弥勒が答えない事は分かっているので、魔法少女全体として流し傾向にある。みーこはレジャーシートを送風機と氷の前に敷いて座る。


「という訳でコレがみろくっちのお弁当ね!」


「ありがとう」


 みーこから渡されたお弁当を弥勒を受け取る。すると自分が受け取った方が、彼女が持っているものよりも一回りほど大きい事に気付く。


「あれ、俺の方が大きいんだな」


「そうそう。家にあった余りのお弁当箱で作ってるからね。サイズが違うのよ」


「なるほど」


 弥勒はこの説明に納得したが、事実はそうでは無い。よく見るとお弁当箱のデザインは似通っており、カラーはみーこの方がピンクっぽい色で、弥勒のものが水色となっている。完全にお揃いのお弁当箱である。


 実はこのお弁当箱はみーこが入学前に弥勒と一緒にお弁当を食べるために買ったものだった。彼女の中では高校に入学したタイミングで再会するのは確定事項だったので、そうなってから慌てない様にと事前に買っておいたのだ。


 弥勒がペアのお弁当箱だと気付かなかったのは、以前からみーこの方がこのお弁当箱を使っていたからかもしれない。同じタイミングでお披露目だったら流石の弥勒でも気付いていただろう。


 みーことしてはようやく買っておいたお弁当箱が日の目を見た事で喜んでいる。しかしそんな事には全く気付いていない弥勒は呑気にお弁当箱を開けている。


「おぉー!」


「どう?」


 お弁当箱の中には唐揚げに卵焼き、ナポリタン、春巻き、ブロッコリーが入っていた。そしてご飯の半分には海苔とおかかが乗っており、もう半分にはシャケフレークが乗っていた。ちなみに海苔は食べやすいように一口サイズに切ってあるものが乗っている。


「めっちゃ美味そう! というか朝から唐揚げって大変だったんじゃないか?」


「ん〜、せっかくの一発目のお弁当だし豪華にしてみた!」


 昨日の晩御飯をみーこの家で食べている弥勒は、唐揚げが前日の残り物でない事は知っている。なので朝から唐揚げを作ったとしたら大変な作業だったのではないかと彼は思ったのだ。


「一発目?」


 みーこの言葉に引っ掛かりを覚えた弥勒が尋ねる。するとみーこが嬉しそうに頷く。


「そ。明日からはもう少し普通になる予定だから」


「あ、明日……?」


 ここに来て、ようやくお互いの認識の違いについて気付く弥勒。みーこの方は嬉しそうにしていて彼の戸惑いには気付いていない。


「なに〜? まだ今日のも食べてないのに明日の期待しちゃってる感じ〜?」


「あ、あはは……、バレたか……」


 ここで今さらお弁当はいりませんとも言えない弥勒は苦笑しながら話を合わせる。そして現実逃避するためにお弁当を食べ始める。


「「いただきます」」


 お弁当箱に入っていた箸を使ってまずは卵焼きを食べてみる。すると程良い甘さで食べやすかった。


「美味い!」


「ほんと?」


「ああ」


 弥勒はそれからご飯を食べる。それを見てみーこがニコニコしている。彼が美味しそうに食べているのが、余程嬉しいのだろう。


「唐揚げも美味い」


「ふふ、そんなに褒められると照れるし」


 一通り褒められたみーこは満足した様で、ようやく、自分のお弁当を食べ始める。彼女のお弁当も中身は弥勒とほぼ一緒である。ただしご飯の方は海苔とおかかのみである。しかも海苔は弥勒が食べているものの様に一口サイズにカットされてはいない。大きな一枚が乗っているだけだ。


「うん、味は問題なし!」


 自分のお弁当を食べたみーこは味についてそう評価する。やはり初回のお弁当だけあって味にそれになりの自信はあったのだろう。


 そして弥勒はお弁当をあっという間に食べ終わる。家での食事と違っておかわりは出来ないため、食べるのに時間は掛からなかった。彼が食べたお弁当箱には米粒一つ残っていない。


「ごちそうさま。あ〜、美味しかった」


「お粗末でした。それじゃあお弁当は回収しちゃうね」


「洗って返さなくて良いのか?」


「明日も作るんだからアタシが持って帰って洗った方が早いし」


「ありがとうな。でも無理して毎日作らなくても大丈夫だからな?」


 お弁当箱を洗うという流れからお弁当を毎日作らなくても良いという話に持っていく事に成功した弥勒。しかし彼がそう言った瞬間、みーこの表情が抜け落ちる。


「は? それってアタシのお弁当が嫌ってわけ?」


「い、いや……そうじゃないって。俺は嬉しいけど、みーこが大変なら大丈夫だよって話……」


「あ、そゆこと。それならだいじょーぶ! むしろ毎日作らない方が大変だし!」


 みーこの表情を見て日和った弥勒はすぐさま話の流れを修正する。そして結果としてみーこから毎日お弁当を作ってもらう事が正式に決定するのだった。

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