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ヤンデレ魔法少女を回避せよ!  作者: 広瀬小鉄
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第二十六話 音波


 無型の天使たちを倒した後、その場で解散した三人。もちろんお互いに変身解除するところは見せないようにしている。


「うーん、アオイの機嫌が直ればもう少しあたりが柔らかくなったりすんのかな」


 疑いの視線をメリーインディゴからずっと向けられていた弥勒は朝の一件を考える。あの件で不機嫌になっていたから、よりネガティブな視点になっていたのではないかと。


 ならば彼女と仲直りすれば機嫌が直り、セイバーへのあたりも少しマシになるかもしれない。あくまでこれは弥勒の推測ではあるが。


「とりあえず明日、もう一度話し合うしかないか」


 一日経てばアオイも頭を冷やしている事だろう。放置しすぎても気まずくなってしまうので、明日の朝練のタイミングで謝るのが一番良いだろう。


 そう結論付けて弥勒は帰り道を進む。二人と別れる際に、正体を誤魔化す意味合いも兼ねて駅ではない方向に去ったのだ。そのため弥勒は大町田駅と最寄りの鴇川駅の間まで来ていた。


 ここまで来たらわざわざ電車に乗るほどの距離ではないので歩いて帰ることにした弥勒。普段からランニングで鍛えている弥勒にとって一駅分なら大した距離ではない。


「ん?」


 いつもならあまり通らない道を歩いていると、ふと違和感を覚えた弥勒。周りを見渡すが何も不自然なことはない。ただの住宅街が広がっているだけだ。


 しかしその時だった。足元から透明な手の様なものが生えてくる。


「なっ⁉︎」


 弥勒は慌ててその場から飛び退く。履いていた靴の一部が蒸発したかのように溶けている。


「靴が溶けてる……」


 敵の襲撃まで直前まで気付かなかったこと。一瞬触れただけにも関わらず靴を溶かしてしまう攻撃。その二つに弥勒は久しぶりに焦燥感を覚えた。


 さっきまで弥勒がいた地面からにゅっと出てきたのは幽霊のような存在。人の影のような姿をしており、その身体は透けている。背中には小さい翼と頭には光輪がある。霊型の天使である。


「Riiii」


 霊型の天使が静かに声を発する。すると周囲の塀や地面から同じ姿をした天使たちが出現する。その数は合計で六体となった。


「(霊型の天使は気配が感じ取れないのか……)」


 戦闘直後ということもあり魔力探知を行っていなかった弥勒。一日に二度の天使が出ると思っていなかったというのもある。


「セイバーチェンジ」


 弥勒はすぐさま変身する。その姿は「新緑の狙撃手」だ。ゴースト系統の敵に直接攻撃はあまり効果がない。「灰色の騎士」で使っている剣には魔力を流しているため攻撃自体は有効なのだが、効くのは纏っている魔力部分の攻撃のみで剣での物理ダメージはゼロになってしまう。


 そのため最初から魔力主体の攻撃を使用する「新緑の狙撃手」となった方が戦いやすいのだ。弥勒は出現したリボルバーに魔力を込める。シリンダーが輝き弾倉に魔力がチャージされる。


「ふっ」


 後方へと下がりながら魔力弾をリボルバーから二発分放つ。その際に周囲の建物に攻撃が被弾しないように気を付ける。幸いなことに周囲に人はいないためそちらは気にしなくてよい。


「(変身さえすればそうそうあの蒸発攻撃も喰らわないだろう)」


 先ほどの靴を蒸発させた攻撃は霊型の天使が持つ基本攻撃であらゆるものを強制的に浄化させる力だ。強力な攻撃だが天使が相手に直接触れないと発動できないため不意打ちにさえ気を付けていたら問題はない。霊型の天使はフワフワと浮いているため動きは遅いのだ。


 二発の弾丸が霊型の天使たちへと向かうがひらりと避けられる。実体がないためか速くはないがその動きは軽やかだ。魔力弾を避けた後、天使たちは一か所に固まって口を開けた。


「「「「「「Riiiiiiiiiiiiiiii!!!」」」」」」


「うおっ⁉」


 口から超音波のようなものが発せられ弥勒は思わず耳をふさぐ。光を帯びた音波攻撃が周囲へとまき散らされる。地面や塀の一部がそれにより破壊される。


「うるさっ」


 弥勒はたまらずさらに後ろへと下がる。霊型の天使たちは厄介な能力持ちが多いが、この天使たちは音を武器にしているようだ。天使の聖歌隊といえば聞こえは良いが、やっていることはただの破壊行為だ。


 弥勒は飛び上がり、近くの家の屋根に乗る。それを追うように天使たちも浮いてくる。そこを狙って魔力弾を放つ。


「そら」


「「「Riii!」」」


 しかし天使の歌声にその攻撃はかき消される。それを見て弥勒は考える。今、天使たちは弾倉一発分の魔力弾を三体の歌声で打ち消した。つまり弾倉三発分の魔力弾で攻撃すれば六体しかいない天使は弥勒の攻撃を防ぎきれないということだ。


 リボルバーに魔力をチャージしようとした瞬間に天使から音波攻撃が飛んでくる。それを跳んで避ける。弥勒が動いている隙に天使たちたちが半円状に広がる。


「「「Riiiii」」」「「「Riiiiii」」」


 それぞれの位置から音波を出してくる天使たち。円のように広がる音同士が共振して増幅する。それは周囲の屋根を破壊しながら弥勒へと迫る。


「カラーシフト!」


 弥勒はすぐさま灰色の騎士へと姿を変えてシールドを展開する。それと同時に乗っている屋根を蹴り飛ばし建材を剥がして同じように盾にする。


「ここの家の人、すまん!」


 弥勒は家の持ち主に謝罪をしながらやってくる攻撃に備える。音波攻撃はまず弥勒が剥がした屋根へとぶつかる。しかし屋根だけでは大きな音波を防ぐのは難しい。屋根の建材はスレートと呼ばれるものでセメントに繊維質の材料を混ぜ込んだものだ。故にそこまで厚くはなく防音性もない。


 しかし一定の盾にはなる。建材を破壊した音波は少し威力を弱めてから弥勒の展開しているシールドへと到達する。弥勒は攻撃がぶつかる瞬間に魔力を大きく放出し音波に対抗するようにシールドを強化する。


「ぐぅっ……!」


 それでもシールドを通り抜けてくる振動に弥勒はじっと耐える。「叛逆の獅子」を使わなかったのは音波攻撃に対して有効か不明だったからだ。攻撃範囲が広いため万が一撥ね返せなかったら大きなダメージを喰らってしまう。


 弥勒にとってはこちらの世界に戻ってきてから初めてのまともなダメージということになるだろう。久しぶりのダメージに少し笑ってしまう弥勒。


「あっちではこの程度、日常茶飯事だったな」


 異世界でダンジョンに潜っている時には、敵からのダメージを喰らうなんてことはよくあることだった。パーティーで挑むのが基本のダンジョンにソロで挑んでいたのだ。怪我をするのは当然のことだろう。


 音波攻撃をなんとか耐えた弥勒は姿を再び新緑の狙撃手へと戻す。そしてすぐさま場所を移動する。このまま同じ場所にいては再び音波攻撃が来る可能性があるからだ。


 先ほどの考察を活かすように弥勒が三発分の魔力弾を打とうとチャージを始める。その間に天使たちはこちらへと向かってくる。お互いが一定の距離を保っており、それは隊列のようだった。


 弥勒は素早くチャージを済ませて魔力弾を放とうとした瞬間だった。天使たちの背後から星のようなものが飛来してきてそのまま直撃した。


「は……?」


 弥勒はそのことに驚き、リボルバーを構えた状態のまま固まってしまう。込めていた魔力は霧散する。攻撃が直撃した天使のうち一体は当たり所が悪かったのかそのまま消滅した。


 呆然としている弥勒のすぐ近くにひらりと影が舞い落ちる。自然と視線がそちらに吸い寄せられてしまう。


「ひとかけらの優しさは平和の礎! メリースプルース!」


 そこに現れたのは三人目の魔法少女。緑と黒の衣装に身を包み、横ピースのポーズをしている。髪型は緑色でハーフアップになっておりまとめられた髪はウェーブしている。派手目の化粧と高い身長が魅力的となっている。


「メリースプルース……」


 弥勒はその名前を知っている。三人目の魔法少女の名前だ。しかしその姿は弥勒の知っているものとは違う。三人目の魔法少女は二次元同好会に所属している生粋のヲタク少女だったはずである。


「みーこ……?」


 見覚えのない魔法少女から知り合いの姿がちらつく。


「やっほー! また会ったね、みろくっち」


 みーこ、もといメリースプルースはそう言ってにっこりと笑った。

 



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