第二百五十四話 久々のヒコ
「暇だなー」
弥勒は家でゆっくりと寛いでいた。今日はバイトが休みの日だった。そのため午前中は勉強を行っていた。もう宿題は終わっているため、簡単な復習、予習である。そして午後は珍しく何の予定も無くフリーとなっている。
とりあえず暇つぶしのゲームを始める。最近までやっていたソシャゲは彼の中でブームが去った様で、今は数年前に発売されたアクションゲームで遊んでいる。中学時代に買って途中で放棄していたゲームである。
「うお、あぶね」
反射神経全開でやると歯応えが無くなるため、だらだらとプレイしている。そのため久しぶりにやるアクションゲームであったが、弥勒はあまり楽しめていなかった。
トントン
窓側からノック音がしたので、弥勒はそちらに視線を向ける。するとそこにはヒコがいた。弥勒はゲームを途中で止めて、窓を開けに行く。するとすぐにヒコが部屋の中へと入ってくる。
「遊びに来たでやんす!」
「おぉー、何かヒコが俺の部屋に来るの久しぶりな気がするわ」
「そうでやんすか?」
ヒコはそう言いながら弥勒のベッドへダイブする。そしてゴロゴロと転がって遊ぶ。妖精のため毛が抜け落ちたり、匂い、汚れが付いたりする事は無いため弥勒はそれを放置する。座ってそのままゲームのコントローラーを握り直す。
ついでに弥勒はアイテムボックスからお菓子と飲み物を取り出してテーブルに置いておく。するとヒコがガバッと起き上がってお菓子を見る。
「ありがとうでやんす!」
「ああ」
ヒコはベッドから離れてお菓子の前へとやって来る。そして器用にパッケージを開封してお菓子を食べ始める。ヒコがお菓子に齧り付くというのは、弥勒や魔法少女たちにとって一番見慣れた光景である。
「そういえば残る大天使は一体でやんすねー」
お菓子を食べながら、ヒコがそう呟く。それに弥勒もゲームをしながら反応する。
「だなー、そいつが倒せればようやく平和が戻るって訳だ」
「平和になったら、あっしは世界を平和に導いたカリスマ妖精としてバズるでやんすね!」
「いやお前は一般人には見えないだろ」
「そうだったでやんす……! 世の中は世知辛いでやんすね……」
ヒコは自分がスターダムにのし上がる事を夢見ていた様だった。それが打ち砕かれてガッカリしている。そもそも弥勒としてはカリスマ妖精というのが意味不明だったのだが深くは突っ込まなかった。
「そういえば俺の新しい武器って完成したのか?」
ヒコは少し前に魔法少女たちに新武器を提供していた。それを作る際に弥勒の武器も一緒にお願いしていたのだ。それを思い出した彼はヒコに進捗具合を尋ねる。するとヒコはお菓子を食べるのをやめて、彼の方を見つめる。
「それ自体はもう完成してるでやんすよ?」
「は? なら何でくれないんだよ?」
「まだ完全じゃ無いでやんすよ。起動には魔法少女たちのエネルギーを注入する必要があるでやんす」
すでに新武器が完成していると聞いて弥勒は驚く。しかしヒコの説明によると武器自体は完成しているものの、現時点では起動出来ない様だった。
「ならそれをして貰えば良いんじゃないか?」
「うーん……多分、全員がクラウディフォームになれる位じゃないとエネルギーが足りないでやんすね」
「それだけ聞くと何かヤバそうな雰囲気なんだけど……」
起動にはクラウディフォームの力が必要と聞いて、弥勒は顔が引き攣る。現時点でクラウディフォームになれるのは麗奈、アオイ、みーこよ三人だ。月音もなれる可能性はあるが、エリスはまだ変身出来ないはずである。
「ふ……最終兵器でやんすね!」
ヒコはキリッとした表情になってカッコつけている。どんな武器なのかを弥勒に教えるつもりはまだ無いのだろう。
「まー、程々に期待しておくか」
「それよりも魔装少女ってどんな感じでやんすか?」
今度はヒコが弥勒に質問をしてくる。魔装少女の稼働実験や初陣にヒコはいなかった。そのため詳細が気になっているのだろう。強化パーツの一つであるゴーグルはヒコの魔法であるジャミング機能も搭載されている。
「とりあえず避難誘導はぼちぼちって感じかな。まだ色々と課題は多いけどな……」
「ふむふむ。今度はあっしも見てみたいでやんすね。戦力が増える分には歓迎でやんすし」
ヒコは魔装少女について好意的にに捉えている様だった。元々、ヒコは天使を倒せるなら天使と同じ力を使っている弥勒すらも味方に引き入れるという柔軟性を持っている。それを考えれば自然な流れである。
「アイカたちがやってるでやんすよね?」
「ああ」
「アイカたちはあっしのマブダチでやんす」
「そういえばヒコはしばらく愛女に寝泊まりしてたもんな」
ヒコは愛花たちにも懐いている様だった。以前、霊型の大天使の動向を調べるために愛女に泊まり込みしていた時に仲良くなったのだろう。最もその時は専用のサングラスを掛けないと愛花たちはヒコを見る事が出来なかったのだが。
「あの時は色々な事があったでやんす……ブレイクダンスでの全教室制覇、校長室でのイタズラ、人体模型を動かしてみたり……」
ヒコは寂しく一匹で泊まり込みをしていた時の事を思い出したのだろう。どこか遠い目をしている。どんな暇つぶしをしていたかは聞かない方が良いだろう。
「高価なものとか壊してないだろうな?」
「それは大丈夫でやんすよ!」
念のため弥勒は確認する。最もヒコに壊したと言われた所でどうしようもないのだが。
「なら良いけど」
「うぅ……あっしへの信用が薄いでやんす……」
「そりゃあエリス先輩を騙してドキュメンタリー映像なんかを見てるくらいだしな」
よよよ、と泣き崩れたフリをするヒコに弥勒がツッコむ。普通に考えてドキュメンタリー映像を見るだけでパワーアップなどできるはずがない。
「というかヒコはパワーアップしないのか? 妖精が途中で新しい力に目覚めるとかありそうだけど……」
「うーん……無いでやんすね。今のあっしだと力が減る一方でやんすね」
「今のヒコだと……?」
「ふ、それ以上は禁則事項でやんす。あっしは謎多き妖精でやんす。そしていずれは立派なドラゴンに進化するでやんす」
妙な言い回しに引っ掛かりを覚えた弥勒。それについて尋ねてみるが、ヒコは答えるつもりが無い様だった。
「いやイタチなんだからドラゴンは無理だろ。ウナギとか鯉とかならワンチャンありそうだけど」
「いやウナギからドラゴンは微妙な感じな気がするでやんす」
「確かに自分でも言っててそう思ったわ」
そう言ってお互い笑う。そしてヒコはお菓子を食べてお腹いっぱいになったのだろう。再びベッドへと戻る。
「お腹いっぱいでやんす〜」
「俺が出したやつほとんど買ったのか……食い過ぎじゃないのか?」
「お菓子はあっしの主食でやんすからね」
おっさんみたいなポーズでベッドに寝転がっているヒコ。弥勒がテーブルを見ると大量に出したお菓子がほとんど食べられていた。その小さな体からは考えられない程の食いっぷりである。
「普通、妖精の主食って魔力とかじゃないのか?」
「お菓子の方が人々に夢を与えるでやんすよ」
「……それもそうか」
何故か妖精に人の夢について説かれる弥勒。しかしそう言われて納得してしまったので、渋々頷く。
「今日はうちに泊まるのか?」
「そうするでやんすね。明日は秘密の場所に行くでやんす!」
「秘密の場所?」
「エリスの家の次くらいに待遇が良い場所でやんすね」
「ふーん……」
ヒコはどうやら本日は弥勒の家に泊まって、明日出ていく様だった。ヒコの言っている秘密の場所という所に弥勒は心当たりが無かったが、魔法少女、あるいは魔装少女たちの家のどこかだろうと推測する。
「だから今日はもう寝るだけでやんす!」
そう言ってヒコは数秒で寝落ちしてしまう。あまりの早技に弥勒が声をかけるタイミングも無かった。
「もう寝てるし……というかまだ夕方なんだけど……」
中途半端な時間に寝て、朝方に騒がれると面倒だと思う弥勒。しかし気持ち良さそうに寝ているので起こしたりはしなかった。
そして案の定、朝4時に起きたヒコに弥勒は叩き起こされるのだった。




