第二百四十八話 シルバーのアイテム
「お前、いつの間にシルバーのアイテムを信者の証にしたんだよ……」
弥勒は目の前の席でアイスティーを飲んでいる麗奈に問いただす。用件は昨日の芽衣と久美がシルバーのブレスレットを付けていた件だ。弥勒はシルバーのアイテムがセイバー教の信者の証だとは知らなかった。
すると麗奈は首を傾げる。わざとらしい態度のため、それが惚けているだけだと弥勒にも分かった。彼女もバレてるのに気付いているだろうが、それを気にする様子は無い。
「言ってなかったかしら?」
「いやいや聞いてないから」
「でも前にブレスレット送ったわよね」
「は……? いや……確かに……」
麗奈に言われて弥勒は思い出す。確かにオキナ旅行に行く少し前に麗奈から小包が自宅に届いた事があった。その時に入っていたのはシルバーのブレスレットだった。そしてそこには「教祖必須アイテム」という言葉が添えてあった。
「これのことか」
弥勒はアイテムボックスからシルバーのブレスレットを取り出す。彼も送られて来た当初は出来るだけ身につけておこうと思っていた。しかし旅行にバイト、大天使戦と慌ただしかったため、すっかり忘れていたのだ。
「ちゃんと持ってるじゃ無い」
「いやいや、これだけじゃ分かんないだろ!」
「ま、確かに私も説明が雑だったと言えなくも無いわ。それじゃあ改めて説明するわね」
そこから弥勒はシルバーのアイテムについて麗奈から説明を受ける。あくまでシルバーのアイテムは強制ではなく、信者が自主的に身につけるという事。そしてアイテムについても麗奈たちの指定がある訳では無く、信者たちが好きに選んでいる事などだ。
「セイバー教は実際の集会の無いネット宗教よ。そのせいで目に見えて縋れるものというのが無いのよ。セイバー教に入信してくる人たちはみんな、天使が暴れる世界に不安を抱いている。だからこそコレが必要なの」
「うーん、まぁ言ってる事は分からなくも無いが……それって俺に黙ってる理由にはならなくね?」
「…………てへ⭐︎」
弥勒の鋭い指摘に言い返す言葉が無かったのか、麗奈はペロっと舌を出して誤魔化す。顔立ちが整っているだけあって可愛いのがタチの悪いところだ。
「はぁ……セイバー教の活動に関してはむしろ俺の知らない所の方が多いしな……ま、いいか」
「さすが弥勒、ありがとう」
弥勒としては麗奈の主張が間違った事を言っている訳では無いと理解しているので仕方なく受け入れる。もしこれがシルバーアイテムの販売で信者からお金を巻き上げていたなら問題だが、そうで無いなら大きく口を挟む事もない。弥勒はそう考えた。
「という訳で、あんたもしっかりとブレスレット身につけてなさいよ」
「…………おう」
弥勒はとりあえず言われた通りにブレスレットを右腕に嵌める。家に帰ったら100%外すパターンのやつである。麗奈もそれは分かっているのだろうが、指摘はしてこない。それくらいの自由は認めるという事だろう。
「それとこういうステッカーを作ったんだけどどうかしら?」
麗奈はブレスレットの件を切り上げて、別の話題を出してくる。彼女が鞄から取り出して来たのはQRコードが描かれているステッカーだった。
「なんだコレ?」
弥勒はスマホを取り出してカメラ機能でQRコードを読み取ってみる。そのリンクから指定されているページへと飛ぶ。するとそこは救世主チャンネルの動画へとリンクしていた。
「これ……救世主チャンネルへのリンクじゃん」
「えぇ。魔装少女のパーツに貼っておこうと思って。ほら、前にアニメとかでもあったじゃない。企業の宣伝してるヒーローのやつ」
魔装少女、というのは強化パーツを使って魔法を使えるようになった少女たちを指している。この前の稼働実験の際にその呼び方に統一されたのだった。
「そういえばそんなのあったな……それでコレをパーツに貼っておいて、救世主チャンネルの訴求に使おうって訳か」
麗奈のやろうとしている事を理解する弥勒。魔装少女のパーツにQRコードを貼ったステッカーを貼っておけば、より救世主チャンネルへ流れる人たちが増えると考えたのだろう。
「あれ、でもカメラで撮影したりするとジャミング機能が働くんだよな?」
「そうなのよねー。上手い事、QRコードだけ見える様にならないかと思ったんだけど、無理っぽいし」
魔装少女にもセイバーや魔法少女たちと同じ様にジャミング機能が付いている。そのためせっかく訴求用のステッカーを貼っても肝心のカメラで読み取れないのだ。
「それで何か良い手段無いかしら?」
「無い!」
弥勒は麗奈からの問いかけにスパッと断言する。そもそも弥勒はセイバー教の運営自体にあまり乗り気では無いのだ。彼としてはステッカーなども貼らないに越した事は無い。
「でも少しでも天使について知っている人間が増えれば、この前みたいな被害が減らせるかもしれないでしょ?」
もし天使との騒動に巻き込まれた際に、セイバー教の信者がそこにいればすぐに避難するのは間違いないだろう。それは結果として他の人間の避難誘導にも繋がってくる。麗奈としては天使との戦いの被害者を減らすためにもセイバー教の認知度をもっと上げる必要があると考えていた。
「それならもっと大町田市に絞ってアピールすべきじゃないか? 天使のほとんどは大町田市に出没してるんだし」
救世主チャンネル自体は無料動画サイトのチャンネルなので、全世界どこからでもアクセスできる様になっている。しかし天使による被害が起きているのは大町田市周辺がほとんどである。被害者を減らすという意味では大町田市を中心に何かしらのアピールをした方が良いと弥勒は考えていた。
「むぅ……確かにそうね。いっそのこと学園祭でセイバー教に関するイベントをやろうかしら?」
「そもそも今年は駅前があんな状況だし学園祭自体があるか怪しいけどな」
「そうなると……あとはビラ配り……かしら?」
「何だったら魔装少女たちにステッカーを貼るんじゃなくて、ステッカーを配らせたら?」
大町田高校の学園祭は例年10月に行われている。しかし今年は大町田市内の混乱状況から考えると中止される可能性も充分に有り得る。
弥勒としては救助活動中に宣伝するのはどうかとも思ったが、とりあえずアイデアは出しておく。
「難しいわね……それならステッカーじゃなくてカードでも作っておこうかしら」
「名刺みたいなのなら家のプリンターとかでも作れるしな」
PCに名刺用のソフトを入れれば家庭でも名刺を簡単に作る事ができる。また無料のソフトでもそういったデザインを作れるものはある。そう考えると外部に頼らず、自分たちだけで製作できるので準備しやすいだろう。
「助けた人たちに渡していく流れがベストかしらね」
「とは言え、救助活動に慣れるまではそんな事してる余裕は無いと思うけどな」
「もちろんそれは分かってるわ。あくまで今後のプランとしての話よ」
セイバー教の布教の方に熱心になりすぎて、救助活動が疎かになってしまっては意味が無い。むしろセイバー教への悪印象に繋がってしまうだろう。
また魔装少女として活動を始めたばかりの愛花たちに名刺を配る余裕は無いだろう。そのためまずは救助活動を最優先にしていく事を決める。
「ただ準備は今のうちからしていかないと、いざという時に配れなくなるわ。どっちにしろ次の大天使戦までが勝負なのだし」
「確かにな。とりあえずデータだけは作っておけば良いんじゃないか?」
「ええ、そうするわ」
麗奈の言う通り、名刺を配る活動があまりに遅くなっても意味が無くなってくる。残る大天使は一体だけで、大きな被害が出る可能性があるとすればその時だ。なのでそれまでになるべく多くの人にセイバー教の認知をしておいてもらわなければならない。
「何だかやる気が出て来たわ。ここはワタシの奢りにしてあげるわ」
「むしろそれくらいして貰わなきゃ割りに合わない気が……」
「何か言ったかしら?」
「何でも無いさ。ごちそうさま」
会計は麗奈持ちになったため、弥勒はお礼を言う。それから二人は喫茶店を出て、それぞれ自宅へと帰るのだった。




