第二百四十四話 稼働実験前編
月音の研究室で強化パーツの説明を受けた数日後。弥勒たちは彼女から指定された場所へと訪れていた。
そこは大町田市内にあるスケボーパークであった。ここは現在、大町田駅の封鎖に伴い休館している場所である。被災地からは少し離れているものの、大町田駅が使えないという事で利用客がほとんど来れないのである。そこを今回、エリスが貸し切りにしていた。室内で他の利用客もいないため秘密裏に実験するには丁度良かった。またスケボー用に障害物などが設置されているため強化パーツの試運転にも適している。
集まったメンバーは強化パーツの開発者である月音。今回、実験場所を探してくれたエリス。そして弥勒、愛花、小舟、凛子。最後に付き添いで麗奈が来ている。
「これで全員、揃ったわね」
室内に揃ったメンバーを見渡しながら月音がそう呟く。それに全員が頷く。愛花や凛子は普段、来ることの無いスケボーパークに興味津々である。
「はい。それにしてもよくこんな場所、準備出来ましたね」
「月音ちゃんから室内で動き回れる場所に心当たりは無いかと聞かれまして、丁度良い場所があったのでお借りしたんですよ」
エリスは事もなさげに言う。それを聞いて他のメンバーは改めてルーホン家のコネクションに驚く。
「オキナワ旅行もそうだったけど……やっぱりエリス先輩は規格外っていうか……」
「そ、それを言うなら月音先輩も魔法のアイテムを作っちゃうなんて凄すぎて……」
「ま、先輩は偉大って事だな!」
感心していた愛花と小舟をあっさりと凛子がまとめる。今回の実験のメインは彼女たちだが、特に気負っている様な雰囲気は無い。
「月音先輩、もしかしてここに置いてあるのが例のアイテムですか?」
麗奈が近くにあるテーブルを指差す。そこには上から白い布が掛けられており、中に何か置いてあるのが見てわかった。
「ええ。それじゃあ、お披露目といきましょうか」
月音のその言葉に全員が視線をテーブルの上へと向ける。彼女はそれを確認してから布を引く。
「「「おぉー!」」」
そこに現れたのは一般人でも魔法を使える様になるアイテムセットたち。ゴーグル、スマートウォッチ、グローブ、シューズ、銃、小型スピーカーの六つである。それが三セット置いてある。
弥勒が見た試作機よりもややコンパクトになっている。そしてデザインは近未来的である。それぞれのパーツは黒く塗装されている。そこにピンクであったり、ライムカラーであったりとラインが走っているデザインとなっている。
魔法少女の装備がファンタジーよりのものなら、こちらはSFよりのデザインとなっている。よく見るとゴーグルもレンズ部分がそれぞれのメンバーカラーとなってる。
「外側の素材には7000番台のアルミ合金を使っているわ。俗に言う超々ジュラルミンってやつに近いわね」
「か、カッコ良いっす! めちゃくちゃカッコ良いっす!」
中学生組は全員、眼を輝かせているが、その中でも凛子のテンションが爆上がりしている。今にもテーブルの周りを飛び跳ねそうな勢いである。
「正直まだ色々と手を加えたい所ではあるのだけれど、それは追々やっていくわ。とりあえずそれぞれのパーツを付けてくれるかしら?」
「「「はい!」」」
月音の指示に従って三人はそれぞれのパーツを装着していく。まずは靴を装着していく。こちらはアオイの強化アイテムである韋駄天ライガーとは異なり、自らの靴を脱いでからでしか履けない。宝石は足の甲部分に、スピーカーは踵部分に付いている。
そして次は小型スピーカーの付いているベルトを腰に巻く。こちらは純粋な機械なので、特別な仕掛けは無い。ただデザインは他のものと共通しており、ベルト部分も黒色で縁がそれぞれのカラーとなっている。
ベルトには銃を仕舞うケースも付いており、そこに銃を入れる。こちらは拳銃のデザインをよりシンプルな形に洗練させたものとなっている。宝石は撃鉄部分に、スピーカーはマガジンの装填部分に付いている。実弾が存在しないため、その部分にスピーカーを付けたのだろう。
次にスマートウォッチを身につける。こちらは画面が何も付いていない状態である。黒色とメンバーカラーを使った配色で、こちらは普通に売っていてもおかしく無いデザインである。
そしてグローブを嵌める。こちらは関節部分に金属は付いていない。ベースに合皮を使っており、そちらがメンバーカラーとなっている。その上に金属パーツが乗っている形となる。宝石、スピーカー共に手の甲部分にある。
最後にゴーグルを装着する。見た目は薄めのVRゴーグルである。宝石は額部分、スピーカーは耳上辺りに付いている。そして後ろには月音の作るキーを入れられるようになっている。
「装着したわね。違和感は無いかしら?」
「大丈夫です!」
「ち、丁度良いです……」
「ピッタリっす!」
「それならアクセスキーを作るとしましょう」
三人が装着に問題無いと分かった月音はアクセスキーを作るために変身する。見慣れたポーズでメリーアンバーへと姿を変える。
「何だか他の人の変身を見てると複雑な気分になるわね……」
それを見ていた麗奈がぼやきを入れる。彼女たちも変身するのにすっかり慣れてしまった。しかし改めてその姿を見ると高校生にもなって魔法少女に変身するのは恥ずかしいと思ってしまうのだ。
「アンバーチップ」
麗奈の話は聞こえていただろうが月音はスルーする。そして強化パーツを使うのに必要となるアクセスキーを三つ作り出す。
「これをゴーグルの後ろにある穴へと入れてみて」
「「「はい」」」
三人はチップを受け取り、それを手探りで頭の後ろにある穴へと差し込む。するとスマートウォッチがピロリン、と音がして起動する。
『Hello (・∀・)』
という文字が画面を流れてくる。わざわざ顔文字まで付けているのはこだわりを感じるところだ。それから画面が『active』という文字に切り替わる。
「準備は良いわね? それじゃあ身体能力を強化するイメージでブーストと言って貰えるかしら?」
「ブースト!」
凛子が躊躇いなく「ブースト」と叫ぶ。するとスマートウォッチに『boost』と表示される。弥勒の目にはシューズにある宝石から魔力が放出されて、凛子の全身を覆っていくのが見えた。
「その場でジャンプしてみなさい。ただあまり力は入れすぎない様にね」
「そりゃ!」
凛子が言われた通りにその場で飛び上がると五メートル程の高さにまで到達した。
「うわ⁉︎ すっご!」
「本当に力が上がってます……」
それを見ていた愛花と小舟が驚きの声を上げる。彼女たちも実際に強化パーツの効果が発揮されるのを見て、ようやくその凄さを実感したのだろう。
「うおー! 凄いぞ! 身体が軽いっす!」
凛子はその場でジャンプして空中で回転したりと早速その機能を使いこなし始めている。彼女はサッカー部でもレギュラーであり、運動神経は良い方である。
「ほら、貴女たちも見てないでやってみなさい」
「はい! ブースト!」
「は、はい! ブースト……?」
月音に言われて愛花と小舟もキーワードを唱える。すると凛子の時と同じ様にスマートウォッチに『boost』と表示される。ちなみにスマートウォッチの画面も背景がメンバーカラーで文字が黒と凝っている。
「おぉ! 凄いです!」
「う、うわわ……! はわ……」
愛花も凛子と同じ様に身体強化の力をすぐに使いこなしている。反対に小舟の方は運動神経があまり良く無い様で急に上がった身体能力の扱いに苦戦している。
「万が一、途中で転んだりしても身体強化が発動してるから痛くは無いわ」
彼女たちの身体は魔力により強化されている。そのため身体能力だけでなく、防御力も上がっている。車がぶつかった位の衝撃ならノーダメージで済ませる事が出来る。
「それじゃあせっかくだし、コースを自由に走ってみてちょうだい」
その場で動くだけでは機能を充分に検証する事は出来ない。そのためスケボー用のコースを自由に動かせる。起伏や障害物があるので、彼女たちにも良い練習となるだろう。
そこから三人はしばらくコースを走ったり跳ねたりしながら力を慣らしていくのだった。




