第二百四十三話 新アイテム
弥勒は月音の家にある離れへと来ていた。
今朝の事だ。家でのんびりと朝食を食べていたら、急に迎えの車がやって来たのだ。降りて来た運転手に月音からの使いだと聞き、車へと乗り込んだ。そしてここまでやって来たという訳だ。
「おはようございます。朝からいきなり呼び出してどうしたんですか?」
「おはよう。色々と新しいアイテムを作ったから見て欲しいと思って呼んだのよ」
どうやら月音はこの夏休みを利用して色々とアイテムを使っていたらしい。その成果を弥勒へと見せたかった様だ。
相当、研究に熱心になっていたのか目の下には大きな隈が出来ている。髪も心なしかいつもよりもボサボサだ。
「へー、どんなの作ったんですか?」
「これよ」
月音が置いたのはゴーグル、スマートウォッチ、シューズ、グローブ、銃、小型スピーカーの六つだった。それを見て弥勒が首を傾げる。
「うお、何か色々作ったんですね……これ全部、俺らが使うんですか?」
「残念ながら違うわ。これは私たちが使うアイテムじゃないわ」
「俺らが使うものじゃない?」
月音の言葉に余計混乱する弥勒。しかし彼女はそれに構わず話を続ける。
「これは一般人の能力を魔力と魔法によって強化するアイテムよ」
「なっ……⁉︎」
その言葉に弥勒は驚く。それは原作にも登場しなかったアイテムだ。彼は思わず机に置かれたアイテムをまじまじと見つめてしまう。
「ただし大きな欠点がいくつかあるわ」
「欠点……ですか?」
感心している弥勒を遮る様に月音が声を上げる。弥勒は視線をアイテムから月音へと戻す。彼女はどこか不満そうな表情をしている。
「まず消費する魔力は各アイテムに埋め込まれている宝石の魔力を使うのよ。つまりいちいち魔法少女たちがチャージする必要があるという事ね。ちなみに宝石はロッククリスタルを使っているわ」
弥勒が見てみると確かにどのアイテムにも透明な水晶が取り付けられていた。以前の実験で宝石に魔力を貯めておける事は分かっていたので、それを利用した形なのだろう。
「そして次に一般人がこれを使って魔法を発動するには魔法少女たちと同じように精神世界にアクセスするためのキーが必要になるわ」
「なるほど。その言い方だとキーはまだ作れていないって感じですか?」
「惜しいわね。キーは私が変身した時に魔法で生み出せるわ。ドローンとかと同じ感じね」
弥勒が説明を聞くと、どうやら各アイテムにつき一つの機能が付いているらしかった。使い方としてはまず使用者がアクセスキーを使う。すると宝石に貯めてある魔力を引き出せるようになる。そして内蔵されているスピーカーから脳波を模した電波を出す事で魔法へと変換する。こうする事で一般人でもこのアイテムを使えば魔法が使える様になるのだ。
「凄い発明じゃないですか!」
「まだ外部の力に頼る部分が多いから完全なものとは言えないのよ。とりあえず各アイテムの説明をしていくわね」
まず月音が見せて来たのはゴーグルだった。これには着用者の正体を誤魔化す機能が搭載されているとの事だった。魔力の補充担当はヒコとなっている。またここに月音が魔法で作り出したアクセスキーを差し込む形となる。
次はスマートウォッチである。こちらはアクセスキーからのデータを各アイテムに届ける役割がある。魔力の補充担当はエリスである。
三つ目はシューズで、こちらは身体能力をアップさせる魔法が組み込まれている。魔力の補充担当はアオイである。
四つ目がグローブで、こちらは魔力によるシールドを展開させる魔法が組み込まれている。魔力の補充担当は麗奈である。
五つ目が銃である。こちらは魔力の弾丸を射出できる様になっている。魔力の補充担当はみーこである。
そして最後が小型スピーカーである。こちらは天使による魔法をジャミングする電波が組み込まれている。こちらは電波を放つだけで魔力や魔法は必要ないものなので、ただの機械となっている。
「魔力の補充は誰でも良い訳じゃないんですか?」
説明を聞いた弥勒は疑問に思った事を月音へと投げかける。
「それぞれのアイテムから魔法を出すための電波は魔法少女たちの脳波を元にしてるのよ。その影響なのか、元になった魔法少女以外の魔力だと魔法の力が半減するのよね。興味深いデータだわ」
例えばグローブから出すシールドは麗奈がガーネットペタルを使った時の脳波を元にしている。そのためシールド展開に使う魔力は麗奈のものの方が馴染みが良いのだ。
「そんな事もあるんですね……」
「まだ検証したい事柄も多いから未完成と言っても良いわね。使用する時には自分で着用しないといけないし、それぞれ充電も必要だし」
魔法少女やセイバーの変身と違って、これらのアイテムを使う場合には自分で装着しないといけない。確かに現場で使うには面倒な仕様とも言える。
またそれぞれのアイテムに脳波を模した電波を出すためのスピーカーが搭載されている。それは魔力の補充とは別なので、それぞれ充電しないといけないのだ。
「それでも俺に教えてくれたって事は、実践で使うって事で良いんですよね?」
「ええ。今回の戦いは被害者が多すぎたわ。さすがに未完成品といえど、それで助けられる命があるのなら使わない訳にはいかないわ。研究者としてのプライドとしては使いたくないのだけれどね」
そう言って月音は肩をすくめる。蟲型の大天使戦では彼女もまた思う事があったのだろう。そうでなければ研究にこだわっていた彼女がこうやって完成しきっていないものを持ち出すなんて事はありえないだろう。
「ありがとうございます」
「別に貴方のためじゃないわ。実際に使ってみて分かる事もあると思うしね」
「でもこれって一般人が使うんですよね? 誰に使わせるんですか?」
「丁度良い子たちがいるじゃない。中学生組よ」
「まさか愛花ちゃんたちに使わせるんですか⁉︎」
弥勒は月音の答えに驚きを露わにする。まだ彼女たちは中学生である。彼としては天使との戦いに彼女たちを巻き込みたくなかった。
「別にこれを使って天使と戦わせる訳じゃ無いわ。メインは一般人の避難誘導よ。もし次の大天使も蟲型のと同じくらい強いのならメリーパンジーの召喚獣たちを避難誘導に回す余裕は無くなるわ」
月音としてはこれらの装置を使って一般人を天使と戦わせるつもりは無かった。あくまでもメインの戦闘は魔法少女とセイバーで行い、民間人の避難誘導や戦いに巻き込まれた人々の救出作業などを任せるつもりでいた。
現場で動き回るという事で常に危険は付きまとう。しかし前戦に出るよりかはリスクは少ないだろう。
「けど……」
「それなら貴方にあてはあるのかしら? 私たちの正体を知っていて、かつ天使との戦いに協力してくれそうな人材に」
「それは……」
それでも中学生たちを巻き込みたく無いと思った弥勒に、月音が問いかける。彼女の言う通り、弥勒にはそういった人材のあては存在しなかった。
「大切なのは年齢でも、性別でも、国籍でも無いわ。そこに意志があるかどうかよ。この子たちを使って人々を助けたいという強い意志が」
月音は自らが作ったアイテムを優しく撫でながらそう言う。それを聞いて弥勒としては言葉が出なくなってしまう。
「分かりました。彼女たちに聞いてみます。ただもし彼女たちが拒否したら……」
「ええ、分かってるわ。無理強いをするつもりは無いわ」
月音としても先ほど述べた様に意志が大切だと考えている。そのため愛花たちしか候補がいないといっても無理に使わせようとまでは考えていなかった。
「もし彼女たちにやる気があるなら、ここに呼んで実際に稼働実験をしてみる必要があるわね」
「そうですね。その辺りの日程調整は任せます。とりあえず三セット作っておいて貰えれば」
「それならカラーはピンク、ライム、ライトブルーね」
月音はオキナワ旅行の時に彼女たちが履いていたビーチサンダルを思い出す。愛花がピンク、凛子がライム、小舟がライトブルーのものを履いていた。そこからカラーを決める。
「分かりました。それじゃあ彼女たちに連絡してみますね」
そう言って弥勒はスマホから愛花にコンタクトを取るのだった。




