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ヤンデレ魔法少女を回避せよ!  作者: 広瀬小鉄
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第二百四十話 アオイの後悔


「「いただきます!」」


 弥勒とアオイは挨拶をしてから料理を食べ始める。テーブルにはサイコロステーキをメインにポテトサラダ、お刺身、天ぷらなどが並んでいる。


「美味しい!」


 サイコロステーキを食べたアオイが嬉しそうに声を上げる。


「今日はアオイが初めてのバイトで疲れてると思ったから、お肉をメインにしたのよ」


「さすがママ!」


「天ぷらも美味しいです」


 弥勒も料理を食べた感想を口にする。するとそれを聞いたアオイと桔梗がニヤッとする。


「ふふーん、それはあたしが作ったんだよ! 凄いでしょ!」


「マジで? やっぱめちゃくちゃ成長してるんだな。衣も良い色だし」


「でしょでしょ⁉︎」


 弥勒に褒められてご機嫌になるアオイ。それを見て桔梗もニコニコとしている。アオイの料理の腕が上がっているというのは確かな様だった。


「それで弥勒くん、今日はアオイが迷惑掛けたりしなかった?」


「大丈夫でしたよ。俺の初日よりも立派な位でした」


 桔梗からの質問に弥勒は無難に答える。アオイが転びそうになった事は秘密にしておく。するとそれを聞いたアオイが得意げな表情をする。


「あたしはパーフェクトな女だからね!」


「弥勒くん、あんまりこの子を甘やかしたりしない様にね。見ての通りすぐに調子に乗るから」


「あはは……大丈夫だと思いますけど……」


「そうだよ。全く……ママはあたしの事をどんな風に見てるんだか」


 桔梗の言葉に少し不貞腐れた表情をするアオイ。喜怒哀楽がはっきりしているのは彼女の長所でもあり、短所でもある。


「最近は物騒な事件も多いんだし、心配なのよ」


 桔梗がアオイを宥めるように言う。物騒というのは大町田駅での事件を指しているのだろう。それに弥勒も頷ていおく。


「大町田駅の事件はビックリでしたね」


「そうなのよ。もし今が夏休みじゃ無かったらと思うと……」


 もし今が夏休みで無かったら弥勒たちの通う大町田高校の生徒や教師にも被害が出ていたかもしれない。あるいは弥勒が知らないだけで校内でも死者や行方不明者は出ているのかもしれない。


「ママは心配しすぎっ。ごちそうさま! 弥勒くん、部屋に行こう!」


「親っていうのはそういうものなのよ」


 アオイは母親の言葉に機嫌をすぐに直す。そして食事を終えて、弥勒を部屋へと誘う。


「ごちそうさまでした。すごく美味しかったです」


「お粗末様でした。バイト終わりで大変だろうけど少しアオイに付き合ってあげてね」


 桔梗はそう言ってパチンとウインクする。台所に食器を持って行っているアオイには聞こえない様に小声だった。


 弥勒も食器を流しへと持って行ってから、アオイの部屋へと向かう。彼女は弥勒を久しぶりに部屋へ招けるという事でニコニコしている。


「さ、座って座って!」


「ああ」


 アオイは床に水色のクッションを置いて座る。それからすぐ横にグレーのクッションを置いて弥勒に座るよう促す。そこに彼も素直に座る。


「今日は疲れちゃったよ! さすがのあたしもヘトヘト!」


 座った弥勒に、アオイは自らのクッションを少しずらして更に近づく。友達というよりは恋人の距離感である。


「頑張ってたもんな」


「うん……」


 そこで話が途切れる。そしてしばらく沈黙が続く。お互いに気まずさは無い。知り合って半年程度ではあるが、過ごしてきた密度は濃い。そのため今さらちょっとした沈黙程度で気まずくなったりはしない。


「大丈夫なのか……?」


 弥勒は優しく問いかける。するとそれに小さくアオイが頷く。そこから彼女が喋り始める。


「ママ、あたしのこと心配してたね……」


「そうだな。桔梗さんは優しいから」


「うん……あたしは魔法少女だから天使なんてへっちゃらだもん。だからママの心配なんて杞憂だよ」


 アオイは少し辛そうな表情をしながら言葉を続ける。弥勒は相槌を打つだけにして、彼女に言葉を吐き出させる。


「でも……みんながあたしたちみたいに天使と戦える訳じゃないんだよね。心配してくれる人の元に帰れなかった人たちもいるんだよね……」


 アオイが言っているのは蟲型の大天使戦での犠牲者の事だろう。彼女やみーこが急なバイトの誘いに乗ってきたのは、こういった葛藤や迷いを紛らわせるためだったのかもしれない。もちろん弥勒と一緒に居たいという理由もあるのだろうが。


「どうすれば助けられたのかな……」


「俺もアオイの気持ちは分かるよ。同じ場所で戦ってたんだから。後悔する気持ちもある。でもそれ以上に俺は胸を張りたい」


「胸を張る……?」


「俺たちは助ける事が出来たんだ。蟲型の大天使を倒す事で大勢の人を。あいつを倒さなきゃもっと大勢の人が死んでた。だから胸を張って良いんだ」


 弥勒にとっても助けられなかった人たちが多くいたというのは辛い事実だ。しかし失ったものばかりでは無い。見えにくいかもしれないが、確かに守れたものがあったのだ。それを彼はアオイに伝える。


「そっか……そんな風に考える事もできるんだ。考えた事も無かったよ……」


 アオイは弥勒の言葉を聞いてゆっくりと頷く。弥勒もその言葉だけで彼女を悩みから解放できるとは思っていない。しかし少しは軽くする事ができると思っていた。


「辛いけどこれから先も戦いはまだ続く。それを乗り切るためにはアオイの力も必要なんだ」


「あたしの力が必要なの……? それは戦力として? それとも……」


「仲間として、かな。ただの戦力としてじゃないさ」


「むぅー、50点……」


 アオイは弥勒の答えに少し不満そうに唇を尖らせる。それを見て弥勒は彼女がいつもの雰囲気に戻ってきた事を感じた。


「そこは普通、お前が欲しいんだ、くらいは言ってくれないと減点だよ!。あと指輪と婚姻届も必要だし」


「いやそれは飛び越えすぎだろ!」


「あはは! でもそれくらいの熱量が無いとやる気でないなー? やってくれないかなー?」


 そう言ってアオイは立ち上がって何故か壁際に立つ。そして弥勒をジッと見つめる。口には出さないが早くこっちに来いと言っているのが彼には分かった。


 弥勒も立ち上がり壁に寄りかかって立っているアオイの正面に立つ。そして彼女の頭の横に腕を出す。いわゆる壁ドンという奴だ。


「アオイ、お前が欲しい……」


「…………うん」


 弥勒が求められているであろう台詞を言うとアオイは顔を真っ赤にして下を向く。その顔は明らかにニヤニヤしている。好きなシチュエーションを弥勒にやって貰えて嬉しいのだろう。


「弥勒くん……」


「なんだ?」


「……もう我慢できないっ!」


 すると顔を上げたアオイがガバッと弥勒へと抱きつく。彼女の予想外の行動に弥勒はそのまま抱きつかれてしまう。


「ちゅー」


「おま……」


 そしてアオイは目を瞑って弥勒へとキスしてくる。乱暴に引き剥がす訳にはいかないので、弥勒はそれを受け入れる。むしろ思春期男子としてはありがたい展開なのだが、突然の事態に彼としては驚きの方が勝っていた。


「んぅ……」


 アオイは遠慮せずに弥勒の口内に舌を入れてくる。そうしている内に弥勒も段々とキスが心地良くなって来る。そこからはたっぷりとキスを続ける。


「ぷはぁ……」


 五分近くキスをしていただろうか。ようやくアオイが弥勒から離れる。その表情は恍惚としている。


「お前……いきなりなぁ……」


「弥勒くんも途中からはノリノリだったでしょ?」


「それは……」


 アオイの言葉を否定できなかったため弥勒は言い淀んでしまう。それを見て彼女は更に嬉しそうな表情をする。


「でも弥勒くんのお陰で悩みは少し楽になったよ。ありがとう!」


「まぁそれなら良いんだけどさ……」


 最後に上手い感じに話を纏めるアオイ。弥勒としても結果としてアオイが元気になっているので良しとする。


「もうこんな時間だね。そろそろ一緒にお風呂に入ろっか」


「いや入らないから! 何かいつも一緒に入ってる風に言ってるけど!」


「えー、この流れなら一緒に入れると思ったのに……」


「入らないから。とりあえず俺はもう帰るぞ」


「そっかぁ。今日は色々とありがとね!」


 それから弥勒は桔梗に挨拶をして、玄関でアオイに見送られて帰るのだった。

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