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ヤンデレ魔法少女を回避せよ!  作者: 広瀬小鉄
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第二十四話 不機嫌


 みーことのフルーツサンドデートの翌朝、弥勒は日課のランニングのため公園にいた。結局、昨日の帰り道に行っていた「魔力探知・改」も特に効果が無かったため若干憂鬱な気分だった弥勒。


「おはよう」


 公園の入り口で待っていたアオイに挨拶をする。


「……おはよ」


 しかしアオイの返事の声は暗い。いつもなら朝から元気いっぱいといった感じなのにその表情にも明るさがない。


「どした? 何かあったのか」


 弥勒は心配してアオイに尋ねる。するとアオイはポケットからスマホを取り出して無言で操作する。そしてある画面を表示させてから弥勒に見せてくる。


「ん」


「これは……」


 アオイが見せてきたのはみーこが昨日投稿したSNSの画面。そこにはもちろん昨日のフルーツサンドの写真が写っている。そして「デート」という文字が並んでいる。


「随分とお楽しみだったみたいだね。まさか弥勒くんに彼女がいたなんて……」


「いやそれはみーこが勝手に投稿しただけで……」


 思わず弱気になってしまう弥勒。少しだけ目からハイライトが消えているアオイ。朝から不穏な空気が漂っている。


「そもそも彼女じゃないから」


「ふーん、そっか……」


 そのままお互い無言でランニングを始める。朝の時間は限られているため来たからには走るしかないのだ。


「(アオイとの関係はどうするべきか……)」


 弥勒とアオイは付き合っている訳ではない。ただアオイが弥勒に一定以上の好意を持っているのは明らかだ。みーこから指摘されたということは第三者目線でも同じ結論になるということだろう。


 しかし弥勒は今のところアオイの気持ちに答えるつもりはない。それはもちろん原作があるからだ。世界の滅亡が掛かっているのに恋愛を楽しむ余裕は弥勒には無い。自分の行動次第で下手したら世界が滅びるかもしれないのだ。それを考えると改めて原作主人公の凄さが分かる。


「(かといってメンタルケアできないくらい離れられたらそれはそれでバッドエンド一直線だ)」


 つまり魔法少女たちからの好感度を一定以上に稼ぎながら、決して結ばれないようにしていかなければならないのだ。


「(やっぱりクズ野郎だな)」


 あるいは原作のように一人のヒロインに絞ってしまうか。それは弥勒もその相手のことを真剣に好きになるという前提の話ではあるが。原作ではトゥルーエンドが無かったため、必ず誰かのルートに入らなければならなった。


 天使たちとの戦いを終わらせるには幹部である大天使たちを倒すしかない。それはルートによって成功したり失敗したりしている。つまりは闘いが終わるルートと終わらないルートがあるということだ。


「(何をすれば正解なんだ……)」


 弥勒には大きな力がある。恐らく敵の幹部たちである大天使たちとも互角以上に戦えるほどの力だろう。しかしそれはあくまでも武力のみだ。天使を全て殲滅できたとしても世界が滅んでましたでは意味がない。


 ましてや弥勒が力を持っているせいで敵の力も原作以上のものとなっている。これでは仮に原作通りに進めていったところで結末まで同じになるとは限らない。


 それ故に臆病になっている。どう動けば正解なのか分からないから。


「(結局は天使たちを倒しつつ魔法少女たちのケアをしていくしかない)」


 天使に対抗できるのは弥勒と魔法少女しかいない。その戦力を削ぐわけにはいかないのだ。どれほど考えてもこの結論になってしまう。いずれやってくるであろう大天使たちを最大戦力で殲滅する。それが最もシンプルで分かりやすい答えというやつだ。


「フゥ……」


 ランニングを終えて一息つく。持参していた水を少し口に含む。のどの渇きが癒される。


 アオイの方も走り終えたようで、少し離れたところでドリンクを飲んでいる。こちらをチラチラと見てきているので、弥勒の様子が気になっているようだ。


「(とりあえず放っとくか)」


 弥勒が視線を向けるとプイっとそっぽを向いてしまうアオイ。みーこと付き合っているという誤解は解けただろうが、機嫌が直るまではもうしばらく時間が掛かりそうだ。


 そのまま無言で別れて家へと戻る弥勒。この流れだと朝の登校は別々と言う事だろう。弥勒としては最近、アオイとの距離感が近すぎる気もしていたので丁度良いとも思っている。


 これから他のメンバーとも交流を持つ必要がある以上、アオイにベタ付きでいる訳にはいかないだろう。


 弥勒は家でシャワーを浴びる。汗を洗い流してサッパリする。ランニングで鈍っていた思考がクリアになる。


「さて学校に行くか」


 部屋にある鞄を取って学校へ向かう。駅には案の定、アオイはおらず久しぶりの一人の登校だった。










 放課後になり図書館で一時間程、自主学習をする。その後に学校を出て本日も魔力探知をしながら街をぶらつく。


 駅前はいつも通り混雑しており、ハンバーガーのチェーン店などには列が出来ている。


「(ん……?)」


 すると魔力探知に不思議な反応が引っかかる。通常の探知では敵がいると流した魔力に反発するような反応がある。しかし今回は反発ではなく溶け込むような反応だった。


「これが天使か……?」


 とりあえず今までには無い反応だったので、現場へと向かう事にする弥勒。場所は駅の向こう側にある住宅街の方だ。


 駅を越えると人通りが減ってくる。こちら側は特に大きなお店もないため大町田の中では静かな場所となる。


「こっちの方だよな」


 しばらく進んでいくと何やら大きな音が聞こえてくる。弥勒は足を早めて現場へと向かう。


 住宅街の一部で戦闘が行われていた。四体の天使と二人の魔法少女による戦いだ。


「もう戦いは始まってたか」


 魔法少女は言うまでもなくメリーガーネットとメリーインディゴだ。弥勒としてはメリーインディゴと直接会ったことはないが、アオイとは普段から会っているため初めてといった感じはしない。


 一方で相手は四体の天使。その全てが同じ姿をしている。まるでコマのような形をしており、常に回転しながら高速で動いている。分類で言えば無型の天使となるだろう。


「はぁっ!」


 相手の動きを捉えたメリーインディゴが拳を叩き込むも回転の勢いに阻まれダメージはほとんど無い。


「ガーネットシード!」


 背後からメリーインディゴを攻撃しようとしていた別の天使をメリーガーネットが種子の弾丸で牽制する。彼女の攻撃により天使の軌道は変わるもののダメージは無さそうだ。


「メリーインディゴ、下がって!」


「うんっ!」


 メリーガーネットの指示に従って、彼女の近くまで戻ってくるメリーインディゴ。天使たちが一斉に突撃してくる。


「ガーネットペタル!」


 魔力で編まれた花弁が二人を敵の攻撃から守る。ガガガガと天使の回転により花弁が削られる音がする。


「くっ……!」


 剥がされていく花弁に焦りが出るメリーガーネット。魔力を更に込めて防御力を高める。


 それを見ていた弥勒はもちろん介入する事を決める。


「セイバーチェンジ」


 光が溢れて弥勒の姿が灰色の騎士へと変わる。そしてすぐさま戦いの場に乱入する。


「邪魔するぞ」


 花弁の近くまで行ってから飛び上がる弥勒。魔法少女たちを攻撃している天使の一体にロングソードの側面を当て、バッドのように振り抜く。


 回転による振動が弥勒にも伝わってきたが、反動を無理やり力で押さえ込み天使を吹き飛ばす。


「セイバー⁉︎」


「あの人が……⁉︎」


 弥勒の乱入に驚く二人。驚かれた本人はそれを気にせずに二体目の天使へと向かう。同じ要領でそいつも吹き飛ばす。


 二体が吹き飛ばされたのを見て、残りの二体はターゲットを弥勒に変えて突撃してくる。弥勒はシールドを展開する。


 上から降ってくるように突撃してくる天使をシールドで受け止める。天使たちはシールドの上で回転をしている。


「ふっ!」


 そのままシールドを勢いよく上に押し上げて天使を吹き飛ばす。コマの天使による回転攻撃と防御力は非常に厄介なものの、その軌道をズラすのは大して難しいことでは無い。


 天使たちが一度、吹き飛ばされたのを確認してメリーガーネットがペタルを解除する。花弁が無くなったため弥勒は二人の近くに着地する。


「大丈夫か?」


「ええ、助かったわ」


 弥勒からの問いに微笑むメリーガーネット。その隣にいるメリーインディゴは観察するような視線を向けてくる。


「そうだ、紹介するわ! 新しい仲間のメリーインディゴよ!」


 メリーガーネットは嬉しそうに紹介してくる。メリーインディゴはそれに軽く一礼する。


「初めまして、メリーインディゴです。助けて下さりありがとうございます」


 他人行儀というか、社交辞令のように伝えてくるメリーインディゴ。


「俺はセイバーだ。とりあえずよろしく」


 そう言って弥勒も自分の紹介をあっさりと済ませるのだった。

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