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ヤンデレ魔法少女を回避せよ!  作者: 広瀬小鉄
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第二百二十九話 覚醒


 魔法少女、三人の必殺技が炸裂する。


 みーこの出したミラーボールが周囲一帯を爆発させる。そこにアオイの出した青き虎が暴れ回り、麗奈の巨大な十字架がダメ押しをする。


 ヘラクレスオオカブトとコーカサスオオカブトは必殺技の連続攻撃に成す術も無く呑み込まれていく。そして全てが終わった時、そこには何も残っていなかった。


「お、終わった……の?」


 彼女たちの目の前に広がるのは戦闘によって破壊されてしまった駅前の大通りの姿。ビルは崩壊し、道路は陥没している。あちこちに様々な瓦礫が散乱しており、廃墟かと思うレベルである。


「ええ。天使の反応は残ってないわ。無事に倒せた様ね」


 月音が周囲をチェックして天使がどこかに隠れていないか確認する。その結果、ヘラクレスオオカブトとコーカサスオオカブトの二体は消滅した事が分かった。


「よ、よかったぁー……」


「今回はマジやばかったし……」


「疲れた……もう死にそうよ……」


「皆さん、凄かったです……」


 月音の言葉に安心した魔法少女たちは各々感想を述べていく。アオイ、みーこ、麗奈はクラウディフォームによる全力戦闘にかなり疲弊した様で地面に座り込んでしまう。エリスは純粋に前線で戦い続けた三人を讃える。


「勝ったのは良いけど、代償はかなり大きかったわね」


「そうですね……逃げ遅れた人たちが居ないと良いですけど……」


 月音とエリスは街の惨状を見て顔を曇らせる。敵を倒したからと言って手放しに喜べる状況では無かった。駅前がこれだけの惨状になってしまったからには、しばらく大町田駅周辺が封鎖される可能性もある。駅前を修復させるにはかなりの時間が掛かるだろう。


 そうなると困るのは大町田高校に通う彼女たちだ。今は夏休み中だから問題無いが、二学期が始まるまでに駅前が復旧するかは怪しい。


「まずはワタシたちもここから移動しないとね。さっさと弥勒と合流し……————」


 麗奈がそう言いかけた瞬間だった。巨大な爆発音が彼女たちの耳に入ってきた。反射的に彼女たちは音がした方を見る。それは弥勒とゾウカブトが戦っていた方向だった。


「な、何……⁉︎ どしたの⁉︎」


「あれってみろくっちのいる方っしょ⁉︎」


「ドローンが消滅している⁉︎ 待ちなさい……! 今、調べるわ!」


 月音は弥勒たちの様子を調べるために飛ばしていたドローンが消滅した事に驚く。そして新たにドローンを飛ばして何が起きているのか調査をするのだった。












 時は僅かに遡る。魔法少女たちが二体の天使を撃破する直前、弥勒はゾウカブトを宣言通り殺し続けていた。


「ハァァァッッ‼︎」


 すでにゾウカブトを殺した回数は十を超えただろう。しかしそれでも彼はその手を緩めずに双剣から魔力刃を出し続けていた。一瞬でも手を抜いてしまえば、敵が復活するのがわかっているからだ。


 そしてその時は訪れた。遠くから巨大な魔力反応がした。それは弥勒も慣れ親しんだ魔法少女たちの魔力であった。恐らく必殺技を使ったのだろう。


『ぐぅぅぉぉっ…………』


 それと同じタイミングでゾウカブトが苦しそうな声を出す。断末魔の叫びの様に弥勒には聞こえた。他の二体も撃破された事で権能が機能しなくなったのだろう。やがてゾウカブトの声がしなくなる。


「ハァハァ……終わったのか……?」


 目の前から魔力反応が消えた事で弥勒はようやく必殺技を解除する。そして改めてゾウカブトがいた場所を確認する。


「何だ……あれは……?」


 するとそこには見覚えの無い物体があった。黒い棺の様なものである。ゾウカブトが立っていた場所に鎮座している。原作にも無かった正体不明のものに弥勒は戸惑う。


「何だか分からないが、破壊しておくか」


 弥勒は再び双剣を構える。明らかに怪しい物体のため、彼はすぐに棺を始末する事を決める。素早く近寄って剣を振るおうとした瞬間だった。


「っ……⁉︎」


 黒い棺から急に光が溢れ出す。それはゾウカブトが全身から爆発するように放っていた光の攻撃に似ていた。弥勒は咄嗟に後ろへと下がり、フォームを灰色の騎士へと変えてシールドを展開する。


 そして大爆発が起きる。弥勒はシールドでそれを防いだものの、足元が崩壊した影響で吹き飛ばされる。地面を何回かバウンドして転がっていく。


「く……何が起きたんだ……?」


 弥勒は全身を強く打っていたが、装備のお陰で怪我は無かった。しかし目は回った様で、少し辛そうにしながらも立ち上がる。そして爆発の中心を見る。煙によって視界が悪かったが、何やら人影の様なものが見えた。


「まさか……ゾウカブトが生きてた、のか……?」


 弥勒は予想外の事態に困惑する。しかし敵がいるのは間違いないと感じて、再び剣を強く握り直す。


「……っ⁉︎」


 弥勒は咄嗟にシールドを展開する。しかしその瞬間にシールドが破壊される。彼が驚く暇もなく、弥勒の目の前には黒い影が拳を構えていた。


 彼はその拳を少しでもガードしようと腹部に魔力を集める。そして拳が弥勒に突き刺さる。それはまるで大砲をゼロ距離で撃ち込まれたかの様な衝撃だった。


「……っ」


 弥勒の身体はくの字に折れ曲がる。反撃する余裕も無い程の強烈な攻撃だった。そして今度は下がった頭に敵からの蹴りが炸裂する。弥勒はたまらず横に吹っ飛んでしまう。


「っが……⁉︎」


 意識が一瞬、飛びそうになるものの何とか堪える。そして態勢を立て直して相手をよく確認する。


 そこにいたのは真っ黒な怪人だった。デザインはつい先ほどまで戦っていたゾウカブトにそっくりだが、体の大きさが一回りほど小さくなっている。そして角がやや太く、長くなっている。


『おぉ、兄弟たちよ。皮肉な事に今、この瞬間が最もお前たちを近くに感じるわい』


「お前……何で……? 確かに倒したはずじゃ……」


 喋り方からしてゾウカブトだと確信した弥勒は問いかける。すると嘆いた様子だったゾウカブトの視線が今度は弥勒を捉える。


『そうじゃ。ワシは負けた。そして死ぬはずだった。しかし兄弟たちがワシの命を繋いでくれた。その命を犠牲にしてのぉ!』


「まさか……」


 ゾウカブトは本来、死ぬはずだった。三体が同時に撃破された事により権能が機能しなくなり、回復できない状態となって。しかしそこでイレギュラーが発生した。


 ヘラクレスオオカブトとコーカサスオオカブトの行動である。この二体は自らの体に行われる修復を全て拒否して命ごとゾウカブトへと譲渡したのだ。


 三体同時撃破により、権能の力は全てを回復させる事が出来なくなる。しかしそれを一体に集中させたらどうだろうか。それも残り二体の命を使う形で。


 その策は見事に成功し、ゾウカブトは復活を果たした。しかもただ純粋に復活しただけでは無い。ヘラクレスオオカブトとコーカサスオオカブトの力を受け継いだ状態での復活である。


 弥勒が棺と称した黒いそれは、正確には蛹であった。ゾウカブトが新たな姿へと生まれ変わるための。人型の大天使により授けられた知能がまたここに来て、新たなイレギュラーを生み出した形となった。


『勝負は終わっとらん! ワシが勝ちさえすれば問題ない!』


 ゾウカブトはそう宣言する。すでにゾウカブトの権能は失われている。他の二体がいなくなった時点で権能の前提条件を満たせていないからだ。つまり回復機能は無くなっているという事だ。


「(ここに来てパワーアップとか漫画かよ……いや、元はゲームの世界か……)」


 土壇場で敵が強化された事に渇いた笑いをする弥勒。まるで漫画やアニメの様だと思うも、ここが元々はゲームの世界だと思い出す。


「悪いけど俺も負けるつもりは無いぞ」


『だわはは! それで良い! 戦って、戦って、戦って、最後に立っていた者こそが勝者じゃ! そしてそこにワシが立っていればそれは人類殲滅の証でもある!』


 ゾウカブトの覇気は明らかに増していた。姿こそ一回り小さくなっているものの、力は上がっているだろう。それがこの少しの会話でも確認できた。弥勒は全神経を目の前の相手に集中させる。


『ゆくぞ!』


 そう言って蟲型の大天使との最後の戦いが始まるのだった。

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