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ヤンデレ魔法少女を回避せよ!  作者: 広瀬小鉄
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第二百二十七話 ゲームと現実


「喰らえ」


『ぬうぉっ……⁉︎』


 弥勒の身体が光った瞬間、目にも止まらぬ高速の斬撃が放たれる。嵐の様な怒涛の攻撃にゾウカブトは防戦を強いられる。


『この、じゃかしぃわい!』


 ゾウカブトが何とか拳を突き出して反撃するものの、既に弥勒は後ろへと下がっている。ゾウカブトは今度は自らが先手を取ろうと駆け出そうとする。


『ぐぅぅ……⁉︎』


 しかしその瞬間にゾウカブトの脇腹に魔力の弾丸が突き刺さる。予想外の角度からの攻撃に防御が間に合わなかった様だ。


『だは、まだこんな力を隠し持っていたとはのぉ。とんでもない奴じゃなぁ!』


 ゾウカブトは苦しそうな表情をしながらも笑みを浮かべる。そこにあるのは強敵と戦えることへの歓喜のみだった。


 弥勒がした事は単純だ。超高速でフォームを切り替えながら戦闘をしているだけだ。接近する時にはスピード特化の群青の襲撃者を使い、攻撃時には真紅の破壊者へと姿を変える。それにより大剣を使った超高速の斬撃を可能にしたのだ。


 そしてゾウカブトの脇腹に魔弾を直撃させたのは新緑の狙撃手で弾丸を放ってから、藤紫の支配者となって弾丸を支配して弾道を動かしたのだ。


 これは弥勒が異世界のダンジョンで編み出した戦法だった。ダンジョンに挑む様になって彼が苦悩したのはゲームと現実の違いだった。


 『異世界ソロ⭐︎セイバー』はアクションゲームである。それぞれの階層でセーブをして敵を倒していく。敵の攻撃はある程度のパターンがあり、それを適切なフォームで倒していく。難易度はそこそこだが、死にゲーと呼ぶには温いレベルのアクションゲームであった。


 しかし現実は違った。すべての階層に転移陣がある訳ではなく、敵の動きはゲームよりも多彩なパターンがあった。それにダンジョンに居続ければスタミナだけではなく精神も消耗していく。何より現実では死んだらやり直せない。


 またセイバーの力には大きな欠点が存在した。それは回復能力の欠如である。ゲームではそれを多少のデメリットとして楽しむ事が出来た。しかし現実はそうもいかない。ゲームとは違いケガをすれば動きも鈍る。ポーションには在庫が存在しており、連続使用すれば効果は下がっていく。それらをスリルだと楽しむ事は弥勒には出来なかった。


 セイバーに回復能力が無いのは大きなデメリットとして弥勒の前に立ち塞がった。フォームの高速切替えによる戦闘方法はそういったデメリットを回避するために生み出されたものだった。こちらは逆にゲームでは不可能な戦闘方法とも言える。回復能力が無いなら圧倒的なスピードと火力で強引に突き進む。それが弥勒の出した答えだった。


「これで一回も死なないとか反則だな。だが、お陰であんたの異常な強さの理由が分かってきたよ」


『ほぉ……』


 弥勒はこれだけの攻撃をしてもゾウカブトが死なない事に対して、一つの仮説を立てていた。彼は答え合わせのためにそれを口にする。


「あんたらはただ人型になった訳じゃない。元の大天使の力を圧縮して人型になったんだろ?」


『だわはは! よく分かったのぉ!』


 蟲型の大天使たちのモデルはゾウカブト、ヘラクレスオオカブト、コーカサスオオカブトである。最初、弥勒はこれらが人型の大きさになったものが蟲型の大天使だと思っていた。しかしそれは違った。


 原作のゲームで蟲型の大天使たちは十メートル近くの大きさの姿だった。目の前にいる大天使はその大きさの三体がそれぞれ人型に圧縮されたものだったのだ。


 その二つは似ている様で全く違う。片方は通常の昆虫を人間大にしたもの。もう片方は十メートルの巨大昆虫を人間大に圧縮したもの。後者の方が強いのは明らかだろう。


 原作での蟲型の大天使は破壊力こそ厄介なものの、攻撃は単調で知能も低かった。周りへの被害は大きいが、厄介なのは権能も含めた防御力の方だった。


 しかしこちらではその弱点がカバーされている上に、長所であるパワーまで強化されている。強敵になるのは当然の事だった。


『それで? それが分かったからと言って何になるんじゃい!』


「強さの理由が分かれば対処方が決まるだろ?」


 ゾウカブトの言葉に弥勒は静かに返す。敵の強化理由が不明のままでは想定外の事が起きた時に対処しづらい。しかし敵の強化理由は人型に圧縮された故のものだと分かった。つまりこれ以上の隠し札は無いという事だ。それさえ分かれば弥勒も戦いに集中できる。


『なら対処してみるんじゃなぁ!』


 ゾウカブトは地面を叩き加速して弥勒へと接近する。弥勒は身体を回転させて、相手の攻撃をかわしてから背後を取る。そしてフォームを藤紫の支配者へと変える。


支配(ドミネーション)


『ぬぐぅ……!』


 弥勒はゾウカブトの背中に支配するための魔力を流し込む。本来、生物に対して支配の力は使う事が出来ない。しかし支配するための魔力を流し込み、相手の魔力と反発させる事でダメージを与える事はできるのだ。


『まだまだぁっ……!』


「っ……⁉︎」


 ゾウカブトは全身から光のエネルギーを放出する。それにより支配の魔力を押し流し、さらには弥勒を吹き飛ばす事に成功する。


『ふんぬぅっ……‼︎』


 さらにゾウカブトは張り手を連打して弥勒がいる方向に光魔法を飛ばしていく。弥勒はフォームを片喰の死神へと姿を変える。そして攻撃の軌道を予測して最小限の動きでそれをかわしながら前へと進んでいく。避けられないものは大鎌で切り裂きながら。


『この攻撃の中、正面へと進むかぁ!』


 自らが出した光魔法の連打に対して、前に進む姿勢を見せる弥勒にゾウカブトは嬉しそうに笑う。


「ふっ!」


『ぬうぅ……!』


 ゾウカブトの前まで辿り着いた弥勒が大鎌を振るう。それに対してゾウカブトは自らの身体に光を纏わせて対抗する。しかし鋭い刃は光の鎧を切り裂き、ダメージを与える。


 弥勒はすぐにフォームを真紅の破壊者へと切り替える。そしたゼロ距離から必殺技を放つ。


灼熱の龍剣(ドラゴンブレイブ)!」


 大剣に極限まで込められた魔力により炎の龍が出現する。それはゾウカブトの全身を一気に呑み込む。弥勒が直前でわざわざ大鎌による一撃を入れていたのは、必殺技の炎をゾウカブトの内部へと確実に届けるためであった。


 弥勒の視界全てが紅蓮に染まる。それは間違いなく彼にとって最強の一撃である。ゾウカブトは成す術もなく燃やされていく。


「まだ終わりじゃないぞ!」


 弥勒はさらにフォームも群青の襲撃者へと切り替える。そして再び魔力を込めて必殺技を放つ。


浮遊する斬撃(エアロブレイブ)!」


 群青の襲撃者から放たれるのは無数の刃。双剣を高速で振るう度に生み出される魔力の刃が宝玉の力により周囲へと散らばっていく。それはまるで斬撃による結界だった。


 この必殺技は無数の魔力刃を宝玉によりコントロールして敵に絶え間なく斬撃を浴びせるというものだ。


 新緑の狙撃手の必殺技とも似ているが、こちらは射程距離が短く、刃も双剣を振り続けないと増やしていく事が出来ない。その分、コントロールと持続力は高くなっている。


「あいつらが二体の天使を殺すまで、あんたをここで殺し続ける! そうすればタイミングは関係ない!」


 蟲型の大天使の権能「三位一体の神秘」は三体のうち、どれか一体でも生きていたら他の二体の傷も回復するというものだ。そのため普通なら三体同時に倒すというのがセオリーだ。しかしゲームとは違い、そのタイミングを現実で合わせるのは難しい。そこで弥勒は敵を殺し続けるという手段に出た。そうすれば残り二体を魔法少女たちが撃破出来たタイミングでゾウカブトも倒せるという計算になる。


 灼熱の龍剣によりゾウカブトは全身を焼かれて死んでいる。それが回復しきる前に斬撃を浴びせ続けて殺し続ける。言うのは簡単だが、弥勒の消耗もかなり激しい方法である。


「ハァァッ!」


 気合いを入れながら弥勒は絶え間なく斬撃を生み出し続ける。彼は魔法少女たちなら必ずヘラクレスオオカブトとコーカサスオオカブトを倒してくれると信じていた。ここからは魔法少女たちが敵を倒すのが先か、弥勒の魔力切れが先かの戦いとなるのだった。

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