第二百二十一話 エリスの訓練
ネバールートを構えた麗奈は身体の奥から魔力を解放するイメージをする。すると魔力が湧き上がってきてネバールートを黒く侵食していく。
「カラーシフト!」
麗奈がそう言うとネバールートだけでなく、衣装も黒く染まっていく。台詞が弥勒と同じなのはフォームの色が変わるから参考にしたからだろう。
麗奈の前髪が一部、黒く染まりクラウディフォームへと変身する。それを見ていたエリスが彼女のフォームチェンジに驚く。
「が、ガーネットちゃん……⁉︎ 色が変わってます!」
「ふふ、パワーアップよ。これならあのアゴにも対抗できるわ」
麗奈はそう言ってから再び鞭を振るう。すると先ほどとは比べ物にならないスピードで根が地面を侵食していく。すると何かに切断される感触があった。
「見つけたわ」
しかし切断されていくスピード以上に侵食するスピードの方が早かった。根が切断された感触から相手の居場所が分かった麗奈は根をそちら側へと回す。そして天使を絡め取っていく。
「wooo……⁉︎」
すると根に捕まったアリジゴクの天使が逃げようとして砂から飛び出てくる。それを見てエリスが喜ぶ。
「ついに捕まえました!」
「ええ、これで終わりよ」
麗奈がそう言ってアリジゴクを捕まえている根の部分を破裂させる。すると天使はその衝撃により消滅する。
「勝ちました! ガーネットちゃん、凄いです! わたくしもその黒い姿になれるでしょうか?」
「なれると思うわよ。まずはヒコから貰った武器をたくさん使った方が良いわよ」
エリスは麗奈のクラウディフォームについて尋ねる。麗奈としても彼女がパワーアップする事は戦力に繋がるので、素直にアドバイスする。
「武器ってこれですよね」
エリスは自分の武器を呼び出す。それはカースデビルの尾から作られた黒い杖である。エリスはこれに「くろつえ」と名付けていた。
「えぇ、それね。きちんと使ってる?」
「それが……使い方があまり分からなくて……」
エリスの持っている杖は自身と召喚獣を強化する能力を持っている。しかし彼女の中には悪魔化と必殺技である融合による巨大化しか強化のイメージが無かった。そのため杖を使ってどう強化したら良いか分からないのだ。
「ていうかそれって黒いからこれ以上、黒く染まらなくない……?」
「や、やっぱりダメなんでしょうか……?」
麗奈は彼女の杖の色を見て疑問を口にする。それを聞いてエリスも弱気になる。するとそれを見た麗奈がくすりと笑う。
「冗談よ。とにかく杖を使っていきましょう。とりあえずそれで猫を強化してみたら?」
「どんな風にですか?」
「えーと……セイバーみたいに色を変えるとか?」
「やってみます!」
麗奈はとりあえず杖の使い方を提案してみる。彼女は内心、思い付きの割には良い答えを出したかもと自画自賛する。そしてエリスもそのアドバイスに従って自らの召喚した猫に向かって杖を振るう。
「ピンク猫ちゃん!」
「…………」
「…………」
しかし何も起こらなかった。二人はしばらく待っても何も起きないので少し気まずくなる。そしてお互いに顔を見合わせる。
「ほ、他の色にしてみましょう!」
「ええと……オリーブ猫ちゃん! モスグリーン猫ちゃん! アイボリー猫ちゃん!」
エリスが連続してワードを唱えて行くものの特に変化は起きない。猫のぬいぐるみたちはエリスからの指示が無いからか地面に座って寛いでいる。
「えーと色を言ってるだけだから変わらないんじゃないかしら? 具体的にイメージをしないと……」
「た、確かに……ええと……ブルー猫ちゃん!」
エリスは群青の襲撃者になったセイバーの姿を思い浮かべながら、もう一度杖を振るう。すると先ほどまでとは違い今度は杖の先端が光る。そして一匹の猫の足元に魔法陣のようなものが出現する。それが青く輝く。
「にゃにゃ⁉︎」
すると猫のぬいぐるみの身体がブルーになる。その変化に猫自身も驚いた顔をしている。
「や、やった……! 成功しました!」
「本当にできたわね……」
杖による強化が成功した事でエリスは喜ぶ。麗奈も本当に成功するとは思って無かったので驚きを露わにする。
「にゃにゃにゃ〜!」
すると青くなった猫はかなりのスピードで周囲を走り回る。強化されたのが嬉しいのかもしれない。それを見て他の猫たちが追いかけるが青い猫には全然追いつけていない。
「動きが速くなってるわね」
「そうですね。やっぱりセイバーさんの青いフォームをイメージしたからでしょうか?」
セイバーの群青の襲撃者はスピードが強化されたフォームだ。相手の懐まで一気に踏み込み持っている双剣で連続攻撃を行う。それを参考にしたため猫のスピードが上がっているのだ。
「なら他のフォームの色には出来るのかしら? 赤とか、赤とか……あとは赤とか?」
猫の強化を見て他の色での強化も出来るのか尋ねる麗奈。何故か自分のカラーである赤を猛烈にプッシュしている。
「やってみます! レッド猫ちゃん!」
エリスは強化されていない他の猫に向けて再び杖を振るう。今度は群青の襲撃者ではなく、真紅の破壊者をイメージする。しかし今度は何も起こらなかった。
「あ、あれ……?」
「何も起きないわね。もしかしたら召喚獣によって強化できるポイントが違うとか……?」
「なるほど……その可能性はありそうです……」
麗奈はカラー変化による強化は一つの召喚獣に何色も使える訳では無いと推測する。猫はスピードを強化するブルーへと変化した。つまり他のカラーには変化ができないという事だ。それぞれの召喚獣にカラー適性があると考えた。
「とりあえず猫は青くなってスピードの強化が出来るみたいね。他の召喚獣たちはどうかしら?」
「ちょっと召喚してみます! 猫ちゃんたち、お疲れ様でした」
エリスは他の召喚獣のカラー適性を調べるために猫たちを魔力へと還元する。そして次にテディベアを一体呼び出す。
「くまくま〜!」
召喚されたテディベアが両手を上に挙げて登場をアピールする。その動きに二人はほっこりしそうになるものの、すぐに実験を再開する。
「とりあえずブルーになって下さい!」
そう言って杖を振るうものの、猫の時とは違い何も起こらない。それにより麗奈の仮説が真実味を帯びてくる。
「ええと、次はレッドになってくださーい!」
次は赤色を指定して色を振るう。すると今度は杖の先端が光り、テディベアの足元に魔法陣が出現する。そしてそれが赤く輝く。
「くまくま!」
魔法陣の効果によりテディベアが赤く染まる。それを見てエリスの表情が明るくなる。
「あ、赤くなりました……!」
「成功したみたいね。やっぱり召喚獣によって強化できるポイントが違うみたいね」
「そうですね。他の子たちも調べてみましょう」
そう言ってエリスは残りの二体のフクロウとカメも調べてみる。するとフクロウは緑色に、カメは灰色に適性がある事が分かった。そしてどの召喚獣たちも変化できるのは一色だけで他の色にはなれなかった。
「なるほど。これで杖の機能が凡そ分かったわね。でも自身の強化は出来ないのかしら?」
「あ、それは出来ますよ。見てて下さいね」
「へ……?」
召喚獣の強化について理解した麗奈は杖でエリス自身の強化は出来ないのか考える。するとエリスはあっさりと自身の強化が出来ると告げる。
「はい!」
エリスが杖を軽く振るうと彼女の身体に悪魔のような羽根が生える。そして可愛らしい黒い尻尾も出来る。ただしその姿は悪魔というよりも小悪魔といった雰囲気だ。
「悪魔に変身できるんです! でもこれだと空を飛ぶくらいしか出来ないので……」
「そんな姿になれたのね……」
杖による自身の強化は羽根による飛行能力と身体能力のアップができる。しかし飛行能力は月音のジェットパックがある。そして身体能力は強化されてもエリスでは、そこまで活かす場面が無い。そのため本人としては微妙な強化であった。
こうしてエリスの杖についての実験が終わった二人は帰るのであった。道路の陥落については見なかった事にして。




