第二百七話 オキナワそのじゅういち
オキナワ旅行三日目は別荘のある離島をレンタルした自転車でサイクリングしたり、再び海で遊んだりした。
各メンバー、三日目だと言うのに飽きることなくオキナワの海を満喫していた。唯一、桐葉だけが二日酔いでしんどそうではあったが。
そして旅行最終日。弥勒たちは本島へと戻ってきており、水族館にやってきていた。すでに買い物は二日目に行ったためフライトの時間まで水族館を見て回る事にしたのだ。
こちらは夏休みという事もあり、観光客が大勢いた。家族連れやカップル、大学生の集団など様々だ。それは弥勒たちも分かっていたので、特に気にせず見て回る。
「本格的な熱帯魚だし……」
「本格的って何だよ」
サンゴ礁と熱帯魚がいるコーナーを見ていたみーこの呟きに弥勒が反応する。
「いや海で遊んだ時に熱帯魚っぽいカラフルな魚を見たじゃん? そっちじゃなくてよく見る熱帯魚だなーって」
オキナワの海には熱帯魚と普通の魚が混じっている。そのため魚に詳しくないみーことしては海で見た魚はどれが熱帯魚で、どれが普通の魚なのかイマイチ分かりづらかった。そのため海で見たのは熱帯魚っぽい魚たちという認識になっていた。
そしてここにいるのは他の水族館やテレビでもよく見る熱帯魚である。そのため本格的な熱帯魚という言葉が出てきたのだろう。
「熱帯魚って美味しいのかな?」
「あんまりカラフルだと美味しそうには見えないわね」
その隣ではアオイと麗奈が水族館の雰囲気を壊すような会話をしている。アオイは弥勒と二人で水族館に行った時には魚たちを見て「可愛い可愛い」と連呼していた。それを考えるとうっかりとここで本性が出てしまっていると言えるだろう。あるいは遠慮が無くなってきたとも言えるのかもしれない。
「この辺りの魚は観賞魚だろうから食べても美味しくないんじゃないかしら?」
そして月音もその会話に参加する。彼女は最初からあまり生き物を見てはしゃいだりするタイプでは無い。そのためこちらは自然な反応と言えるだろう。
「お姉ちゃん、もう少し先に行くとジンベエザメとマンタがいるみたい!」
「マンタって横に平たいやつか? それとも縦に平たいやつか? どっちだ?」
「凛子ちゃん、縦に平たいのは多分、マンボウじゃないかな……」
「おー! さすが小舟ちゃんだな!」
凛子の疑問に小舟が答える。あの雑な質問で答えを導き出せるのは二人の仲が良いからだろう。
「横に平たいとしてマンタってエイと何が違うんだ?」
「……えーと……それは……人気?」
しかし次の質問には小舟も答えられなかった様だ。苦し紛れにある意味、正解にも近い回答をする。するとそれを聞いていた月音が補足をする。
「マンタもエイの仲間よ。大きな違いとしては泳ぐ場所ね。マンタは海面近くを、エイは海底付近を泳いでるわ。それもあって食べるものや口の位置が違ったりするの」
「ほへー、全然知らなかったっす! さすが月音先輩っす!」
「私も知らなかったです……勉強になります」
月音の解説に二人は感心する。ちなみに後ろでは意気揚々と説明しようとしたが、月音に先を越されたアオイが落ち込んでいる。
「マンタとかエイの天使とは会ってない気がするな」
「そだっけ? 色々な天使倒してるからあんまり覚えてなーい」
「その場合、くくりは魚型の天使で良いのかしら?」
弥勒たちは普段、見慣れない生物を見ると思わず天使を連想してしまう。この生き物を模した天使と戦っているか、否か。あるいはそれが天使として出現した場合、どんな敵になるのか。そういったところが気になってしまうのは、それだけ日常に戦いが紐付いてしまったからだろう。
ただ色々な種類の天使を倒しているので、倒した事があるかは忘れがちとなっている。あるいは自分が倒していなくても他の魔法少女が倒している場合もある。
基本的に同じ姿の天使が現れるというのは稀だ。それは恐らく一度侵略に失敗した天使を複製しても意味が無いからだろう。弥勒はそう考えていた。
それについての説明は原作では存在していなかった。同じ天使を使った方が製作費としては安く済むのだが、開発陣にこだわりでもあったのかもしれない。
「ほわぁ、ジンベエザメさん大きいです!」
「海は壮大よねぇ……」
「うーん、どっかで見覚えがある気がするよぉ」
ジンベエザメとマンタがいる巨大水槽の前へとやってきた一行。エリスは純粋にジンベエザメの大きさに驚いている。桐葉は何やら黄昏れた雰囲気を出している。
そしてアオイは何やらジンベエザメを前にして首を傾げている。それを隣にいる麗奈が気付く。
「魚型の大天使じゃない?」
「あ、それだ!」
館内は人が多いため天使の話をしても至近距離にいる人以外には聞こえない。そのため麗奈たちもそれほど気にせずに会話ができた。
「あの時はセイバーの正体が弥勒くんって分かって衝撃だったよねぇ」
「確かにね。アオイなんて動揺しすぎて漏らしてたしね……」
「いや漏らしてないから! それは誇張され過ぎてるよ!」
麗奈の言葉に反論するアオイ。セイバーの正体が弥勒と分かって戦闘を継続するのが困難にほど動揺していたのは事実だが、お漏らしまではしていない。
「でもあともう二体で終わりだね」
「どんな敵が来るのかしらね……」
「蟲の大天使が残ってる時点で激ヤバっしょ」
そして話は残りの大天使についてとなる。残っている大天使は二体である。蟲型の大天使と無型の大天使である。すると話にみーこも参加してくる。
「蟲はやだよねー」
「弥勒に倒して貰うしか無いわね」
「大さんせーい!」
「(……それは無理なんだよなぁ)」
以前にも彼女たちに蟲型の大天使を倒してくれと言われた弥勒。しかし蟲型の大天使を一人で倒すのは難しい。そういう権能を持っているのである。しかしここでそれをもう一度言うのは面倒なので黙っている。
そして一行は次のコーナーへと向かう。深海生物が展示されているコーナーである。
「うわ〜、深海魚とかって何か不思議なデザインだよね」
「そうだね……ちょっと怖いかも」
「深海にはロマンが詰まっているぞ!」
中学生組は和気藹々と深海魚コーナーを見ている。普段、見慣れない魚に興味津々である。愛花と小舟はきちんと看板に書いてある説明を読んでいる。凛子は深海にロマンを感じている様だった。
「確かに深海のお魚さんたちはちょっと個性的な見た目ですよね」
「……深海の生物は地上の生物とはまた違った進化をしているから面白いわ」
「進化と退化は紙一重ですよね」
「そうね。必要なければ退化するし、必要ならば進化する。どちらも大切な事よ」
「月音ちゃんは生物にも詳しいんですね」
「ロボットを作る過程で参考にしたりするから、ある程度知識を入れてるだけよ」
年長組の二人は落ち着いた会話をしている。中学生組や麗奈たちとはまた違った雰囲気である。
「うっわ、このサイズのダンゴムシは反則じゃん⁉︎」
「流石にこれは可愛いとは言えないわね……」
「やっぱり足がいっぱいあるのは生理的にさぁ……」
オオグソクムシを見ながら騒ぐみーこたち。しかし彼女たちは知らないが、ここに展示されているものよりも一回り大きいダイオウグソクムシというものも存在している。知らない方が幸せな事というのもあるのかもしれない。
そして深海コーナーを満喫した一行は最後にお土産コーナーに立ち寄る。そこで全員、お揃いのクジラのストラップを購入する。今回の旅行の記念という事だろう。ちゃっかり桐葉も同じものを購入している。
「これでいよいよオキナワ旅行も終わりかー」
「あっという間だったね!」
「楽しい時間は短く感じるわね」
みーこ、アオイ、麗奈が旅行がいよいよ終わるという事に寂しを感じていた。その気持ちは全員理解できた。それだけ今回の旅行が楽しかったという事だろう。
「ふふ、来年もまたみんなで来ましょうね」
エリスがそう言って微笑む。それに全員が頷く。今回の旅行を主催した彼女の言葉だからこそ説得力がある。
こうして弥勒たちは最後に空港へと向かい、今回の旅行は終了するのだった。ちなみに帰りの飛行機では全員爆睡していた。




