第二百五話 オキナワそのきゅう
それぞれ買い物を終えて別荘へと戻った一行。万が一、何か買い忘れがあっても明後日の帰り際にまだ買い物をするチャンスはある。
そして弥勒たちはビーチでバーベキューを行っていた。夕暮れ時だがまだ暑さはそれなりに残ってる。そのため網の前で焼いている人間にとってはかなりの暑さとなっていた。
「肉焼けたぞー」
「貰うっす!」
弥勒が焼いた牛肉を凛子が素早く取っていく。凛子とアオイはお肉ばっかり食べている。
「ピーマン美味しい……」
その凛子の隣では小舟がマイペースに野菜を食べている。彼女はどちらかと言うと野菜の方が好きな様だった。
「小舟ちゃん、とうもろこしも焼けたよ」
「ありがとうございます……!」
弥勒はトングで小舟の小皿にとうもろこしを移してあげる。このとうもろこしは食べやすい様に小さくカットされているものなので箸でも食べやすい。彼女はお礼を言ってそれを食べ始める。
「美味しいわね〜」
その近くで缶ビールを片手に貝類ばっかりつまんでいるのは桐葉である。彼女は今までのキリッとした感じから一転、ただの酔っ払いになっている。いかにも仕事のできるキャリアウーマンといった感じだった彼女が酔っ払っているのを見て弥勒は少し驚いてしまった。彼女はお酒を飲んでも変わらないだろうと勝手に思い込んでいたのだ。
「はいはい、こっちもお肉焼けてるよ〜」
「食べるー!」
弥勒の隣で食材を焼いているのはみーこだ。彼女は弥勒よりも手際良く食材を焼いていく。近寄って来たアオイのお皿にポイポイと肉を乗せる。ついでに野菜も乗せている。彼女に肉ばかり食べさせないためだろう。
みーこも夏の暑さとバーベキューの熱さで汗を額に汗を滲ませている。それを時折、タオルで拭いながら作業を続ける。
「みーこ、お前もちゃんと食えよ?」
「だいじょーぶ! ちょいちょいつまんでるから!」
ずっと調理しているみーこに弥勒が声を掛ける。すると彼女はにっこりと笑う。それに弥勒も安心する。それから彼は隣に近づいて来た人物に視線を向ける。
「バーベキューとコーラは最高の組み合わせよね」
「ツキちゃん先輩はブレないですね」
クーラーボックスで冷やしていたコーラを取り出して口にする月音。やはり彼女の一番のお気に入りはコーラのようだ。それを飲みながら野菜とお肉をバランス良く食べている。
「特別にあげるわ」
そして月音は弥勒の皿に自分のところに乗っていたゴーヤを全て移す。よく見ると一つは食べかけだ。
「いや……ゴーヤばっかりいらないですよ。しかも一つは食べかけだし」
「ふふ……間接キスね……」
「雰囲気出しても誤魔化されないですよ」
「仕方ないじゃない。思ったよりも苦かったのよ」
どうやらゴーヤを取ったは良いものの、思ってたよりも苦くて食べきれなかった様だ。今回はバーベキューという事で食材は簡単な下処理をして洗っただけだ。ゴーヤの苦味を取るような細かい下処理はしていない。そのため普段、お店などで食べるものよりも苦く感じたのかもしれない。
「まぁ貰ったなら食べますよ。ゴーヤも好きですし」
弥勒はお皿に入れられたゴーヤに焼肉のタレを付けて食べていく。確かに苦味が強いものの、食べられない程の味では無い。
「美味いですよ」
「…………はい、あーん」
「え? あ、あーん」
月音から急に差し出されたお肉を弥勒は口に入れる。彼女の行動を意外に思いながらも弥勒は牛肉を味わう。
「美味しいかしら?」
「はい、美味しいですよ。やっぱりお肉と野菜はバランス良く食べるのが一番ですね」
「またあげるわ。はい、あーん」
「あーん」
何故か二口目を差し出して来た月音に弥勒も応じる。再び牛肉を口に入れて味わう。チラッと月音を見ると少しだけ顔が赤くなっている様に見えた。もしかしたら暑さのせいもあるのかもしれない。
「むむむ! あたしのイチャイチャセンサーに警報が! そこ、何してるの⁉︎」
そうすると月音と弥勒のやりとりを察知したアオイが大股でこちらへとやって来る。彼女のお皿には牛肉、豚肉、鶏肉など色々な肉が乗っていた。先ほどみーこに入れられた野菜はすでに食べきったようだ。
「エサをあげてたのよ」
「なーんだ、エサかぁ。それなら仕方ないよ…………って、なるかー!」
アオイはホッとした表情をしてから急に怒った顔になってツッコミを入れる。何故か一人でノリツッコミをしている。
「月音先輩はそう言いつつ弥勒くんを可愛がっている! あたしは誤魔化されないよ! 月音先輩が一番油断ならないんだよ!」
月音を指差してバーン、とカッコつけたポーズをとるアオイ。弥勒のファーストキスを奪ったのは月音だ。アオイはダークホースとして強力な存在である彼女の事を警戒していた。
すると月音は彼女が自分にむけている指先に玉ねぎの輪っかをそっと引っ掛ける。自分のお皿に乗っていた分だ。
「って何してんの⁉︎」
「お詫び玉ねぎ」
「どーゆーこと⁉︎」
月音はそれだけ言って弥勒とアオイのそばから離れて行ってしまう。また一人で静かにコーラを飲みながらバーベキューを楽しむのだろう。
「おいしい……」
アオイは指に掛けられた玉ねぎをそのまま焼肉のタレに少し付けて口に運ぶ。そしてその優しい甘みにホッとする。
「結局、誤魔化されてるし……」
そんなアオイを弥勒は見て苦笑いする。誤魔化されないと言いつつも結局月音の策略に見事にハマっている。
「弥勒くん、あたしが焼くの代わろうか? そんなに食べてないんじゃない?」
「お、いいのか。助かるわ」
「ふふん、任せてよ。伊達に最近、料理の勉強はしてないんだから!」
アオイは弥勒から焼く役目を任されて気合いを入れる。袖も無いのに腕まくりのポーズをしてやる気アピールをしている。
ちなみに料理といっても今回はバーベキューの食材を焼くだけだ。それほど難しい話ではない。そもそも料理経験のほとんど無い弥勒が行っているのだから誰にでもできる範囲のものだろう。
「お肉どーん!」
とりあえずアオイは網にお肉を大量に乗せていく。そのせいか煙が先ほどよりも大きくなっている。
「お肉っす!」
「お肉だ!」
そして肉に釣られた運動部組がやって来る。凛子と愛花である。二人は嬉しそうに肉の前で待機している。弥勒はそれを眺めながら自分のお皿に乗っていた野菜やお肉を食べていく。
「はい、この辺りのお肉はおっけー! どんどん持っていっちゃってー!」
「「わーい!」」
焼けたお肉が凄まじいスピードで消費されていく。アオイも大量の肉を焼きながらもしっかりと自分の分を確保している。
その大量の肉になんとなく嫌になった弥勒はエリスの方へと近付いていく。彼女はヒコと仲良くバーベキューを楽しんでいた。
「はい、コレもどうぞ」
「美味いでやんす! ここは何の部位でやんすか?」
「ふふ、牛肉ですよ」
若干会話が噛み合ってないが、それが平常運転なのだろう。エリスから食材を貰ってヒコは美味しそうに味わっている。
「ん? これはミロクにはやらないでやんすよ!」
近づいて来た弥勒に自分の分が取られると思ったのか、ヒコが抵抗を示す。それに彼は苦笑いする。
「いや取らねーよ。というか桐葉さんとかお手伝いさんもいるのにこんな堂々とやり取りしてて大丈夫なのか?」
ヒコの姿は一般人には見えない。その視点から見ると今のエリスは何も無い所で一人喋ってい様に見える。それを弥勒は心配する。
「ふふ、人数が多いですからね。大丈夫ですよ」
それぞれバーベキューの料理に目が入ってるので、細かい所は気にならないだろうとエリスは考えていた。弥勒もそんなものかと納得する。
「みろーくんもたくさん食べましたか?」
「はい、もうそろそろお腹いっぱいです」
「なら良かったです」
「あっしはまだまだ食えるでやんす!」
弥勒の満腹アピールに対抗して、ヒコはまだまだいける宣言をする。そしてまたエリスから焼いた食材を貰うのを再開する。
こうして楽しいバーベキュータイムは過ぎて行った。




