第二百話 オキナワそのよん
「みろーくん、これでも喰らえ、です!」
「ぬおっ、思ったより強力⁉︎」
背後に忍び寄っていたエリスが弥勒へ水鉄砲を放つ。勢いよく飛び出した海水が彼へと直撃する。思ったよりも強い威力に弥勒は笑う。
「ってやけにデカい水鉄砲ですね」
「今回のために買いました! とっても重いです!」
エリスが持っている水鉄砲は全長で70cmほどあるだろうか。彼女が両手を使わないと持てないサイズである。今回の旅行のために買ったらしい。
「おー、エリス先輩のウォーターガン凄い!」
「あっちにいくつか種類がありますから、愛花ちゃんたちも良かったらどうぞ」
「ありがとうございます! 行こう、小舟ちゃん」
「うん!」
水鉄砲を羨ましがった愛花にエリスが他の種類もいくつか用意していると伝える。それを聞いて彼女は小舟と一緒にビーチへ水鉄砲を取りに戻る。
「ツキちゃん先輩は来ないんですかね?」
「ビーチでキンキンに冷えたコーラを飲むのが一番だって言ってました」
「納得です」
月音が来ない事に疑問を覚えるとエリスが答えてくれる。どうやら月音はビーチで寛いでいるらしい。桐葉の隣にでも座ってコーラを飲んでいるのだろう。
すると今度は隣にいるみーこがエリスに質問をする。しれっと弥勒の腕に自分の腕を絡めて来ている。
「月音先輩って泳げるんですか?」
「泳ぐのは問題ないみたいですよ。ただあまり水は好きじゃないって言ってました」
「流石に競泳水着を着てて泳げないパターンは無いか〜。というか水嫌いなんですね」
「機械は水に弱いから、らしいですよ」
「「納得」」
エリスの説明に弥勒とみーこは納得する。月音の使っている機械類は大体が水NGだろう。また彼女が作るロボットも種類によっては耐水試験などを行っている。その過程で失敗などもあったのだろう。そういった所から苦手意識が芽生えたのかもしれない。
「それよりも少し泳いであっち行ってみようよ! せっかく海が綺麗なんだし、もうちょっと先に行って魚とか見たい!」
「そうだな。行ってみよう。麗奈とエリス先輩はどうします?」
「ワタシも行くわ」
「わたくしはもう少しここにいます。水鉄砲が大きいので泳ぐのも大変そうですし」
弥勒はみーこと麗奈と泳いで少し先の方まで行ってみる事にした。エリスの方はもう少し浅瀬にいるようだった。愛花たちが水鉄砲を取りに行ってるので、そちらと一緒に遊ぶのだろう。
「いよーし、行っくぞー!」
まず泳ぎ出したのはみーこだった。弥勒と麗奈もそれに続く。最初はみーこがリードする形だったが、すぐに三人並んで泳ぎ始める。前後に並ぶと前の人が出した水飛沫が邪魔になるからだ。
「この辺り凄い綺麗! 普通に魚いるし!」
ある程度、泳いだ所でみーこが止まって海の中を観察し始める。彼女が指差す先には小魚の群れがあった。
「おー、はっきり見えるなぁ。やっぱり水の透明度が違うよな」
「あっちには縞々な魚もいるわ。名前は分からないけど」
弥勒は海の綺麗さに感動する。彼らが住んでいる場所から海まで一時間もあれば行ける。しかしそこで見れる海はこことは比べ物にならないほど汚い。
彼らの住んでいる海を汚している原因として大きいのは生活用水、そして工業用排水である。またそれ以外にもオキナワにはサンゴ礁があったり、プランクトンの量など様々な原因がある。
「(でもこんな海を見ちゃうと神様とやらが怒るのも無理は無いよなー)」
弥勒は『やみやみマジカル★ガールズ』の世界設定を思い出す。天使がこの世界に出現した理由は破壊されていく地球の環境を神様が守るためとされている。地球を汚して行く人類に見切りをつけたという訳だ。
そしてこの綺麗な海を見るとその理由にも納得としてしまう。だからといって天使たちの破壊行為を見逃す訳では無いのだが。
「どったの? ボーッとして」
「いや見惚れてた」
「アタシに?」
「海に」
「海かーい!」
海を黙って見つめている弥勒を見たみーこが心配してくる。そして見事なボケをかましてくれた。弥勒たちはそれに笑う。
「あ、こんな所にいた!」
「ちわっす!」
そうして海の中を観察していると近くにアオイと凛子がやってくる。彼女たちもある程度泳いで落ち着いたのだろう。
「愛花ちゃんたちはいないっすか?」
「多分、浅瀬で水鉄砲で遊んでるぞ」
「水鉄砲! アタシはそっちに行くっす!」
凛子は愛花たちが浅瀬で遊んでいると聞いてそちらに興味を示す。そしてクロールの綺麗なフォームであっという間に浅瀬の方まで行ってしまった。
「弥勒くんたちは何やってるの?」
「海が綺麗だから観察中。魚とかいっぱいいるし」
「確かに! さっきあっちにウミヘビもいたよ!」
「こわっ!」
笑顔でウミヘビの居場所を教えてくるアオイに弥勒は驚く。するとそれを聞いていたみーこが会話に参加してくる。
「てかウミヘビって蛇? それとも魚系?」
「えーと、どっちもいるんだよ! 爬虫類のウミヘビと魚類のウミヘビがいるの。それで毒を持ってるのは爬虫類の方なんだよ!」
みーこの質問に生き物が好きなアオイが解説する。彼女はこの旅行のために事前にオキナワで出会える生物について色々調べていたのだ。
この地域にいる生き物は本土では出会えない生物も多い。そのため彼女としては普段目にできない生き物を観察するというのも、今回の旅行の楽しみの一つであった。そして海で実際に泳いでいるウミヘビを見れて大満足なのである。
「へー、魚類の方のウミヘビは毒無いんだ」
「まー、鋭い歯は生えてたりするから要注意ではあるけどね」
「見分け方とかあるのかしら?」
「海の中で判別するのはあたしたちみたいな素人には難しいと思うよ」
ウミヘビは怖いものとしか思っていなかった弥勒たちも彼女の解説を聞いて納得する。
「ただウミヘビは臆病だからこっちから刺激しなきゃあんまり噛まれる事もないよ。見つけても近づかなきゃ大丈夫!」
「気付かないで近づいちゃったら?」
「あはは……」
「やっぱ怖いじゃん!」
みーこの質問に苦笑いで返すアオイ。それにみーこは慌てる。
「オキナワの海には危険な生物がいっぱいいるから気をつけないとね。カツオノエボシとかゴマモンガラとかシロガヤとか!」
「なんか急に海から上がりたくなって来たし……」
「奇遇ね。ワタシもよ」
アオイから海に潜む危険な生物について聞いて怖くなる二人。急に周りにいる生物全てが敵のように見えて来てしまう。
「こればっかりは気を付けるしかないな。最悪はメリーガーネットの力で何とかなるかもしれんが」
「そ、それもそうね。ワタシの力があるから大丈夫よ」
とりあえず生き物には気を付けよう、という結論になったメンバーたち。あまり気にしすぎていてはせっかくの海を楽しむ事は出来ない。未知の生き物などにはあまり近付かないようにしていれば概ね問題はないのだ。
「みんな、あっちには大きな魚いるよ!」
「おー、尾ビレが黄色っぽいな。いかにも南国の魚って感じだ」
「確かに。なんていう魚なのかしら?」
「教えて、アオイせんせーい!」
「オビレキイロイウオ」
「絶対嘘だし! 名前、知らないんでしょ⁉︎」
「てへへ、バレたか」
アオイがオキナワにいる生き物を勉強したといっても全ての種類を覚えた訳ではない。特に魚は判別が難しいものも多いため、彼女としてもざっくりネットで画像を見た程度である。そのため知らない魚も多い。
「まぁ良いんじゃない? あれは今日からオビレキイロイウオよ」
「名付けゲームだね! ならあっちはみーこちゃんが名付けて!」
突如として始まった魚の名付けゲーム。アオイが指差したのはさっき麗奈が見つけた縞々の魚である。
「えーと、シマウマモドキ! という訳で麗奈、あの魚は?」
次はみーこがサンゴ礁のところに集まっている青っぽい魚を指差す。
「そうね。カクレアオイミ! はい、最後は弥勒ね。あれは?」
麗奈が答えて、次に弥勒を指名する。しかし彼女が指差したのはただの岩だった。よく目を凝らしても何の生物もいない。最後にして最大の問題が来た事に焦る弥勒。
「た、タダイワデカイ」
「「「あははは! っぽい!」」」
弥勒の命名に笑い合う麗奈たち。こうして午後は海を満喫する弥勒たちであった。




