第百九十八話 オキナワそのに
「ポテトうまうま」
みーこは自分のハンバーガーを食べ終えた後、ちまちまとフライドポテトをつまんでいた。
「そんなにポテトばっかり食べてると太るわよ?」
そんなみーこを見て忠告する麗奈。彼女は自分のタコライスを食べた後は飲み物を口にするだけだった。彼女は読者モデルをやっているだけあって食事には気をつけていた。
「こういう時は気にせず食べた方が身体に良いし〜」
「ぐぬぬ……」
しかしみーこの方は彼女の忠告をスルーする。スルーされた麗奈は悔しそうな表情をしている。
「これも食べて良いっすか⁉︎」
「ふふ、たくさんありますから遠慮しないで食べて下さいね」
そんなやり取りをしている一方で凛子は五つ目のハンバーガーへと手を伸ばす。口元にはソースが付いているが誰もそれを気にしてはいない。小舟は凄い勢いでハンバーガーを食べている凛子を心配そうな様子で見つめている。
「そんなに食べて大丈夫なの……?」
「全然大丈夫!」
「あはは、凛子ちゃんは試合前もガッツリ食べる食べるタイプだから。そんなに気にしないで大丈夫じゃない?」
凛子はつい先日、弥勒と会った時も試合前だというのにハンバーガーを大量に食べていた。愛花の言っている事に間違いはないだろう。
「ねぇねぇ、それよりご飯の後はどうする? やっぱり海⁉︎」
隣に座っているアオイがキラキラした瞳で問いかけて来る。もう海で遊ぶのが待ちきれないのだろう。彼女は先ほどからずっとそわそわしている。
「そうだな。やっぱり海で遊びたいよな」
弥勒は別荘の前に広がっていたプライベートビーチを思い浮かべる。あんな贅沢な場所で遊べる事などそうそう無いだろう。
「ならこの後は皆で海だー!」
「「おー!」」「お、おー……」
アオイの言葉に応えたのは愛花と凛子だ。続いて小舟も控え目に応じる。中学生組は純粋に海を楽しみにしている様だった。
「とうとうアタシの水着姿を見せる時が来たかッ!」
「ワタシの水着で弥勒が即落ちしないか心配ね」
別のことで盛り上がっている者たちもいる。彼女たちの目的は海で遊ぶことではなく、弥勒にアピールすることのようだった。
「ならその前に皆にビーサン配るか」
「あ、そうだったね! あたしたちが買い出しに行ったんだ〜!」
弥勒はビーチへ行く前にビーチサンダルを全員に渡す事にした。海が楽しみすぎてアオイはその存在をすっかり忘れていたようたが。
リビングの近くに置いておいた荷物から弥勒はビーチサンダルを取り出し皆へと見せる。
「デザインは同じで全員色違いになってるから。麗奈がレッド、みーこがグリーン、ツキちゃん先輩がイエロー、エリス先輩がパープル」
「可愛いわね」「さんくす!」「感謝するわ」「わぁ! 可愛いです!」
まず呼ばれたメンバーが指定された色のサンダルを取っていく。ちなみに弥勒とアオイは先に自分の分を避けて置いてある。
「愛花ちゃんがピンク、小舟ちゃんがライトブルー、凛子ちゃんがライム。そして桐葉さんがワインレッドです」
「やったー!」「可愛いです」「皆とお揃いっす!」「あら、私の分までわざわざありがとう」
次に中学生組と桐葉へとビーチサンダルを渡す。彼女たちも嬉しそうに自分のカラーを取っていく。
「それであたしがブルーで、弥勒くんがグレー!」
最後にドヤ顔でアオイが自分たちのカラーも報告する。
それから弥勒たちは食事を終えて一旦解散となった。この後はそれぞれ水着を着てビーチで集合する事となった。
弥勒も自分の部屋へと戻り水着へと着替える。みーこと一緒に買いに行った水着だ。白い生地に紺色でペイズリー柄が描かれている海パン。ビーチ用の薄手の白いパーカー。そしておまけのサンサングラスはとりあえず胸ポケットに引っ掛けておく。
それから弥勒はお手伝いさんに聞いてビーチパラソルとアウトドア用チェアが置いてある物置へと向かう。鍵を開けてもらい、ビーチパラソルとチェアを纏めて手に持つ。
「わっ、凄い力持ちなんですね!」
「あはは、パワー要員なんで」
弥勒が何人分もある荷物を軽々と持ち上げたのを見てお手伝いの女性が驚く。それに内心やり過ぎたかも、と思いながらも軽く流す。
大量の荷物を持って小道を通ってプライベートビーチまでゆっくり下っていく。すでにビーチサンダルに履き替えてしまったためやや歩き辛かったが、特に転ぶ様なことは無かった。
ビーチに着いた弥勒は持って来たパラソルの設置をしていく。そしてその近くにチェアを並べる。
「こんなもんか?」
設置が完了したビーチパラソルたちを見て彼は大丈夫そうだと判断する。そしてとりあえずそのうちの一つに腰掛ける。
「……」
とりあえず無言でサングラスを掛けてみる弥勒。聞こえて来る波の音と心地よい風に彼は心が落ち着くのを感じる。サングラス越しに見る海は壮大でありながらもどこか寂しさを纏っていた。
「(癒されるわ〜)」
そうして寛いでいると遠くから足音が近づいて来るのが分かる。足音からして人数は二人だろう。弥勒はそちら側を振り向く。
「二番乗り!」
「どうかしら?」
まずやって来たのはアオイと麗奈であった。アオイはワンピースタイプの水着を着ていた。白と水色で花柄のデザインだ。彼女の可愛らしさがしっかりと前面に出ている。
麗奈の方はビキニタイプの水着を着ている。ボトムがショートパンツになっているのが特徴だ。上は赤一色で、下は赤、黒、白のマーブル模様となっている。
二人のその姿に弥勒は思わず見惚れる。そして黙ったままでいるのも悪いと思い感想を言う。
「アオイらしくて可愛い水着だな。麗奈の方はモデルだけあって綺麗に着こなしてるし」
「やった、褒められた!」
「ふふん、当然よね」
褒められた二人は喜ぶ。それから弥勒の水着を見て二人とも顔を赤くする。
「そ、そういうあんたも中々……か、カッコいいんじゃない?」
「うー、カメラ持って来るの忘れたよ……せっかくのお宝チャンスが……」
「ありがとう」
弥勒はとりあえずお礼を言う。それからすぐに今度は中学生組と桐葉がやってくる。こちらは三人でわいわいと楽しそうにお喋りしながら小道を下ってくる。
「お待たせしましたー!」
「海だー!」
「すごい……綺麗……!」
愛花はカラーが麗奈と似ているが、ワンピースタイプの水着を着ている。元気に叫んでいる凛子はシンプルな緑と白のチェック柄のビキニを着ている。小舟はフリルのついた白いワンピースタイプの水着を着ている。
そして桐葉はキャメルのモノキニタイプの水着を着ている。露出こそ多くないものの大人の色気が出ている。それの上に弥勒と同じ様に薄手のパーカーを羽織っている。
「三人とも水着似合ってるね」
「ありがとうございます! 先輩もカッコイイです!」
「弥勒先輩、筋肉凄いな! 触りたいっす!」
「はわわ……あ、ありがとうございます……」
彼女たちも三者三様のリアクションをする。そして凛子は弥勒の許可を待たずして、彼の腹筋をペタペタと触り始める。
「おぉ……! 凄いっす……」
「確かにこれは中々だね……」
そうしているとしれっと愛花も弥勒の腹筋を触り始める。二人で感想を述べている。そんな様子を見ていた桐葉が口を開く。
「かなり身体を鍛えているのね」
「習慣と良いますか……ある程度、運動しないと落ち着かないんですね」
「身体を鍛えるのは良い事だわ」
桐葉はそれだけ言ってチェアに座る。そして持って来た飲み物をビーチパラソルに付いているテーブルにセットする。彼女はここで弥勒たちを見守るようだった。
「あと来てないのは月音先輩とエリス先輩、みーこちゃんだけだね!」
いつの間に横にいたアオイがそう発言する。彼女は全員揃うまで海に入るつもりは無いのだろう。そう言った所は意外と協調性がある。それは彼女が運動部に所属しているというのが大きいのかもしれない。運動部は縦社会である。そのため自然と先輩である二人を待つ態勢となっているのだろう。
「すいません、お待たせしました〜」
「……暑いわね」
「真打ち登場って感じ!」
そして最後のエリスと月音、みーこがビーチへとやって来るのだった。




