第百九十七話 オキナワそのいち
「うーみーだー!」
アオイが大きな声でビーチに向かって叫ぶ。両手をあげて元気が有り余ってる様子だった。
「やっほーい!」
アオイに続いて今度は凛子が叫ぶ。こちらも笑顔で楽しそうな様子である。この二人には及ばないものの、他のメンバーも同じ様な表情をしていた。
弥勒たちは日曜日になり、オキナワへとやって来ていた。午前八時に集合して羽根田空港から飛行機に乗り、オキナワへと到着。そこから更に別の飛行機に乗りエリスの別荘があるこの島へとやって来た。
海のすぐそばにある小高い丘に別荘は建てられていた。家の前にはプライベートビーチへと繋がる小道があり、そちらを下っていくと綺麗な海へと辿り着く。
別荘は白を基調とした作りで、一階部分には海が見渡せる様に一面ガラス張りとなっている。
「はいはい、気持ちは分かるけどまずは荷物を中に運びましょ」
海に気を取られているメンバーに手を叩いてやるべき事を促す一人の女性。背は160cmを超えているだろう。スラっとした細身の体格で、落ち着いた雰囲気が出ている。目鼻立ちははっきりとしており、意志の強そうな眼をしている。そしてやや茶色味がかった髪を後ろの低い位置で纏めている。いわゆるシニヨンと呼ばれる髪型である。
彼女が麗奈と愛花の母親である姫乃木桐葉だった。今回の旅行の引率を引き受けてくれた人物である。
「「はーい!」」
彼女の指示に従って海に見惚れていたメンバーたちも動き出す。持ってきた荷物をそれぞれ別荘へと運び込む。今回の旅行は女の子ばかりのため荷物は多くなっている。弥勒も積極的に協力して荷物を運び入れて行く。
弥勒の荷物は申し訳程度に入れているバックパック一つである。ほとんどの荷物はアイテムボックスへと収納されている。
もし引率の桐葉やルーホン家のお手伝いさんなどがいなければ魔法少女たちの荷物も一度、アイテムボックスに収納して運んでいただろう。
別荘の中に入ると、正面は外からも見えた一面ガラス張りのリビングへと繋がっていた。十人くらいが座れそうなL字型の大きなソファ、壁には巨大なテレビが設置されている。反対側の壁には数枚の絵画が飾られている。弥勒には審美眼が無いため、よく分からないが恐らく高い価値があるものだろうと推測する。
「うわ、すっご……」
隣に立っていた麗奈もいかにも金持ちの別荘といった雰囲気のリビングに驚きの声をあげる。
「それではまず皆さんのお部屋へとご案内致します」
ここまで一緒にやってきたお手伝いの女性が頭を下げて、弥勒たちを部屋へと案内する。部屋割りはすでに決められており、弥勒は一人部屋で一番小さい部屋を割り当てられている。
そして愛花、小舟、凛子で一部屋。エリス、月音、みーこ、アオイ、麗奈で一部屋。桐葉とお手伝いさんたち数名で一部屋となっている。
エリスは自分の部屋が別に存在している様だが、今回はみんなとお泊まりがしたいという事で麗奈たちと同じ部屋となっている。
弥勒は案内された自分の部屋に持ってきたバックパックを置いておく。そしてすぐにリビングへと戻る。するとまだそこには誰もいなかった。
「えーと……」
目の前には大きなソファがあるものの、勝手に寛いで良いものか弥勒は迷う。そのためリビングで棒立ち状態となっている。
「みろーくん、そんな所でどうしたんですか?」
すると一番初めにエリスがリビングへとやって来る。彼女はこの別荘にも慣れているため荷物を置いてすぐにこちらへやって来たのだろう。
「いや……座って良いですか?」
「? ソファは座るためにあるんですよ?」
弥勒が別荘の大きさにビビっているという事に気付いていないエリスは首を傾げながら答える。何故そんな事を聞いて来るのか分からないといった表情をしている。
「ですよね。座ります」
弥勒はエリスのリアクションを見て苦笑いする。そして必要も無いのに座る宣言をしてからソファへと腰掛ける。
「うお、なんか凄い柔らかいソファですね」
「ふふ、お父様がゆっくり寛げるソファが良いという事で素材にこだわって作ったものなんですよ」
弥勒は座った瞬間に身体が優しく包まれるのを感じた。その柔らかさに思わず感想を口に出してしまう。するとエリスがソファの解説をしてくれる。
「へー、とりあえず高そうなソファって事は分かりました。というかここは海も見えて絶景ですね」
弥勒の前には壮大な海が広がっている。今回の旅行は幸いにも天気に恵まれた。天気予報で確認する限りは台風や大雨などが降る気配は無かった。
「そうですねー、何だかぽわーんとした気持ちになっちゃいますねー」
エリスもソファに座って海を見る。のんびりした口調になっているのは寛いでいるからだろう。
「ワタシも寛ぐわ!」
そう言ってやって来たのは麗奈だった。彼女もエリスの横に座る。弥勒と違ってソファにビビっている様子は無かった。先に二人が座っていたからかもしれないが。
「うわ、高級感が凄いわね」
そして弥勒と同じ様な感想を漏らす麗奈。それにはエリスも微笑んでいる。そして少し寛いだ後にエリスが口を開く。
「お二人はこの後はどうされます? 海へ行きますか?」
「うーん、お腹も減ったしまずはご飯かしらね」
時刻はお昼を回ったところであった。そのため麗奈も弥勒もお腹が空いていた。特に今日は早起きだったため尚更だ。
「でしたらお料理を取り寄せましょうか」
「それがいいかもな」
弥勒たちがこの後の方針を決めると続々と部屋からリビングへと少女たちがやって来る。そして全員が揃ったところで、これから食事をする事を伝える。
「やったー! あたしもうお腹ぺこぺこだよ」
「私も! どんな料理があるのかな?」
「アタシとしてはハンバーガーとか食べたいっす!」
「凛子ちゃんはハンバーガー好きだもんね」
「こっちはハンバーガーも有名っすからね!」
ご飯の話でそれぞれが盛り上がる。女の子が八人もいるため、かなり賑やかな感じとなっている。弥勒としては男が自分一人だけなので若干の居心地の悪さを感じている。特に羽根田空港では女性の集団に弥勒が一人混じっているような形だったので周りからの注目が凄かった。しかもその少女たちはタイプが違えど全員美少女だ。目立つなと言う方が難しいだろう。
「ではお昼はタコライスとかハンバーガーにしましょうか」
「オキナワって感じだしさんせーい!」
「コーラに合う料理だから問題ないわ」
今回は凛子の意見が採用されてタコライスとハンバーガーとなった。お手伝いさんが近くの料理店へと注文してデリバリーを頼む。
「月音先輩ってコーラが好きなんすか?」
「ええ、一番好きよ」
「おぉ! 同志っす! アタシはコーラを飲むと元気が出るんで家に常にストックしてるっす!」
「あなた、なかなか見どころあるわね」
月音と凛子の間にコーラを通した友情が生まれる。どうやら凛子もコーラ好きだった様だ。彼女が月一くらいでハンバーガーを大量に食べているのを知っている弥勒としてはその話に納得する。
ただ月音のコーラ愛はかなり深いので、凛子がどこまで着いていけるかは謎である。
「ママもタコライスとかで良かったの?」
その脇では愛花が母親にランチメニューが自分たちと同じもので良かったのか確認している。すると桐葉はくすりと微笑む。
「もちろんよ。タコライス美味しいじゃない? それにせっかくオキナワに来てるのだし、その地の味を楽しむっていうのは大切な事よ」
「なら良かった。ママがタコライス食べてる所なんて見た事無いから食べられないのかと思ってた!」
「貴女じゃないんだから、好き嫌いなんてしないわよ」
「うぐっ……」
母親がタコライスを食べられか心配していた愛花は逆に桐葉からカウンターを喰らう。愛花はそれそなりに好き嫌いがあるのだろう。
「みなさん、とっても楽しそうで良いですね!」
「ああ、エリスのお陰だな。ありがとう」
弥勒とエリスはそんな様子を見ながら料理が届くのを待つ。そして賑やかな雰囲気にようやく自分たちがオキナワへとやって来たのを実感するのだった。




