第百九十五話 ビーチサンダル
弥勒は日曜日からオキナワへ行くためにビーチサンダルを買いに行く事にした。魔法少女たちに加えて、中学生組の分も購入する必要がある。しかもカラーを別々のものを探さないといけない。
エリスとの話し合いで安請け合いしたが、意外にも大変だと言う事に後から気づいた弥勒。しかし請け負った以上、投げ出す訳にはいかない。そこで弥勒は大町田駅に来ていた。
「おーい、弥勒くーん!」
そして改札近くで立っている弥勒に声が掛けられる。彼がそちらを振り返るとそこにいたのはアオイだった。彼女は嬉しそうな表情で弥勒の方へと駆け寄ってくる。
「悪いな、急に呼び出して」
「ううん、誘ってくれて嬉しかった! それで皆のビーチサンダル買いに行くんだっけ?」
購入するビーチサンダルは九人分となる。もし麗奈の母親にも買うとすると十人分必要となる。一人で探すよりも誰かと一緒の方が良いと判断して弥勒はアオイを誘ったのだった。
前日の晩という急な誘いだったにも関わらず彼女は弥勒からの依頼を快諾した。弥勒は今までこういった買い物に女性を誘う事は少なかった。その事をアオイも理解していたため今回の誘いに飛びついてきたのだろう。
「ああ。せっかくだしメンバー全員分のビーサンを買った方がイベントっぽくて良いだろ?」
「確かにね。でもそれ絶対エリス先輩発案でしょ」
弥勒の話を聞いて、アオイはすぐに今回の件がエリスの発案だと気付く。
「その通り」
「あはは! エリス先輩らしいね! でも今回は旅費とか全部先輩持ちだし、あたしたちもそれくらいは頑張らないとね」
自分の考えが合っていると分かるとアオイは笑う。エリスがお揃いのビーチサンダルを欲しがっている姿が想像ついたのだろう。
「だな。という訳でカラーラインナップが豊富な店を探すのが今日のテーマだ!」
「おー!」
「んで、どこ行けば良いと思う?」
「いきなり丸投げ⁉︎ 弥勒くんももう少し考えてよ」
お店の選択をいきなりアオイに丸投げする弥勒に彼女はツッコミを入れる。
「とりあえず大きい商業施設を回れば良いか。百貨店は高いから除くとして」
「うん! なら近場から見てみようよ」
百貨店の商品は安いものでも弥勒たちの買える範疇にない。そのため最初から除外する。そしてまずは一番近くにある商業施設から調べていく事にした二人。
改札前から離れてすぐの所にある商業施設へと入る。ここは以前、みーこと弥勒が水着を買いに来た場所とは別の所である。そして案内板が設置されている場所を探す。
「うーん、可能性があるとしたらスポーツ系の売場かなぁ」
「だったら四階だな。行ってみよう」
二人はビーチサンダルがスポーツ売場に置いてあるだろうと推測する。この時期になってくるとスポーツショップでもマリンスポーツなどの商品を多く取り扱う。その中にビーチサンダルも混じっているのではないかという考えだ。
二人はエスカレーターに乗って四階へと向かう。アオイが先に乗って、弥勒が後ろだ。そして四階で降りてスポーツショップへと入る。
「この辺りかな。水着とか置いてあるし」
「このマネキンはビーサン履いてるけどな。値段は書いてないか……」
弥勒が見つけたマネキンは海パンを履いてサーフボードを手に持っていた。そしてビーチサンダルを履いている。しかしそこに値段のプレートは付いていなかった。
「あ、見て! ここに置いてあるよ!」
するとアオイがビーチサンダルを置いてある場所を見つける。隅にある棚に陳列されていた。しかしその数は思ったよりも少ない。
「これじゃあ全員分のカラーは無さそうだな」
「だね〜。一番多いので四パターンだけだね」
ビーチサンダル自体はあったもののバリエーションが少なかったために、ここでの購入は諦める。そして次の商業施設へと向かう。
次はもう少し先にいった所にある商業施設だ。こちらは以前、みーこと一緒に来たガシャポンなどのショップがある施設である。二人は先ほどと同じ様にスポーツショップへと向かう。
しかしこちらも全員分のビーチサンダルを買うほどの種類は無かった。弥勒とアオイは次の商業施設へと向かう。
「百貨店を除いたらここが一番大きいかな?」
「だな。ここで無かったら後は商店街側になる」
二人はその施設へと入ってスポーツショップを目指す。エレベーターで六階へと向かう。
「ここ広いね!」
フロアに入ってアオイがまず思ったのは商品量が他のお店に比べて豊富という事だった。そして右側に「夏特集!」というポスターが貼ってあるのに気付く。
「こっちみたい」
「夏特集って書いてあるな」
アオイに言われて弥勒もそのコーナーに気付いた。こちらも最初の商業施設と同様にマネキンがサーフボードを持っている。違いがあるとすれば、こちらはサングラスを掛けているというくらいだろう。
「お、ここにたくさん置いてあるぞ!」
「ほんとに⁉︎」
弥勒がビーチサンダルを置いてあるコーナーを見つける。そこにはシンプルなデザインで二十色くらいのビーチサンダルが置いてあった。
「凄いカラバリあるよ! しかも本体と鼻緒のカラーが選べるようになってるみたい!」
「へー、良いじゃん」
本体と鼻緒のカラーを選んで購入するタイプのビーチサンダルだった様だ。そのため二人はまず本体のカラーの確認から始める。
「弥勒くんのグレーに、あたしのブルー、レッド、グリーン、イエロー、パープルはあるね」
「愛花ちゃんたちのピンク、ライムもあるな。小舟ちゃんにはライトブルーかな」
「その流れで行くと麗奈ちゃんのお母さんはワインレッドだね!」
娘二人がレッドとピンクで母親がワインレッドならピッタリだろう。麗奈の母親には会ったこと無いが、そんな気がする弥勒だった。
「あとは鼻緒のカラーか」
「みんなバラバラにしちゃうと、せっかくのお揃い感が無くなっちゃうよね」
鼻緒のカラーをバラバラにしてしまうと統一感が無くなってしまう。そうなればエリスの希望しているお揃いのイメージにはならないだろう。
「なら魔法少女は黒、中学生組は白にしたらどうだ?」
「それならバランス良いかも! でもそうすると弥勒くんと麗奈ちゃんのお母さんはどうするの?」
「うーん、俺と麗奈のお母さんも白だと人数的なバランス良いと思うんだが」
魔法少女は五人、中学生組は三人である。残っている弥勒と麗奈の母親を白にすれば全体のバランスは良くなる。しかし弥勒のその言葉にアオイが難しそうな顔をする。
「うーん、弥勒くんも白かぁ……」
「変か?」
「それなら全員白の方が良いかも。もしくは全員黒!」
アオイとしては鼻緒の色を弥勒とお揃いにしたい様だった。しかしこれはアオイだけの希望では無い。恐らく魔法少女全員が同じ考えだろう。弥勒としてはそれが何となく分かっていたので内心で「やっぱりダメだったか」と思う。
「あ、これはどう⁉︎ レインボーな鼻緒!」
七色に編まれた鼻緒を弥勒へと見せてくるアオイ。しかしこれを付けてしまえば弥勒一人だけ浮いてしまう形となるだろう。
「いやー、それは流石に変じゃないか? それだったら全員白にするか」
「そうだね。その方がシンプルかも」
結局、中途半端に色を分けるよりも一色にした方が統一感が出るという結論になる。そして全員白にしておけば魔法少女たちから文句も出ない。
「一人1,500円で全部で十人だから15,000円だね。とりあえず分けて出そうか」
「そうだな。他のメンバーには後から請求しよう」
今回の支払いは一時的に弥勒たちが建て替えることになる。そして後日、他のメンバーに請求という形だ。
「エリス先輩は旅費を全額持ってくれてるのに、私たちは安いビーサンを割り勘って……」
「言うな。俺らみたいなバイトしてない組にとって1,500円も大金だから!」
「だよね……うぅ、旅行もあるし部活後の買い食いは少し控えないと……」
弥勒たちにとっては初めて経済格差というのを感じた夏となった。二人は十人分のビーチサンダルを持って会計へと向かうのだった。




