第百九十四話 準備
スマホでバイト探しをしているとチャットが入る。送り主はエリスからだった。ただ弥勒個人宛てではなく全員が見れるグループチャットに送られてきていた。
『みなさーん、海へ行く日が決まりましたよ〜!』
読んでみるとどうやらオキナワに行く日が決まったらしい。行くメンバーについてはエリスからすでに報告を受けていた。
参加メンバーは魔法少女たちに加えて愛女にいる中学生組三人、そして麗奈の母親だった。弥勒たちは全員未成年である。いくらエリスの家のお手伝いさんなどがいるといっても彼らだけで行動させるのは常識的に考えて難しい。
そこで保護者を一人同行させた方が良いという話となったのだ。その中で麗奈の母親が選ばれた理由は麗奈と愛花の二人がいるためだ。魔法少女側、中学生側のどちらの保護者も納得しやすいポジションだった。
『やったー! オキナワオキナワ!』
『いえーい! 準備バッチリ!』
エリスからのチャットでアオイとみーこのテンションが上がっている。この二人はお互いいがみ合っているが、思考はどこか似ているのだろう。
『ズバリ8月1日〜8月4日です!』
弥勒はスマホのカレンダーを出して日付を確認する。8月1日は次の日曜日である。思っていたよりもすぐに海へ行く日がやって来るだろう。
しかしそれも当然だろう。8月の中盤にはお盆がある。後半になってくればクラゲが出て来る可能性も大きい。そういったバランスを考えるとこの時期に行っておくのがベストだろう。
『水着を買わないといけないわね』
『ならわたくしが作りましょうか⁉︎』
『いいわ、ネットでポチるから』
月音はまだ海へ行く準備をしていなかったのだろう。これから水着を買う様だった。そこになんでも作りたがりのエリスが乗っかろうとするが、あっさり撃沈する。月音はお得意のネット通販で購入する様だった。
「サイズとか大丈夫なのか……?」
ネット通販で服を買う時に問題なのがサイズである。ネットで買ってみたらサイズが自分と全然合わなかったなんて事は誰でも一度は経験があるだろう。
もし月音がネットで頼んでサイズが合わない商品が届いた場合、オキナワに行くまでに水着が間に合わない可能性もある。
「まぁ向こうでも水着くらいは売ってるか」
月音が大きなポカをやらかすとは思えないので、弥勒としてもあまり気にしすぎない様にする。
『空港に集合で大丈夫ですか?』
『はい! 午前8時に羽根田空港に集合でお願いします。第一ターミナルの方なので、場所を間違えない様にご注意下さい!』
弥勒の質問に対してエリスが答える。どうやら第一ターミナルを使う様だった。羽根田空港はターミナルが第一から第三まである。万が一、集合場所を間違えてしまうと面倒な事となる。
『おっけーです!』
『りょーかいでっす!』
『愛花たちにも伝えておきます』
『わかりました。ありがとうございます』
エリスからの詳細な連絡に各々が返事する。弥勒も返事をしておく。そしてチャットのページを閉じて、電車の乗換案内アプリを起動する。そして鴇川から羽根田空港までの行き方と時間を調べる。
「うーん、楽なのは横濱まで出る行き方か。時間は6時半前の電車に乗らないといけないのか」
午前8時に羽根田空港に着く行き方を見て、朝起きれるか少し不安になる弥勒。万が一、寝過ごせば大変な事になるだろう。
「荷物はこれで良いか」
とりあえず弥勒は部屋に置いてあったリュックを手に取る。彼はアイテムボックスが使える。そのためカバンを持つのはフェイクである。遠出するのに手ぶらだと変だからだ。
リュックは決まったので、あとは必要なものをアイテムボックスに入れておくだけだ。もちろんリュックの方も空にはせず、最低限の荷物を入れておく様にする。
「やっぱりアイテムボックスってチートだよな」
大抵のゲームやライトノベルなどでは主人公がアイテムボックスを持っている事が多い。これを持っている事で主人公は冒険がしやすくなる。ある意味で主人公に必須のスキルと言えるだろう。
「みろくー! あんた宛てに荷物届いてるわよ!」
そうして旅行の準備をしていると母親から声が掛かる。どうやら弥勒宛てに荷物が届いている様だった。
「何も頼んだ覚えは無いんだけどな……」
ここ最近、ネット通販で何かを買った記憶は無い。そのため彼には何が届いたのか分からなかった。
部屋の扉を開けて階段を降りる。そして母親のいるリビングに顔を出す。弥勒としては荷物を受け取るついでにオキナワに行く日が決まった事を母親に伝えておきたかった。
「荷物ってどれ?」
「これよ」
母親から荷物を渡される。それは小さい小包みだった。差出人の名前を見てみると「姫乃木麗奈」と書いてあった。それに弥勒は驚く。
「(麗奈から……?)」
「女の子の名前っぽいけど、あんたの知り合いなの?」
「ああ、友達だ。ただ俺に何かを送ったとかって話は聞いてないんだけどなぁ」
つい先ほどまでグループチャットでも麗奈は発言していた。しかし荷物を弥勒宛てに送ったという話はしていなかった。それを不思議に思いながらも弥勒は送られてきた小包みを眺める。
「ふーん、女遊びはほどほどにしなさいよね。そうじゃないとその内痛い目を見るわよ?」
「いやそんな事してないから」
母親から釘を刺されるが、弥勒は女遊びという言葉を否定する。複数の女の子と近い距離なのは間違いないが、本人としては遊んでいるつもりは無かった。
「それよりも例の旅行、今週の日曜日から行く事になったから」
「ああ、前に行ってたオキナワの。旅費まで出してくれるとかとんでもないお嬢さんね。今度、きちんとお礼を言っておかないと。というかお礼を言うだけで足りるかしら……?」
母親は旅行に行く事自体よりも、エリスが旅費や宿泊先を用意している事に恐縮している様だった。
「とにかく、そのお嬢さんには失礼の無い様にね! あと引率する保護者の方の言う事をきちんと聞くのよ?」
「ああ、分かってるよ」
弥勒は母親からの注意にきちんと頷く。麗奈の母親と会った事は無いが、わざわざこんな引率を引き受けてくれたのだ。礼を持って接するべきだというのは彼にも分かっていた。
それから母親の小言をいくつか聞いてから弥勒は部屋へと戻る。そしてベッドに腰掛けて届いた小包みを開けてみる。
すると中かな出てきたのは銀色のブレスレットだった。あまり装飾などもされていないシンプルなブレスレットだ。
「何だこれ……?」
出てきたのがブレスレットという事で弥勒は首を傾げる。そしてよく見ると袋の中にメモ紙が同封されている事に気付く。彼はそれを手に取って読む。
『教祖必須アイテム』
とだけ短く書かれていた。弥勒には細かい事情が分からないが、どうやらセイバー教関連のアイテムらしかった。
「いらねー、不気味だわ……」
普通は女の子からアクセサリーを貰ったら喜ぶ所なのだが、弥勒は嫌そうな顔をしている。宗教関連のアイテムだと考えれば、彼がそんな表情をするのも納得だろう。
「とは言え無視をして付けないのもマズいか……?」
とりあえずゴミを捨ててブレスレットをアイテムボックスに入れる。もし身につけてないのが、麗奈にバレたらら色々と文句を言われるだろう。
またセイバー教には愛花たち中学生組三人も入信している。彼女たちは非常に良い子たちなのであまり悲しませたく無いと弥勒は思ってしまう。
「麗奈たちと会う時だけ付けておけば良いだろ」
弥勒はそう結論付ける。彼女たちと会う時だけ身につけるようにしておけば問題無いと判断した。
「あとは残りの荷物の準備をするか……」
弥勒は忘れないうちにグレーのパジャマもカバンに入れておく。これは以前のお泊まりパーティーの時にエリスが作ったものだ。今回の旅行でも皆で着用するという話になっていた。
「あ、そうだ。ビーサン買わないと……」
海に行くまでもう日数が無いという事で、ビーチサンダルを急いで買わないといけない。弥勒は明日はビーサン探しに行こうと決めるのだった。




