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ヤンデレ魔法少女を回避せよ!  作者: 広瀬小鉄
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第百九十一話 次の一手


「うーん、順調すぎて怖いわね」


 スマホを見ていた麗奈がそう呟く。その言葉にミートドリアを食べていた愛花が顔を上げる。


「何が順調なの?」


「救世主チャンネルの登録者数よ。霊型の大天使以降、順調に伸びていってるわ」


 愛花の質問に麗奈は答える。先日、エリスから来たチャットでオキナワへと二人は誘われた。そこで早速両親に許可を取って、水着を探しに街へとやって来ていたのだ。


 そして気に入った水着をそれぞれ見つける事ができたので、今はファミレスで少し遅めのお昼を食べている所だった。


「確かに。というか私たちに対するコメントにも信者っぽい人たちが増えてきてるし」


 変わったのは登録者の数だけでは無かった。今までのライブ配信などでは愛花と凛子の演じるメリーピーチとメリーライムに対して否定的な声が多かった。もしくは宗教的な動画に対する揶揄いなどが。


 しかし最近は二人に対する肯定的なコメントが増えていた。中には「お二人にも祈ってます」などといった明らかな信者らしき人物たちも出始めていた。


 今までは宗教系のネタ動画チャンネルといった雰囲気だったのが、宗教系動画チャンネルにグレードアップしつつあるのだ。麗奈はその早い展開に嬉しさと同時に僅かながらの恐怖も感じていた。


 もしここで大きなミスをやらかせば、大勢の一般人たちが敵に回りかねない。そうなると魔法少女やセイバーの社会的な立場が危うくなるかもしれない。彼女はそういった事を危惧していた。


「そろそろ次のステップに進むべきかしらね」


「次のステップってどうするの?」


「それは悩み中ね。メンバーシップとかにしてもいまいち特別な動画を配信する必要性も感じられないし」


 次のステップと言いつつも何をするか麗奈は決めあぐねていた。メンバーシップ限定の配信をするというのは手っ取り早い手段かもしれないが、配信する動画の内容が難しくなる。


 またメンバーシップは有料なコンテンツのため、金儲けに走ったと思われる可能性もある。特にメンバーシップに登録した人たちに満足のできるコンテンツを提供できなければ尚更だ。


「うーん、セイバーって治癒系の力って使えたんだっけ?」


「聞いた事ないわね。ただ魔法で使える可能性があるわ。あとワタシが使えるし」


 麗奈は植物をイメージした能力を使う。その中には魔力を供給したり、怪我を回復させる技が使えた。最も傷を癒す系の技はほとんど使った事がない。何故なら魔法少女たちもセイバーも基本的にはキズを負うことが少ないからだ。


「ならそれを実際に使ってみせるっていうのはどう? 怪しい宗教でよくある奇跡の力が〜ってやつ」


 熱々のミートドリアとの格闘を終えた愛花はグラスに入った水を飲む。そして口元の汚れを紙ナプキンで拭き取る。


「それって実際に信者を集めるって事よね? なかなか難しそうだけど。ワタシたちの身バレの可能性も増えるし」


 実際の魔法を見せるとなると信者たちと直接会う必要が出てくる。最近は映像技術の進歩が目覚ましいので、動画だと合成と思われる可能性が高い。


 ただし信者とは言え、不特定多数の人間と会うのは身バレのリスクが大きく跳ね上がる。また募集を掛けてやって来るのが、本当の信者だけとは限らない。


 中には面白半分の参加者や、新興宗教の反対派なども紛れ込む可能性は高い。そういった事を考えると直接、信者にアピールするというのは現実的では無かった。


「確かにそうかー……場所の確保も私たちだけで出来るとは思えないし……」


 人を集めるならどこかに場所を借りる必要がある。救世主チャンネルを運営しているメンバーは中学生と高校生だ。そのため場所を借りるにしても大人の手が必要となってくる。しかし現状、彼女たちの近くに事情を知っている大人はいない。つまり実際に人を集めるのは難しいという事だ。


「やっぱりグッズの販売かしら。オンラインで」


「オンラインでの販売なんてどうやるの?」


「えーと……それは小舟ちゃんが色々と頑張る……?」


「いやいや! 流石に小舟ちゃんだってそんな何でも出来る訳じゃないよ!」


 麗奈の杜撰な計画に愛花はツッコミを入れる。小舟は確かにPCスキルは高いが、何でも出来るという訳ではない。彼女の専門は3Dや動画の編集などだ。オンライン販売を構築する技術は持っていない。


「それならさ、共通のイメージを作るっていうのはどう?」


「どゆこと?」


 愛花の言葉に麗奈は首を傾げる。


「例えば信者は常に赤いアイテムを身につける様にしておきましょう、みたいな」


「なるほど、それで連帯感を出すのね。悪くないわね……確かにまずはその辺りが手堅いかしら」


 愛花の提案を聞いて麗奈も頷く。一番良いのはセイバーグッズの販売だが、未成年である彼女たちにはハードルが高い。また彼女たちはグッズを売って金儲けをしたいという気持ちも無い。純粋にセイバーを崇めて欲しいだけだ。


 その点でいったら信者たちで共通のイメージに合うアイテムを持つというのは理に適っている。信者たちの無理のない範囲で用意できる上に連帯感も高まる。


「なら決まり! 色はやっぱり赤?」


「そうしたい所だけど、セイバーのイメージカラーって赤じゃ無いのよね……セイバーが一番好きな色は赤なんだけど!」


 麗奈にとってセイバーのイメージは赤では無かった。彼はフォームを色々と持っているので、固定のイメージというのがあまり無かった。強いて言うならば基本のフォームである灰色だった。


 ただ弥勒のイメージが赤でないというだけで、一番好きな色は赤だというのを彼女は強調する。ここは魔法少女たちの意見が平行線になる所だろう。


「だとしたらグレー? ちょっと地味な気がするけど。まぁ色々なものに合わせやすいのはメリットかなぁ……」


「あ、それならシルバーはどうかしら?」


 愛花は自分がグレーのアイテムを持った時のことを想像する。そしてどんなアイテムでもグレーなら使いやすそうに感じた。しかしグレーだと特別感といったものはあまり感じられない。


 すると麗奈がシルバーを提案する。これならグレーに近い色でありながら派手さもある。そして何より弥勒が銀色を好きだと言っていたのを彼女は覚えていた。


「それなら良いかも! なら信者の人たちは銀色のアイテムを何か身につける事にしましょう、って今度の配信で伝えてみる!」


「ワタシたち用の銀色のアイテムも何か準備しないとね。愛花たちの3Dモデルの方にも」


 信者たちに銀色のアイテムを持たせようとしているのに、自分たちが持っていないのではな話にならない。そのため何を身につければ良いか考える。


「アバターの方は小舟ちゃんに相談してみる。私としてはペンケースが良いかなぁ」


「それならワタシは……鞄につけるチャームかしら?」


「いやお姉ちゃん、あれ以上増やすつもりなの……?」


 麗奈の鞄にはすでにセイバー人形が六体ついている。それぞれのフォームの分だ。一番新しい黄色はつい最近、完成したばかりだ。そのため彼女の鞄は非常にガチャガチャしたものとなっている。そこを更に増やそうとしている事に愛花がツッコミを入れる。


「うぐ……それもそうね。ならスマホカバーとかかしら?」


「良いんじゃない? どうせなら今から探しに行こうよ。私のペンケースとお姉ちゃんのスマホカバー」


「良いわね」


 二人は席を立ち上がって会計へと向かう。伝票は麗奈が持っている。そして愛花の分も麗奈が支払う。彼女は読者モデルとしての収入があるので、妹にご飯を奢るくらいは問題ない。


「ごちそうさま!」


「はいはい、ただしペンケース代は出さないからね」


 水着代も麗奈が出しているため、ペンケース代くらいは自分で出せと釘をさす。それに愛花も頷く。


「さすがにそれくらいは払えるから大丈夫!」


「おっけー! ならまずは駅前のビルから順番に回っていきましょう!」


 それから二人はペンケースとスマホカバー探しという事で大町田駅周辺を色々と散策するのだった。結果として余計な小物なども大量に購入して二人は帰宅するのだった。

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