第百八十八話 水着選び後編
「アタシの方はばっちりだった! よーし、みろくっちのも選ぶぞー!」
試着室から戻ってきたみーこは気合いを入れてそう宣言する。そしてまず店頭に置いてあるマネキンの水着から確認していく。
「最近はこういうボタニカル系の柄が人気っぽい。ただみろくっちに似合うかな?」
みーこはそう言ってボタニカル柄の水着を一着手に取って弥勒へと合わせる。そして首を傾げる。
「うーん、悪くは無いけど……普通?」
「いや普通で良いんだけど……」
弥勒としては奇抜なデザインを選ぶつもりは無いので普通の水着で良かった。しかしどうやらみーこにはこだわりがあるらしい。
「いやいやいや! ふんどしとかブーメランパンツはさすがに可哀想だから選ばないけど、普通の水着での妥協はダメ! みろくっちの格が下がるし!」
「いや俺の格って……そんなもん無いんだけど……」
「あるし! 変な水着にしたらファンが減るから!」
みーことしてはやはり譲れないラインがある様で、ボタニカル柄の水着を棚へと戻す。そこから順番に店内を見て行く。
「みろくっちがさっき見てたのはどれ?」
「これ」
弥勒はさっきまで見ていた夏らしい柄の海パンを指差す。それを見てみーこは渋い顔をする。
「うーん、中学生っぽい」
「まぁ……そう言われると……」
ヤシの木が描いてある柄は現在弥勒が持っている水着とデザインが似ている。そのためみーこの言う中学生っぽいというのは彼にも理解できた。
「ならこの黒いのは?」
次に弥勒が指差したのは黒い海パンで脇に青いラインが一本通っているものだ。これなら癖も無いし、自分にも似合うと弥勒は思った。
「うーん……よく言えば無難……」
「悪く言えば?」
「逃げ」
「審査が厳しすぎないか……?」
みーこの容赦ない発言に弥勒が苦言を呈する。しかし彼女の方はゆっくりと首を横に振る。
「あんま無難過ぎたら麗奈たちにふんどしで押し切られる可能性もあるし」
「なるほど。つまりそれなりに派手な柄にはしないといけないのか……」
「そゆこと。ま、アタシにドどーんと任せんしゃい!」
そう言ってみーこは自信満々に自分の胸を叩く。自分の選んだ水着なら他のメンバーに文句を言われることは無いという自信があるのだろう。彼女がそこまで言い切るので、弥勒は全面的にみーこに任せる事にする。
「ならどんなのが良いんだ?」
「うーん、例えばコレとかどうかな……」
そう言って今度は弥勒にエスニック柄の水着を取って合わせてくる。カラーはネイビーベースに白い模様となっている。そして真剣に弥勒の姿を眺める。
「あとはこっちか……」
次に彼女が手に取ったのはペイズリー柄の水着だ。こちらは白ベースでネイビーの模様となっている。それを先ほどと同じように弥勒に合わせてみる。そしてその二着を持ったまま店内をぐるりと見回す。
「だとすると……」
そう言って彼女は上着が置いてある場所に行く。みーこが真剣に考え込んでいる様なので弥勒は口を出さずに黙ってついて行く。そして彼女はラックに掛けてある上着を順番にチェックしていく。
「これかな……」
みーこが手に取ったのは白いパーカーだ。もちろん海辺で羽織るような薄いものである。それも一緒に持って今度はサングラスが置いてある場所へと向かう。そしてその内の一つを手に取る。
「よし! みろくっち、試着!」
「お、おう。これは二着とも試す感じか?」
「うむ」
そう言って手に持っていたセットを全て渡される。弥勒はとりあえずそれを持って試着室へと向かう。店員に許可を貰って試着スペースへと入る。
そして服を脱ぐ。とりあえず最初に見ていたエスニック柄の水着を履いてみる。ネイビーベースの生地に白色で柄が描かれている。それからパーカーを羽織る。一応、サングラスもしてみる。それから鏡で自分の姿を見る。
「結構、いかついかも……?」
普段かけないサングラスが弥勒の迫力を出すのに一役かっているといった感じだ。とりあえず試着室のカーテンを開けてみーこへと水着姿を見せる。
「おぉー! なかなか良き! ビーチにいるイケメンだ!」
「とってもお似合いです……」
みーこと隣に立っている女性の店員が弥勒の水着姿を褒める。弥勒としても褒められれば嫌な気持ちはしない。
「やっぱり腹筋が良いね!」
「上着を羽織る事で少し腹筋を見え辛くしてるところがポイントですね」
「ふふふ、さすが店員さんだね」
「いえいえ、お客様ほどでは」
何故か弥勒の水着姿で意気投合するみーこと店員の女性。彼女たちはどうやらパーカーの前から見える弥勒の腹筋が気に入っている様だ。
「よしっ、とりあえず次の奴も着てみて!」
「はいはい」
弥勒はみーこの言う通りにしてもう一着の方の水着を試着してみる。こちらは生地が白ベースで紺色のペイズリー柄が描かれている。一応、鏡の前でチェックしてから試着室のカーテンを開ける。
「うん! 良いね!」
「とってもお似合いです!」
みーこと店員は二人揃って弥勒の身体を上から下までチェックする。それに若干の居心地の悪さを覚えながらも彼は大人しくしている。
「やっぱりこっちかな?」
「そうですね。私もそう思います」
「ならこっちに決定!」
「これって上着とサングラスもセットで買うってことか……?」
「もち!」
弥勒の水着はビーチ用の白パーカー、サングラス、白地に紺のペイズリー柄海パンに決定した。弥勒としては海パンだけ買うつもりだったので、上着とサングラスは痛い出費となる。
「でもその分、バッチリ似合ってるから! それに少し派手でも海に行くとしたらエリス先輩の家が持ってるプライベートビーチになりそうだから悪目立ちはしないって」
「エリス先輩がそう言ってたのか?」
弥勒としてはお金を持っているからといって何でもエリスに頼るのはあまり良くないと考えていた。そのためみーこの発言が彼女からのものなのか、エリスからのものなのか確かめたかった。
「エリス先輩がプライベートビーチ持ってて、水着も作るとか言ってたから多分ノリノリで誘って来ると思う」
「ま、やっぱそんな感じか……」
みーこの説明に弥勒も納得する。そして水着セットを持って会計へと向かう。会計をしてくれたのはみーこと盛り上がっていた店員だ。
「ありがとうございました〜!」
店員に見送られてお店を出る。みーこはホクホク顔だが、弥勒は渋い顔をしている。
「(こりゃあマジでバイトしないとだな……)」
みーこには悟られないようにそう考える。バイトをすることについては魔法少女たちには黙っていようと考える弥勒。もしバレたら横やりが入る可能性もある。いずれはバレるだろうが、極力隠して行動するつもりだった。
「いやー、いい買い物したわ〜」
「俺もこれでふんどし回避だな」
二人でエスカレーターを降りて外へ出ようとする。すると一つ降りたところでみーこが立ち止まった。
「見て、たくさんガシャポンが置いてある!」
彼女が指差した先にあったのは大量のガシャポンの台であった。数十台は置いてあるだろう。
「ちょっと見てみるか」
「いえーい!」
弥勒も興味を引かれたので、そのフロアで降りてガシャポンを見て行く。定番のアニメのものから変わったフィギュアのシリーズまで色々と揃っていた。
「ねね、これ可愛い!」
「どんなチョイスだよ……」
みーこが気に入ったのは「寝ブタくん」と書いてあるブタのフィギュアだった。色んなポーズでブタが寝ているというものだ。
「俺はこれだな」
弥勒が気に入ったのは「俺様ペンギン」と書いてあるスタンプだった。強気な台詞を言っている皇帝ペンギンのキャラクターのスタンプである。
「亭主関白?」
「違うわ!」
「でもチャットのスタンプならともかく実際のスタンプってそうそう使わないよね」
「確かになぁ。でもブタのフィギュアの方が使い道無いだろ」
「これは机の上に飾っておくから良いんだし! 全部で七パターンかー。回そうかな」
結局何のガシャポンも回さなかったものの、色々と二人で見て回ってから帰宅するのだった。




