第百六十九話 作戦会議
「あ、店員さーん! このパフェくださーい!」
弥勒が愛花をフォローしている隣でみーこがパフェを頼む。するとそれを見ていた麗奈が悔しそうな表情をする。
「ぬぐぐ……我慢、我慢……昨日、たくさん食べたんだし……」
昨日、麗奈はテスト終わりに弥勒とスイーツ食べ放題に行っていた。そこで山ほどスイーツを食べたのだ。そして今朝、体重計に乗って後悔していた。そのためここでのデザートは我慢するつもりだった。
「こいつら話聞いてないし……」
「あはは……」
自由な二人に弥勒が呆れている。それを見て愛花も少し落ち込んだ状態から回復する。
「ま、でも人に大天使が取り憑いてる可能性がある訳じゃん。その最有力候補は大島日菜乃って子っぽいね」
パフェを注文し終えたみーこが話をまとめる。今回の霊型の大天使は降臨してまず大島日菜乃に取り憑いた。そこから知識を得て、弥勒達を愛女へ誘導する作戦を行った。そして彼らが愛女に注目している間に学校を休んで他の場所で勢力を広げていたという筋書きだ。
「そう考えると辻褄が合うな」
「怪しい人物としてはあとジャーナリストがいるけど?」
麗奈が大天使の憑依先として別の候補を上げる。それはここの所、大町田市の事件を調査していたジャーナリストである所沢穂波である。
「うーん、その線は無いんじゃないか……? 確か愛女で遭遇したんだよな?」
「そう。あの時はまじビビったし」
「その時にヒコが反応してないなら彼女が大天使に取り憑かれてるって可能性は無いだろ」
愛女にみーこ達が調査に行った際に、彼女たちは穂波と遭遇している。その時には月音が成分探知機を持っており、天使の存在を感知できるヒコもそばにいた。それで何も反応が無かったという事は彼女はシロだと言えるだろう。
「確か調査の日は幽霊騒動の被害者とは誰も会ってないんです。大島日菜乃ちゃんに大天使が取り憑いてても見逃した可能性は大きいです……」
あの日、穂波と予想外の遭遇をしたせいで調査は途中で打ち切りとなった。そのため被害者に直接話を聞けていないのだ。
しかし音楽室では吹奏楽部が部活中だった。そこに幽霊騒動の被害者がいた可能性が大きい。また職員室近くのお手洗いでも、その職員室に被害者の英語教師がいた可能性がある。そのどちらにもヒコも魔力感知機も反応しなかった。
そう考えると話に出てきていた幽霊騒動の被害者で調べられてないのはバレー部の大島日菜乃だけである。最も幽霊騒動の被害者は他にもいる上、本当に音楽室と職員室に被害者がいたかは不明のため確実な証拠とは言えない。ただ可能性としては無視できないものがある。
「ならまずは大島日菜乃って子を探そう。家の場所は知ってたりするか?」
「私は知らないですけど、友達で知ってる子がいるので聞いてみます!」
弥勒たちは大島日菜乃を最有力候補として調査する事を決める。愛花はさっそくスマホからチャットで友達に日菜乃の家の場所を確認する。
「つまり……どういう事でやんす?」
「大天使の居場所が分かったかもしれないって事だよ」
「な、何だってー! でやんす!」
話が複雑でついて行けてなかったヒコに弥勒がざっくりと結論だけ報告する。するとヒコは大袈裟なリアクションを取る。
「反応おそっ」
「ヒコに難しい話は無理みたいね」
「いいな〜、私もお姉ちゃんたちみたいにヒコちゃんの話が聞こえたら良いのに」
そんなヒコのリアクションを見てみーこと麗奈はそれぞれリアクションをする。そして愛花は現在、サングラスを掛けていないためヒコの姿を見ることが出来ない。そのためヒコと会話している麗奈たちを羨ましがる。
「お待たせしました、フルーツパフェです」
するとそのタイミングでみーこが頼んだフルーツパフェが運ばれてくる。するとさっきまでリアクションをしていたヒコがちゃっかりとスプーンを持ってパフェの近くで待機していた。
「さぁ食べるでやんす」
「アタシが頼んだんだけど……ま、いっか。いっただきま〜す」
ヒコとみーこは左右からパフェを食べ始める。それを麗奈は羨ましそうな表情で見つめている。愛花の方はあまり気にしていなさそうである。
「愛花ちゃんは甘いもの好きじゃないのか?」
「好きですけど、パフェはそこまででも無いですね〜」
「愛花は高級志向だから」
「そんなことないし!」
愛花はどちらかと言うと一粒数百円のような高級なお菓子が好きだった。たまにしか買えない贅沢感というのが好きなのだ。そのため普段は無駄遣いしない様に気を付けていた。
「大島日菜乃って子の居場所が分かったらこのまま突撃する感じ?」
「そうだな……出来れば戦力をきちんと揃えて行きたいよな。大天使と戦う事になるかもだし」
みーこからの問いに弥勒は少し考えてから答える。日菜乃に霊型の大天使が取り憑いていた場合、そのまま戦闘となる可能性がある。それを考えると魔法少女が全員揃った状態で挑んだ方が安心である。
これまでの大天使戦も全員で戦って何とか勝てたといった感じである。今回もそういった総力戦になるだろう。
「それが妥当よね。グループチャットの方に連絡しておくわ」
その話を聞いた麗奈が他の魔法少女たちにも連絡を取る。素早くスマホを操作してチャットで連絡を送る。するとすぐにエリスと月音から返信がやってくる。
『明日なら大丈夫です』
『明日ならいけるわ』
「月音先輩とエリス先輩は明日空いてるみたいね。ワタシも明日なら問題ないわ」
「アタシもだいじょーぶ!」
「わ、私もです……!」
「なら明日にするか」
明日の日曜日にほとんどのメンバーの予定が空いている事を確認する。アオイから返信が来ないのは部活動中だからだろう。彼女が弥勒関連で返信が遅いのはほぼほぼ部活の時だけである。
「そうね。今日部活ならアオイも明日は空いてるでしょうし」
アオイの予定は確認できなかったが、弥勒がいると分かれば彼女も余程の用事でなければ参加するはずである。そう考えた麗奈が話をまとめる。
「一応、小舟ちゃんと凛子ちゃんにも確認してみますね」
「そうだな。頼む」
「三人も連れて行く感じ? 危なく無い?」
愛花はここで分かった事を含めて小舟と凛子に連絡を入れる。それを見ていたみーこが彼女達を現場に連れて行く危険性を指摘する。
「家の場所なら教えて貰えば分かるけど、面識が無い俺らだけで行っても会えるか分からないだろ? それに戦いになった場合には周りの人たちの避難を手伝って貰ったり出来るしな」
「ま、それもそっか。愛花ちゃんも危険だと思ったらすぐ逃げてね?」
「はい、ありがとうございます!」
弥勒の話を聞いてみーこは納得する。確かに学校が違う高校生である弥勒たちだけで日菜乃の家を尋ねても怪しまれるだけだ。
「なら決まりね。さくっと霊型の大天使を撃破して夏休みといきましょう」
期末考査も終わり、あと二週弱で夏休みとなる。それを楽しむためにも顕現している大天使を討伐しておきたいのだろう。麗奈の言葉に全員が頷く。
「ふっふっふっ、ここであっしに注目でやんす!」
するとパフェを食べ終えたヒコが偉そうな態度で喋り出す。弥勒、みーこ、麗奈はヒコも胡散臭そうに見つめるが、愛花だけは状況が分からずに首を傾げている。
「何よ、急に」
その言葉を聞いて愛花もヒコが喋っているのだと気づきダサいハートのサングラスを鞄から取り出してかける。
「なんと! ついに! 魔法少女専用の武器が完成したでやんす!」
ヒコは大袈裟にポーズしてから喋る。そしていつの間にか取り出したプラカードに愛花にも分かる様に台詞を魔力で書いて行く。
「俺が渡した素材のやつか⁉︎」
「そうでやんす」
ヒコのその言葉に弥勒が反応する。彼は以前、魔法少女たちをパワーアップさせるための武器の製作をヒコに依頼していたのだ。異世界の素材を渡して。
「ワタシたちの武器?」
「ま、要はパワーアップアイテムでやんす! 明日、全員揃ったら渡すでやんす」
「おー、今回ヒコは大活躍じゃん!」
「もっと褒めるでやんす!」
愛女の見張りからパワーアップアイテムの作製まで大活躍のヒコを全員で褒める。そしてその日は解散するのだった。




