第百六十六話 テスト初日
火曜日になり期末考査が始まった。期末考査は四日間で金曜日まで行われる。その代わりに一日のテスト数は数科目となっているので、午前中には学校が終わる。
普段から勉強を欠かさないでいた事もあり、初日のテストは問題なく乗り切る事ができた。ちなみにテスト期間中は朝のランニングは無しとなっている。これはアオイが一夜漬けをしているため、朝に走る余裕が残っていないからだ。
「朝はギリギリまで寝るんだよ!」
そう真剣な顔で言っていたのを弥勒は思い出す。そのため朝の登校も別々となっており、彼女はテスト開始ギリギリに登校している様だった。
麗奈の方は相変わらずだが、前回と違って今はセイバーグッズ作りに力を入れていないためか眠そうにはしていない。どちらかと言うと動画制作の方に力をいれているため一人で出来る事が少ないのだろう。テスト初日は余裕そうな表情をしていた。
「みろくっち、帰ろー」
「おう」
みーこが帰りの誘いにやってきたため、弥勒もそれに乗る。彼女の表情も普通のため、テストで失敗などはしなかった事が窺える。
「テストどうだった?」
「まぁ普通かな。みーこは?」
「アタシもいつも通りかなー」
「なら学年一位か」
「そうなるよね〜」
みーことしては今回も学年一位を取る自信はある様だった。それを言い切るところがみーこらしいと弥勒は感心する。
「ただ今回は麗奈とかも順位上げてきそうだし、うかうかはしてられない感じかも」
「あいつも成績良いしな」
弥勒が麗奈の様子を見ている限りでは学年一位を取ってやろうというような意気込みは見えなかった。しかし真面目に勉強しているのは確実なので、密かにそう思っていてもおかしくは無い。
「テスト期間中はせっかく学校早く終わるのに遊べないのが残念だし」
「流石にな。でももうすぐ夏休みだし、たくさん遊べるだろ」
「たしかし」
弥勒たちにとっては高校に入って初の夏休みとなる。余程、真面目な生徒でなければ一年生の夏休みというのは純粋に遊びやすい時期である。二年生、三年生になると大学受験というものがチラつくため夏休みというだけでは手放しに喜べなくなる。
「エリス先輩に頼んだら旅行とか連れてってくれないかな〜」
「言ったらノリノリで連れてってくれると思うけど」
「だよね。でもそうなると逆にこっちから言い難いというかさぁ」
「あー、なんとなく分かるわ」
エリスの家はお金持ちである。そして彼女は仲間達みんなで騒ぐイベントが大好きである。それを考えると旅行というワードを伝えれば弥勒たち全員を旅行に連れて行ってくれるのは予想しやすい。
しかしそうなるとこちらから旅行に連れて行って欲しいと頼むと、まるでたかっているかの様な感じになってしまう。エリスの家と性格を利用しているように見える、とみーこは言っているのだ。
「エリス先輩から提案してくれたら行くって感じかなぁ」
「だな。ただでさえエリス先輩の家で色々ご馳走になってるんだし、あんまり一人に負担をかけさせるのも良くないよな」
「うんうん。そんな事が言えるなんてみろくっちも成長したねー」
弥勒の言葉にみーこが頷く。魔法少女たちと弥勒が集まると、どうしても人数が多くなってしまう。そのため全員で集まれる場所が限られてくる。その点、エリスの家は全員で集まるのにちょうど良いのだ。
「昔のみろくっちは女子のスカートめくったり、パンツで走り回ったりしてたし」
「してねーわ! 記憶の捏造をすんな!」
勝手に過去の記憶を捏造しているみーこにツッコミを入れる。それに彼女は笑う。
「あはは! むしろみろくっちはクールな感じだったよね。授業中はよく爆睡してたけど」
「あの頃の俺は頭良かったからな」
弥勒は転生者である。そのため小学生時代は周りとあたわり話が合わずに退屈していた。また授業に関しても当然分かりきっている内容だったため真面目に聞こうとはしていたが、睡魔に勝てず爆睡していた。
「今も悪くは無いでしょ」
「今回のテストはそこそこ良い点取れそうだけどな」
「お、勝利宣言じゃん。テスト初日にだいたーん」
「いやお前もさっき首位宣言してただろ」
「バレたし」
そんな下らない話をしながら駅へ向かって歩いていく。そこでふと先日、穂波に取材されたのを思い出した。
「そうだ。あれ以来、所沢穂波から接触は無いのか?」
「無い! アタシが愛女に行ってた事もママに報告してないみたいだし。まだ色々と調査中なんじゃない?」
穂波が大町田市で起きている怪事件を調査している。その事は弥勒たちも知っている。しかし彼女がみーこの身辺調査をしている事は二人は知らない。そのため二人が心配しているのは愛女にいた事で何か怪しまれていないかという点である。
「そうなのか。愛女での調査は数日って言ってたし、そうなるとまた大町田駅周辺で聞き込みでもしてるのか?」
「うーん、でも見た感じ周りにはいなさそうだけど」
駅周辺まで来ていた二人は少し周りを確認してみるが、穂波の姿は見当たらなかった。
「毎日聞き込みに来てるとは限らないか。雑誌の記者って事はこの街の事件だけじゃなくて色々な記事を書く必要あるだろうし」
穂波は有名雑誌の記者だ。ずっと大町田市での事件を追っている訳にもいかない。それ以外にも書かなければいけない記事というのも多い。そのため常に大町田市内にいるとは限らない。
「たしかし。てかジャーナリストってやっぱり大変な職業っぽいよね。穂波さん、少しくたびれてる感じあったし」
みーこは穂波の姿を思い出す。スーツを着こなしている美人ではあったが、キャリアウーマンといった雰囲気では無かった。どちらかと言うと社畜OLといった雰囲気だった。
「確かに。美人だったけど疲れてる感じはあったよな」
弥勒も取材された時を思い出す。あの時の穂波もどこか疲れを感じさせる雰囲気だった。それだけジャーナリストというのは大変な職業という事だろう。
「ふーん、美人……ねぇ。みろくっちはああ言う感じがタイプな訳?」
弥勒が穂波を美人といった事にみーこが反応する。しかし怒っているという感じではなく、からかいに来ている雰囲気だった。
「いやタイプって訳じゃ無いけど……」
「くたびれ系OLは守備範囲外な感じ?」
「いやジャンルがニッチすぎるだろ!」
穂波を変なくくりに入れるみーこ。確かにピッタリなジャンル分けな気もするが、弥勒は一応抗議する。
「せっかくだし全員ジャンル分けしてみるし! まずみくっちは〜……救世主系男子!」
「そう来るか……ならみーこは内気ギャル系女子だな」
「うーん、言い返せないし。なら麗奈は布教系女子?」
「それは間違いない」
勝手にメンバーのカテゴリーを決めていく二人。あまりにも麗奈にピッタリなカテゴリーに二人は笑ってしまう。
「アオイは肉食犬系女子だな」
「わかる〜。月音先輩はマッドサイエンティスト系女子!」
「となるとエリス先輩は天然系お嬢様かな」
「エリス先輩は天然だよねー。ほんわかして可愛いけど何するか分からない所は確かにある!」
魔法少女たちのカテゴライズが終わる。どれもピッタリなジャンルを考え出した事に満足する二人。
「ついでにヒコも考えとくか」
「ヒコは大食い系妖精とか!」
「確かに。というかあいつが居ないと静かだな」
ヒコは今、愛女の見張りで弥勒たちの近くには居ない。普段は誰かにくっついていて騒がしくしているため居ないととても静かに感じられるのだろう。
「今回は珍しくヒコも頑張ってるしね〜。霊型の大天使が片付いたらお菓子でも奢ってあげよう!」
みーこは頑張っているヒコのためにお菓子を準備することを提案する。それに弥勒も頷く。
「そうだな。まぁあいつの事だからそれなりに楽しくやってるとは思うが……」
夜の校舎で好き勝手遊んでいるヒコをイメージする弥勒。きっと今ごろ、職員室でブレイクダンスでも踊っているのだろうと勝手に想像する。
「ならちゃっちゃと大天使を見つけて倒そう!」
「そうだな」
二人は改めて霊型の大天使討伐へ向けて気合いを入れるのだった。




