第百三十五話 大炎豹戦決着
「デビクマ〜!」
「頑張ってください、デビクマさん!」
召喚された悪魔テディベアは挑発的に笑っている。しかしそれを気にせずに大炎豹はデビクマに攻撃を仕掛ける。勢いよく繰り出される炎を纏った前脚による一撃。
「クマッ!」
そかなりのスピードであったその攻撃をデビクマはトライデントで受け止める。そして大炎豹の前脚を弾く。
「デビッ!」
そしてトライデントによる鋭い突きを繰り出す。大炎豹は横にズレてそれをかわす。デビクマは宙に浮いて大炎豹に対して上を取ろうとする。
『グラァッ!』
大炎豹は前脚を地面に叩きつける。するとデビクマの下の地面から炎が噴き出てくる。それをデビクマは慌てて回避する。
「デビクマさん! 前です、前!」
攻撃を避けた隙を狙って大炎豹がデビクマに向けて飛びかかってくる。大きな口を開けて喰らい付こうとしている。
「ク、クマッ⁉︎」
何とかトライデントを前に出すことで大炎豹の攻撃を防ぐものの、デビクマは吹き飛ばされてしまう。
「クマ〜……」
そして地面に叩きつけられてしまう。デビクマは痛そうなリアクションをしている。デビクマは何とか立ち上がってトライデントを掲げる。
「デビデビ〜!」
するとトライデントの先端が黒い光によって包まれて行く。大炎豹はそれを気にせずにデビクマにトドメを刺そうと炎のブレスを吐き出す。
「クマクマッ!」
デビクマは飛びながらそのブレスを回る様にかわして大天使へと接近する。そして黒い光を纏ったトライデントによる一撃を繰り出す。
『グガァッ⁉︎』
トライデントによる一撃を前脚で受け止めた大炎豹はその腕を斬り裂かれる。それに悲鳴を上げる。
「こ、攻撃が通りました……⁉︎」
その事に見ていたエリスも驚く。彼女は天使に対抗するなら悪魔だというシンプルなイメージでデビクマを生み出した。そのため細かい力については把握していないのだ。
「デッビ! デビデビ〜、デビ、デビデビ〜」
初めて攻撃が通った事をデビクマが喜んでいる。トライデントをステッキの様に振り回してコミカルなダンスをし始める。
『グラァッ!』
しかしその間に痛みから回復した大炎豹が飛びかかってくる。踊っていたデビクマは敵の攻撃を対処できずに地面へと叩きつけられてしまう。
「クマー……!」
「ああ、デビクマさんが⁉︎」
デビクマはジタバタとするものの前脚でガッチリと抑え込まれており、逃げ出す事ができない。
そしてデビクマに大炎豹が今度こそトドメを刺そうとした瞬間だった。上空より飛来した魔力による弾丸が大炎豹を貫いた。
「えっ……⁉︎」
エリスは突然の事態に驚く。そして弾丸が飛んできた方に顔を向ける。そこにはジェットパックでこちらに降りてくる弥勒とアオイの姿があった。
「すまない、遅くなった!」
「大丈夫ですか⁉︎」
軽やかに地面へと着地する二人。弥勒の姿は群青の襲撃者から新緑の狙撃手へと変わっている。先ほどの弾丸は彼のリボルバーから放たれたものだろう。
「セイバーさん、メリーインディゴさん!」
ここに来てエリスはようやく安心する。今まで一人で大天使と相対していたプレッシャーが解ける。
「デビクマ〜!」
デビクマも弥勒たちに近寄ってきて一緒に喜んでいる。その姿にアオイが反応する。
「なにこれ⁉︎ すっごい可愛い〜!」
「デビ〜」
アオイはプカプカと浮かんでいるデビクマを抱きしめる。デビクマも嬉しそうな表情をしている。
「その方はデビクマさんです」
エリスがあまり役に立たない紹介をする。弥勒はそのデビクマの姿を見て驚いていた。
「(このタイミングで悪魔召喚をするなんてな。まだあまり強くないみたいだが……)」
弥勒はテディベアに悪魔の翼が生えているのを見て原作について考える。原作では獣型の大天使はエリスルートに出てくる強敵だ。
原作で主人公はエリスと付き合うことになるものの、その交際をエリスの両親から反対される。彼女の両親はエリスに優秀な人材と結婚して欲しいと考えていたため、ただの学生である主人公は認められなかったのだ。
ここからがエリスルートの分岐になるのだが、バッドエンドの方は二人で駆け落ちする事になる。
しかしその逃避行は学生にとって苦しいもので、疲れ切ったところに現れた獣型の大天使に主人公は殺されてしまう。ただでさえ逃避行により極限状態にあったエリスは目の前で主人公が死ぬのを見て発狂してしまう。
そして自らの命が尽きるまで無差別に怪物を召喚し続けて天使たちを皆殺しにする。これは百鬼夜行エンドというバッドエンドである。
一方、駆け落ちをせずにエリスの両親に認めてもらおうと努力するルートがグッドエンドへと繋がる。
その過程で同じ様に獣型の大天使が現れるのだが、エリスは駆け落ちしていないため疲労しておらず仲間たちもいる。そのため獣型の大天使は魔法少女たちによって倒される。
その戦いによりエリスは新たなインスピレーションを得る。それは天使に対抗するのに悪魔を召喚するという考えである。そこから悪魔召喚という能力を磨いていく事になる。
その後、天使が現れるとどこからともなく悪魔が現れて助けてくれるという都市伝説が生まれる。これが天使と悪魔エンドというグッドエンドである。
だから弥勒は驚いていたのである。原作でエリスが悪魔を生み出すきっかけとなった獣型の大天使。それを相手にする事でエリスは原作と同じく悪魔召喚という力を手に入れたのだ。
「(原作による修正力って訳じゃ無いよな。ただ単純に獣型の大天使がエリスのインスピレーションにハマりやすかったって感じか……)」
原作による修正力が存在しているならもっと早くに色々な修正が起きてもおかしくなかった。このタイミングでエリスにだけ起こるというのは不自然である。その事から弥勒は修正力は存在していないと考える。
獣型の大天使は動物の姿をしている。そしてエリスの生み出す召喚獣たちも動物の姿をしている。そのため豹の姿を見て彼女の琴線に触れるものがあったのだろうと弥勒は結論付ける。
「あとは俺たち任せてメリーパンジーは休んでてくれ」
「そうそう、あたしたちに任せて!」
二人はエリスを庇う様に前に出る。そして起き上がってくる大炎豹を見据える。先ほどの弥勒の弾丸は完全に直撃したものの、まだ敵は戦える力を残している。故に油断する訳にはいかない。
「いくぞ!」
「うん!」
弥勒はアオイにそう声を掛けてからフォームを群青の襲撃者へと戻す。そして一気に加速する。アオイもそれに続く。足元に溜めた魔力を爆発させて超加速する。
「ハァッ!」
弥勒が右側から斬りかかり、アオイが左側から殴りかかる。大炎豹はアオイの攻撃をデビクマによるダメージを受けていない方の右前脚で受け止める。そして弥勒の刃を尾を巨大化させて受け止める。
しかし両方向からの攻撃は大炎豹に大きな衝撃を与える。その事でデビクマにより傷つけられた前脚が耐えられなくなり体勢を崩す。
それを見て弥勒は下から蹴りを叩き込む。彼の足は見事に大炎豹の胴体へと突き刺さる。そこにアオイが受け止められたのとは反対の拳で殴る。
『グルァッ……⁉︎』
ここが好機と捉えた二人は一気に畳み掛ける。弥勒は両腕に魔力を全力で回して双剣による超高速の連撃を与えて行く。大炎豹はそれを捌ききれずに大きなダメージを喰らう。
「アオイ!」
そのタイミングで弥勒はアオイに声を掛ける。彼女は弥勒が攻撃している間に極限まで魔力を拳に溜めていた。それを彼の合図で解き放つ。
「メランコリータイガー!」
アオイの拳から放たれた青い虎が、赤い豹へと喰らい付く。赤と青によるぶつかり合いが起きるが長くは続かない。青い虎は全てを喰らって敵を消滅させていく。
「はあぁぁー!」
アオイがさらに気合いを入れると青い虎の勢いが増してついに完全に大天使を消滅させる。そして静寂が訪れる。
「お、終わった……?」
アオイは目の前の敵がいなくなった事を確認して恐る恐る呟く。それを弥勒が肯定して、彼女を労う。
「ああ、みたいだな。お疲れ様」
こうして街へ大きな被害は出てしまったものの、何とか獣型の大天使を討伐するのに成功したのだった。




