第百三十二話 炎豹とみーこ
「ばきゅーん☆」
みーこは炎豹たちを殲滅して回っていた。彼女は遠距離から一方的に炎豹を狙撃して行く。使っている技はスプルーススターである。
星形の刃が回転しながら炎豹たちの炎の身体を削っていく。またみーこは自身の周りにスプルースノートを配置しているため万が一、敵を撃ち漏らして接近されたとしてもガードが可能だ。
彼女は麗奈と違い属性的に不利ではないので、随分と楽な戦いとなっている。麗奈は三匹の炎豹相手に苦戦していたが、みーこは次々と敵を倒していっている。
「敵、多すぎっしょ」
『仕方ないわ。今回の炎豹との戦いでの最大戦力は貴方よ。とにかく数をこなして貰うわ』
みーこの愚痴に月音が反応する。ジェットパックから聞こえてくる彼女の声にみーこも頷く。
「街を守るためだから仕方ないけどさー。本音を言ったらセイバーと一緒に戦いたかったよね〜」
みーこは本音を口にする。元々、彼女は弥勒に近付くために魔法少女になった。そのため彼と一緒に行動したいというのは当然の欲求だろう。
しかしみーこはそう言いつつも街を守るために全力で戦っている。彼女はこの街で生まれ育った。それ故に天使たちに街が破壊されるのが許せなかったのだろう。
『次は左方向よ』
「あいあいさ〜」
月音の指示に従って次の場所へと向かう。足に力を入れて家を飛び越えていく。そして次の獲物を見つける。
見つけた炎豹たちは近くにあるマンションを破壊していた。炎豹たちが繰り出す炎によってそのマンションは火に包まれている。
近くには民間人が何人もいた。彼らは燃え盛るマンションを見上げている。みーこは彼らを助けるように現場に降り立つ。
「あんたたち、何してんの⁉︎ 早く逃げなさい!」
みーこは地面に着地すると同時に星形の刃を炎豹に叩きつける。そして何故かその場から逃げ出していない人たちに声を掛ける。すると住人たちの一人がみーこに向かって叫ぶ。
「まだ中に娘がいるんです! お願いします、助けて下さい!」
「うそっ⁉︎」
住人の発言に驚くみーこ。彼女はマンションの上を見上げる。すでに下層階には火の手が回っている。子供が自力で逃げ出すのは難しいだろう。
「子供はアタシが助ける! あんたたちは敵のいない所に避難して!」
みーこはそう言いながらマンションへと駆け込もうとする。
「お、お願いします……!」
そう言いながら住人たちは避難していく。みーこは燃えているエントランスへと入っていく。時間が経てば経つほど子供の命も危なくなるだろう。
みーこの行動を見ていた炎豹たちのうち、数匹が彼女を追ってマンションの中まで入ってくる。それを見て彼女は顔を歪める。
「厄介だね……」
みーこはスプルーススターを放つものの、今回はあっさりと避けられてしまう。それは彼女が走りながらの攻撃に慣れていないからだ。止まっている状態と動いている状態では狙撃の難易度というのは大きく変わってくる。
さらに言うなら炎豹たちは足が速い。先ほどまでの様な遠距離から敵が気付く前に一方的に攻撃するのとは訳が違う。
『私が先にドローンで内部を探知しておくわ』
ジェットパックから住人とのやり取りを聞いていた月音がドローンを走らせる。彼女もマンション内に取り残されている子供を探す。
みーこは階段を駆け上がっていく。当然、それを炎豹たちも追ってくる。
「ここなら狭いから当たるっしょ! スプルーススター!」
みーこは星形の刃を放つ。狭い階段という場所で放たれた刃は見事に炎豹へと命中する。
「Luu……⁉︎」
断末魔の叫びを上げてから炎豹は消滅する。それにみーこはガッツポーズする。
「やりぃ! まずは一匹!」
しかしまだ彼女を追って来ている炎豹は何匹かいる。彼女は階段を上がりながら次々とスプルーススターを放っていく。所々、燃えている場所があるが魔法少女に変身しているため被害はない。
『内部のスキャンが完了したわ。子供は七階の角部屋よ』
「おっけー! ありがと!」
月音が探知の結果を知らせてくる。みーこはそれにお礼を言う。冷静に考えれば月音の探知が終わってからジェットパックを使って指定された部屋へ向かった方が早く子供を助けられただろう。その事に今さらみーこは気付いた。
しかし子供がマンションに取り残されていると聞いて思わず身体が動いてしまったのだ。みーこは背後にいる敵に刃を撃ち続けながら七階へと到達する。
「よしっ、このフロア!」
みーこは七階のフロアを駆け抜ける。そして角部屋へと到達する。
「ちぇすとー!」
魔法少女の強化された脚力でもって扉をぶち破る。もしかしたら鍵は開いていたのかもしれないが、そこは急いでいたため仕方がない。
みーこは部屋の内部へと足を踏み入れる。そして部屋の隅で泣いている少女を見つける。彼女はすぐにそちらに駆け寄る。
「大丈夫⁉︎」
「うぅ……ぐすっ……だれ……?」
泣いている少女はまだ十歳になっていない程度だろう。みーこはなるべく怖がらせない様に優しく声をかける。すると少女はみーこの方を見る。
「お姉ちゃんは君を助けに来たんだよ」
「わたしを……?」
「そうだよ。ほら見て、お星さま」
みーこは指先に小さな星を出してクルクルと回転させる。それを見て少女は驚く。
「わー! すごーい! おほしさまだ!」
「すごいでしょー? お姉ちゃんは魔法少女だからね!」
「ほんとに⁉︎ お姉ちゃん、きらりキュートズなの⁉︎」
『きらりキュートズ』というのは日曜日の午前中に放送されている少女向けのアニメだ。魔法少女が世界の平和のために戦うというものである。この少女もその番組の視聴者なのだろう。
「そうだよ。だからお姉ちゃんと一緒に来てくれるかな?」
「うん!」
少女はみーこの問いに頷く。そこにさっきまでの涙は無かった。みーこは少女を優しく抱っこしてベランダへと向かう。窓を開けて外に出る。
『敵が来るわ。気をつけなさい』
そのタイミングで月音から忠告が入る。それにみーこは気を引き締める。スプルースノートを展開して自らの周りに配置しておく。
「わぁ……! すごーい!」
音符マークが浮いているのを見て驚く少女。それにみーこは少し和やかな気持ちになる。
「「Luu!」」
「ひぃっ……」
外から上がって来た炎豹がベランダ近くへと現れる。燃え盛る怪物に少女は怯える。みーこは彼女を抱きしめる力を強める。
「大丈夫、お姉ちゃんは強いから。スプルースノート!」
音符マークを操作して炎豹にぶつける。それにより炎豹は吹き飛ぶ。しかし倒すまでには至っていない。
「今だっ……!」
その隙にみーこはベランダから少女を抱きかかえたまま飛び降りる。ジェットパックを使って速度をコントロールしながら落下していく。
「わぁぁー! お空を飛んでる!」
その状況に今度は少女が喜ぶ。怖がられるようりは良いだろう。そして下降しながらみーこは再びこちらに向かってくる炎豹を狙いを定める。
「今度は特大さ! スプルースロケット〜!」
「Luuu⁉︎」
放たれたロケットは敵に直撃する。そして爆発により炎豹たちが消滅する。みーこはそのまま地面へと着地する。
「マナ!」
すると物陰に隠れていたのだろう。少女の両親が駆け寄ってくる。マナと呼ばれた少女は両親を見つけて笑顔になる。
「パパ! ママ!」
「ああ、マナ! 良かったわ、無事で……」
母親はマナを抱きしめながら泣いている。その後ろで父親も安心した様な表情を浮かべている。そして父親はみーこの方へと向き直る。
「ありがとうございました……! 買い物から帰って来たらマンションが燃えている上に化物までいて……」
「無事で良かった! とにかくこの辺りは危険だから早くみんなで逃げて下さい!」
「は、はい! 本当にありがとうございました……!」
みーこの言葉に父親は頷く。そして母親と娘の手を引いてこの場所から離れていく。
「お姉ちゃん、バイバーイ!」
手を振ってくるマナにみーこも手を振り返す。そして親子が離れたのを見届けてから月音へと声を掛ける。
「次は?」
『今度は向こうの通りね』
こうしてみーこも次の敵を倒しに行くのであった。




