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ヤンデレ魔法少女を回避せよ!  作者: 広瀬小鉄
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第十三話 みーこ


 高校生活が始まってから早一週間。その期間は新生活で環境も変わったこともあり慌ただしく過ぎていった。そして弥勒は大きな問題を一つ抱えていた。


「(勉強に全然ついていけねぇ~!)」


 中学時代は成績も優秀だった弥勒。しかし異世界に数年いたせいで勉強した知識をすっかり落としてしまったのだ。特に暗記系の科目はもう一度初めから覚えなおす必要があるだろう。


 そんなこともあり真面目に授業を受けている弥勒。放課後は図書室で勉強するなどして遅れを取り戻そうとしている。ただし今日はアオイと買い物に行く約束をしているため自主学習は途中で切り上げるつもりだ。


「にしてもわざわざ駅で待ち合わせって意味あんのかね」

 

 陸上部の監督が用事があるということで今日の部活は早上がりらしい。それで遊びに誘ってきたアオイは待ち合わせ場所に駅前を指定してきたのだ。学校で待ち合わせをした方が楽だというのに。


「夜島も女心が分かってないね。待ち合わせってあのいつも一緒に登校してる可愛い子でしょ?」


 弥勒の独り言に反応してきたのは後ろの席に座っている和田だった。この一週間である程度話す仲になったのだ。彼は眼鏡を拭きながら弥勒にそう言った。


「そうだけど知ってんのか?」


「結構有名だよ。巴アオイといえば陸上部のホープだし、何よりあの可愛さはいるだけで目立つよ」


「ふーん、そうゆうもんか」


 確かに巴アオイは可愛い。小柄で人懐っこい感じが小動物みたいだ。男子には人気が出やすいタイプだろう。


「その反応だとまだ付き合ってる訳じゃないみたいだね。うかうかしてると他の男に取られちゃうよ」


「(いやむしろ誰か貰ってやってくれ)」


 そう思ったが口には出さない弥勒。とりあえず当たり障りのない返事をしてから教室から出る。図書室で勉強してから駅に行こうかと思ったが気分が変わり、とりあえず街へ向かうことに。


 駅前まですぐに辿り着く。大町田の駅はいつも混雑している。特に夕方はあまりの人の多さに辟易してしまう程だ。くくりで言えば大町田は郊外都市という形になる。大田急線と縦浜線という二つの路線があり片方は都心へと、もう片方は縦浜へと続いている。そのアクセスの良さから駅前はかなり栄えている。


「とりあえず何か軽く食うか」


 軽くといいながらラーメン屋を探す弥勒。食べ盛りの少年にとってラーメンは軽くという分類に入るようだ。気分的に塩ラーメンが食べたいようで醤油や味噌系の店はスルーしていく。


 駅前の通りを適当に散策していると男性数人の声が聞こえてきた。


「ねー、いいじゃん。一緒に遊ぼうよ」「そんなにお固くならいでさ」「それが難しそうなら連絡先だけでも教えてよ」「ちょっとお茶行くだけじゃん?」


 どうやら数人の男性が一人の女性を囲ってしつこく声を掛けている様だ。男たちの格好が比較的チャラそうな姿だからか周りにいる人たちは足早にその場を過ぎ去っていく。


 言い寄られている女性はイエローベージュの髪をポニーテールにしており、化粧も派手目なギャルだ。身長は165cmほどあり、胸も大きくスタイルが良い。胸下で腕を組んでおり、目を瞑り男たちの話を無視する形をとっている。そして大町田高校の制服を着ている。


「(なんつーテンプレな……)」


 とりあえず無視する訳にもいかず、ナンパの現場に割り込もうとする弥勒。男たちの方は彼女に無視され徐々にヒートアップしていく。


「ちょっと可愛いからって自意識過剰なんじゃない?」「どうせギャルなんてやることやってんだろ」「俺らにもサービスしてくれよ」


 聞くに堪えない言葉が男たちから飛び出してくる。その発言にさすがに彼女も眉をしかめている。もちろんそばに近寄っていた弥勒もだ。そしてそのまま男たちの間に割り込む。


「悪い、待たせた」


 同じ制服も来ているしとりあえず知り合いという設定にして乗り切ることにした弥勒。その声に彼女は閉じていた目を開く。そして弥勒の方を見て少し驚いたような表情をする。


「来んの遅いし! アタシもうお腹ペコペコなんだけど」


 話に乗ってきたギャルはそのまま弥勒の腕をとり、豊満な胸を押し付けてくる。それを見ていた男たちは怒り出す。


「俺らが話してたのに割り込んで来てんじゃねーよ」


 その言葉に思わず笑ってしまう弥勒。


「話してたってあんたらが一方的に喋ってただけじゃん」


 弥勒のその台詞を聞いて今度はギャルの方が吹き出す。そして大きく頷いてる。男たちは二人の態度をみて更に怒りをヒートアップさせる。


「女の前だからって調子乗ってんじゃねーぞ!」


 テンプレな台詞を吐きながら男の一人が殴り掛かってくる。弥勒はその拳を軽く払って一歩だけ前に出る。そして相手の足を強く踏み込む。驚いた相手の胸倉を掴み、低い声で脅しをかける。


「俺の連れに何か用か」


「っ……!」


 弥勒の声にビビる男。掴んでいた手を放すと軽く後ずさりしながら、せめてもの抵抗なのか舌打ちをしてから周りの男たちを連れて帰って行った。


「大丈夫か?」


 男たちが去ったのを見て少女に声を掛ける弥勒。すると少女はにんまりと笑った。そのまま組んでいる腕をギュッと強く握る。


「大丈夫、声かけられるのは慣れてるし。それより君って夜島弥勒くんでしょ?」


「そうだけど。何で知ってんだ」


「ふふふ、ひみつ~」


 そう言って彼女は顔を弥勒の腕に押し付けてくる。弥勒としては全く意味が分からない。ナンパされている少女を助けたと思ったら、その少女は弥勒を知っており何故か懐かれたのだ。


「何してんだよ。もう腕組む必要ないだろ」


「えー、つまんなーい! そーだ、ラーメン食べにいこうよ。決定~!」


 弥勒の腕を組んだまま進んでいく少女。その表情は楽しそうだ。まるで悪戯っ子のような笑顔を浮かべている。


「アタシのことはみーこって呼んで。アタシはみろくっちって呼ぶから」


「いやいやいや距離近いって!」


 弥勒は抵抗するもののみーこと名乗った少女はマイペースに歩いている。


「着いた! ここ前から一度来てみたかったんだよね~」


 「塩魂」と書いてある看板の前で立ち止まるみーこ。彼女の気分もまさかの弥勒と同じ塩だったようだ。とりあえず塩ラーメンを食べたかった弥勒はみーこと一緒にお店の中に入る。詳しいことは食べながら聞けばいいと思いながら。ようは食欲に負けたのだ。


 食券機でオススメと書かれている特性塩ラーメンをそれぞれ買う二人。そのままカウンター席に座る。ラーメン店ということで店内はそれほど広くなく、カウンター席しかない。


「めっちゃ楽しみ。やっぱ女の子一人だとラーメン屋って入りにくいし」


「それよりもみーこって大町田高だよな。何年だ?」


「ん~? みろくっちと同じサ」


 何故かちょっとカッコつけながら答えるみーこ。ラーメンが待ち遠しいのか少しソワソワしている。


「ちな1組!」


 弥勒やアオイともまた別のクラスのようだ。弥勒としてはみーこという少女に見覚えはない。覚えている限り原作にもギャルなんて出て来ない。つまりは一般人ということだろう。自分を知っているのは中学時代にもしかしたら接点でもあったのかもしれない。そう考える弥勒。


「おぉー、いい感じ!」


 ラーメンが出てくると喜ぶみーこ。透き通ったスープに鶏肉チャーシューとメンマ、ゆで卵の燻製、白髪ネギと完成された一皿だ。


「「いただきます」」


 二人そろってラーメンを啜る。麺に爽やかな塩味のスープが絡んで、あっさりと食べられる。食べると同時に鼻の中に鶏油の香りが広がる。


「うまい!」


「おいし~!」


 そのまま一気に食べきる二人。みーこに至ってはスープまで飲み干している。すっかり満足した二人は無言のまま店をでる。そして再び弥勒と腕を組むみーこ。弥勒は振りほどこうとするが、がっしり掴んで離さない。


「ねぇねぇ、みろくっち」


「ん?」


「次はどこ行く?」


「行かねーよ!」


 ナチュラルにこのまま一緒に過ごそうとしてくるみーこにツッコむ弥勒。その言葉に「ケチ~」と言って唇を尖らせているみーこ。しかし次の瞬間、組んでいた腕を解いて一歩前に出る。


「じゃあ次のデート楽しみにしてるから、バイ~!」


 それだけ宣言して走り去ってしまうみーこ。弥勒は一人その場に残される。




「な、なんだったんだ一体……」


 その呟きは誰にも聞こえていなかった。

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