第百二十四話 戦闘とデザート
「メリーパンジー、そっちに行ったぞ!」
セイバーの言葉にメリーパンジーがぬいぐるみを召喚して対応する。
「行ってください、猫ちゃんたち!」
「「「にゃ〜」」」
三匹の猫たちが天使の方へと向かっていく。
「「「Wi、Wi、Wi、Wiiiii!」」」
しかし猿の姿をした天使たちは猫の攻撃を素早く避けていく。しかもこちらを馬鹿にした様な笑い声を上げている。
「な、何だかあのお猿さんたち、とっても性格悪そうです……!」
猿たちの動きを見たエリスが驚いた表情をする。
「「「Wiii!」」」
猿の天使たちは手に光の球の様なものを作って投げてくる。それをエリスは慌てて避ける。
「あ、危ないです……!」
エリスが敵を引きつけている間に弥勒が接近してロングソードで斬りつけようとする。
「Wii?」
しかしアクロバットな動きをされてかわされる。すかさず弥勒はエリスに指示を出す。
「その先の路地に入り込めないように道を塞げ!」
「は、はい!」
エリスは弥勒の指示通りに猫たちを動かして猿たちの進路を妨害する。それにより猿の逃げ道は限られる。
猿たちは脇にある家を登り始めようとする。屋根伝いに逃げようとしているのだろう。しかしそこを弥勒に狙われる。
新緑の狙撃手にフォームチェンジした弥勒が魔力の弾丸を放つ。それは丁度、飛び上がった猿の天使の脳天を貫く。
「Wii……」
一匹目の猿の天使が消滅する。次にもう一匹の天使に向かって猫三匹が突撃する。そしてちょっと激しめの猫パンチの連打により二匹目の天使も消滅する。残った三匹目の天使も逃げ場がないため弥勒に撃ち抜かれて消滅する。
敵が猿で複数だったこともあり、縦横無尽に動かれて弥勒としては面倒な相手だった。ダンジョンでは逃げた敵を追ったりする事も少ないのでやり辛い相手だった。
「ふぅ……何とか終わりましたね。ちょっとお猿さんが可哀想でしたけど……」
「あはは……まぁ天使ですから仕方ないですよ」
エリスは獣型や鳥型の天使だと戦い辛そうにしている。やはり動物が好きなのだろう。手を抜いているわけではないので弥勒としては問題ないと判断している。
「ですが、夜島くんの指示のお陰で勝てました! さすがセイバーさんですね」
「いえいえ。ルーホン先輩もだいぶ戦いに慣れて来ましたね。今回の猫のぬいぐるみも初めてだしたんですよね?」
エリスが今までの戦いで出していたのはテディベアだけだった。今回の猫のぬいぐるみは弥勒も初めて見るものだった。
「はい! 今の所くまちゃんと猫ちゃんとカメさんが出せます!」
「カメさんはどんな時に使うんですか?」
「可愛いものを見たい時です!」
「そ、そうですか……」
カメのぬいぐるみは戦闘用では無いみたいだった。弥勒は少し拍子抜けするものの、エリスらしいと思い苦笑する。
それから二人は目立たない場所に移動して変身を解除する。そして制服姿へと戻る。
「それにしても俺ら二人で天使退治するのは初めてですね」
「そうですね。普段は緑子ちゃんか月音ちゃんが一緒の事が多いです!」
今日は放課後に天使が出現した。そして現場に駆けつけたのが弥勒とエリスだった。そのため初めて二人でコンビを組んで天使と戦ったのだ。
「そうだ、せっかくだしお茶でも飲んで帰ります?」
放課後で時間が余っている事もあり、弥勒はエリスをお茶に誘う。彼女には今のところ副作用がほとんど見られない。そのため彼としても誘いやすい。
「良いですね! 行きましょう!」
弥勒の提案にエリスが賛同する。二人は少し歩いたところにあった喫茶店へと入る。少しレトロな雰囲気がするお店だ。
「素敵な雰囲気ですね」
「こういう所は絶対に美味しいんだよな〜」
店員に案内されて二人は席に座る。そしてメニューを広げる。
「ふわ〜、どれにしましょうか」
「みんな美味しそうですね」
「うーん、ショートケーキでしょうか、それともチーズケーキでしょうか……」
エリスはメニューを見ながら真剣に悩んでいる。弥勒の方はそれを微笑ましく見守っている。これだけ見るとエリスの方が年下のようだ。
「迷います……夜島くんはどちらが良いと思いますか?」
エリスが上目遣いで弥勒に聞いてくる。
「それなら先輩がショートケーキで、俺がチーズケーキにするっていうのはどうですか? そうしたらシェアできますし」
「まぁ! よろしいんですか?」
「はい。俺もチーズケーキ好きなんで」
「ならお言葉に甘えさせていただいてそうしましょう!」
弥勒は店員を呼んでケーキセットを注文する。飲み物は二人とも紅茶である。
「ルーホン先輩の家ってケーキとか常備してありそうですよね」
「常備してるかは分かりませんが、お願いすればすぐに出てきますよ?」
「マジで出てくるんですか⁉︎ す、凄いですね……」
「いえいえ。凄いのはお父様やお母様ですから。わたくしは何もしてませんもの」
まさか本当にケーキが常備してあると思っていなかった弥勒は驚く。それに対してエリスはあくまでも両親が凄いからだと言う。こういった彼女の性格も美術部の女神と呼ばれる所以なのかもしれない。
「美術部に入ったのはやっぱり小さい頃から芸術品とかに馴染みがあったからですか?」
「うーんと、そんなにカッコいい理由ではありませんよ。ただ小さい頃に両親に絵が上手だと褒められた事があったので……」
「へー、めちゃくちゃ可愛い理由ですね」
「うぅ、恥ずかしいです……」
エリスが美術部を選んだ理由が思ったよりも可愛くて弥勒はほっこりする。彼女の方は弥勒にそう言われて恥ずかしそうにしているが。
するとそのタイミングでケーキがやってくる。エリスはケーキセットを見て瞳をキラキラさせている。その気になれば家でケーキなどいくらでも見れるはずなのだが。
「とっても美味しそうです! 早速取り分けしましょう!」
「そうですね」
二人は口をつける前にケーキを切ってお互いの皿に乗せる。そうすれば二つの味を楽しめる。
「ありがとうございます。それではいただきましょう」
「いただきます」
エリスはショートケーキから、弥勒はチーズケーキから食べ始める。ケーキを食べる動作を見てもエリスの動きには上品さがあった。
「甘さが控えめでとっても美味しいです! そちらはどうですか?」
「こっちもチーズがしっかり感じれて美味しいですよ」
それから二人はゆっくりとケーキを味わいながら食べていく。エリスはケーキを一口食べる事に幸せそうな表情をしており、見ている弥勒も幸せな気持ちになりそうだった。
「そういえば夜島くん、きちんとグループチャットにわたくしとの寄り道も報告しておかないとダメですからね」
エリスが弥勒に忠告をする。それは魔女裁判で決まったルールについてだ。魔法少女の誰かと行動する際にはグループチャットに報告するというもの。
「あ、そうでしたね。報告しておきます」
弥勒はスマホを取り出してグループチャットに『ルーホン先輩と天使討伐後にティータイム』と報告を入れる。するとすぐに既読が4になる。
「(多分、アオイ以外のメンバーだな)」
アオイは現在、部活動中のためスマホを触る事ができない。つまり既読が付いたのはそれ以外のメンバーという事だ。しかし誰からも報告に対する返事は来ない。
「ふふ、よく出来ましたね」
弥勒の報告を確認してエリスが褒めてくる。それに対し弥勒は少し気まずそうな表情をする。
「いやぁ、褒められる様な事じゃ無いんで……」
「皆さん、夜島くんの事が心配なんですよ? 夜島くんのいない方のグループチャットでもよく夜島くんの話題で盛り上がってるんですから」
「俺のいないグループチャットがあるんですね……」
弥勒は自分がいない魔法少女のみのグループチャットがあるとを初めて知った。最もありそうだとは思っていたのだが。
それからエリスと弥勒は一時間程たわいも無い話をしながら放課後を過ごした。アオイとみーこの件で悩んでいた弥勒としては表裏のないエリスと話が出来たのは良い気分転換になったのだった。




