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ヤンデレ魔法少女を回避せよ!  作者: 広瀬小鉄
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第百十話 カレー前編


 授業が終わり放課後となった。今日はアオイの家でカレーの試食をする日である。弥勒は荷物をまとめてすぐに教室を出る。そして待ち合わせの校門へと向かう。


 すると校門にはすでにアオイが待っていた。弥勒としては授業が終わってすぐに行動したつもりだったので、彼女の到着の早さに驚く。


「おつかれ、早いな」


「おつかれさま〜。今日は授業が五分くらい早く終わったの。それでたまには弥勒くんより先に待ち合わせ場所に行こうと思って」


 アオイと待ち合わせをすると大概、弥勒の方が先に着く事が多い。それは彼女が遅いというよりも弥勒が早く着いているという形だ。


「そう言う事か。何の授業だったんだ?」


「現国!」


 二人は喋りながら歩き始める。


「あ〜、河崎先生でしょ」


「そうそう、河崎先生はさっぱりしてるから区切りの良い所で授業をやめてくれるんだよね」


 弥勒たちの現代国語の担当をしているのは河崎という教師である。この学校には非常勤講師として勤めている。本が好きすぎて教師の仕事だけでは本代を賄えず、中華屋でバイトもしているという変わった教師である。


「俺の方は歴史だった」


「うわ、六限が歴史とかめっちゃ眠いやつじゃん!!」


「そうなんだよな、何とか堪えたけど。ちなみに麗奈のやつは寝てた」


「あはは、麗奈ちゃんって興味のない事には本当に無関心だからね」


 麗奈はパッと見た感じは優等生然としているのだが、実際はそうでもない。わりと授業で居眠りしていることも多い。


「そういえば明後日から中間考査だね……」


「あー、今回は日数が短いから勉強大変だよな……」


 現在は6月1日である。本来であれば高校の中間考査というのは5月下旬に行われる事が多い。しかし天使による学校襲撃があったために一週間後ろ倒しにされたのだ。


 それだけなら嬉しい事なのだが、今回はスケジュールの都合で試験の日程が通常よりも短くなっている。通常ならば四日掛けて行うテストを木曜日と金曜日の二日間だけで行う。生徒たちからしたら最悪だろう。


「ちなみにあたしは全然勉強してない!」


「自慢気に言うな。俺も今回は自信ないかな」


 アオイは陸上部の練習をしつつ、自主練でも走っている。そして魔法少女の仕事に、弥勒へのアプローチまで行っている。勉強する余裕はないのだろう。


 一方で弥勒の方は異世界に行っていた数年分のブランクがある。ある程度、コツコツと勉強して知識は取り戻しつつあるものの今回の中間考査に間に合わせるのは難しいと考えている。


「今回は無理だけど期末の時は勉強会とかやろうよ! 他のメンバーも呼んで」


「それ絶対に勉強しないやつだと思うけど、楽しそうだから乗った!」


 普段のアオイなら弥勒と会うチャンスにわざわざ他の女の子を混ぜる事はしない。しかし勉強に関しては弥勒と二人よりも月音やエリスがいた方が心強いと考えていた。教えられる人間がいた方が勉強会は捗るはずである。


「なら今度、みんなに声を掛けとく! ただ神楽先輩はあんまりそういうの興味無さそうだから難しいかも……?」


 アオイも月音に関して天才だと理解している。だからこそ勉強会には是非参加して欲しいところなのだが、本人はあまりそういった事に関心が無さそうである。


「そもそも神楽先輩は授業に出てないからなぁ。さすがにテストは受けてると思うけど」


 アオイの前では「ツキちゃん先輩」とは呼ばない様に弥勒は気をつけている。


「だよね〜。逆にエリス先輩とかはノリノリで参加しそう」


「間違いない」


 エリスの方はむしろ彼女側から勉強会をしようと提案してきそうなレベルである。


「そういえば今度、コスプレ会やるって聞いたけど」


「えぇ⁉︎ 何で知ってるの!」


 エリスの名前を聞いてコスプレ会について思い出した弥勒。それだけ彼女のからかさ小僧のコスプレのインパクトが強かったという事だろう。


「麗奈とルーホン先輩が言ってた。アオイはどんなコスプレするんだ?」


「知りたい?」


 弥勒の質問に対してニヤニヤしながら聞いて来るアオイ。最初は動揺していたのに切り替えが早い。


「いや別に……」


「ふふーん、そんなに知りたいのかぁ。弥勒くんの知りたがりには困っちゃうなぁ」


 弥勒はスルーしたのだが、アオイは気にせず続ける。その表情は思いっきりドヤ顔だ。どう考えても「知りたい?」ではなく「教えたい」だろう。


「あたしのコスプレは何と! ナースです!」


「……⁉︎」


 ナース、という言葉に弥勒はショックを受けた様な表情となる。それは男のロマンが詰まったコスプレだからだ。


「見たいでしょ?」


「いや……べ、別に……」


 弥勒の反応が先ほどよりも挙動不審となる。それにアオイはにんまりである。弥勒のスマホデータを色々と閲覧できるアオイは彼の好みをある程度、把握しているのだ。


「どうしてもってお願いするなら今度、二人きりの時に見せてあげようかなーって思ったんだけど興味ないならいーや」


「興味ないとは言ってない」


 話を流そうとするアオイに今度は弥勒が食い付く。先ほどとは逆の立場だ。


「しかもネットで買う時迷って、婦警さんの衣装も買っちゃったんだよね。ミニスカのやつ」


「へ、へー……」


「もし弥勒くんが見たいなら見せてあげても良いよ? どうする?」


「くっ……お願いします……」


 ナースと婦警という強力なコンボに抗える思春期男子などこの世にはいない。いくら教祖と呼ばれている弥勒でもそれは同じなのだ。


「ならその時は弥勒くんのお家で見せてあげる」


 ニヤリと勝ち誇った顔でアオイは家デートの宣言をする。アオイはデートをした時に次のデートの約束をしてくるので強かである。


「そろそろお家着くね」


 そんな話をしているとあっという間にアオイの家にまで辿り着く。弥勒がここに来るのは二度目である。


「ただいまー!」


「お邪魔します」


 アオイが玄関を開けて家の中へと入ってくる。弥勒もそれに続く。


 するとリビングの扉が開いてアオイの母親である桔梗が出てくる。


「おかえりなさい、アオイ。それに弥勒くんもいらっしゃい」


「すいません、二週連続で来てしまって」


「良いのよ。うちの娘の花嫁修行を手伝ってくれるんだもの」


 桔梗は弥勒を温かく出迎える。


「せっかくならそのまま引き取ってくれて良いのよ?」


「あはは……」


「ちょっとママ! 変な事言わないでよ!」


 桔梗が変な事を言ってアオイが怒るというお決まりのパターンが早速発動する。それに弥勒も苦笑いである。


 それから二人は洗面所で手を洗う。そしてキッチンのあるリビングへと移動する。アオイはやる気満々である。


「じゃじゃーん、新しいエプロン!」


 アオイはキッチンに置いてあったエプロンを弥勒へと見せてきた。それはネイビーに白のラインの入った可愛らしいエプロンだ。


「土曜日に私と一緒に買いに行ったのよ。選ぶのに二時間も掛けて……まだ何にも作れないのに格好だけは一人前よね」


「まぁ……形から入るのも大切ですから」


 弥勒が月音のラボで拘束プレイをされている時にアオイは桔梗と一緒にエプロンを買いに行っていた様だ。


「さぁてまずは野菜を切る!」


「まずは野菜を洗うのよ……」


 早速、手順を間違えるアオイ。弥勒としては少し心配になるが、カレーならそうそう失敗する事はないだろうと考える。


「ママ、お米はどうする?」


「そっちは先に準備してあるわ。今日はルー作りに集中しなさい」


 弥勒はリビングのテーブルに座りながら二人のやりとりを見る。平和な会話に気持ちが安らぐ。


「野菜、洗った! みてみて弥勒くん、野菜綺麗になった!」


「いちいちそんな事を報告しないの」


 ザルごとこっちに持ってこようとしたアオイは桔梗に頭を軽く小突かれる。アオイのハイテンションに桔梗は呆れ気味だ。弥勒としてもいちいち野菜を切った程度で見せられてもリアクションのしようがない。


「えー、せっかく弥勒くんが来てくれてるのに」


「あんまりバカな言動ばかりしてると弥勒くんに幻滅されるわよ?」


「うえっ⁉︎」


 こうして落ち着きを取り戻したアオイはカレー作りを始めるのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 次回ダークマター?は、母親が居るならそんなことにはならないよね
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