雪だるま式に膨れ上がった…その先には
「まぁ、貴方は騎士なのね。」
「はい。先日も国王様の命により、出陣致しました。相手は手強い者達で苦労致しましたが、勝利をおさめることができました。」
僕の話に彼女は大きな瞳をさらに大きくした。その彼女の反応から、僕に興味をもってもらえた事が伺える。
「貴方のお話はとても興味深いですわ。今度、お庭でゆっくりとお話を致しませんか?」
「そんな約束して、大丈夫か?相手はあの伯爵家のお嬢様だぞ。お前の身分なんてすぐにバレるんじゃないか?」
僕の本当の姿は、騎士などではなく、小さな劇場で役者をしている。ある日、とある伯爵家に、とびきり美人な令嬢がいると噂を聞き、僕はその伯爵家のパーティーに忍び込んだのだ。芝居で使う、衣装を着て。普段から役者として、いろんな人格を演じている僕には、騎士になりきることなんて簡単だったし、バレない自信があった。
「まぁ。国王様からご褒美を?!」
僕の芝居に、彼女は素直な反応を返してくれる。
だから僕の芝居にも力が入り、雪だるま式に話が大きく膨れ上がっていった。
「今度は騎士団長に?!」「最高栄誉勲章を受賞?!」「国王様とお友達に?!」
それでも僕は、真実がバレることはないと自信を持っていたし、何よりも、無垢な彼女にどんどんとひかれていった。そんなある日。彼女からとんでもないことを告げられた。
「え?国王様とお食事を?!」
「えぇ。私のお父様と国王様は、学友なの。だから、国王様とお友達のあなたも是非一緒にいかがかしら?」
僕は体から血の気が引いた。だって、僕は芝居をしていただけなんだから…。僕は彼女から、嫌われてしまう…。無邪気に微笑む彼女に、僕は何も言えなくなった。すると、庭の入り口から屋敷の従者が走って現れた。彼女は僕の腕を引いて走り出した。「こら!待て!そこの二人!無断で屋敷に入りおって!」従者はそう言いながら、僕らを追いかけてくる。(二人?…無断で?)僕は訳が分からないまま、彼女に引かれ走った。
「ここなら、もう大丈夫ね。」
彼女は見たこともない位の、悪戯顔を僕に向けた。
「私はこの屋敷に出入りしている商人の娘。」
僕が令嬢と思っていたのは、僕と同じようにパーティーに忍び込んだ女の子だった。
「私はあなたのお芝居のファン。話し掛けられた時はビックリしたけど、あなたと素敵な劇を演じられて楽しかったわ。」
僕が雪だるま式についた嘘は、彼女の大きな嘘によって終わりを告げたのだった。
読んで頂き、ありがとうございました。