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悪役令嬢三人組っ!  作者: 宇宙人
第一章:入学編
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第五話:ヨルコ=ルロワの王都入り

 ヨルコ=ルロワがゴルドランス家のお茶会に参加してより数日の後。

 ベルセルグ王国で有数の華やかな祝祭の日がやってきた。


「入学式だねえ、ヨルコ」

「そうだね。とうとうこの日が来たね、ヴィル!」


 王都ではこの時期になると、町中が鮮やかな垂れ幕で彩られる。

 市場街区では営業許可を得た露店が立ち並び、手製の装飾品や服飾、珍しい香辛料や料理が売られている。

 我が子を宿舎付きの学校に預けたばかりの身なりの良い商人の夫婦らや、大量輸送で安くなる馬車に乗ってやってきた両親たちに一年ぶりの再会を果たす子供たち、学校とは縁がないが一年に一度のお祭りに領内から集まってきた者達といった人波で大きくごった返していた。


 式の始まりは基本的に午後からである。

 昼前の今の時間帯は、最も町が込み合う時間帯と言えた。


 王国領内の教育機関は必ず同じ時期に入学式を迎えることになっているが、こうも派手なお祭り騒ぎが行われるようになったのはここ十年ほどのことだという。

 古くは、適齢期を迎えて地方から武者修行に来たベルセルグ流武術の武道家たちを錦の幟で迎える風習を国家行事として取り入れた、小規模な祝いの祝祭であったといわれる。

 まあ歴史はともあれ、非日常の活気ある光景を見られること自体、ヨルコにとっては喜ばしいことだった。

  

 ヨルコは、竜籠に預けて先に送っておいた大荷物を除くほぼすべての家財道具をいつもの大鞄に入れて背負ったまま道を進み、活気ある街並みを眺めていく。

 その斜め後ろをついていくのは、姉の後を追う幼年学校生といった風体の小さな男の子。ふわふわした栗色の髪を風に揺らし、色素の薄い黒い瞳がヨルコのことを微笑ましそうに追っている。

 しかしその幼げな見た目とは裏腹に、少年が着ているのは、まぎれもなくベルセルグ王立魔導学校の制服であった。


 ヨルコと少年――名をヴィルヘルム が入学するベルセルグ王立魔導学院は、ベルセルグ王国の教育機関でも筆頭とされる名門中の名門だ。

 下は12歳から上は20代まで。昨年までは貴族の子女しか入学を許されなかった場所であるが、本年より一定条件を満たす一般王国民にも門戸が開かれた。


 つまりこの少年は見た目に反して――少なくとも13歳以上の、何かしらの優秀さを見出された秀才であるということになる。


「ヨルコは、この前も王都近くに呼ばれていたんでしょう? そんなに物珍しくはないんじゃないのかな?」


 ヴィルヘルムの声は未だ声変わり前の伸びやかなソプラノボイス。

 舌足らずとは少し違う、一音一音発音を確かめているような不思議な響きの声だった。


「うん、そう。例の友達の子の呼び出しでね。魔道具での声出し会話だけじゃ味気ないからって。あのときはすぐ西のゴルドランス公爵領に直行だったから、王都の中は見てないんだ」

「そうなんだ。その友達って、売ったら金貨数百枚になる声の魔道具をヨルコに貸してくれた人でしょう? 凄いよね。今日こそは紹介してもらえるのかな?」

「うーんどうだろ。あの子、自分の意思より全体の調和を重んじるタイプだって、まひ――別の友達が言ってたからなー。私たちだとその……すぐには難しいかも」

「ああ、なるほどね。……そろそろ特権区だ。ヨルコ、生徒章を出さなきゃ」


 ヨルコとヴィルヘルムが進む先には、物々しい金属鎧を着こんだ騎士たちが並んでいた。

 騎士達の背後にそびえる荘厳な門扉と合わせ、そこは市街区のお祭りの熱気とは真逆の静謐な雰囲気が漂っている。


「あの、わたしたちベルセルグ王立魔導学校の入学生です。通過を許可いただきゃ、……いただけませんでしょうか」

「聞いています。学校の方から容姿を記載した紙をいただいているので照合します。あちらでお待ちください」


 王都在住の王国貴族であれば家紋でパスされる通用門であるが、外からやってきた人間相手にはさすがに厳重なようだ。

 なにせ、ここから先は基本的に貴族およびその貴族の庇護下にある御用商人など一部の者しか進入を許可されない、王都の本当の中心区である。

 王城はさらにその先であり、王城自体には市街地からも入場が可能な門橋が用意されているものの、本当の意味での正面口はこの特権区内にある。

 

「良かったー。門番の人たち、思ったよりとげとげしい反応じゃなかったね。部屋で休もう、ヴィル」

「うん、そうだね。きっとあの人たちは仕事に誇りをもってやっているんだ。偉い人を通すんじゃなくて、町に危ない人達が入ってこないようにすることが自分たちの仕事だって分かってる」

「そうなのかな? そうかも……あ」

 

 門の脇の立派な待機部屋に足を踏み入れると、そこには先客達がいた。


 一目でわかる上質そうな靴に、ヨルコとヴィルと同じおろしたての立派な制服。

 見事な化粧の施された、整った顔立ちの少年少女達が席を囲んでいた。

 談笑していた彼ら五名の内、最も奥座にいた少女はヨルコ達を歓迎するような笑みを浮かべて立ち上がりかけ――即座に眉をひそめた。

 

 その原因はヨルコにも分かっている。

 五人の視線が、自分たちのどこをなぞったかを理解したからだ。

 王立魔導学園の制服。その胸元と肩口には、自分がどこの貴族家の出身かを示す家紋を刻む空白があるのだ。


 彼ら五人の制服にはそれぞれ異なる紋章が刻まれているその場所だが、ヨルコとヴィルヘルムは完全な空白となっている。


 制服は簡易ながら魔道具となっており、汚れや傷をある程度防いでくれる造りだ。つまり、後から針と糸で刺繍を加えるようなことはできず、紋章は基本的に制服が作られた段階からそこに存在しているはずなのだ。

  

 それが無いということはつまり。


「おっと、貴方がた。この門の先は王都特権区ですよ? 間違えていらしたのであれば、どうぞお帰りになってください。私たちは栄えあるベルセルグ王国魔導学校200期生でして。あなた方がどちらの学校に入学されたいのかは存じませんが、この先に用はないでしょう?」


 入り口近くに座っていた、眼鏡をかけた大柄な少年が、にこやかな表情で立ち上がる。そのまま、じりじりと二人の方に迫ってきた。

 その意図は明白。

 今年度からの特別枠――貴族でない平民の魔導学校入学許可を快く思わない者は多いと聞く。


「さあ、お帰りなさい」


 相手はきっと年下――そう思っても、あからさまに向けられた悪意を前にヨルコは身を竦ませていた。

 威圧を受けて後ずさらなかったのは、後ろにヴィルヘルムがいたからか、それとも意地があったからか。


 「――っ」

 

  けれども抗議の声は舌には載らず、カヒュー、と短く息が漏れたのみ。


「帰らないよ」


 そんなヨルコの前に割って出た影がある。


「僕たちはここでしたいことがあるからね」


 ヴィルヘルムの小さな体が、それを見下ろす貴族の少年の前までやってきた。


「ふざけるなっ!」


 唐突に、立ち塞がる少年の背後から甲高い怒鳴り声が響いた。


「あんたたちがいなければ! あんたたちがいなければ私の妹は―――!」


 それは、先ほど真っ先に立ち上がった少女の声だった。


「まずいな」


 と、ヴィルヘルムと向かい合う大柄な少年が溜息を吐いた。

 そして、怒鳴り声に背を向けたまま、先ほどまでの慇懃無礼な声とは打って変わって心配げな表情を二人に向け、短くささやいた。


「君達、一旦逃げると良い」


 その表情を見て、ヨルコは確信を抱いた。


「あ……。あちらはランポッサ……様、それと貴方はルーク様ですね」

「えっ、あれ、知っていたのか? どこかで会ったかい?」

「いいえ、お初にお目にかかります。すみません、それではしつれいさせりゃていただきます。ヴィル、行こう」


 困惑気にヨルコの顔を見る眼鏡の少年――ルークと、その奥の取り乱す少女――ランポッサ子爵令嬢に身振りで礼を行い、ヨルコはヴィルの手を引いて部屋を出た。





「大丈夫かい、ヨルコ?」

「心配かけてごめん、ヴィル。もう大丈夫」


 本音を言えば先ほどまで心臓は鳴りやまないほど驚いていたし、全然平気ではなかったのだけれど、ヨルコはヴィルヘルムの前では見栄を張る。

 もっとも、今回ばかりは見栄を張っていなかったとしても、ちょっと説明が難しい理由での驚きでの動揺だったので、大丈夫以外の言葉は伝えられなかっただろうが。


 門番に事情を説明し、部屋外で待機させてもらっている間に、ヨルコはヴィルヘルムと言葉を交わしていた。

 

「まあ、ああいう子もいるよね。わたしたちが入学した分で席が埋まって、妹さんが入学できなかったんだろうなー」

「でも、僕たちにそれを怒るのはお門違いだ。ヨルコを怯えさせたのを僕は許していないからね」


 ベルセルグ魔導学園は199年の間、貴族の子女だけが集う学園だった。

 これは、未だ戦の薫りの漂う建国当時のベルセルグ王国予算でできる教育政策の限界が理由だった。

 元々ベルセルグ王国の礎となったベルセルグ流武術においては、敬うべき師はあれど、教えを請うのには階級より実力が優先されるという考えがある。ベルセルグ一世はその教えに従い、全国民の教育はできずとも、全国民にチャンスのある教育の場を設けようとベルセルグ魔導学校の設立を提案していたのである。


 しかし、ベルセルグ1世の遺言に従い、正しく能力重視の教育機関として一般市民の受け入れを始めるようになったのは今年からのことであった。

 平民の受け入れを行うことが偉大なる国の祖の遺言でなければ、また、平民を入学させるためにあらゆる詭弁を弄して貴族院を納得させた現王国宰相マリジーニーの活躍が無ければ、ヨルコ達の入学はありえなかったことだろう。


 マリジーニーは、国の政治を預かる貴族院およびそこに所属する有権者らに対し、学園への平民入学に首を縦に振らせるため以下のような論を展開した。


・この改革により、在野に埋もれた人材を見出すだけでその出身となる貴族領の地位は向上す

 るだろう

・近年幅を利かせ始めた改革派、その要望の一部を国政に悪影響のない範囲で受け入れ、ガス

 抜きとさせたい

・何よりこれは初代国王陛下の命である。建国200年のこの機会を逃してはならない。


 さらに、表向きではない裏側からの説得としては以下のようなものが示された。


・入学を許される諸子については「貴族からの推薦枠」が必要とすることにする。  


 そしてこの推薦枠は貴族たちの新たな利権として利用できるのだ。例えば、自領で有用な商人の子に推薦枠を与えてつながりを強化できるし、自分の"お気に入り”の誰かに分かりやすく恩を与えるために活用できる。

 王立魔導学校の卒とあらば、諸子であっても王都での就職や場合によっては王城への登用さえ考えられる。人によっては大金以上に欲するであろうその権利をどう活かすのもその貴族次第となる。


・庶子の入学生は、貴族の家の出の者たちより"1年間”多く勉強をした領の者達に受験をさせ、

 その成績優秀者から選ぶこととする。


 これにより、仮に貴族の諸子らより優秀な入学生があったとしても"1年年上""選抜対象"という違いがあり、決して貴族出身の生徒たちの誇りを傷つけることはないとした。


 徹頭徹尾、平民の入学生のためではなく、それを許諾する貴族の側の利益についてのみ触れられた主張だったが、効果はあった。貴族の賛同者らは口々に「初代陛下の命を実行できる良い機会である」という建前を口にし、なんとか学園への平民入学は可決されたのである。


 そんな学園の大方針転換。 

 これが学園に、そしてベルセルグ王国全体に何をもたらすのか。

 それを知る者は未だいない。


「お待たせしました。ヨルコ=ルロワ様。そしてヴィルヘルム=ルロワ様。通過ください。それと……個人的にですがあなた方のご栄達を戦神アレス様にお祈りいたします。良い学園生活を」


 そして、そんな未来を紡いでいくことになる二人が、今日その一歩を踏み出す。


「ありがとうございます。それじゃあ行こう、ヴィル」

「よし行こう、ヨルコ。僕たちの学園に」

 


第五話にしてまともに男キャラが登場です

尚、あの方は乙女ですのであしからず。


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