闊歩するゾンビ、銀歯を持ったカッパ。
「なあ、ゾンビ」
「ゔぁー」
「お前が銀歯を持つかつけるかすりゃいいんじゃないのか?」
「ゔぇ?」
「いやさ、『どうして?』じゃなくてさ」
カッパは複雑な感情を抱いていた。
手に持った銀歯だけに、歯痒さを訴えるかのような、絶妙な表情を浮かべる。
「俺さ、この作品のタイトル見て思うんだよね、確実に俺達の役割、逆にした方がいいって。
お前が銀歯を持って、俺が闊歩した方がいいと思うんだよね。
韻も踏めてお得じゃん。
それにこの状態のまま話を展開する方法が分からないんだよね」
水かきの上に、小さな銀歯を乗せ、憎たらしそうに転がして遊ぶ。
「ゔぁー」
ゾンビは訴えた。
お前は間違っている、と。
この世の理不尽という物は、自己を成長させる為に存在するのだ。
然るにその研鑽を怠る事によって、自己の限界や、精神を知る事も無く朽ち果て、やがて、パーソナリティの死が訪れる。
次にやって来るのはパーソナリティの死後硬直。
その人格が不動の物として出来上がってしまい、そして末路はゾンビの如き存在。
電子媒体などを用い、他者からの攻撃が届かない範囲から傍若無人にその腐った四肢を振り翳す存在になる、と。
そう必死に訴えた。
しかし、カッパの心には届かない。
「でもさー、いくらなんでもカッパが銀歯を持ってるだけっておかしくね? ゾンビが銀歯を持ってるんならさ、まだ生前の所有物かなって憶測立てられるじゃん。
でもだぞ、カッパて。カッパが銀歯て。
全く意味が分からん。
カッパの歯にまつわるエピソードなんてあったか? ないよな? て事は脈絡もクソも無いじゃん」
「ゔぁー」
ゾンビは訴えた。
お前は間違っている、と。
無いのであれば、作ればいい話だ。
作れないのであれば、現在の状態を破壊し、再構築すればいい話だ。
第一、今時の日本人にはこういった考え方が無いからいつまで経っても右肩下がりのこの国を変えられないのだ。
そう必死に訴えた。
しかし、カッパの心には届かない。
「そう簡単に言ってくれるけどさぁ、キャラ変なんて無理でしょ。後者なんか特に。
そんな事しちゃった暁にはさ、絶対SNSで叩かれるからな。
『歴史を改変するな』ってな」
「ゔぁー」
ゾンビは訴えた。
お前は間違っている、と。
そもそもお前の水かきは何の為にある?
川を泳ぐ為ではないのか?
ならば当然、川を泳いだ事がある筈だ。
下流から上流まで泳いだ事も一度はある筈だ。
わざわざ陸上をトボトボ歩いて川の上流に登るなんて話も聞いた事ないし、そうしているのだろう?
その時こう思わなかったか?
己の身を打つこの流れは、己を鍛える為の物であり、己の主張を押し倒すには、避けられぬ道。
そして、必ず上流には水源があり、そこまで辿り着けばゴール。
つまり、どんな物にも終着点という物があるのだ。
そしてそのゴールに辿り着くその時こそが、人生の中で、最も貴い事なのだ。
そう必死に訴えた。
しかし、カッパの心に届かないどころか、彼に良からぬ気付きを与えてしまった。
「ならさ、俺に闊歩させりゃいいじゃん。
だってカッパって水生の生き物じゃん。水生の生き物が闊歩してるっておかしいじゃん。意味不明じゃん。
カッパと闊歩で韻は踏めても訳分からないじゃん。
ただ韻が踏めるだけじゃん」
「ゔぁ」
「あ? 『カッパは頭の皿さえ乾かなければ、陸上でも活動出来るから問題ない』だって?
なるほどな、そうか」
そう言って、カッパは爆発四散して死んでしまった。
熱を放ちながら転がるカッパであった筈の物。
残されたゾンビはカッパの死を以て学んだ。
人は一定のキャパシティを越えると爆発四散して死ぬ、と。
こうして涎と腐敗が絶えない彼のインテリジェンスがまた更に深まったのであった。
それと同時にカッパは己の死を以て学んだ。
来世では、自分の意見を否定しかして来ないようなやつではなく、少しは肯定してくれるようなやつと関わるべきだ、と。