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エピローグ ――この奇跡的でクソみたいな夢の続きに花束を

 ――二年後……。



 僕は、居眠りしたくなるような春の昼下がり、テトラポッドの間から伸びていく桟橋を、薄っすら蜃気楼のように浮かぶ遠くの街に向かって、生暖かい潮風を浴びながら気だるげに歩いていた。

 あの日、あれ程荒波を立てて僕らの行く手を阻み、燃えるように鮮烈だった大海原は、今はこのまま向こう岸の街まで歩いて行けるんじゃないかってくらい静かで穏やかな凪であった。



 「そりゃ、東京湾なんてこんなもんか……でも、この臭いはあっちより鼻につくな」



 僕はひとしきり、この眠たくなるくらい穏やかな海原を目に焼き付けると、ジャケットのポケットから携帯端末を取り出した。



 「……行かなきゃ」



 踵を返した僕は、風を切るようにいつか見た懐かしい光景を後にする。



 約半年間に及んだ、パークライフ社の致命的なシステムトラブルは、その根本的な原因の特定ができないまま、ユーザーの帰還という形でなし崩し的に終焉を迎えた。

 案の定、パークライフ社への損害賠償請求額は天文学的な金額となり、現在破産手続き中らしい。

 そして、この世界の縮図のようだったあのカオスで夢いっぱいのクソみたいなユートピアは、事実上この世界から消滅したってわけ。



 「本当に……ロクでもない事ばかりだった」



 苦笑いしながらイヤホンを取り出した僕は、歩きながら携帯端末から音楽の配信を流し始める。

 酷くシニカルで攻撃的、それでいて計算高い程よいポップの小悪魔的で妖艶なロックンロールだった。

 まるで、あの僕を手玉に取ろうとする悪辣であざとい、だけどどこか憎めないあいつのほくそ笑みが浮かんでくるようだ。



 「絶対聴けっていうから、まあ、聴くけど……」



 アイドルゲーム『ICO(アイドルクルセイダ―ズ・オンライン)』のトップアイドルグループ、セタガヤ・ユナイテッド・メイデン48(SUM48)の絶対的エースこと、ツインテールの悪……小悪魔ミズキちゃん。結局、僕はリアルに帰還するまで、彼女はネカマのおっさんか何かだと誤解していた。それさえ気付いていれば、もっと守り甲斐もあったのかもしれないのにね。

 彼女はリアルへの帰還後、この大規模システム不具合の被害者という錦の御旗を掲げ、圧倒的な知名度を獲得してグループを卒業。何を間違ったか、畑違いのロックシンガーへと華麗なる転身を果たしたんだ。



 ――今度の新曲、マジで神曲だったでしょ!? ……え、聴いてない? サイッテー、あれ程言ったのに! 今日聴いて! 今すぐ!!」



 最早、彼女が新曲を出す度の恒例行事だ。僕の静かで穏やかな日常は、頻繁にこの悪辣なロックンローラーに蹂躙されていた。

 アルバムでも出されたら最悪。全ての曲の感想を、大学のレポート並みの労力をかけて返さなければならないのだから。

 まあいい、もうあの作られた脳みそとろけちゃうみたいなアニメ声ではなく、素の彼女のパンクな声の衝動に、今は少し自律神経を揺さぶられているだけだ。

 しかしながら、僕は常日頃、サディスティックなデスメタルバンドのボーカルにでも転身した方が、彼女の才能を如何なく発揮できるのではないかと思っていたよ。



 でも今は、そんな彼女の高慢ちきな悪態も、どこか懐かしく……愛おしくさえ思えた。



 「兄ちゃーん!」

 「タタラくーん!」



 振り返ると、紺色のブレザーを着た男女二人組の中学生が、嬉々としながら駆け寄って来ていた。

 あの頃、まだ小学生みたいなガキんちょだったこいつらも、もう今年は受験生だ。ソウヤもヤドカリちゃん(流石にもう失礼か?)も、すっかり思春期ってな感じさ。



 「兄ちゃん、久しぶり! 元気だったか?」

 「タタラ君! 半年ぶりだね!」

 「お、おう、久しぶり……ん?」



 相変わらず、良くも悪くも少年漫画の主人公のように生意気で屈託ない顔で笑うソウヤを尻目に、ヤドカリちゃんが後ろで束ねた髪を肩に垂らし、物欲しそうにチラチラとこちらを見てくる。



 「あ……そう言えば、ポニーテールにしたんだ。エナさん意識して?」

 「う……うん、でも……エナお姉ちゃんみたいに、可愛くはならなくて……」



 照れ臭そうに上目遣いするヤドカリちゃん。ああ、これは何か気の利いたことを言ってやんなきゃいけないやつだ。

 以前の僕なら、「そうなんだ……大変なんだね」なんて、身も蓋もないこと言って幻滅させていたに違いない。

 だが、僕も今年で大学四年生。就活中の身だ。社交辞令の一つや二つ、息を吐くように言わなきゃならん。



 「……まあ、一五歳のポニーテールっていうのも、大人のエナさんにはない初々しさがあって……いいんじゃない?」

 「ほ……本当!? タタラ君、ありがと!!」



 頬を赤らめて、キョロキョロと露骨に照れ臭がるヤドカリちゃんを見て、ソウヤがソワソワしだしている。これは、余裕のある大人として背中を押してやらんといけないやつだ。




 「……な? ソウヤもそう思うだろ?」

 「いや……俺は……その……」

 「いいですよ別に、ソウヤ君はデリカシーのないお子様なんですから……」



 顔を赤らめてモジモジするソウヤを見て、露骨に子ども扱いをするヤドカリちゃんだったが……。




 「そ……そんなことない! ……俺は!」

 「……え?」

 「俺は……その髪型、すげー似合ってると思う!!」

 「……!?」



 拳を強く握りしめながら、ソウヤは街中で大きな声を上げた。

 そんな想定外の反応に、ヤドカリちゃんは下を向いてフリーズ。お互い赤面して黙りこくってしまった。

 おいおい、一体僕は何を見せられてるんだ?

 


 「どうするんだよ? この空気……」



 むず痒くなるような思春期全開の中学生を引き連れて、僕らは約束の場所へと向かう。



 僕らは、徐々に街の喧騒の中へと入って行く。とてもじゃないが、もうこの甘酸っぱい雰囲気に酔ってしまいそうだ。

 何か気を逸らすものはないものかと携帯端末へ目をやると、とあるメッセージが目に入る。



 「……あれれ? ロキシーから連絡が来てるぞ!」



 僕は二人が食いつくよう、わざとらしく驚いてみせる。二人もそろそろどぎまぎするのに疲れたのか、ここぞとばかりに声を上げた。



 「ロキシー姉ちゃん!?」

 「ロキシーさん!?」



 僕はさぞ珍しいメッセージのように惚けてみせるが、彼女とはちょこちょこと近況を報告し合い、愚痴を言い合うような仲になっていた。

 半年前、ロキシーは満を持して憧れだった日本へ来日。ツアーガイドとなった僕らと、あと十年は来なくていいくらい日本を満喫して帰国して行った。

 普段は偏屈な彼女も、歳相応の女の子みたいに無邪気にはしゃいでいたのが、今も目に浮かぶ。



 最近の彼女のもっぱらの悩みは、親に貴族階級の集う会員制クラブに無理矢理連れて行かれ、げんなりする程良家の男に引き合わされることらしい。

 まあ、中身はともかく、見た目は小柄でお人形みたいな金髪美女だ。モテないわけがない。


 

 ――助けてくれ、タタラ。この前、クラブで会った男がしつこくて敵わないんだ。……そうだ、君が渡英して来て、私のステディーだということにするのはどうだろう? 名案じゃないか?」

 「……あはは、気持ちはありがたいけど、貴族階級のお姫様の君と東洋人のド平民の僕じゃ、それこそロミオとジュリエットだよ」

 ――素晴らしいじゃないか! そうなったら、君と日本に逃避行だ! まずは、二人であの食パンみたいに退屈な見合い相手を、テムズ川に突き落として魚の餌にする算段を立てよう」

 「もう、ただ日本に来たいだけだろ? ……まあ、シャーロック・ホームズでも解けないような完璧なトリックが思いついたら、考えとくよ」



 僕とロキシーのやり取りは、いつもこんな感じでシニカルで馬鹿らしい、そしてこの上なく心地が良かった。



 ――そうだな、君と共犯者なら悪くない……」



 僕はソウヤとヤドカリちゃんに、ロキシーの近況をそのシニカルな笑いを交え、面白可笑しく語ってみせた。

 僕の算段通り、あの重苦しかった二人の空気は、出会ったばかりのガキんちょの頃みたいに柔らかくなっていた。



 「でも、タタラ君? ちょっと、ロキシーさんのこと……詳し過ぎやしませんか?」

 「(ギクリ)あ! いやー! その……最近ちょっとだけ、たまたまだよ!」



 ヤドカリちゃんの目がきらりと光り、僕のことを怪訝に伺ってくる。

 まだ中学生とはいえ、女の勘てやつは恐ろしい。別に浮気をしているわけでもないのに、何で僕はこんなに脂汗を流してるんだ。



 「本当にちょっとだけなんですか? ……怪しい」

 「ヒューヒュー! 兄ちゃん、ロキシー姉ちゃんとできてんのか?」



 大審問官のように、僕を問い詰めるヤドカリちゃんと、ソウヤのクソガキ丸出しの馬鹿男子っぷり。

 全く、いつ会っても胸焼けしそうな騒がしさだ。ハイドパークでの、あの意表を突かれた二十歳の誕生会を思い出す。あいつも、元気してるかな?



 ロキシーの帰国から、約半年。決して近くにいるわけではない僕らは、再びある目的の為、皆んなで集まることにしたんだ。



 それは、都心のビル街の一角、キラキラ光るガラスの森の木陰でであの人が僕らを待っていた。忙しなく人が行き交うビジネス街のオアシス的なカフェレストランが、今日の待ち合わせ場所だ。

 


 「おーい! みんなー! こっちこっち!」



 彼女は僕らが来たのに気が付くと、あの頃と同じ太陽のような笑顔で大きく手を振り、僕らを出迎えてくれた。

 


 「エナお姉ちゃん! 会いたかった!」

 「エナ姉、久々だな!」

 「よーしよし、うんうん、私も二人に会いたかったぞ!」



 落ち着いたリビエラブルーのワンピースを纏った彼女は、ゲーム内ではトレードマークであったいつものポニーテールではなく、今日は髪を下ろしていつもより大人びて見えた。

 あの頃、まだちんちくりんだったソウヤは、既に背丈は彼女より大きくなったし、ヤドカリちゃんもさして変わらない。

 そんな月日を感じさせない程、二人はあの日のように無垢に微笑み、彼女もあの日見たような朗らかな笑顔でそれに応えた。



 「うふふ、そこのかっこいいお兄さんも、お姉さんに会いたかったかな?」

 「会って早々、僕だけ揶揄わないでください。でも……久しぶりです。エナさん」

 「うん、久しぶり。……少し見ない間に、大人になったね。タタラ君」

 


 少しお道化た態度で甘噛みしてくるエナさんに、僕は肩を竦めながらも何気ない笑みでそれに応えた。

 しかし、髪を下ろした普段着のエナさんは、騎士やサムライみたいなかっこよさが抜け落ち、女らしさが際立っている。



 思えば、あの後の戦いは、過去への贖罪に生きたエナさんを、永遠とも呼べる深い眠りへと追いやってしまった、いわば僕の贖罪の戦いであった。

 そして、仮想世界の巨大なシステムの呪縛に囚われてしまった彼女を、僕らはリアルへ帰還する直前に、やっとの思いでようやく救い出すことだできた。

 その時、僕らのあの世界でのクソみたいな冒険は……そして、僕と彼女の過去に対する贖罪の旅も、本当の意味で終わりを迎えたんだ。



 僕が罵声を吐きながら流した大粒の涙も、彼女が口にした世界一優しい贖罪の言葉も、今は遠い昔……或いは、いつか見た夢のような気がする。

  


 人々が行き交う外の喧騒を、ガラスで隔てた窓際の席に着いた僕らは、ひと時の間昔話や、それぞれの近況について会話に花を咲かせる。

 向かいに座って微笑む彼女は、大人びてはいるが、何故だか以前より近くに感じた。



 「そういえば、タタラ君。飛燕ちゃんとはどうなったのかな? 気になるな~」

 「……はい!?」



 油断していた僕に、エナさんが少し意地悪な顔で爆弾を投下してくる。そして、何故だか身を乗り出して興味津々なヤドカリちゃん。

 そう、エナさんがあの世界で深い眠りについてしまった後、その後の戦いを、僕の一番近くで支えてくれた女の子だ。あの後、あいつとはたまにぶつかりながらも、数々の死線を乗り越えた。

 そして今は……。



 「よしてください。あいつとは最高の相棒でしたが、本当にそういうのじゃないんです……」

 「そうかなー? お姉さんは、すっごくお似合いだと思ったんだけどな。飛燕ちゃんも満更ではなさそうだったし」

 


 少し意外そうに首を傾げるエナさんの横で、やはり何故だかほっと溜息を吐くヤドカリちゃん。

 まあ実際、ガサツで愛想がなく、口も悪いが誰よりも仲間思いで情が深い奴だった。小柄で結構可愛かったりしたし。

 だけど、あいつとはそれ以上に、もっと深くてどうしようもないくらい泥臭い、言葉には言い表せない絆がある気がした。



 「今更ですが、元々出会うはずのなかった二人です。何と言うか……あの時、あの場所、あの瞬間に出会ったからこそ、あいつとはあの世界で歩調があったんだと思っています」

 「へー、深い事言うね。じゃあ、本当に今は何にもないんだ?」

 「はい、あいつにとっても僕にとっても、一緒にいたら、多分今はお互いが足かせになります。……だから、遠くであいつを応援してるくらいが丁度いい距離感なんです」



 まったく、エナさんが飛燕との関係なんか詮索してくるから、柄にもなく遠い目をして語ってしまったし、空気も何だか湿っぽくなっちゃったじゃないか。

 エナさんも、本当はもっと甘酸っぱい恋バナを聞きたかったのだろうに。しかし、こんな空気になっても、彼女はまだ僕を弄り足りないようだ。



 「……仕方ないな、そんな悩める子羊タタラ君を、今日はこの優しいお姉さんが目いっぱい慰めてあげよう」 

 「そうですね……あなたのような、美人なお姉さんに慰めてもらえれば、僕の心のロンドンみたいな湿っぽい曇り空も、イタリアの海岸リゾートくらいアホみたいな快晴になるかもですね……」



 年下の男の子を揶揄うエナさんに、僕はついつい最近の悪い癖……ロキシーとの皮肉の応酬みたいな返しをしてしまう。

 やはり場違いだったのか、僕のくどいブリティッシュジョークを聞いたエナさんは、鳩が豆鉄砲を食らったような顔して黙りこくってしまう。

 勘弁してくれ。ここでロキシーなら、二倍三倍にも皮肉を増幅して打ち返してくるのに、これじゃ僕が盛大にすべったみたいじゃないか。



 「……(どうするんだよ? この空気……)」

 「……そんな美人じゃないから……人前で、やめてよ」

 「……へ?」



 何を言ってるんだ、この人は? エナさんは少し目を逸らすと、10代の女の子みたいな顔して言った。

 まさか、僕の放った皮肉の爆弾が、どこか明後日の方向に飛んで行って誤爆してしまったのか?

 もちろん、不意打ちを食らった彼女の初な可愛さは半端なかった。だけど、相手はあのエナさんだぞ? こんなこと、おてんとうさまは許しても、僕は絶対に許すわけにはいかない。



 「ちょっといいですか、エナさん?」

 「……え?」

 「エナさんが美人なんてことくらい、小学生だって見りゃ分かりますよ! 大体、あなたが美人でなけりゃ、世界中の美人は絶滅危惧の希少種認定して、隔離保護しなきゃいけないレベルになりますよ? それに、そういう無自覚な卑屈さが、持たないものを一番傷つけたりするんです! 分かりますか? エナさん!」



 そして始まる、僕の黒歴史確定の壮大な演説に、その場にいた皆呆気にとられる。いや、誰でもいい。もう僕を止めて欲しかった。



 「うん……ごめん、だってタタラ君に美人なんて言われたことなかったから……」

 


 そう言って、再び俯いて黙りこくってしまうエナさん。なんだよ、可愛いかよ?

 その反応を見て、僕も無性に恥ずかしくなり、恥じらうエナさんを見つめたまま、ついに言葉を詰まらせてしまう。



 「あれ? エナ姉も兄ちゃんも、顔真っ赤になってんぞ! ヒューヒュー! エナ姉と兄ちゃんがラブラブだ!」

 「タタラ君! ちょっとエナお姉ちゃんのこと、見つめ過ぎじゃないですか?」



 ここぞとばかり、ソウヤは二人の大人の盛大な誤爆事故をクソガキ全開で煽り立て、この状況の滑稽さに拍車をかける。そして、何故か僕に氷の眼差しを向けるヤドカリちゃん。

 そして僕らはあと一人、とんでもない奴の存在を忘れていたことを思い出すのだ。



 「……殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す」

 「ぎゃあぁぁぁぁーーー!!!!!」



 鼻息でガラスを曇らせながら、僕への明確な殺意を向ける残念イケメンが、外の窓ガラスにナメクジみたいに張り付いていた。

 どうやら、カイの人格破綻者っぷりも健在のご様子だ。こいつのことに関しては、愛おしく思える日など、絶対来ないことだろう……。

 とにもかくにも、これで今日のメンバー全員が揃ったわけだ。



 そして、決して近くにいるわけではない僕らが、今日ここに集まった理由。

 今日、彼女が、あのガサツで愛想がなく、口も悪いが誰よりも仲間思いなあいつが……現実世界では、決して恵まれたフィジカルを持たなかったあいつが、ついに世界の舞台に立つ日が来たんだ。



 破産手続き中のパークライフ社から、別会社に権利が移行した“ストリートファイティングマン・オンライン”【SFMO】の世界の中で、ベイビークイーンこと、日本チャンプ飛燕は世界タイトルマッチに挑戦する。

 かつて、あのカオスな世界で一緒に戦った戦友に対して、僕らは一つの場所に集まって共に祈りを捧げることにしたんだ。



 僕らの願い、希望を背負い、彼女はあの日の夢の続きを見る為に、再びボーダー(境界)を越えていく。

 そしていつか、その境界の先で、また僕らはクロスするのかもしれない。

 眩いライトを浴びて、ゆっくりとステージへ上がっていく彼女の姿を見つめながら、僕は思った。




 ――こんな奇跡的でクソみたいな夢の続きも、悪くない。

エピローグ含む全40話、最後までお付き合いいただき本当にありがとうございました。



実を言うと、5年前の段階ではこの後に「第4章」を構想していました。

しかし、どうしても続きを書くことができず、気がつけば5年という月日が流れてしまっていました。



なぜ筆が止まってしまったのか。今回、完結に向けて改めて物語を読み返した時、その理由がはっきりと分かりました。



巨大ロボットやファンタジーという多くの装飾を全てとっぱらったとき、この物語の主軸は、タタラという孤独な青年が、自分の卵の殻を破って世界と調和していくことであったのだと気付いたからです。

だから、「タタラという孤独な青年の成長劇は、既にあの空母の甲板で仲間に再び迎えられた時点で完結していた」……という判断に至りました。



エナという手の届かない大人の理想に出会い、ロキシーという自分と似た完璧な鏡像と袂を分かち、そして飛燕という正反対の衝動に殻を破られ、不器用ながらも世界と調和していく。

彼の少年から青年になって世界と調和する為の物語は、既に終わりを迎えていました。そこに無理やり続きを足すことは、もう野暮なのだと思います。



だからこそ、第4章ではなく、大人になった彼が美しい円を描くように「最初の理想エナ」と再会し、過去と未来の自分たちへ花束を贈るこのエピローグをもって、物語の真の幕引きとすることに決めました。



5年という長い空白を越えて、この不器用なキャラたちが境界ボーダーを越えていく瞬間を見届けてくれたすべての読者に、百万の感謝を。

一万キロの長旅に付き合っていただき、改めて本当にありがとうございました。







――アンコール!

もし、タタラのようなシニカルでひねくれた主人公の語り口を、もう少しだけ味わいたいという奇特な方がいらっしゃいましたら……。



現在、作者の代表作として『高校デビューに失敗した僕。甘くて危険なクーデレ狼に懐かれる』という作品を公開しております。

※完結済みです。

タイトルこそ流行りのラブコメの皮を被っていますが、中身は本作『ロストボーダー・オンライン』と同じ、羊の皮を被った狼です(笑)

本作のキャラクターたちも、スターシステムとして別の役柄で一部出演しています。



タタラたちの物語はこれにて本当に幕引きですが、もしよろしければ、彼らが別の次元で騒いでいる少し喧騒に満ちたステージ(作品)の方にも、ぜひ遊びに来てやってください。

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