鈴乃の決断
投稿スパン短い系の燕です。
流石に毎日更新とかは無理ですが。
鈴乃視点の一応最後に当たります。予想外の人と出会う!?
白い光から視界が晴れる。周囲を見ると、ただひたすらに広い見慣れぬ広野だった。
「転移罠に掛かったのね。部屋全体に効果を及ぼすとか、どれだけ強力な罠なのよ。まだ十階層にすらついてないのに」
だが、こんな愚痴を言っても仕方ない、と割り切って、近くに村や街が無いか、と歩き出す。ちょっとした高台に登って周りを見渡してみる。すると、少し遠くに街が見えた。
「あの街は……、カイトの街かしら。だとしたら、ここはコーラル広野ね。別大陸に飛ばされたりしていなくて良かったわ」
ホッとして胸を撫で下ろす。とりあえず、戻るのは簡単そうだ。でも、本当に戻る必要なんてあるのか。
答えは、否。あの嫌味ったらしい王と、騎士団長を謳う上から目線の騎士など、自分の先生であるセレナ宮廷魔術師やクラスメイト以外の人物は相性が悪い人ばっかりだ。座学の時も、淡々と書物を音読しているだけだし、正直に言って、あの環境に嫌気が差していたことは否定できない。
ならば、いっそ自分は転移罠によって居なくなったことにして、旅でもしながら冒険者として暮らすのはどうだろう。勇者としてのこの実力があれば命の危険と隣り合わせになることのある冒険者であっても、やけに大きな仕事でも引き受けない限り、長い間続けられそう。
それに、もし見つかったとしても、言い訳は幾らでもできる。例えば、遠くの地に飛ばされていて、最近ここに来た、とかね。それに、私は国からしたら貴重な「勇者」だから、罪に問われたりはしなそうだしね。
「じゃあ、カイトの街でお金の引き出しをしよう」
勇者の時、国から貰っていたお金を引き出しに行くのだ。私は少し貧乏性なところがあったから、勿体なくてお金を使っていなかった。もしかしたら、クラス内で一番所持金があるかもしれない。
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カイトの街に入る際、警備兵に呼び止められたが、旅の者です、と言って誤魔化しておいた。何故それで疑いもされず通れたのか我ながら疑問である。入門税で少しお金を取られたが、まだ全然余裕がある。
大通りを歩き、目的の場所である金融ギルドの銀行へ向かう。そこに、勇者名義で預けている。鎌月鈴乃の「代理人」として行けばいい。代理人用のサインは私のサインだから大丈夫だし、代理人用のサインは誰が書いたかが分かる魔法を使って確かめるそうなので、こっちの方がより信憑性が高く付く。
活気のある街並みを進んで行く。ここは貿易が盛んらしいので、異国の商人もいっぱいだ。動物の耳や尻尾をつけた人がたびたび見られる。そうして歩いていると、不意に声を掛けられた。
「黒髪黒目……。ねぇそこの君、日本って国を知ってる? 」
「ッ!」
声を掛けて来たのは白い長髪を持つ、見目麗しい女性だった。掛けられた予想外の言葉に固まっていると、
「やっぱり心あたりがあるんだね。私はカナデ。向こうで少し話をさせてくれない? 」
「……はい、分かりました」
この人から感じる強さは、彼女の纏う柔らかな雰囲気とは
違って強者の風格だった。もしここで走って逃げても追いつかれてしまうだろう。なので、少し慎重になりつつ、彼女についていくことにした。
「確認するよ。君は日本人だね?あの子と同じような気配がするんだ」
近くの喫茶店に入り、彼女の話を聞く。あの子、って誰なんだろう。
「確かに私は日本人です。でも、あの子、って誰ですか?」
「シュウ、私の弟子。」
「シュウくんを知ってるんですか!?」
シュウくんという見知った名前。素質が無いと街を追われた彼の名前に、過剰に反応してしまう。思わずテーブルを叩いて立ち上がるが、周囲の視線にハッとして我に帰る。席へと座り直す。
「おぉ、凄い反応。もちろん知ってる。あの子とは一年以上一緒に暮らしてた」
「一緒に暮らして”た“ってどういうことですか? 」
「今はラノア魔法学院の寮で暮らしてるからね。そして君こそ、シュウくんとどういう関係?」
「シュウくんは、こっちの世界にやってきた時、フィロの街の王に素質が無いといわれ、街を追われたんです。大事なクラスメイトが居なくなって、私とても心配していたんです」
「つまり、君も勇者召喚に巻き込まれた一人ってことだね」
「はい、そういうことになります」
「でも、どうして勇者がこんな所に?勇者が遠征をするなんて話は聞いていないけど……」
「それはですね……」
私は、勇者がみんな迷宮探索に出ていること、そこで転移罠に掛かって私がコーラル広野に飛ばされたこと、そして、この機会にそのまま王の下から逃げようとしていることについて順を追って説明した。相槌を打ちながら聞いてくれるカナデさんは、非常に話しやすかった。最早、最初の緊張などもう感じなくなっていた。
「なるほど。君は勇者としての身分を隠して、冒険者としてやっていきたい訳だね?」
「はい。名を隠して偽名で活動すれば良いと思いました。あの環境に戻るぐらいなら異世界を楽しみたいんです」
「じゃあさ、君は私の家に住まない?部屋は余ってるし、冒険者としての拠点として使っていいからさ」
「え!?いいんですか?」
「うん。シュウくんもそうだったし、全然いいよ。それに、まだまだ聞きたいことはいっぱいだ」
「では、お言葉に甘えて。居候になりますっ!」
「よろしくね」
まさか家に住んで良い、というお願いをされるとは思ってなかった。ありがたく受け取っておく。素性を隠し通す為にも、宿から探りを入れられるのは嫌だったからね。
「シュウは今度学院で魔法剣術対抗戦って言って、二学院の一年生同士が戦う大会があるんだ。その時に一緒に見に行かない?」
「行きますっ!シュウくんに会いたい」
「ふふっ、愛されてるねぇ、シュウ」
「あ、愛しっ、」
「顔真っ赤にしちゃってかわいいね。必要な分、お金を引き出したら冒険者ギルドに行こう」
「からかわないで下さいっ!もう、早く冒険者登録行きましょう!」
「その前に、君の名前を教えてよ。まだ聞いてなかった」
「鎌月鈴乃、です。鈴乃って呼んでください」
「じゃあスズちゃん、よろしくね」
「鈴乃ですよ!」
代金はしっかり払い、店の外へ。
今日は思わぬ収穫がたくさんあった。シュウくんの安否、街での知り合い、拠点の確保。いつかカナデさんに恩返しをしたい。ただ、私の名前は鈴乃なんですけどね。
シュウと鈴乃の接触はいつになるんでしょう(笑)
頑張ってお話を進めて行きます。
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作者は狂喜乱舞するよ!!