続:迷宮探索
作者頑張ってます!
今回は4000字程でお送り致します。
一階層を攻略し、二階層へと足を踏み入れる。漂う臭いが少しだけ濃ゆくなった気がする。
「攻略速度を少しずつ上げながら行くぞ!」
立川くんの号令に従い、先程よりも速度を上げて進軍する。やっぱり、こういう速さ優先の時は地図があると便利に感じるよね。最短ルートで行けるもの。
最短ルートを走る抜ける。そこで度々魔物とはちあったが、全て立川くんと他の人の魔法ですぐに片付け、先へ先へと走っていく。交戦する魔物の種類も、ゴブリン以外にもコボルトや魔法を使うスライムメイジなども出てきている。だけど、勇者のいるこのパーティーは、それらをものともせず疾走する。
「お、もう次への階段だな。みんな怪我は無いか?」
「特に何も無いぜ!」
「攻撃が掠ってもいないわ」
「なら、どんどん次へ行こう。三層目まではゴブリンやコボルト帯だ。一気に駆け抜けるぞ。戦利品もあまりおいしくないしな」
「だったら一列になろうぜ。そっちのが走り抜けやすくねぇか?」
「じゃあそれでいい。階段降りたら、和樹から走るぞ!」
山田くんが最後の段を降りた瞬間、風が吹いた。日本では陸上部であった彼は、異世界でのステータスやスキルの補正もあり、尋常じゃないスピードで駆け抜けることができる。彼の全力疾走には誰も追いつけない。そう、誰も。
つまり、彼は一人でしばらく待機しなければならない。流石にゴブリン如きに遅れをとるような奴じゃあないけれど、完全に囲まれたら彼に勝ち目は無いだろう。全方位囲まれたらお得意の逃げ足も効果を発揮しにくいので、急いだ方がよさそう。
そう思い、走ろうとした矢先、山田くんが走って行った方の通路から、複数の気配が近づいてきた。たくさんの魔物気配……それと、山田くん?
「お前らぁぁぁぁ!!逃げろぉぉぉぉ!!」
先程に走って行った筈の山田くんは、おびただしい数の魔物を引き連れてこちらへやってきた。何してるのおぉぉ!?
十、二十、三十……。その数、およそ五十を超えるという、あまりにもイレギュラー過ぎる数だ。
「まずい、みんなこっちだ!」
立川くんが指差した先にある細めの脇道へ入る。私は最後尾に付き、山田くんがこちら側の通路に出てきたと同時、魔法を放つ。
「『凍結』」
脇道の出口を氷魔法で塞ぐ。この程度の広さならば、容易に凍り付かせる事ができる。直後、突然行き止まりとなった脇道の中で、魔物たちがぶつかり合う音が聞こえた。よし、二回層の魔物程度では、氷壁を壊せなかったらしい。悔しげな呻き声も聞こえた。良かった、壊れなくて。
「はぁ、はぁ、すまん鈴乃。ナイスだ」
「今のうちに進んでおきましょう。もしも氷壁が壊されたらこちら側になだれ込んで来ます」
「ふう。分かった。よし、休憩もほどほどにして先へ進もう!まだここは二回層だぞ!」
ちなみに、後からこの通路を通りかかったパーティーは、細い道に押し込められている大量の魔物も見て、皆ギョッとしたそう。
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二階層を抜け、三階層もスピード攻略。二と三階層は同じような魔物しか出てこないので、戦闘はまだ楽なものだった。そして四階層へ。
「四階層、ここから出てくる魔物が少し変わってくる!みんな、特に初見の魔物に気を付けて進むぞ!」
「了解よ!」
周囲に魔力の感知網を張り巡らせながら歩く。反応があった。正面、暗闇に包まれた通路の奥から姿を現したのは、体長1メートルほどの大きな蜘蛛の魔物、スパイダーだった。
「キャァァァァァ!!蜘蛛は無理なのぉぉぉ!!」
顔を抱えて身を守るように丸くなってしまった飯田さんを余所に、私たちは戦闘態勢に入る。てか飯田さんって蜘蛛苦手だったんだ。知らなかった。
「よし!蘭のためにもさっさと倒すぞ!『雷衝波』!」
立川くんが雷を纏った槍を横に薙ぐ。そこから発せられた雷の衝撃波は、今まさに糸を吐いて攻撃態勢に入らんとするスパイダー三匹全てを焦がし尽くした。攻撃もさせて貰えない初見の魔物って何だか哀れだね。
「鈴乃、悪いがこいつらを凍らせて砕いてくれないか?蜘蛛に触れたくなければ凍らせるだけでいい」
「いや、大丈夫よ。砕いとくわね」
「助かる。」
言われた通り、焼けてスパイダーの死骸を凍らせて鎌で砕く。確かに、死んでいても飯田さんには影響を及ぼしそうだものね。そういう気配りが出来るから、彼に好意的な人が多いのかも。
「鈴乃ありがとう。ほら蘭、もう蜘蛛はいないぞ。顔を上げて大丈夫だ」
「本当?良かったぁ。ごめんね、次に蜘蛛が出てきたも戦力になれないかも……」
「蘭、人には得意なこと、苦手なことあるんだ。蜘蛛は俺たちに任せてくれ」
そう言って彼は飯田さんの頭を撫でる。飯田さんは頬を染めて俯いてしまった。あれが撫でポ職人か、私も誰かに頭を撫でられたいなぁ。誰かいい人はいないのかしら。
そんな時、彼の顔を思い出してしまった。いつも一人で読書に興じていた男子生徒。彼は今、こちらにはいない。追放されてしまった。私は、独特な雰囲気を纏う彼に、自分で思っているより惹かれていたのかも知れない。
いやっ、そんなことっ!と我に返り、熱くなった顔を横に振る。そんなわけ……。
「どんどん先へ進むぞ!目標は第十階層だ!全員でそこまで行って、十階層ごとのボスに挑もう!」
「あぁ、行こうぜ!」
立川くんの毎度お馴染みの号令を聞き、さっきの考えを振り払う。そして立川くんの言う通り、迷宮というものには、十階層ごとにボスが存在する。十の倍数の階層のみ一つの部屋しかなく、そこでボスと戦うのだ。強化個体が出てくることが多い。その辺りの知識は、城での座学で全て頭に叩き込んでいる。
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その後、飯田さんのためにも、さっきより速く四階層を攻略、その勢いのままどんどん進んで、現在は七階層から八階層へ向かう階段の中にいる。四階層から七階層に出てきた魔物は、コボルトに乗ったゴブリン、ゴブリンライダーやスライムメイジ、そしてスパイダー、という三種類だった。特にスライムライダーは、魔物の割に綺麗な連携を見せてきて、意外と手間取ってしまった。すばしっこい魔物相手なので、山田くんが無双してた。本当に足早いね。
「いや〜、さっきはナイスだったな和樹」
「おう、いくら逃げまわっても俺が追いついて仕留めてやるぜ!」
「頼もしいな。よし、今からは八階層だ。また出てくる魔物も変わってくるだろう。最後まで気を抜かずに行こう」
立川くんの毎度お馴染み以下略。
八階層へ足を運んだ途端、空気に少しだけだが圧力を感じた。それだけ強い魔物が出る、ということなのだろう。
早速、魔力の感知網に引っかかった魔物がいた。この大きな体躯は……オークかな?
今まで見なかった魔物だが、武器を構え悠然と立つ魔物は恐らくオークだろう。
「立川くん、そこの角も先、向こう側の通路にオークが四匹。どうする?」
「オークはいい感じのドロップが期待できそうだし、一度狩っていこう」
オークの姿が見える場所まで来た。そこから距離を詰めていく。すると、オークたちは何かを守るようにして取り囲んでいることに気がついた。
「ねぇ、立川くん。あのオークたちの部屋の真ん中、何があるか見えたりする?」
「あぁ。ちょっと待ってくれ。う〜んと、箱?宝箱だ!」
「宝箱だって!?」
宝箱。迷宮内に定期的に設置される、宝石や武器、便利な道具の入った箱。稀に罠付きのものもあり、開ける前には注意が必要だ。
「おし!宝箱があるなんて、俄然やる気が出てきたぜ!行こうぜみんな!」
「今ばっかりは賛成するわ!行きましょう!」
山田と内田の仲良しさんの二人がかけて行った。確かに、私も宝箱の中身には興味があるかな。
「スパイダーはいなそうだし、私もやるよ!」
「この俺も忘れんなよ?」
「あー、覚えてる自信ないかも。ごめんね」
「いやそれくらいは覚えてくれよ」
迷宮には似合わないボケとツッコミを交わす彼らは無視して、加勢しに向かう。氷鎌よ……!
「『凍結』」
早速、オークたちの足元を凍らせ、移動を制限する。後は彼らに任せる。私の出る幕は無い。届くはずのない各々の武器を振り回すオークに、みんなが襲い掛かる。
「『加速斬撃』!」
「『豪雷』!」
「『三本の炸裂矢』」
「『炎槍』!」
彼らの技がそれぞれのオークを襲う。切られたことすら気づかなかった者、降り注ぐ雷に全身を焼かれる者、三度も矢に貫かれる者、炎の槍で肩口を焼失させる者、と結果は多種多様だった。だが、どれもこれもオークに対しては少しオーバーキル気味だったと思う。魔力消費を抑えるためにも調整が必要かも知れない。
「よし、また勝ったな。しかし鈴乃、初級魔法で動きを制限させるとか凄いな」
「それほどでも」
「なぁなぁ、それよりさっさと宝箱開けよーぜ」
「私も中身が気になるわ!」
全員で宝箱の前に集まって顔を見合わせる。
「開けるぞ?」
代表して立川くんが宝箱を開ける。その中身をみなで覗き込む。だが……
「空っぽ?」
「どういうことだ?」
もしかして、という思いが自分の中で駆け巡る。嫌な予感。宝箱が発光を始める。
「まずい、これはー」
「トラップ!」
すぐさまみな後ろを振り向き、脱出を試みるが、健闘も虚しく、視界は真っ白く塗り潰された。
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「ここどこ?」
視界が晴れ、周りを見渡すが、返事をしてくれる仲間はいなかった。そして私がトラップ、転移罠によって飛ばされた場所、それは見慣れないひたすらにただっぴろい広野だった。
鈴乃さんが飛んだの一体どこなんでしょうか。それはまた今度のお話で。
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作者は狂喜乱舞します。