魔族の正体と乱入者
遂に六月に突入。梅雨シーズンですね。
そんなことはさて置き、更新復帰致しました。これからは、週に2〜3話を目標に、ゆっくり頑張って行けたらなと思います。
リアルの都合で、休む時もありますが、気長にお待ち頂ければ、幸いでございます。
「まずはお前だ!」
魔族が一気に距離を詰めてきて、その長剣を振るった。それを剣で受けるが、凄まじい衝撃に俺は吹っ飛ばされ、その上に剣も弾き飛ばされてしまった。
…一撃が重い!
すかさずヴァルに視線を送ると、ヴァルは意図を組み取ってくれたのか、蒼炎を剣に宿し、切り掛かっていた。しかも今回は二刀流だ。
「疾いな…!だったらこれでどうだ?」
「『黒獄炎』!」
黒色の炎が周囲を焼き尽くす。ヴァルは蒼炎を身に纏い、黒炎を凌いだが、学院長が耐えきれず、ダメージを負って吹っ飛ぶ。そのまま頭を打ったのか、気絶してしまった。
まずい!学院長の治療に行かなければ!
「ヴァル、魔族を頼むぞ!」
「任されたわ!魔族さん、覚悟しなさい!」
「ははは、面白くなってきたじゃないか!もっと我を楽しませろ!」
こちらとしては笑い事では無いのだが。
学院長の元へ駆け寄り、傷を見る。頭に出血が見られるが、致死量では無いだろう。ひとまず安心だ。
「『上級治療術』」
学院長に回復魔法を掛け、そっと横に寝かせる。その他全身にも隈なく『回復術』を掛けていく。
「よし。学院長はこれで大丈夫な筈だ。ヴァルは…」
先程から、金属同士がぶつかる音が鳴り響いている。長剣と二刀流。その二つで何故打ち合えているのか疑問でしょうがない。お互いの技量が凄まじいからだろうか。
魔族の長剣による振り下ろしを、ヴァルは剣をクロスさせて受ける。すかさず魔族が蹴りを放つが、ヴァルはバックステップで躱す。
そんな風に、お互いに攻撃が通らないまま、戦闘は膠着状態に陥っていた。
「くっ、どうして。せいぜい上級魔族の筈なのに、私と打ち合いが互角とは…。お前は何者なんだ」
「それを知りたいのならば、まずこの我を倒してみるのだな!」
蒼炎の勇者たるヴァルキリーと互角に戦える魔族なんて、それこそ魔王ぐらいしか居なそうだが。上級魔族でこれだったらいよいよヤバイな。
このままでは埒が開かないので、どうにか横槍を入れられないかと、タイミングを伺う。
魔族が一度距離を取り、ヴァルに接近しようとした時に、俺は魔法を放った。
「『蒼炎槍』」
青い炎の槍は、今まさに斬り掛かろうとしていた魔族の意識を向かせた。魔族がその槍を処理しようとした一瞬。そのほんの一瞬の隙でも、ヴァルには十分だった。
「シッ!」
遂に、ヴァルの攻撃が魔族にヒットする。とはいえ、肩を浅く斬りつける程度に留まったが、俺次第で一撃を入れられることが分かった。
「やるな…!あの魔法、タイミングが完璧ではないか。流石の精霊と宿主だな。最高の連携だ。我はこう言う者を求めている!もっと戦わせてくれ!」
…相手から褒められるのってこんな気分なんだな。てかあの魔族、戦闘狂が過ぎないか?やけに戦いを求めている気がする。
その後もしばらく戦闘を進めて行く。順調にダメージを蓄積できてるな、と思った時、天井の上、つまり地上から、大きな魔力を感じた次の瞬間。
ドッゴォォォォン!!
部屋の中央の天井が、轟音を立てて崩れてきた。
「なに?何が起きた?」
「我の戦いを邪魔する者は誰だ?」
何だ?魔族の援軍か?でもさっき感じた魔力は、魔族のような禍々しい魔力ではなく、頼れるあの人の魔力に似ていた。
穴の空いた天井から、人影が一つ、降りてくる。それは、白くて長い、艶やかな髪を持った女性。
「セリスに呼ばれて、手を貸しに来たよ!」
俺の頼れる師匠、カナデだった。
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「ん?よく見ればお前も人間だが、腕が立つようだな。よし、我と戦え!」
「あれ、どうして魔族がここに?ここにいるのは盗賊団じゃないの?」
「ふん、金に目の無い弱っちい盗賊どもは、部屋の隅に転がってるぞ。皆身動き取れぬがな。」
「本当だ。というか魔族がここで何してるの?」
「簡単なことだ。金を使って盗賊を操り、学生を誘拐。あおうすれば、助けに来た強者と戦えるであろう?」
「強者と戦いたい、っていうのは自由だけど、学生を誘拐したのなら、許せないね。その勝負、受けて立つよ。青髪の子、手を貸して。セリスは……負けちゃったみたいだね。シュウ君、セリスをよろしくね」
師匠も良いこと言うなあ。師匠とヴァルの二人なら、魔族ぐらい簡単に倒してしまいそうだ。なので俺は、任された通り、学院長の治療に努める。てか学院長の名前ってセリスだったんだな。
「じゃあ行くわよ!」
「ははは、二対一とは面白い。お前らの強さも申し分ない!最高だ!」
…戦闘狂って、極めたらああなるのかな。
そして魔族対師匠&ヴァルの戦いが幕を開けた。
ヴァルが正面から剣で打ち合えば、師匠が横から魔法を差し、絶妙なタイミングで斬りかかる。ちなみに、師匠の武器は昔から変わっていないようで小烏造り、と言うらしいが、両刃の刀を使っていた。太刀みたいなもんだ。
第二陣、開始。
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二人で攻勢に移っているので、魔族はその体に無数の傷を刻んでいった。負けるのも時間の問題だろう、と達観していたら。魔族が、
「はは、我の負けだ。こんなに心躍る戦いは久しぶりだった!多大な感謝を送ろう。」
「あなた、今どういう状況か分かってる?」
「もちろんだ。戦いに負け、殺されかけている。そうだろう?」
「理解しているのなら、覚悟は出来ているのですね?」
「当然。だが、青髪との約束は果たさねばならぬまい。我の正体を教えよう。」
「我はアノス=レベリオ。魔族を束ねし者の一人にして、第三位階の17代目の魔王だ。」
「魔王?どうして魔王がこんな辺境に…。それに、第三位階って何?」
「そうか。まだ人間には知られていないのだが、この世界の魔族を統べる魔王は複数いる。位階を持つ家の者が魔王となる。その中の一つが我のレベリオ家だ」
何だか衝撃的な事実がポンポンと出てきているが、つまりアノスはただの魔族ではなく魔王で、しかもその魔王は他にも複数存在しているということか。魔王がどうしてこんなところで強者探しをしてるんだ。もっと別にすることがあるだろ。
「さて、どうしてこんな辺境の地に赴いたかだが、我はただ強者と戦いたくて、全国各地を旅して回っていたのだ。その過程としてこの街に来た、という訳だ。まぁ強者探し以外はほとんど何もしておらぬがな」
この魔王、超素直な戦闘狂じゃないですか。嘘を吐いている気配が全くしない。これが事実だとするなら、この世界のあらゆる街に魔王が通っていた訳だ。そう考えたら怖いな。
「じゃああなたは、ただ強者と戦うことだけを目標に旅をしてたって訳ね。魔王なのに」
本当それな。魔王なのに。
というかそんな事を聞くと、倒すのも気が引けてきた。そもそも俺は勇者なのだが、追い出されたし、元クラスメイト達に手を貸す義理も無いので、魔王には生きてて欲しい。こいつも、ただ戦いたかっただけだろうから。
「なぁ、この魔王、生かして置かないか?」
「どうして?こいつは学生を誘拐するような奴だよ?」
「だってさ。こいつが旅する理由を聞いたら、自分の目標に向かって歩んでるだけじゃんか。それに何より、魔王を倒してしまったら、あの憎たらしい王が喜んじまうじゃないか。それだけは嫌だ。そしてこいつは見たところ魔族の統率はせずに一人でいるし、街や城に大きな損害を与えたでもない。だったらまだ、赦す余地があると思わないか?」
「……まぁ一理あるね。シュウ君の目標も考えたら、それでいいかみも。ねぇ魔王さん、あなたは負けた。だからこちらの要望を聞け。他の魔族に関わらず、街に大きな損害を与えないと約束するか?なんなら契約魔術でも使うが」
「いや、このままで良い。…承諾した。大きく魔族に関わったり、損害を出さないようにしよう。」
「了解した。では私たちはこれで。」
「……いや、待ってくれ。我から一つ提案だ。お前らに我がついて行くのはどうだ?お前らからすれば、監視ができて且つ、我の目的を押さえて損害を減らすこともできるぞ。」
「ではその案で行こう。お前のバカ正直な性格のおかげで、信じられる。次やったら覚悟しておけよ。」
「あぁ。次に戦えるのも楽しみにしている。
このやりとりの後、遅れてやってきた騎士団の方々に、瓦礫の撤去と盗賊どもの回収をしていき、病院へ運んだそう。
流石地元の騎士団。登場の遅さ以外は完璧だな。
そんな事を思いながら、リュナやソフィアが待ってくれている、魔法学院へと帰るのだった。
久しぶりの投稿です。腕が鈍ってないか、感想のほどお願いします。
少しでもおもしろいと感じて頂けたら、
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作者は狂喜乱舞します。