魔法を教えに
今回はちょっち短めです。
先生が気絶したので、俺たちは早引きとなった。
手持ち無沙汰となった俺はソフィアに呼ばれて、街のとあるカフェに来ていた。
「コーヒーを一つお願いします。」
「じゃあ、俺も同じのを一つ。」
さぁ、このタイミングで呼び出したって事は、魔法に関する事だろう。
「呼んだ理由、だけど、察してるよね?シュウ君、私に魔法を教えて下さい!お願いします!」
彼女が頭を下げて来た。目立ってしょうがない。
「おいソフィア、取り敢えず頭を上げてくれ。目立ってるだろ。」
「あ、ごめんなさい。それで、魔法を教えてくれますか?」
くっ、毎度思うが、ソフィアの上目遣いは破壊力抜群過ぎてやばい。効果は抜群だ!
「いいぞ。別に魔法を教える位、全然大丈夫だ。」
「やったぁ!ありがとうございます!」
満面の笑みを浮かべて喜ぶソフィア。周囲の男性客からの視線が痛い。憎しみすら篭っている。
「ちょい、ソフィア静かに!目立つだろって!」
声を潜めてソフィアを宥める。
「また私やっちゃった。でも、ありがとうございます。」
「じゃあ明日の放課後に呼ぶからな。」
「分かりました。今から楽しみです!」
そう言われるのは嬉しいが、終始男性客からの視線が痛かった。かなり。
---------
次の日、授業を終えた放課後。
「ソフィア、じゃあ行くか。」
「はい、お願いします。」
昼食の時からウキウキしていた。子供か。
二人で教室を出て行く時、リュナからもの凄い顔で睨まれた。…何故だ。
---------
今日は例にもよって広野に来ていた。
この広野は本当に魔法の練習にうってつけだ。広いし、程よい起伏があり、森も近い。魔物と戦ってもらうのも良さそうだ。
恐らく、これからもお世話になるだろう。
「どの魔法から教えて行こうか…」
やっぱり、少しずつ基礎から行くのがいいかもな。
「よしソフィア、あそこに適当な魔法を撃ってくれるか?」
近くの岩場を差す。
「分かりました!」
「炎よ、我が元へ集え、『炎球』!」
彼女の手から放たれた火球は、岩場に焼け痕を残して消えた。
予想通りと言うべきか、威力が足りない。炎球である程度岩を削れるぐらいまで行って欲しい。
「よしソフィア、お手本を見せる。行くぞ、『炎球』」
相変わらず青い火球は、岩場を削り取り、上手い感じにへこませられた。
「やっぱり…シュウ君の魔法は凄いです。炎の色も違うし…
どうしてこんなに違うのでしょう…」
あ、やば。落ち込ませるつもりは無かったのに!
「落ち込まなくて大丈夫だぞ、ソフィア。練習を重ねれば、いつかあのレベルの火球を撃てる!それだけの才能がお前にはあるんだ!だから落ち込まないでくれ。」
「私に…才能が?本当ですか?」
「あぁ、本当だ。ソフィアからは大きな素質を感じる。それは俺が保証する。だから一緒に頑張ろうぜ?」
「シュウ君…。シュウ君がそこまで言ってくれるなら、私頑張ります!」
だが、練習を始める前にする事がある。それは…
「適性属性を確認するぞ。」
「適性属性ですか?陣紙が無いと無理では?」
その辺りの抜かりは無い。昨日の買い出しのついでに買っておいたのだ!
「はい、コレ。」
「陣紙じゃないですか。初めて見ました。あ、もしかして買ってくれました?」
「そうだ、だが金は気にしなくていい。」
「そうですか…」
なにせ師匠と暮らしていた時に依頼の報酬をほぼ全部貯めていたので、しばらくお金には困らない。
「と、言う事で早速確かめてくれ。」
まぁ、検討はついているが。精霊が雪原狐だったので、多分氷属性だろう。
「では…行きます。」
彼女が目を閉じ、ゆっくりと魔力を流していく。
すると、魔法陣は淡い水色に輝いた。
「氷属性…ですね。精霊のあの子と同じ。」
「そうだな。じゃあ、まずは無詠唱で氷弾が撃てるようになろう。」
「はい!頑張ります!」
そもそも詠唱は、術者が魔法のイメージを固め易くする為にある。想像力を鍛えれば、瞬時に魔法の構築が可能となる。想像力を鍛えるなら、実物を見るに限る。
「『氷山』」
俺は小さな氷山を落とした。
「ひゃぁ、突然何するんですか!」
「いや、無詠唱への一歩として想像力を鍛えて欲しい。その為のわかりやすい実物だ。」
「なるほど、こういうのをイメージすれば良いんですね。」
氷弾
目を閉じ手を当て、うんうん唸りながら氷山を見つめているソフィア。
「氷をイメージして…『氷弾』!」
前に突き出した彼女の手から、氷の弾丸が飛ぶ。
「あー!無詠唱で出来ました!」
「いいぞ。目を開けたままでも撃てるように練習だ。」
今度は目を開けて挑戦している。
「うーん、氷氷……来た!『氷弾』!」
しっかりと氷の弾丸が飛ぶ。しかし詠唱では無いが、声が出ているし、時間も掛かっている。
「次は魔法名以外に声を出すな。」
黙って魔法を練り上げて行く。流石だ。習得が早い。
「『氷弾』!」
透き通るように綺麗な氷弾が飛んで行く。
「やったぁ、シュウ君のおかげで無詠唱が出来ましたぁ!」
そう言って彼女は喜びのあまり、俺に抱き付いて来た。
「え、」
「私無詠唱とか初めて使えました!これからもっと練習をさせてください!」
その気持ちは嬉しいけど、当たっている。何がとは言わないが、通常よりも大きめな物が当たっている。
結果、俺はソフィアが落ち着くまで、為されるがままだった。羞恥心と腕に伝わる感触で死にそうだった。
「ソフィア…そろそろ離してもらえるか?」
「ハッ!あわわあわわた、わたわた私は何をぉぉぉぉ!」
ソフィアは目をグルグルさせて混乱している。慌てた彼女は非常に可愛い。
「ソフィア、一旦落ち着け。」
「は、ははははいっ!おおお落ち着きます!」
「すー、はー。ふぅ。ごめんなさい!急に抱き付いたりして!胸も押し付けて…、あー、恥ずかし過ぎますぅー…」
掘り返さないで欲しい。俺も恥ずかしくなってきた。頭を抱えてしまいそうだ。
「よし。ソフィア、お前は無詠唱が出来た!これは大きな一歩だ!明日からは、またここで練習だ!少しずつ魔法のレベルを上げていくぞ!」
「はい、分かりました!」
---------
二人そろって一緒に帰路に着く。
帰る道すがら、俺たちはさっきのことをまた思い出して赤面していた。
気まずい空気が流れる。
そんな空気感の中、寮への分かれ道へ着いた。
「じゃあな、また明日。」
「はい、明日も魔法、教えて下さいね。今日はありがとうございました。」
ぺこりと頭を下げた後、手を振ってくれた。
ソフィアは魔法の才能がある。だからすぐに魔法では追いつかれるだろう。
「あいつに負けないようにしなきゃな。」
俺は寝る前に手遊びもとい氷と炎の対抗戦をしていた。
左手で氷を作り、右手の炎で溶かす。溶かし溶かされながら魔力が尽きるまで続ける。今日は氷の勝利だ。
「剣の練習も、またするか。」
俺はまた今度、ヴァルに剣を教えてもらおう、と考えつつ、俺もまだまだだな、と思う。
またいつか、あのふざけた王を見返してやらなきゃな。
思う返した目標を胸に留め、今日は眠りに着いた。
少しでもおもしろいと感じて頂けたら、
ブックマークや評価、よろしくお願いします。
作者は狂喜乱舞します。