精霊祭に向けて
今回から、魔法などが漢字表記になり、読み方が振ってある形式に変更しました。
前話までのものも少しずつ変更を加えて行きます。
では、22話目をどうぞ。
翌日のホームルームにて。
「おはよう。ある生徒から、精霊祭に関する質問を受けた。
なので改めて説明しよう。精霊祭とは、街で行われる武闘大会だ。街全体からの参加だから、大人や手練れの冒険者も参加する。もちろんだが、殺しなどは無し。我らが学院は、上級生は一般の部、二年生や三年生は学生の部で参加する。
一年生は試合は見学で、祭りの飾り付けなどのボランティアがあるが、当日は祭りを楽しんでくれて構わない。
見学の時は、剣術学院の奴らの試合も見ておけ。魔法剣術対抗戦での対策を立てる参考になる。
今、お前らがしている模擬戦などの授業は、精霊祭というより、魔法剣術対抗戦への準備、と思ってくれ。 以上だ。さて、今日の授業の予定だが、レベス先生から口止めをもらっている。午後の授業を楽しみにしておけ。
では私からは以上。今日も頑張ってくれたまえ。」
なるほど。簡潔にすると、精霊祭の一年生の参加は無し。代わりにボランティアがある。剣術学院も参加する。試合の見学から学べ。
と言った感じだろう。精霊祭の概要は分かった。
レベス先生が授業内容を告げさせないとか、ロクな事が無
さそうだ。
午前の授業(寝てない)を終え、昼食を取り、午後の授業へ向かう。
グラウンドには、仁王立ちして笑みを浮かべたレベス先生がいた。
「やぁ、君たち。今日の授業は、私との模擬戦だ!」
これまた面倒そうな授業だな。
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今日の先生は、腰に剣を挿していた。
「この授業では、私と戦ってもらう!」
やっぱり面倒そうだ。
「ルールは簡単!精霊と組んで、一対二で戦い、寸止め、もしくは相手の無力化が勝利条件だ!では、我こそは、という奴はいるか?」
「その前に、どうして先生は剣を持っているのですか?」
「実は、俺は剣も魔法も扱える。所謂魔法剣士さ。」
周囲から、感嘆の息が溢れる。魔法剣士、か。俺もその部類に入っているのだろうか。
「では、最初の相手は誰かな?」
「俺がやります。」
声を上げたのは、昨日にリュナの対戦相手だった男子だ。
「お、トールくん、ノリが良いじゃないか。じゃあ、そこの君、審判をお願いできるかい。」
先生が指差したのは…俺?審判とか面倒だな。
「はぁ、分かりました。」
両者が向かい合う。獄炎狼が唸る。
「では模擬戦、始め。」
「荒れ狂う水よ、我が下に集え、『水球』!」
レベス先生が、先手必勝とばかりに魔法を放つ。
しかし、その魔法は横っ飛びに躱される。更に…
「サラ!『炎の牙』だ!」
「ガウッ!」
炎を纏った牙が迫る。しかし、その噛み付きはレベス先生をすり抜け、不発に終わった。
「何だって、攻撃が当たらない?」
「ははは、驚いたかい、これが私の得意魔術、『幻影』だ。本物はどれかな?」
レベス先生が5人に増えた。おぉ、見た目は完全に一致している。見た目は、だが。
魔力の質や、動きの細かさが微妙に違う。
「くっ、サラ!手分けして攻撃だ!本物を見つけろ!」
その選択は判断ミスじゃないか?
「だったら、各個撃破だよね。」
幻影から水球が飛び、獄炎狼を衰弱させて行く。
「これで獄炎狼は終わりだ。次は君だ!」
彼を取り囲む様に並んだ幻影たちは、次々に魔法を放つ。
「くそっ、こいつじゃない、こいつでもないっ!」
トールも必死に攻撃を加えるが、全てハズレ。
「トール君、幻影の中に本物がいるとは限らないのさ。」
近くの木の上に潜んでいた本物が、トールに斬り掛かる。
彼の首の手前でナイフを止める。
「勝者、レベス先生。」
俺がコールをすると、歓声が上がった。あの魔法初めて見た、だとか、先生意外と強い、とか聞こえる。
意外と、だってよ、先生。
「トール君、努力を重ね、いつか私の幻影を見破れる様になれ。そしたら、私に勝てるぞ!」
「分かりました、もっと研鑚を積まなきゃ…!」
トールは、強くなる才能を感じる。努力次第でまだまだ強くなっていくだろう。
「では、次は誰が戦ってくれるかい?」
「はい!じゃあ、私がやります!」
そう元気に返事をしたのは、活発そうな茶髪の女子だった。…あいつは推薦にいなかった奴だな。
「お、アリアちゃんか。引き続き審判、頼むよ。」
「分かりました。」
あわよくば審判を変わって貰おうと思ってたのに…
「では、模擬戦始め。」
「『幻影』」
先生の姿が幾重にも分かれていく。
アリアの精霊は閃光猫だった。
白い雷を次々と放つ、厄介な魔物だ。
「その力は天の調べ。空を彷徨う雷よ、敵を切り裂く刃となれ!『閃光の雷!」
空から電撃が降り注ぐ。幾重にも枝分かれした雷が、先生の幻影を襲う。
幻影たちが雷に打たれて消える。
「ライちゃん、先生を見つけて!」
閃光猫がおもむろに目を閉じる。やがて、目をカッと見開いた瞬間、端っこの方の一本の木に雷が落ちた。
「なかなか良い観察能力だ。結局居場所がバレるとはね。」
「見つけた!先生、覚悟して下さい!」
「剣も使った私に勝てるかな?」
先生は、剣を鞘から引き抜き、上段に構える。
「斬鉄流、『骨破の衝撃』」
魔力による補助を受けた振り下ろしは、その衝撃で地ならしを起こした。
ちなみに、この技を受けると、骨に直接衝撃が来た様に錯覚するらしい。先生のはそんな威力は出ていないが。精々バランスを崩すぐらいだろう。
「きゃあっ!」
あまり足腰の強くない魔法学院の生徒では、いとも簡単にバランスが崩れる。その隙に。
「これで私の勝ちですね。」
先生とその幻影が、彼女らの手前で剣を止めていた。
「勝者、レベス先生。」
俺がそうコールすると、またも歓声が上がる。
「先生強ーい!」「あんな技初めて見た!」
「剣も魔法も使えるとか勝てる気しねぇな!」
それを聞いた先生はニヤけている。非常にニヤけている。
なるほど。ああやって生徒に勝つことで、称賛を得たかったのか。一度そう考えると、あの教師が、すごく大人げなく見えてくる。
「では最後は…と。じゃあ、審判をしてくれた君だ!今まで審判をしてくれたお礼に、私の本気を見せてあげよう。審判は最初の君にお願いしよう。」
「分かりました。」
次に俺を選ぶか。ちょうど良い。ヴァルとの特訓の成果、見せてやる。
ヴァルを召喚する。
「ねぇ、見てたんだけど、あの剣技、お粗末過ぎない?」
「あんまり言うなよ。周りから批判の嵐になるぞ。」
「でも、勝てばいいんでしょ?」
「あぁ。だが、やり過ぎないようにな。あいつらにも分かりやすいように倒すぞ。」
というか俺たちも剣を使っていいんだろうか。
「先生、俺たちも剣を使って良いですか?」
「私に剣で対抗すると?いいでしょう。受けて立ちます!」
すると、観客から、
「あいつ、あの先生に剣で勝てると思ってんのか?」
「いやいや、そら当然だろ。勝てる訳無い。」
嫌味が聞こえる。二人の勇者の力、見せてやる。
「では、模擬戦、始め!」
「『幻影』」
本気を出しているらしいので、幻影の数がケタ違いだ。最低でも20人はいる。
「では行こうか。」
幻影が一斉に斬り掛かって来た。俺たちは背中合わせになり、それらを捌いて行く。
「何っ、私の攻撃を捌いているだと!?だが、防御に回るだけでは勝てんぞ?」
先生は驚いていたようだが、すぐに持ち直し、先ほどよりも苛烈な攻撃を仕掛けてくる。
しかし、それらは余裕で全て捌ききる。ならそろそろ…
「ヴァル、幻影を全て潰せ。俺が本人を叩く。」
「了解だよ。幻影たちは任された!」
「『蒼き炎槍の裁き』」
蒼き炎の槍が、先生の幻影を全て跡形も無く消し去る。
「な、青い炎!?私の幻影を全て消し去るほどの威力か。だが、そんなに魔力を使えば、動けまい。」
先生の本体が残ったのは、手加減したからなのだが。なのでもちろん、動けない訳がない。
「先生、俺たちはまだまだ動けますよ?」
「何だと!?一つ提案だ。君が剣での一撃を当てたら勝利、
防いだら私の勝ち、で勝負しないかい?」
先生は予想外の提案をしてきた。これは、分かりやすくトドメを入れるチャンス!
「それは先生を倒す勢いでやっても良いんですか?」
「良いぞ。当てられるならな。」
あの先生は学習しないんだろうか。先生の剣戟を全て捌いて見せたというのに。
「では、いきましょう。『蒼キ炎ノ剣』」
剣身に沿って手を添える。すると、蒼い炎を纏った剣と変化する。それを腰に添え、居合抜きの構え。
「『桜花一閃』」
一閃。
完璧な居合斬りを決める。それで先生の剣を折った。ついでに首へ手刀を入れて気絶させた。
うん、ヴァルのお陰で、この二つを同時にこなせるようになった。今までなら、どちらか一つ出来るかどうか、ってところだっただろう。
「スゴ…」
そのリュナの呟きが静寂を破る。
「あいつ、本当に先生に勝ったぞ!」
「あの剣技何!?綺麗過ぎるんだけど!」
そんな声の中に。
「やっぱりシュウは強いね。」とアッシュ。
「さっきの魔法、教えてくれませんか!」とソフィア。
「特訓は一緒に居たけど…ここまでとはね。」とリュナ。
「うおぉぉ!流石シュウ、スゲェな!」とエリク。
「君は強いね、俺にも魔法を教えてくれないか?」と審判をしてくれたトール。
いや、お前は審判の仕事をしろ。
「ソフィア、トールも、そういうのはまた後で話そう。」
「誰か、先生運ぶの手伝ってくれー!」
先生が気絶したので、授業は中断。俺たちは早引きとなった。
俺は一つ思った。
この力が、恐怖の感情に変わらなくてよかった、と。
これからの学校生活で、みんなに怯えられながら過ごしたくないしな。
少しでもおもしろい、と感じて頂けたら、
ブックマークや評価、よろしくお願いします。
作者は狂喜乱舞します。